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重力に焼きついた姉弟 ~少女達の力で家族再生計画~  作者: 織葉
第一章 黒大樹の死屍術士
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010 術訓練

 プウと共に黒大樹へと戻ってきた。

 中に入ると服を脱がされる。

 下も脱がされそうになったが、裾を上げておけば良いらしく脱がずにすんだ。

 無言でずり下ろされそうになった時は少し焦った。


 プウは土器群の中の一つに、細い木の棒の先端を浸けると、俺の顔に何かを描き始める。


 前に見た紋様だろう。

 木の棒の先端はほぐされて柔らかく痛くはないが、目の周りを描写してるときは少し怖い。

 先端恐怖症の姉には無理だな。


 そして顔が近い。

 相変わらずの無表情が真剣さを引き立てている。

 しかし、顔かたちは随分と整っているのに常に無表情なのがなんとも勿体ない。


 笑えばさぞ可愛かろう。

 ぐいと身を乗り出しているので相変わらずボロボロな服から、色々なところが覗けてしまっている。


 俺はそっと目を閉じた。


「王、どうした?」

「気にするな」


 次に村へゆっくり行く機会があれば、プウの服を手に入れてこよう。


 しばらくしてプウは一息つくと、次は指で俺の体に太い模様を描き始めた。

 しかし一生懸命な子って見てると和むな。

 今は俺も似た見た目なんだろうが。


 模様はぱっと見、血管に沿って描かれているように見える。

 特に手の先端付近が密度が濃い。


「これって魔素操作するのに必要なことなんだよな?」

「そう。無くても、いい。でも、ある、もっと良い」


 指で触れられているところが、すごくこそばゆい。

 途中我慢しきれずに身悶えて、プウに二度修正を余儀なくさせてしまったが。

 なんとか模様を描き終えたようだ。


「乾く、待つ。触る、ダメ」


 と言って、他の土器で作業を始めた。

 ただ待つのも勿体ないので質問する。


「初めは何を覚えるんだ?」

「魔素、見る」


 目の周りを念入りに描いてたしな。


「次は?」

「薬作る……でも、時間、無い。攻撃、覚える」 


 術による攻撃!?


 ワクワクが止まらない。

 改めてここドコナノという思いがよぎる、が。

 ともあれ、攻撃術だ。


「ど、どんなのなんだ?」

「見せる」


 プウは二、三センチほどの木片を手に乗せる。

 そのまま指を丸めて、ボールを掴むような形にした。

 木片が震え始めたと思うと、激しく手の中で動き始める。


 目で追うことも出来ない速度。

 吸引力の落ちない某掃除機ゴミタンクの中みたいだ。

 

 手を黒大樹の出入り口へ向けると、中のそれを撃ち出す。

 干し草暖簾を散らしながら、木片は外へ飛んで行った。


 生身で受ければ、簡単に皮膚を突き破るくらいの威力はあるように見えた。


 しかし、その程度だ。

 これでは防具で身を固めていたタハディはおろか、厚手だったシルスの服も貫通は無理だろう。

 迫りくる兵達は、あの二人より頑強な防具を備えているに違いない。


 まあ、兵達を相手に戦う気は毛頭ない。

 回避するのが一番の目的だが、いざという時の抵抗手段としては意表を突けるかもしれない。

 

