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重力に焼きついた姉弟 ~少女達の力で家族再生計画~  作者: 織葉
第一章 黒大樹の死屍術士
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003 現状把握(挿絵追加)

挿絵(By みてみん)

 どうやら、近くに村があるらしい。

 ピィが軽いヘドバンしながら教えてくれた。


 近いということで、定期的に偵察へ行っているようだ。

 まあ、飛んでるピィの言だ。

 近いといってもそれなりに距離があるだろう。


 二十の大小ある家が並び、人の数は三十人ほど。

 今日は新しい姿を二人見たということだ。


 プウに黒いべとつくものを傷口へ塗ってもらいながら、考えをめぐらせる。


 確か、プウは魔素石、魔素……経絡だっけ。

 そんなのを集める必要があると言っていた。

 それらは、村などに行けば手に入るのだろうか?


 何にせよ、人がいるならコミュニケーションをとるのは必須だろう。

 俺の体はこんな子供であるし、一人で生きていけるとは思えない。

 いや、一人じゃないか。

 プウとピィはいる。


 プウは結界があるとかで外に出れなかったはずだ。

 この狭い生活圏で、いくらか自活していたことになる訳だが。


「なあ、プウ。お前はここでどれくらい生活してたんだ?」

「……ちょっと、まつ」


 プウは、家としている黒大樹の周囲にある、木の一本へと歩み寄る。

 そしてしばらくすると、俺の元へと戻ってきた。


「六十四、昼夜入れ替わった」

「そうか」


 どうやら、あの樹に日数を刻み込んでいたらしい。

 二ヶ月間も、こんな小学生みたいな少女が生活できていたのか。

 ならば、俺が増えたところで自活していくのは問題ないのかもしれない。


 村と聞いて接触することを第一に考えたが、彼らが友好的とも限らない。

 いまだに自分達の立ち居地が分からないのだ。


 プウの体の元となった巫女様は、封印されてる立場にある訳だし。

 封印ってのは穏やかじゃない。


「村へ接触するのは、危険なのか?

 そこで、お前が言っていた魔素石とかいうやつは、手に入らないのか?」

「分からない。でも、魔素石便利。他の群れ、持ってる可能性、ある」


 便利なものなら、そりゃ扱われている可能性はある。

 入手方法が動物の中からなんてありきたりな方法なら、尚更だ。


 しかし、タダという訳はあるまい。

 俺たちは資産と呼べるものはなさそうだし、取引材料がない。

 それに、さっき考えたように友好的とも……。


 いや、まてよ。


 確か、この体は川で流れていた死体だったという話だ。

 となると川の上流にある村。

 まさにそこから流れて来たということではないか?


「俺の体は川から流れてきたとき、どんな感じだったんだ?」

「首、とれかけてた。腕、足、穴だらけ。お腹、中、ぐちゃぐちゃ」


 思わず自分の腹へと手を添える。

 かなりの損傷状態にあったらしい。

 首の皮の突っ張った感じは、それを縫合した結果か。


 もし流れていった原因となる場に、他の人間がいたなら。

 そんな状態だった俺が生きて戻ったら、どうみるだろうか?


 快く迎え入れてくれると考えるのは軽率だろう。

 というか、この体の持ち主に一体何があったんだ?

 その辺も大いに不安材料なんだが。


 そして、そんな死体をここまで治して見せたプウは、一体……。

 俺はただの貧相な少年である。

 何にしても、プウ頼みな気がする。


 ピィはただ重いだけのインコだ。


「ゴシュジン ナンデ コッチミタ」

「気にするな。プウは、どれくらいのことが出来るんだ?」


 プウは暫し考え込んで答えた。


「……巫女、色々作る記憶ある。

 黒い木、皮、腐らない粉、作る。

 魔素操作、傷止める。魔素、流れ見る。

 他の生き物と生き物、つなげる」


 魔素。それが根幹にある色々な技術。

 そして森にある素材を使った、ものづくりが基本といったところのようだ。


 しかも、生物同士をつなげるときた。

 それって、フランケンシュタインの怪物的な?


 なんか、すごく生命倫理にそむいてる気がする。

 俺の知ってる医術体系からは、大きくそれている。

 そもそも、死体に俺を憑依させて再生してる時点でおかしいのだ。


 気づいていたが、この場所は俺の見知ったところではないのだろう。

 まあ、今はそんなことより、やれることをやるのが先決だ。


 プウが物作り出来るなら、それが取引材料になるかもしれない。


「俺も、プウのその魔素操作ってやつ、教えてもらったら使えるのか?」

「王、無理。プウ、同じ、魔素経絡、ない」


 え、無理なの?


 ……少しくらい期待してたんだけどな。

 はは、そう甘くないか。


「ゴシュジン ヤクタタズ ナサケネー」

「うるせぇな」


 分かってきたぞ。

 魔素経絡というのはつまり、魔素とか言うものを扱うための神経系。

 その魔素経絡とかいうのを使って、魔素石とやらを作るわけだ。


 それにしても俺、ほんと役立たずじゃないか?

 もしかして、本当に男機能だけの存在なの?


