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宇宙の海で ~戦艦ココナッツ起動~

作者: ひすいゆめ

SF作品はあまり書きませんが、その中でもコメディ要素を含んだものを書きたいと思いました。

                   天からの贈り物

 第4スペースステーションの第6ポートに不信な宇宙船が入航してきたことで地球連合軍の宇宙専門部隊、スペースフォースの戦艦D2SPHスルーシップ、ブルートレジャー号が大気圏に突入した。

その船は、かつて宇宙から飛来した隕石から発掘された謎の機械類、通称Xパーツの1つ、ナイトグランドシップを改造して、軍の戦艦としたのだった。

 しかし、そのシステムが理解不明のため、ほとんどが解明されることなく、機器のハードからソフトまでそのほとんどをオリジナルのまま使用されていた。その滑稽なずんぐりむっくした姿から、乗組員や多くの人から通称ココナッツと呼ばれていた。

 スルーシップ、ココナッツはスペースステーションに近付くと突如システムダウンし、補助システムに切り替わった。艦長のレント・スポークはその原因が不信船にあると判断すると宇宙空間にひとまず停滞した。

 救援部隊の宇宙船が早速第4スペースステーションから出航してココナッツに接近した。そのとき、システムが突如回復した。しかし、何故か同時に主砲が自動的に救援部隊の船にターゲットロックしてしまった。

 そこで、ココナッツはXパーツのコピー、人型戦闘兵器グランディフェースを援護に使おうとした。グランディフェースはナイトグランドシップと違い、そのシステム、ソフトはある部分を除き解析されていたために、コピーを作ることができた。その中の解明されていない部分、ブラックボックスがあった。そのため、グランディフェースはかろうじて誰でも操作できるように設計できたが、そのオリジナル、レントドールを操作できる人間は誰1人いなかった。

 そのグランディフェースの外見は地球上にある物質で作られて、地球人好みの形態に製造されていた。レントドールはあまりにも単純なデザインであったのだ。

 そのパイロット、エスト・アルバートは艦長に呼ばれてブリッジに来ていた。

 「…そこでだ。一時地球に撤退することになった」

 「でも、グランディを援護に使うのは危険です。すぐ後方には地球のSレベル重力圏で下手に引き込まれたら」

 「だから、ここで待機してもらう。念の為、援護の為に出撃してもらうが、スルーシップを追う必要はない。後で救援隊に回収してもらえばいい」

 エストは表情を曇らせた。エースパイロットの彼はそれなりにプライドがあった。それがこのような任務に当たることに納得できなかった。

 「この船はドロップポイントでほぼ発掘されたときのままの状態だ。あの人工的な隕石はおそらくどこかの星の遺跡的なものだろう。そこの生命体が今、このシステムをハッキングして操っているのだろう。あの不信船がそれだと推測できる。そこで、完全なオリジナルではないグランディフェースなら干渉されることもないだろうし、戦力不明の敵に対しても有効だろう。最も有力の君にそれを任せたいのだ。相手が不明なだけに最善を尽くしたいのだよ」

 「…わかりました」

 彼は軽く礼をしてその場を去った。ハッチから出撃するとその地点に停滞して第4ステーションからの攻撃を警戒した。ゆっくりココナッツは後退して地球に向かい始めた。

 そこで、救援部隊が到着してエストのグラディフェースは回収された。そのとき、ステーションから1隻の宇宙船がその救援部隊に接近してきた。

 ―――それは全ての始まりであった。

 

