八雲屋敷
「宴会ですか?」
その日の昼、霊夢が守矢神社に来た。どうやらまた宴会が行われるらしい。
「まあ二日連続で悪いかもしれないけど…」
「いえ、全然大丈夫です!!うちの神様は二人とも酒ばかり飲んでるので!」
「そ、そう…」(この子意外と毒舌よね……)
霊夢は心の中で思ったが思っただけだった。
「そういえば龍二はどうなったのかしら?」
「あ、龍二なら家で居候することになりました。まあ私がそう提案したんですけどね。」
早苗は嬉しそうに言う。それを聞いて霊夢も一安心したのか、笑みを浮かべた。
「そう……とりあえず良かったわ。で、本人は今何処にいるの?」
「居間でのんびりしてると思いますよ。」
「わかったわ。」
霊夢は神社の建物へ入った。確かに龍二は居間にいた。
近くには青い大剣があり、龍二はそれをじっと見ていた。
「それは?」
「さぁ…昼寝してたらいつの間にか横にあったんだ。」
「ふーん…」
「てかなんでいるんだよ?」
「宴会に誘いに来たのよ。まあ場所は別だけどね。」
霊夢がそう言うと龍二は嫌そうな顔をする。
「まあ昨日みたいには無理矢理飲まされたりはならないはずよ。」
「いや、まあ酒のことは良いんだが……昨日は男性が誰一人いなかったよな?」
「そうね…でも昨日はたまたまよ。元々女だけの宴会だから。いつもは私のところにも男の外来人がいるわ。」
「へぇ…」
「今度会ってみる?」
「ああ。そうさせてもらう。」
「…………」
今度は霊夢をじっと見る龍二。
「な、なによ…?」
「いや、べつに…なあ霊夢。お前って博麗霊夢か?」
「はあ?何言ってるの?私は博麗霊夢よ。」
霊夢はそう答える。龍二はだよなとつぶやいた。
「なにかあるのかしら?」
「いや、こっちの話だ。」
「???まあ良いや。一応夕方にまた来るわ。」
「了解。」
霊夢はそれを龍二に伝えると飛んでいった。
「さて、もう一眠りするか…」
龍二はそう言い、再び寝た。
それからどれくらいの時が経っただろうか。
「……て……二…き………」
誰かの声がする。
「ん……」
「起きなさいって!」
「うぉっ!?」
神奈子に叩き起こされた龍二。外はもう夕方になっていた。
「もうこんな時間か…」
「さっさと行くわよ。」
龍二は立ち上がり、外に出る。
外には既に霊夢が迎えに来ていた。早苗、諏訪子、どちらも準備は出来てるようだ。
「お寝坊さんはあんたかしら?」
「まともに寝てないんだ。仕方ないだろ?」
「そのうち昼夜逆転するよ?」
早苗は苦笑いで言う。
「なんでもいいから、行くんだろ?」
「まあ待ちなさい。あんただけ別の方法で行かせてあげるわ。紫、頼んだわよ。」
「何をするきだ?」
「スキマよ?」
「は?スキm―」
そのとき、龍二の足元になかったはずの亀裂が現れ、スキマが開いた。
スキマが開いた瞬間、龍二はスキマの中へおちていく。
「いたっ!」
「貴方かしら?霊夢が言ってたお寝坊さんって。」
起き上がると、目の前に金髪の少女がいた。
「あんたは?」
「人に名前を聞くときはまず自分からって習わなかったかしら?」
「それもそうだな…すまない。俺は藤崎龍二だ。」
「八雲紫よ。よろしくね。」
紫はそう自己紹介する。口元は扇子で隠れて見えないが、おそらく微笑みを浮かばせてるのだろう。
「貴方も外来人らしいわね。それも能力を持った…」
紫はそう言うと、龍二は少しムッとなる。
「あら?この話は持ち出さない方が良かったかしら?」
「ああ……」
「そう、ごめんなさいね。」
紫はそう言う。龍二はじっと紫を見たまま動かなかった。
「そんな目で見る必要はないわよ?私は多分、貴方の敵じゃない。」
「べつにあんたを敵視してるわけじゃない。ただ、妖怪と会うといつも警戒心をつくってしまう。」
「………訳ありってことね。まあ今日は飲みましょう。」
「いや、俺酒は……」
「いいから!」
そのあと、二日連続酒を無理矢理飲まされたのは言うまでもない。
「疲れた…」
そう言い、逃げてきた龍二。隣にはピンク色の髪をした女の人がいた。
「あら?貴方が新しい外来人かしら?」
「ああ。そうだけど…貴方は?」
「西行寺幽々子よ。」
幽々子は微笑みながらそう言った。
龍二も自己紹介した。
「藤崎龍二です。」
「よろしくね龍二君。それで龍二君は呑めるのかしら?」
「いや、全く………酒は苦手なんだ。昨日初めて飲んだのですが無理矢理だったのがトラウマで……」
苦笑いで龍二は言う。
「なら、仕方ないわね…せめて話でも聞かせてくれるかしら?貴方がここまで来た経由を。」
「構いませんよ。」
龍二はそう言い、これまでの経由を話した。
それ以外にも、互いの自分について、二人は話していた。