「石、もっと強い」


 ああ。そうか。

 木片だから質量もたかが知れている。

 石なら、当たり所によっては簡単に命を奪うことすら可能かもしれない。


「あと、毒、塗る」


 はいー。毒来ましたー。

 確かに毒を塗れば、少しの傷でも致命傷になる。


 毒を扱う。

 背筋に悪寒が走るのを感じた。


 今更ながら、状況次第で命のやり取りもあり得るのだと実感する。


 プウは土器のいくつかを俺の前へと並べる。


「乾く、待つ。薬、教える」


 俺は立って模様が乾くのを待ちながら、プウから薬の説明を受ける。


 一つ目。

 見知った黒薬である。

 この薬は、黒い木の樹皮や葉などからとった抽出物から作る。

 それを魔素操作で網目状に編み、積層させていくことで完成させるという。


 つなぎになる素材は、魔素伝達の良いものであるほど効果が高まる。

 ちなみに編み目はミリ以下の細かさだ。


 ……なにその精密作業。


 単純に材料混ぜて作れる代物ではないようだ。

 俺がそれを出来るようになるのだろうか。

 仕事では立体造形などの細かな作業は得意だったが、果たしてその修練は役立つだろうか。


 二つ目。

 獣除けだ。なんとその素材とは、


「プウ、血」


 だと言う。

 その血を揮発性、拡散性、残留性を高めるように調合したものらしい。

 確かにそれは量産は難しい。

 獣はプウの血の匂いを嫌うということだろうか。


 それ以外の薬達。

 ここからは、初めて見る薬だ。


「防腐薬」


 と言って渡されたそれは、見た目は他の薬と変わらない。

 というか、どれもこれも黒い同じものにしか見えない。

 違うと言えば、水気の含みくらいなものだろうか。


「少し舐める、痺れる。動けない。欠片舐める、死ぬ」


 防腐も何も、劇物だった。

 これが刃や投擲物に塗る毒にもなるらしい。

 また、これを死体へ振りまくと劣化を遅くすることができる効果もある。

 新鮮な死体は、非常に良い素材だという。


 大量の魔素石を泡吹かせ溶かして見せた薬液に死体を入れると、魔素石や魔素経絡といった素材が回収できる。

 その際、素材自身の性質や強靭さといったものも重要だが、鮮度が高いとそれだけ質の良いものが採れる。


 他には、別の生物と生物の部位を繋ぐ際に利用する薬。

 他生物細胞間の免疫系を抑制するとかそういう効果だろうか。


 あとはさっきの猛毒防腐薬の中和剤。

 この二つを併用することで、傷の進行を抑える効果もあるそうだ。

 まさに毒と薬は紙一重といった感じである。


 まだ色々と薬はあるらしいが、

 今俺に有用となりそうなのはこれくらいらしい。

 

 それらの説明が終わったころ、模様の方も乾いたようだ。

 プウがそれを確認すると、


「術訓練、やる」


 と言って、俺の目に手を当てた。

 目の周りに手を当てるようにしているので、目は開けられる。


「当ててない目、つむる」


 言われた通りに片目を閉じた。

 目に当てられた手から、熱のようなものが流れ込んでくるのがわかる。


「力抜く。目、凝らさない。

 目、奥、集中。魔素流れ、思う」


 言われた通りに意識する。

 しばらく何処にも焦点を合わせないようにして、プウの手のひらから流れる熱を感じる。

 なんとなく、眼球へ熱が集まるのが分かった。


 視界が暗く、明暗を失っていく。

 しかし、それに伴って鮮やかに見えてくる明るい闇がある。

 いや、明るい闇ってなんだ。


 何と言ったらいいか。

 どぎつい黒、そう、彩度の高い黒とでもいうか。

 薬の入った土器やらの中身が、その明るい闇で満たされている。


「王。見えたか?」


 俺の反応に、プウが問うてくる。

 今見えているものを教えると、プウは満足そうに頷いた。


「濃い色、魔素」


 プウが俺の目から手を放す。

 その手も、明るい闇が満たしている。


「これが……魔素の流れか」

「そう」


 プウの手が離れてしばらくすると、目の中にあった熱も無くなっていき、視界が元に戻った。


「王、自分で出来る、なる。練習」


 その後は、目と魔素経絡を移植した腕に魔素を流してもらいながら、身体中を流れる魔素と、魔素を見る力――魔素視――の感覚を覚えこむ。


 そんなことを結構長いことやっていると、ピィが外から飛んできた。

 くちばしに、いつもの果物を六個ぶら下げている。

 ピィの体よりも果物の方が大きい。

 前見た時よりも多い。こいつの運搬性能も日々向上しているようだ。


 アリが自らの体よりも大きい餌を運ぶ様を思い出しながら、それを受け取る。


「セイガデルナ ゴシュジン」

「おうよ、プウから腕もらったからには頑張らないとな」


 果物を食べながら、ピィへ聞く。


「それで、周辺を調べてきてたんだろ?

 何か気になることはあったか?」

「オイオイオイ マズハ アレダロ」

「あれ?」

「ホメロ」


 俺はピィの頭を指で掻いてやる。


「お疲れ様です! 我が家の大黒柱ピィ様!」


 声色を変えて褒め称えてみた。

 体が幼いからか、想像以上に高い声になってまるで女の子みたいだ。


「キモッ!」


 うん、俺もそう思う。


「……それでどうだったんだよ?」


 軽く咳払いをして再度尋ねる。

 ピィが果物をつつきながら、答えた内容はこうだ。


 村には特に変化はなかったらしい。

 黒大樹へ戻ってくるときに兵隊のことも伝えてあった。

 だからそれを調べてもらったのだ。

 村を多少越えたところまで行ってもらったが、そこも特に変化はなかったそうだ。


 まだ兵達が来ていないことに安堵のため息をつく。

 

「じゃあ、このまま術の練習を続けて大丈夫そうだな。

 あ、そうだプウ。後で、俺も姉と話とかしてもいいか?」

「良い。でも、プウ、キョーカ様、話したい」


 プウもいつの間にかに、姉びいきになっているのか?

 ピィは俺に手厳しいし、パインも姉びいき。


 残るはポップだけか。

 エサ、散歩、一緒の時間最長のポップが俺になついているのは疑い無いが。

 早くポップにも会いたい。


「ソウダ ゴシュジン」

「なんだよ?」

「オッテキテタ キイロ ト ミドリ アトスコシダゼ」

「……え?」


 黄色と緑。それはシルスとアレスをさす言葉だ。

 あと少しってなんだ?

 昨日、追ってきていたのは知っているが、撒いたのではなかったのか?


 嫌な予感がする。



「アトスコシデ クタバルゼ」



 その予感は見事に的中してしまった。


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