 それから、数日が過ぎた。

 輸送船はドロップポイントから静岡県を経て東京の中心地に向かっていた。山梨県の山奥の採石場が隕石の落ちた地、ドロップポイントであった。

 輸送船には発掘されたXパーツを研究所に送る為にコンテナに乗せられていた。その輸送船は人間を運ぶためのエリアも多少存在していた。

客席の最後方にいた()(がみ)(ゆう)()は、隣りの席の友人、駿河(するが)真治(しんじ)と静岡県の浜松市で仲間と遊んでその帰りであった。

 東京の高層エアポートまで静岡から1時間弱であった。しばらく、空から靄がかった下界を窓から楽しんでいると真治が前方に指差した。

 「おい、ユウ。向こうから何か落ちてくる」

 すると、高速に雲の中から接近してくるものがあった。太陽の光を反射してそれは巨大な体を輸送船に向けている。

 「あれは宇宙艇だ。戦闘タイプだけど、見たことがない」

 勇兎が無邪気な子供のように叫んだ。真治は青ざめて宇宙艇から向けられる砲台を見つめていた。次の瞬間攻撃が始まった。グラビティレーザーが全砲台より一斉放射される。輸送船は大きく揺れながらかわしきれずに数発被弾した。

 「この輸送船はBT6000シリーズだから、輸送物をメインに少数の乗客を輸送するだけのために作られているんだ。戦闘設備も防御設備も備わっていないんだよ」

 「お前、そういうのは詳しいな。で、どうするんだよ。このままじゃ落されちまうよ」

 勇兎は少し考えてポンと手を叩いた。

 「これに東京のレクシス研究所に運ばれるXパーツが格納庫にあったろう。あれを使おう」

 「あのでっかいロボットのレントドールか?!あんなの扱えないぞ。グランディフェースのオリジナルなんだろう。エネルギーも入ってないだろうし、操作だってわからないさ。許可なしに使ったらまずいし、格納庫に入ることだって」

 「そんなの分かっている。でも、今はそんなこと言っている場合じゃないだろう。軍の援護を待っている時間はないんだ。それにレントドールはシステムにはブラックボックスがあって解明不可で、グランディフェースができるまで、だれも操ることができなかったんだ。だけど、操縦不可能という訳じゃないと思うんだ。レントドールはある条件で起動するんだと思う。とにかく、すこしでも可能性があるんならそれにかけよう」

 輸送船が被弾して大きく揺れる中、席を立つ勇兎は、後ろの格納庫の入り口のドアのオートキーシステムに近くに落ちていたスーツケースを思いきり叩き付ける。すると、オートキーシステムの操作パネルは電撃が走って壊れた。格納庫のドアを手で無理やりこじ開ける。他の乗客はパニックになっていて、彼の行動に気付くものはいなかった。

 ひんやりする非常灯のオレンジのライトで淡い視界の確保された格納庫の中を突き進むと、奥に巨大なハードケースが横たわっていた。大きく揺れる中、それに手をついて態勢を整えてオープンスイッチハンドルを捻る。

 ケースは大きく蓋開いて中から巨大な人型の兵器が現れた。胸部のハッチを開けると、中のレバーを下げた。胸部がゆっくりと開いていく。考えることなく意を決した勇兎は、中のシートに飛び乗った。

しかし、このグランディフェースのオリジナルであるレントドールは寝かせてあったので、コクピットに乗った勇兎も当然寝ている状態になっていた。右脇のレバーを引くとハッチが閉じて薄暗いライトがついた。

 次に右手前のメインスイッチを押す。すると、全ての計器、システムがアップして急に明るくなり、周囲に外部の映像を映し出し始めた。両手で操縦桿のレバーを引きながら、足元のスロットルをゆっくり踏む。しかし、動き出すことはなかった。

 そう、かつてレントドールを操縦できた人間は誰1人いないのだ。必死になって勇兎はレバーを押したり引いたりした。その間にも輸送船は攻撃を受けてかなり揺れている。そのうち徐々に輸送艦は高度を下げて来た。

 「動いてくれ、頼む、動け!」

 勇兎は必死に叫びながら追い込まれた状況のままレバーを思い切り前に押した。

すると、レントドールがゆっくり起き上がった。それは紛れもなく奇跡であった。

 突如、甲高いブザーが鳴る。右下のレーダーの右には大きな光りの点が表示されている。アームレバーを引き、思い切り押した。レントドールは強烈なパンチを放ち、輸送船の後部ハッチに穴が開いた。

