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ニキビ

一応ファンタジーです。魔法はありますがあまり便利なものはありません。

主人公の生い立ち等は追々書いていきます。

「おっと、すみません」

すれ違いざまに肩がぶつかり謝る。

流石は帝国の首都ガイヤ、大通りの賑わいはこの間まで居た村とは比べ物にならない。


大通りの中央には食べ物、雑貨等を売る屋台が所狭しと並んでおり、

武器防具や服、宝石なんかを売る店は通りに面した石造りの建物に収まっている。

それらを求める市民、荷物を引く馬や羊、物乞い、兵士、際どい格好の客引きのお姉さん・・・

ざっと見回しただけで多種多様な人間模様が見えてくる。


「あぁ、楽しいなぁ」

こっちの世界に来る前も人間観察は大好きだった。

休みの日なんかはよく駅前のカフェでコーヒーを飲みながら人の流れをボーっと見ていたりしたものだ。

こっちに連れて来られてからは特に面白い。なにせ見るもの全てが新鮮で好奇心を刺激されるからだ。

あぁもう、目に付く人すべてに声を掛けて話を聞きたいくらいだ。それくらいテンションが高くなっている。


俺の名前は鳥丸和馬とりまる かずま26歳、元社会人だ。

元というのは・・・説明が難しいんだけど、もの凄く簡単にいうと神様にこっちに連れて来られた。

自分でもまだ状況がよく飲み込めていないが、とにかくこっちに飛ばされて半月程になる。

幸い、ある能力チートを貰えたからなんとかそれを使って食い繋いでいるが・・・


ゴッ ゴッ

「あぐ・・・うっ」


キョロキョロと大通りを歩く俺の耳に、妙な音と共にくぐもった少女の声が微かに聞こえた。

音のした方を見ると通りに面した薄暗い路地裏の奥にうごめく小さな影が見える。

この世界の治安はかなり悪い。殺人、強盗、婦女暴行、人が多いという事はそれだけ犯罪も多い。

(いざとなればさっき見かけた歩哨の兵士さんを連れてこよう)

そう思いながら俺は状況を見極めようと路地裏に目を凝らす。


ゴッ ゴッ

「う・・・うぐぅ」


大通りとは違う暗さに目が慣れ始めるとなんとなく状況が見えてきた。

状況が見えたといってもそれを理解できるかは別だ。何故なら・・・


薄暗い路地裏で、少女が一人で、石壁に頭をぶつけている?


理解はできないが身体は動いていた。とにかく止めなければ。

「おい、キミ!」

声を掛けながら走りよるとこちらに気付いた少女は反対方向に逃げようとして・・・転んだ。

あれだけ頭を打ち付けていたんだ、脳震盪を起こしていても不思議じゃない。


「大丈夫か?」

ぺたりと座り込む少女の肩に後ろから手をかける。横顔を覗き込むと血だらけになっていた。

「!? 見るな!」

バシンと手を払われる。どうやら顔を見られたくないようだ。

「わかったわかった、見ないよ。このままでいいから話を聞かせてくれないか?」

あえて軽い口調で話しかけたが、少女は肩を震わせたかと思うと泣き出してしまった。

「・・・う、うぅ~・・・」

こうなってしまったら俺の手には負えない。泣き止むまでそっとしておくしかないだろう・・・


何分経ったか、ようやく泣き止んだ少女から少しずつ話を聞きだすことができた。

曰く、彼女は孤児で、同じ境遇の仲間と共にスリや店先の物を盗む事で生きてきた。

しかし思春期になるにつれ顔に腫れ物ができるようになった。他の仲間にもできたが彼女は特に多かったようだ。

その醜い腫れを隠そうと前髪を伸ばし始めたが、益々酷くなる一方だったらしい。

顔中を赤白い出来物で腫らした彼女は徐々に仲間たちに疎まれ、孤立していった・・・


「そして何もかもが嫌になってあんな事をした、と?」

後ろを向いたまま座り込んだ少女がコクリと顎を動かした。


う~ん、ニキビだな。おそらく。

他の病気の可能性もあるけど、話を聞く限りでは間違いあるまい。

孤児であり衛生状態が悪いことに加え、前髪を伸ばしたことで汚い髪が肌に触れて悪化したんだろう。

見た感じ14~15歳だろうか、多感な時期に人に見せられないような顔になり、仲間に疎まれれば自殺しようとしてもおかしくない。

ここはおいちゃんが一肌脱ぎますかねっ!