幽々子は亡霊で、いつもは庭師がついているらしい。
「その庭師は…?」
「それが風邪ひいちゃったのよね…無理させすぎたかしら…」
心配そうに幽々子は言う。
「酷い風邪なんですか?」
「そうみたいなの……みょんフルエンザって言うのよ。」
「…………え?」
龍二はそれしか言えなかった。
「みょんフルエンザ?」
「みょんフルエンザ。」
「……インフルエンザじゃなくて?」
「みょんフルエンザよ。もうみょんしか言えなくなる風邪らしいの。」
(き、聞いたことがない……)
龍二はそう思った。
宴会が一通り終わったあとも呑んでる人はいたが龍二は外にいた。
巻き添えをくらわないためである。
「はぁ…疲れた………月が綺麗だな。」
縁側で龍二は月を見てそう呟いた。
「君は確か…龍二君だっけ?」
後ろから声がした。
振り返るとそこには金髪で狐耳狐尾の女性が立っていた。
「貴方確か、紫さんの……」
「式神、藍だ。紫様が失礼なことをしてすまないね。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
龍二はそう答える。
「そうか。横、失礼するよ。」
藍はそう言うと龍二の横に座る。
「満月でも見ていたのか?」
藍は聞いた。すると龍二は頷き答える。
「昔からなんですけど、満月を見ると疲れとかが吹き飛ぶんですよね。妖力があるからでしょうか…?」
「多分な。見ての通り私も妖獣だ。満月になると私も力がみなぎってくる感じがする。もしかしたら、君が妖力を持っているということは妖怪の血をひいてるんじゃないのか?」
「妖怪の血を?」
龍二は藍の方を向いて答える。藍は一度龍二の方を向いて頷き再び月に目を向く。
「勿論、全てがというわけでない。せめて半々ぐらいだろうか……君にはその力が引き継がれているんだ。だから私みたいになるのだろう。」
「成る程……」
その考えは、最も納得のいくものだった。
それなら妖力が使えるのもおかしくないし、なにより自分の見た目が周りの人間と違う理由になる。
「俺、ここに来たのって妖怪をここに送るときに道連れになったんですけど……もしかしたら俺がここに来たのは必然だったんですか?」
「………全ての運命に偶然はない。私はそう思う。だから君がここに来たのもきっと必然だったのだろうね。」
藍はそれ以上言わなかった。龍二も何も言わずしばらくの間沈黙が続いた。
「そういえば、君は風呂は入ったのか?」
「いえ、まだ……」
「なら、入ると言い。もしかしたら外来人が入ってるかもしれないからな。話でもしてみたらどうだ?」
「そうですね…では、お言葉に甘えさせてもらいます。」
「ああ。あと、私に対しては敬語じゃなくていい。紫様はわからないが、いろいろな外来人と話してるとむしろタメ口が多いからな。」
「うん、わかったよ。」
龍二はそう言い、立ち去ろうとする。
最後に藍は言った。
「まあ、君がここに来たのが必然でも、それは良い経験なんじゃないかな?」
「…ああ。だから、楽しもうと思う。新しい生活を。」
「そうか。」
藍は笑みを浮かばせてでそう言った。
「そういえば、今、女湯が壊れて男湯が混浴になっていることを言い忘れたな……」
龍二が去ったあと、藍は思い出した。
「…………まあ良いか。」
「風呂場はえーっと……ここか。」
一方龍二は早速風呂場へ着いていた。
風呂と書いてある場所。小さく混浴と書いてあるがそれに気づくことはなかった。
龍二は服を脱ぎ風呂場に入ろうとする、その時だった。
「ん?」
「え?」
たまたま目があってしまった二人。【ご想像にお任せします】。
「うわぁぁ変態!!」
「ハァ!?いや、ここ男y!?」
思いきりビンタされる。
「はっ!?ごごごggggggゴメン龍二!!」
「いってぇ…」
二人とも服を着て、早苗は龍二に説明した。そして先程ののれんについても気がついた。
「成る程な…にしてももう少し大きく書いてくれないかな…」
「藍さんから聞いてないの?」
「全く…早苗は誰かから聞かなかったのか?」
「一応紫さんから…」
(知ってたのにビンタしたのか?)
龍二はそう思ったが当たり前の行動だと考えて思っただけだった。
「まあその……すいませんでした。」
「私のほうこそゴメン!」
早苗はあわわという表情でそう言う。
「まあとりあえず俺は風呂に入ってくるよ…」
「わかった…とりあえずお願いなんだけど……」
「ああ。わかってる……」
「「このことは他の人には絶対言わないでおこう。」」
二人同時でそう言った。
風呂を入ったあと、龍二はそのまま八雲屋敷に泊まることになっていたので、用意された寝室で寝た。