悪役令嬢なのに悪事が上手くいきません!
暇つぶしに書いてみました。暇つぶしになると幸いです。
…わからない。本当にあの娘を出し抜く方法がわからない。
金獅子公爵令嬢のベアトリスは途方に暮れていた。彼女は今までの出来事を振り返った。
ベアトリス。
彼女はミッドガルド王国の王子の婚約者である。
父親は王家の次に軍事力、経済力、発言力のある金獅子公。
何不自由なく育ってきた彼女は我儘娘であった。
しかし、王子の婚約者に相応しくあるため、努力を積んできた娘である。
美貌、教養、マナー。総合的に見れば彼女に勝る同年代の娘はいないであろう。
そんな彼女も、今年から貴族や裕福な民の子息が集まる“学園”に通うことになった。
ある日、私はとても憤慨していた。
婚約者に浮気を誘ったある娘に。私がいるにも関わらず入学式以来あの女にべったりな婚約者に。
何よ、ちょっと私より美人なだけじゃない!
友達(取り巻き)の皆も私に同情してくれたわ。何人かは私と同じように婚約者を奪われてる。
……許さない。
そう心に決め、昼休みに制裁を加えることにした。友達もついてきてくれるって言ってくれたし。
「ごきげんよう、白羊伯令嬢。少し貴女にお話があるのですわ。お付き合い願えません?」
昼休み、あの女を見つけた。戸惑っているようだが知ったこっちゃない。有無を言わせるつもりもない。抵抗するなら爵位で脅してでも…
「ごきげんよう、ベアトリス様。私とお話してくださいますの?」
あっさりとついてきてくれた。私の望み通りだわ。ちょっと拍子抜けしたけど。
それにしても……。何故?何故そんなに嬉しそうなの?
誰もこなさそうな校舎裏へ連れてった。さて……
「アリシア様?私の婚約者に手を出さないで頂けます?聞くところによれば他にも何人もの殿方をたらしこんでるとか。みっともないですわ」
私の背後から賛同の声が上がる。友達だ。
「私は別にたらしこんでませんよ?」
何故かきょとんとしてるあの女に私は畳み掛けた。
「あら。入学式以来ずっと仲良くしてらっしゃるのでしょう?この間は手を繋いで歩いてたとか。たらしこんでないなんて言えたことですか?」
「いえ、あれは……」
否定なんてさせない。
「貴女の言い訳など聞きたくありません!事実は事実と認めた方がよろしくてよ?」
「本当に違うんです!あれは、逃げる私をアーサー様が掴んでいただけなんです!」
友達が非難の声をあげた。
怒りが極限に達し、すうっと血の気がひいた。
貴女は傲慢にもアーサーに好かれていると思っているの?
貴女はアーサーのせいにするの?
「……左様ですか。後悔しても知りませんわよ?」
吐き捨て、踵を返した。台詞は悪役っぽくて嫌だけど、傷ついた表情をしたアリシアの顔を見てスッとした。
その日から、私と友達は嫌がらせを始めた。
―その1― とりあえず、アーサーから遠ざける。
「ごきげんよう、アリシア様」
「ごきげんよう、ベアトリス様」
「ちょっとお話がありますわ」
「まぁ!何でごさいましょう?」
あの女をアーサーに近づけたままは良くないわ。と、言うわけでお昼休みだけでも私が邪魔しなくっちゃ!
あの女、毎日お弁当を作ってきてたのだけれど、ある日から二人分作ってくるようになった。悔しいことにお味は絶品だ。
アーサーの為に作ってきたのだろう。
でもさせない。アーサーの胃袋は私が掴むのよ!
仕方がない。私が代わりに食べて差し上げますわ!
「うん、このサンドイッチは素晴らしいわね。絹のように繊細で柔らかなパンに、ほどよい酸味と瑞々しさを兼ね備えたトマト。それらと絶妙にマッチする……(以下略)」
サンドイッチを上品に食べていたら、暖かな視線を感じた。アリシア筆頭にたくさん。
……ハッ。ままままさか、公爵令嬢たる私が食べ物ごときで懐柔なんてされてませんよ!
いや、でも食べ物は生活に必要不可欠。だから侮ってはならないし……。
ほんとはアーサーと過ごしたいのだけれど、この女に目を離した隙にサンドイッチを食べられたらまずいわ。
こんな強力な武器をアーサーに使われたらきっと……。しくしく。
ふと視線をあげたら、幸せそうな笑顔がそこにはあった。悔しいことに私よりも可愛かった。
……なんで貴族なのにお弁当が手作りなのかしら?
―その2― あの女のものを隠す。
本当は人のものを隠すなんて許されないことだけど、少しは懲らしめなきゃ。今日は定規を隠します。
……いけない。マナーと道徳に厳しい母の顔が脳裏に甦った。
「ベ、ベアトリス様?!そんな真っ青になるならお止めになった方が……」
「だだだだ大丈夫ですわ!」
ガクガクブルブル。
「あら、定規がないわ。どうしましょう」
(心理的に)苦労した甲斐があって、困った顔を見れました。よし、このままいじめましょう。
「アリシア様、どういたしました?」
我ながら白々しいわね。
「あ、ベアトリス様。私の定規がなくなって……あと、リコーダーも昨日からないのです」
リ、リコーダー?!ま、まさかアーサー、間接キスをしようなんてしてないわよね……?いやいや、将来の夫を疑うなんていけないわ!でも、もしそうだとしたら……。ちょっと泣きそうになった。
「アリシア様、私も協力いたします。皆さんも一緒に探して差し上げましょう」
友達は一瞬呆気にとられて、次の瞬間一様に暖かい目線をくれた。……何故?