「治せるよそれ。綺麗さっぱりね」

俺の言葉に少女がピクリと反応する。だがこちらは向いてくれない。信じられないようだ。


「・・・ヒールじゃ、こういうのは・・・治せないって・・・」

少女がぽつりぽつりと否定の言葉を口にする。

よほど追い詰められていたんだな、なんだか可哀想になってきた。


「ヒールじゃない、別の魔法だよ。安心して、俺はもう何人もそういう人を治してる」

できる限り優しく語りかける。実績のアピールも忘れない。これで少しは信頼して貰えるといいんだが・・・


少女がゆっくりと少しずつこちらに顔を向けた。

目の下まで掛かるオレンジ色の前髪の隙間から血と壁に打ち付けた傷跡、そして憎いアイツが見えた。

ニキビだ。俺も若い頃さんざん苦しめられたからわかる。


「治療費は・・・キミのような孤児からは取れないな。でもタダにはできないから今の所持金の半分、それでどうかな?」

ほんとは無料でやってあげたいけどこっちも生活が掛かってる。それに多少でも対価を払えば彼女も気を軽くすることができるだろう。


「・・・わかった。お願い」

彼女は少し考えて決意したようだ。声に力が多少戻っている。


「じゃあ、患部を見ないといけないから、これで前髪を上げてくれるかな?」

持っていた黄色いハンカチを細長く巻いて渡してやる。彼女は少し躊躇した後、言われた通りにしてくれた。


おおぅ、これは凄いな・・・実際目にしてゾクリとする。

額、目の下、鼻の周り、頬、顎、顔中に数え切れないくらいの白と赤のポッチが群生している。

その真ん中では気の強そうな半眼が不安そうにこちらを睨んでいる。

所々、石壁にぶつけたせいか裂傷と打撲、血が滲んでいるのが凄惨さを増して痛々しい。


「まずは血と汚れを落としておこうか」

腰にぶら下げた竹の水筒を外し、彼女の顔に水を掛けていく。

血と垢で汚れた下から白い肌が見えてくると、更にニキビの膨らみが目立つようだ。

顔を顰めないよう、彼女を傷つけないよう、極めて平静を装いながら顔を洗っていく。


「よし、こんなものか」

あえて“綺麗になった”とは言わない。綺麗になるのはこれからだ。


「じゃあ、そのまましばらくじっとしててね」

彼女に左の掌をかざす。右手はオリジナルの印を組んで顔の前に。それっぽさは大事だ。断じて中二病ではない。


「美しく気高い人の神よ 諸々の地上の穢れ その慈悲によって 祓いたまえ清めたまえ」

神様に教えて貰った呪文を唱える。自分で美しく気高いとか言っちゃうあたりアレだよね。神だよね。

どうもこの言葉はこちらの言語ではないらしく、意味不明の呪文に聞こえるらしい。まぁ神秘的でいいんじゃないかな?

目の前の女の子は俺の左手に集まっていく光を眩しそうにジッと見ていた。


「・・・かしこみかしこみ デトックス!」

毒消しの魔法が発動する。

集まった光は対象の頭上で環を作り、ゆっくりと下がりながら穢れを浄化していく。

今回は顔の皮膚だからすぐに効果が現れた。


ボチュン!

額の一番上、大きなニキビが音を立てて潰れ、内容物を吐き出した。

黄色掛かった大量の膿だ。


ブチュチュチュチュ!

