002 自称金魚の片言少女(後書きにイメージあり)
一刻ほどプウに説明してもらったことをまとめるとこうだ。
片言で聞き取り辛いが、頑張った。
プウは姉の謎の力で、黒大樹にあった少女の体を手に入れたらしい。
そんなバカなとも思うが、俺の姿を見たら信じざるを得ない。
少女の記憶は、引き金となる出来事で思い出すそうだ。
その記憶を"巫女の記憶"と呼んでいると言う。
どうやら、プウの体の元少女は巫女だったようだ。
姉のデザインしたキャラクターにそっくりなんだが……。
魂姉はポップ(トイプードル)やパイン(ペルシャネコ)の魂と話しができた。
でも、俺だけできなかったらしい。
それはおろか、消えそうになっていた、と。
プウは、俺が消える前に体を手に入れようと姉と相談して頑張った。
大きな問題があったらしい。
ここ黒大樹の周囲に結界があり、他の生物が入ってこないからだ。
これでは、素材が取れない。
結界ってのが気になったが、後で聞くことにして話を進めさせた。
そりゃもう奮闘したと、プウは身振り手振りを交えて語ってくれた。
相変わらず無表情なので、結構シュールだ。
説明によると、川魚などはいたので集めはじめたそうだ。
色々大変だったらしい。
まあ……こんな小学生くらいの少女に川魚捕りとか難易度高いよな。
毎日頑張ってたら、運よくドンブラコと死体が流れてきた。
そして。
その死体を使って蘇ったのが、俺と言う事だ。
「死体流れてきてなかったら、俺ってば川生物キメラになってたってことか?」
「そう、幸運」
まじ……幸運です。
他人とはいえ、人の姿をしていることの、なんと有難いことか。
プウが人型になったのに、俺が魚類とか何その皮肉。
「……ほ、ほんと良かったよ」
俺が安心していると、プウが大仰に頷いた。
「王とプウ、同じ形。子供、作る」
「……え?」
「子供、作る」
「え!?」
何いってんの、この子!?
いきなりの子作り宣言。
……いや、こんな少女だ。
きっと意味がわかってないに違いない。
加えて、彼女の言が本当なら元金魚である。
プウは冷たい視線に少し怪訝なものを含ませて、こちらを見てくる。
「王、群れ増やす。義務!」
義務と言われましても。
そういえば、この少女は表情に変化がない。
目を閉じる、開くの2パターンだけだ。
アニメーション作るの楽そうだな。
そうじゃない。
「……いやいやいや、義務って言われても」
「我が群れ、少ない。数増やす、必須。増やさない、滅ぶ!」
プウは少し怒ったように身を乗り出してくる。
かなり本気らしい。
やっぱ義務とか言ってるし、好意の結果って訳でも無さそうだ。
でも金魚と恋愛とか……ないなぁ、うん。ないよ。
見た目は凄い、かわいいけどさ。
いやいや、ないないない。
というかアレだ。
これは近所の女の子と遊んであげた後にあるヤツだ。
大きくなったらお嫁さんに的な。
いや……群れの存続を考えて子供欲しいって普通じゃないな。
ダメだ。これ以上考えてたらド壷にはまる。
もっと落ち着いたときに、色々人間の感覚を教えてあげる必要があるな。
「あー、えと。まあ、それは今考えてもしょうがないし、後々考えよう?」
「王。大切なこと!」
そうは言うがな。
冷静に、お互いの姿を見てみよう?
「家族計画は大切だな。
でも、そもそも俺もお前もまだ小さくて子供なんか作れないよ?」
プウ、まじビックリ。
「そう、なのか?」
「そうなのだよ」
「プウ、子供、なのか?」
「子供だな」
自分を子供と認識していなかったのか。
まあ、金魚から人に成り代わって、他人がいなければこうもなるのか。
そして、顔のパターン増えたな。
目が少し大きく開いた、だけだが。
いかん。
つい、こんなことばかり考えてしまう。
3Dでキャラクターモデル作ってばっかりいたせいだ。
困った職業病である。
「それよりも聞きたいことがある。魔素石とかアレって一体何なんだ?」
とりあえず、話題を逸らすために質問をする。
この子の思考回路の根幹は、確かに魚類のそれなのかもしれない。
つまるところ、種の存続のための衣食住である。
プウは納得いかないような表情だが、再度尋ねると答えた。
「……魔素経絡、魔素石、動物、植物、中ある。
これ集めて、"導きの間"撒く、魂消失、時間長くなる」
魔素石や魔素経絡。
それを集めると、キョウカ達の魂の存続時間が長くなるらしい。
最重要アイテムだな!