 思い切り両端のスロットルを思い切り踏んで操作レバーを押した。穴から彼は空に踊り出ると、背中のブースターに点火し空を飛んだ。

 「まさか、こんな機械が飛ぶとは…。どういう技術なんだ」

 それは背中に細いバーを2本広げ、そのバーを包むように光が放たれて、その光が翼を形取って、羽ばたいた。前方に凄まじい速度で飛行して宇宙艇のレーザーを掻い潜った。

レントドールは腕からアームライフルを出して腕を敵機に向けた。

 「レイブラスター発射」

 戦艦の主砲と同等の強さのレーザー砲が放たれて宇宙艇を貫いた。それは大爆発をして地上の緑の多い山脈に散って行った。

 次の瞬間、上空から巨大な戦艦が雲の中から現れた。勇兎は急降下して山の中に降立つと脚部のホバーブースターでホバー走行を始めた。木々を避けながら戦艦に近付いた。

 輸送船は遠く見えなくなったが、近くの空港に不時着したようだった。戦艦は完全に勇兎だけをターゲットに絞ったようだ。彼が凄まじい速さで接近するとともに砲台を向けて一斉放射させた。

 そのとき、彼は右の操作レバーの下のスイッチを押してゆっくり押し上げた。すると、レントドールは右腕のプレートが開き前に出ると、そのプレートからビームシールドを放射させた。それは戦艦の強力なレーザーをも防ぐことができた。しかし、衝撃は受けてしまうため、後方に弾き飛ばされた。木に激突して勇兎は息を詰まらせる。しかし、すぐに体勢を整えた。今度は大概の攻撃は走行でかわすことにして近付いた。

 戦艦の真下までいくと思いきりスロットルを踏んで操作レバーを上に引いて急激に垂直上昇すると、腕から発生するビームソードを戦艦の装甲に突き刺した。そして、正方形に切り取って中に侵入した。

 そこで、彼は目の前の中央部にある2つのレバーを上げた。すると、レントドールの肩から2本の針状のバーが背から立ち上がり前方に向かって伸びた。その鋭いバーの先は肩から1m前のところで止まった。次にその2つの小さなレバーを手前に引く。下から銃の形のコントローラーが足元より上がってきて、彼の目の前に銃型のコントローラーがセットされた。それをゆっくり握るとトリガーを押した。 

 肩のバーの先端にエネルギーが溜まり始める。黄色い光が集まり大きくなっていく。そのうち、ある程度の大きさになった光は一気凝縮して小さな緑の強い光になった。

 と同時に、スクリーンの脇にある数多くのメーターの中にある、その謎の兵器のエネルギーゲージが一杯になった。それを確認すると引いていたトリガーから指を放した。

 「ファイナルショット」

 緑の光りは前方に光線を放つ。両肩の針から放たれた2つの光線はレイブラスターよりも弱いエネルギービームであったが、レントドールの前方10mで交わり、巨大なエネルギー波となって凄まじい破壊力のレーザーが広がった。

 戦艦は爆発をして、森の中に散っていった。先ほど空けた四角形の穴から脱出した勇兎は地面に下りたが、爆風に巻き込まれて、そのままレントドールとともに倒れた。

 そのマシンはパイロットの精神力を使う為、勇兎は力尽きてしまったのだ。しばらく、気絶した勇兎の上空に戦艦ココナッツが近付いてくることも彼は知ることはできなかった。


 気付くと彼は病院のベッドの上にいた。周りには沢山の大人達が囲んでいた。その中の刑事らしい中年の鬚の男性が声を掛けた。

 「君はレントドールをどうやって動かしたんだ?」

 彼は考えた。あのレントドールは人間の脳と直接コンタクトを取るものであることはわかった。精神エネルギーを使うこと、つまり、レントドールのエネルギーはパイロットの魂の力ということも、マニュアルがなくとも脳に操作方法、武器、その威力等の情報が直接流れてくることも知っていた。