他のニキビも次々と穢れを吐き出していく。どろりとした膿が地面に撒き散らされた。

中には膿が固まって米粒のようになったものもあったが、勢い良く飛び出してポトリと落ちた。


まずは額のニキビ共が駆逐され、光の輪の下から綺麗な肌を覗かせている。

ちなみにこの魔法には弱いがヒールの効果もあったりするのでニキビの跡くらいならすぐに治る。


続いて鼻の周りや頬に密集したニキビも押し出されるように潰れていき、

最後に顎の下にポツリと残った大きな物もブチュン!と音を立てて汚い膿を吐き出した。


「さぁ、終わったよ」

目を固く瞑って震える彼女に優しくささやくと、恐る恐る目を開く。

エメラルド色の透き通る瞳、気の強そうな眉と釣り目だが、

腫れ物が無くなった肌は年相応の瑞々しい張りとツヤがあり美しい。

思わず指先でプニプニと触りたくなるくらいだ。


「さわってごらん。もうボツボツは全部無くなっちゃったよ」

促すと最初は躊躇しながらゆっくりと、徐々に激しく顔をぺたぺたと触っていく。

「ない!ない!ホントにない!アレが無くなってる!」

少女の歓喜の声が響く。とっても嬉しそうだ。こっちまで嬉しくなっちゃうね。

さっきまで絶望的な顔をしていたのに今は太陽のような笑顔だ。この笑顔が見れただけで今日は最高の日だろう!


「腫れ物はもうひとつも無いよ。とっても綺麗だよ」

俺がそういうと彼女はわさわさと動かしていた手をぴたりと止め、少し赤くなって俯いてしまった。

オーゥ、そういう意味で言ったんじゃないんだが・・・まぁいいか。

少女の恥らう姿は世界の至宝。それは異世界でも変わらないことを今確信しました!


さてさて、いつも通りアフターケアもしておかないと。

「一応、今あった腫れ物は俺の魔法で無くなったけど、清潔にしてないとまた出来るからね。

予防するには毎日顔を洗う事、野菜を食べる事、汚い手で触らないこと、あと特に髪の毛を肌に触れないようにする事!

そのハンカチはあげるから寝るとき意外はずっと付けていなさい。わかったね?」

彼女が真剣な顔でコクコクと頷く。予防法を理解しようと必死なようだ。


とはいえ彼女は孤児だ。着ているものも汚れているし、食べ物、衛生面でも最悪の暮らしだろう。

正直、今の暮らしを続けていればまたニキビに悩まされるのは遠い未来ではあるまい・・・


「・・・」

俺の不安が顔に出てしまったのか、彼女の顔色がさっと変わる。


「・・・魔法使い様、なんでもするから、アタシも連れて行ってくれよ・・・」

不安そうな、最後は消え入りそうな声で呟き、俯いてしまった。

おそらく無理だと分かっているのだろう。自分のような汚い孤児の面倒をみてくれる大人など居ない。

そういった経験をしてきたのだろう。だが言わずにはいられなかった。わずかな希望に賭けてみたかった、そんな所か。


だが、そんな彼女の考えとは裏腹にその言葉と仕草は俺のハートにクリティカルヒットしていた。

(な、なんでもだと・・・こんな可愛い少女がなんでも・・・気が強そうだが肌は白くて綺麗だし胸も年にしては・・・ゴクリ)

ダ、ダメだ、流されるな! おそらく後々とんでもない面倒事に巻き込まれる可能性が高くなる・・・

嗚呼、でも今は何も考えられない。一時の快楽に流されてしまう。俺はそんなに大人ではないのだ・・・


「え、えぇえええ、ええよ・・・?」

めっちゃどもった。そして取り返しの付かないことをしてしまった気がする。

でもその背徳感がなんだろう、心地良い。


「ホント!? やった! アタシ、キキって言うんだ。よろしくね魔法使い様!」

ガバッと立ち上がった彼女が俺の腕に絡みつく。あわわわわ。

その腕に感じる柔らかくも危険なふたつのボールを感じながら俺は理性が耳から流れ出ていくのを感じた。


「ふ、フヒッ、ま、まぁ・・・よろしくなゃ」

精一杯格好つけようと努力したけど無理でした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

感想等貰えたらとっても嬉しいです。

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