とにもかくにも、それは集めないと。
"導きの間"というのは、キョウカと会話できる黒大樹内の部屋のことだ。
ご大層な名前である。
キョウカの入れ知恵だろうか。
あの姉は俺よりもこういう方向性の趣味をしている。
「黒の森、四方ある白樹、感知結界、中ある。
プウ体、黒大樹中、死んでた巫女。結界出る、無理」
プウは結界の中から出れないと。
さっきも言っていたが、結界とか何それ? 実在するの?
何か物理的なものを結界とか言ってる可能性もあるな。
有刺鉄線や電流ケージとか。川とか崖とか。
しかも。巫女ねぇ。
黒森一族。なんかかっこいいじゃないの。
姉のこと言えないな。俺も結構そっちの趣味があるみたいだ。
考えが逸れた。
「結界の中は、どれくらいの広さなんだ?」
プウは周囲へと視線を走らせ、
「樹行って、帰ってくるを……五十、繰り返す、長さ」
と、少し遠くの木を指してみせる。
徒歩……五分少しといったくらいか?
あまり広くは無さそうだ。
となると尚更、俺とピィが頼りということになる。
「そういえば、ピィはどんな姿――」
言ったと同時。
肩に激しい衝撃が襲い、世界がぐるりと回転する。
勢いのまま、二、三回地面を転がってようやくとまった。
打ち付けた全身が、痛みに悲鳴をあげる。
何よりも、衝撃の中心である肩が痛い。痛すぎる。
――何が起きたんだ!?
突然のことに、思考がまとまらない。
とにかく、このままじゃまずい。動かなくては。
高い茂みの中を這いずる様に移動する。
くそ、肩痛てぇ……!
「王、大丈夫か!? やっぱり、ピィ、バカだ!!」
「オ ナンダ タスケタノニ レイモナシカ!? ジョウトウダコラ!」
プウと、何かが言い争っている。
いま、ピィとか言っていたか?
這いずって逃げるのを止め、よろけながら立ち上がる。
見ると、プウが何かを掴んで怒鳴りつけている。
黄色のインコだ。
あれ、ピィで間違いない。
まんま、ピィの姿はインコだった。
「あれ、我らが王!」
「マジカ ヤベーマジヤベー」
やっぱコイツもしゃべれるのか。
どうやら、ピィが俺を敵か何かと間違えて攻撃してきたらしい。
つーか、どう考えてもインコが体当たりした衝撃じゃなかったぞ!?
「……ピィ、だよな? お前は鳥のまんまなんだな」
「ゴシュジンカ マジ ワルイ トチッタ ナンデクロイ?」
服のことを言っているのだろうか。
俺の服装も結構ボロボロだ。
プウに塗りたくられた黒いもののせいか、色も大方黒く潰されている。
元はもっと明るい黄色の衣服だったと思われるのだが。
そういや鳥は飼い主が服装変えただけで、別人と見間違えるくらいの識別能力だったっけか。
ピィはプウの手から抜け出すと、こちらへ飛んできた。
手を差し出して、受け止める。
重ッ!?
めっちゃ重い。危うく前に倒れそうになった。
小さなインコの姿なのに、めちゃくちゃ重い。
衝撃の正体はこれか。
というか、手のひらに乗ったピィの足が突き刺さる。
すげぇ痛い。
思わず下へと投げ落とした。
「マジヤベー ゴシュジン チョウキレテル マジヤベー」
「お前重すぎだろ!?」
「オモイトカ ヒドイ! モット コトバ エラベヨ!」
「ピィ、外、どうだった?」
ピィはプウへ顔を向けると、近くの苔むした岩へと飛び乗った。
「マチ ヒト アタラシイノ フタリ フエテタ」
視線を向けてくる、一羽と一人。
俺の意見がほしいのか?
頷くと、プウへ手を差し出した。
「まず、この手と肩をどうにかしてくれないか? めっちゃ痛い。泣きそう」
実際、涙が溢れてこぼれそうだ。
この幼い体になったからか、痛みに対する抵抗も少なくなってるようだ。