「有難うございます、ベアトリス様!」
アリシアは嬉しそうに笑った。あぁ、やめて!貴女の笑顔は暴力的なまでに可愛いのだから。私をアーサーと同じように篭絡しないで!
……ちょっと待って。
「アリシア様?我らが“学園”ではリコーダーなんて使わないのでは?」
アリシアはくつくつと笑った。
「お気づきになられましたか。さすがはベアトリス様。
ところでベアトリス様?何故いつもはいらっしゃらないこの時間帯にこちらに?」
一転、笑顔が怖くなった。どうやら……ばれたのかしら。ひやひや。
「え、えっと、気紛れと申しますか、ちょっとアリシア様にお会いしたくなったので……」
しどろもどろな私に追求するのかと思ったが、追撃はこなかった。ほっとして目を合わせる。そこには嬉しそうなアリシアがいた。
何故?!どうしてそんなにキラキラした目で私を見るの?!
隠した定規は放課後こっそり返しました。ふぅ、心臓に悪いわ。
……そう言えば、結局アリシアはリコーダーをどうして持っていたのかしら?
―その3― 無視をする。
最近、アリシアが私に馴れ馴れしくなってきた。しかも、アーサーは今まで以上にアリシアに夢中だ。
今までの作戦じゃだめなのね。私は決心した。
「ごきげんよう、ベアトリス様」
「……っ」
無視をした私にアリシアは傷ついた表情をした。やめて!そんな捨てられた仔犬のような目で見ないで!
母の顔が脳裏によぎる。あぁ、挨拶をしないとこんなにももやもやするなんて。
でもだめよ、ベアトリス。ここで厳しい態度を取らないとますますあの女の思い通りよ。
「ベアトリス様!お顔が真っ青ですわよ。手もピクピクしてらっしゃいますわ。御無理はやめた方が……」後ろから友達の声が。2列にならんで歩いていた私の友達がこの時ばかりは私の周りに集まる。
それを見て、ハッとなる。廊下の邪魔になりますわ!
「あぁ、だめですわ!大人数で歩くときは2列にしましょうと言ったでしょう!皆さんにご迷惑をおかけしないように列になって。さぁ、教室に参りますわよ!」
ほっとした表情でぞろぞろと2列に戻る友達。それにしても、悪いことをした私を心配してくださるなんて、なんて恵まれた友達を持ったのかしら!
今更述べるのもおかしいが、アリシアとアーサーは同じクラス、ベアトリスは隣のクラスである。ベアトリスの友達はたくさんいて、クラス混合である。
―その4― 足をひっかける。
ある日私は思い付いた。そうよ!無様な醜態を見せればあの女に幻滅してくれるんじゃないかしら。
貴族のパーティの日。
あの女を見つけた私は目立たないように人混みに紛れ、あの女の進行方向にスッと足を出した。
母の顔が脳裏によぎったので目を瞑った。
人混みに紛れるために友達とは別行動である。
・・・
そろそろ来るはずなのに、あれ?目を開けたら、アリシアがいなかった。えっ?えっ?
いい感じに(?)混乱してたら後ろから勢いよく両肩を叩かれた。そのままがしっと捕まれる。
「ひゃあっ?!」
思わず悲鳴が出た。小さな悲鳴にして、周りの紳士淑女の皆様にご迷惑をかけなかったことは誉めてほしい。
おそるおそる振り返ると、いたずらを成功させた子供のような笑みを浮かべたアリシアがいた。
「アアアアアリシア様?そ、そのように女性の肩を乱暴に掴むのは淑女としてどうかと思いますわっ」
「申し訳ありません、ベアトリス様。余りにベアトリス様が可愛らしい悪戯をしてたのでつい驚かせたくなったのです」
「い、悪戯とはなんのことでしょう?」
冷や汗を流しながら素知らぬふりをする。
アリシアは、にっこり笑って答えなかった。
「あ、あぅ……」
無言のプレッシャーに押される私。泣きそう。
「ベアトリス様?」
「は、はいっ」
「貴女様のお美しい御足をその様に不自然に出していらっしゃいますと、誰かがつまづいてしまう恐れがありますわ」
慌てて足を戻す。
「賢明です、ベアトリス様」
アリシアはにっこり笑って立ち去った。
……そんな苛めなくてもいいじゃない。
私はおもいっきりあの女の後ろ姿を睨み付けた。
ちなみに、今まで行った嫌がらせの数は12種類。―その1―は毎日の日課となった。
ベアトリスの嫌がらせ生活によって何故かアリシアは楽しそう。
ベアトリスは今日も嫌がらせを必死に考えるのです。
初めて小説を書いたので、感想いただけたら嬉しいです。……まぁ、小説として成り立ってるのか著しく不安です。