 いやいや。


 まあ、まじめに考えると俺がやれること。

 それは結界から出れないプウに代わって、必要なものを集めることだろう。

 ピィは出れるようだが、物運びは期待できない。


 とは思うが、俺もそんなに多くは運べないだろう。

 体格が弱々しい上に、力を入れると節々が痛む。


「魔素石は生き物から採れるんだよな?

 この辺りの動物から、俺が集めることになるのか?」


 プウの視線が鋭くなる。


「そう。動物中、ある。でも、王、倒す無理。

 森生き物、皆強い。殺される。間違いない」


 ダメじゃん!


「じゃあ、どうやって集めるつもりだったんだ?」

「………………」


 長考へ沈み込むプウ。

 えええ?

 まじですか。ノープラン?


 やっぱ、村行かないとダメかー。

 やっぱり俺がいないとダメだよなー。

 大手中小択ばず営業しまくった俺の売り込みスキルを見せるときだなー!


 役に立てそうで少し嬉しくもあるが、この身なり、この状況。


 不安しかない。 

 交渉に大切なのは、まず清潔感。それは信頼へ繋がる。

 今は対極といってもよい状況だ。


 プウもそうだが、俺の服もズタボロである。

 それと、もう一つ懸念が。


「なあ、村にいくとなると、ええと……生き物入ってこない結界から出るだろ?

 そうしたら俺、森の生物に襲われない? 森の生き物強いんだろ?」


 プウが何か黒い液体が入った土器を見せてくる。


「襲われる。でも、平気。プウ作った、獣避け、ある。獣、近寄らない」

「素晴らしい! 本当に君は素晴らしい!」

「そ、そうか?」

「自信を持ってくれ!」


 さすがのプウ様である。頼りになる。

 どこまで効果あるか分からないが、獣避けとやらも交渉材料になりそうだ。


 そういや、あの黒い薬みたいのとかも結構な代物なんじゃないか?

 あれをたくさん作ってもらって、村で物々交換だな!


 そう計画をたてて、相談してみる。

 プウは俺の村行きに不安を示したが、現時点での最良だと判断したようだ。

 早速準備に取りかかる。


「残りの皆の体も、早いところ作ってやろう!」



 交換材料に考えていた黒薬だが、プウが巫女の記憶を頼りに作ったものらしい。

 材料は、この黒い木の森の樹皮や樹液。


 黒いべとつく薬――面倒だから黒薬とよぶ――は、良い取引材料になるのは間違いない。

 傷口に塗れば、体内魔素に干渉して傷の治りを早くする。

 周囲の魔素を引き寄せ安定させ、術を使う際の触媒にも利用できるそうだ。


 問題なのは、それを入れていた器である。


 土を固めて、乾かして固くし、表面を油や葉で覆っただけというもの。

 素焼きの土器にも劣る品質で、持ち運ぶなどもっての他だった。

 土器同士を少しぶつけるだけで割れてしまう。


 唯一入れて運べそうなのは、木の実をくり貫いて作った入れ物。

 ぱっと見て、ひょうたんの劣化版だ。


 しかもザックや袋のようなものがあるわけではない。

 持ち運べる量には限界がある。


 幸い、黒い薬は粉になっても溶かせば使えるらしい。

 獣避けの方は、作るのに手間がかかる上、乾燥させると効果も薄れるそうだ。

 色々試行錯誤し、プウの記憶を紐解きながら落ち着いた形は、


 獣避けを劣化ひょうたんに入れたものを四つ。

 これは、適量で使えば四日安全に森で過ごせる量が入っている。

 大分大目だが、余りそうな分は取引材料として使う予定だ。


 そして連結固形黒薬。

 これはプウの巫女の記憶から作ったものだ。

 黒薬を蔓で作った縄に、樹液と水で固めたもの。


 それを一定の大きさで連ねる形にした。

 なんとなく、サバゲーのマガジンを装着してるような気分だ。

 これは大分持ち運びしやすい。


 実の器も、縄で縛って樹液で接着し強度を高めた。

 もっと時間があれば、この縄を編んでザックを作れたかもしれない。

 とりあえず、今の装備でも大丈夫だろう。


 最後に、プウから一振りの短刀を渡される。


「おお! 武器か!」


 しかし、それを調べてみて苦い顔になる。

 確かに金属製のようだが、力を入れると曲げれるほどには柔らかい。

 刃部分は俺のツメの方が鋭利だという有様。

 先のとがった部分を刺せば武器に使えるかもしれない。

 しかし、木に刺したら折れるだろうこと請け合いだ。


「何か、見た目以上に凄い力とかある感じ?」

「無い。祭儀用」

「さいですか」


 まあ、無いよりはましだろう。


「じゃあ、行ってくる」

「王、頼り。必ず、戻る」


 そっと、プウが俺の体に触れる。

 ぎゅっと手を握り返してやる。


「……分かってるって。じゃあ行くぞ、ピィ」

「テイサツハ マカセロー バリバリ」

「お前、そういう言葉とか覚えてるんだな……」


 何はともあれ、俺とピィでの村行きが始まった。

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