 とりあえず、そのことを簡単に説明した。

「すると、君しかあれを動かせない可能性は大きいな。あの巨大戦艦を倒した武器はフレアバスターというもので、たった1発であの威力だというのか。うむ。とにかく、君は勝手にあのレントドールを動かしたことは正当防衛と多くの人間の命を救ったことで犯罪にはならない。ただし…」

「ここからは私が話をしよう」

次に紳士といった感じの清楚な男性が口を開いた。眼鏡を人差し指で上げて話を始めた。

「私は地球連合軍、日本支部総司令官の宮城(みやぎ)と言います。今の状況を簡単に説明しよう。ある宇宙生命体が乗った宇宙船が宇宙に散らばるスペースステーションの1つに入港して占領したんだ。彼らはXパーツの機器をハッキングにより全て狂わせることができた。おそらく、ドロップポイントの人工隕石の作られた星からきたものだろう。我々は彼らをネオジェネシスと呼ぶことにした。新創世記、つまり、我々の文明と違った新しい文明、文化を持った者達、という意味合いだ」

 そこで、一息ついて、宮城は視線を窓外に向けた。

「そこで、彼らは恐るべき戦力で我々に牙を向けてきた。さっきの攻撃がそうだ。我々の戦艦は機動力が遅いために追いつかなかったが、君のおかげで大惨事を免れることができた。改めて礼を言おう。ありがとう」

そこで、刑事が口を挟もうとしたが、宮城は無言のまま、手でそれを制して続けた。

「しかし、ネオジェネシスに対抗するには、君の乗っていたレントドール、S-23PS、正式名称CLEAR OLD DOLL ELSE、通称CODE(コード)が必要だ。そして、それを操縦できるのは君だけだ。この意味は分かるね」

「でも、僕はまだ高校生です」

「そこは安心したまえ。通信でココナッツ…我々の戦艦スルーシップの中でも高校の勉強はできるし、単位を取れて卒業も可能だ」

「少し、考えさせてください」

そう言って、誰もいなくなってから彼は1人で考え込んでいた。これから新しい運命が始まるのだ。今までの退屈な人生から開放されるのだ。そう想うと心踊りと戸惑いでじっとしていられなくなった。


                   襲撃の末に

 勇兎は地球連合軍、日本支部総合本部のビルを目の前に呆然としていた。都庁の何十倍あるのだろうか。とにかく、エントランスの受付で総司令の居場所を尋ねた。すると、受付嬢は少し待つように言って、総司令直々にやってきた。

 「我神君、荷物はそれだけでいいのかい?」

 これから長く戦艦の中で暮らすのだ。普通なら引越しと同じ荷物を用意するはずである。しかし、彼の荷物は限りなく少な過ぎた。総司令官は彼を案内して戦艦の並ぶドックに来た。そこにはオリジナルのココナッツより複製として発掘されたXパーツを組み合わせて作り上げた戦艦が所狭しと肩を寄せている。しかし、完成しているのは1隻だけで他は製作中である。その中を高いレベルのデッキを進む。ドックを見下ろしながら最も奥の整備が終わったばかりのココナッツが佇んでいた。

 改めて見てもずんぐりむっくりである。他の戦艦は昔のSF作品の宇宙戦艦のように格好がいいものが多かった。オリジナルなので仕方がないのであろう、ココナッツの前に行くとそこには数人の乗組員が並んでいた。少年、少女もいるのには流石に驚いた。おそらく、中学生、高校生くらいだろう。そして、大人は20代から30代の男性である。女性は若い人しかいないのが不思議だった。艦長は40代くらいの男性で紳士といった落ち着いた男性である。

 総司令官と似た雰囲気である。彼は総司令官に勇兎のことを簡単に紹介して預けて去っていった。

 艦長のランス・ブランドは握手を求めて笑顔で迎えてくれた。早速、勇兎は少年少女が混じっている理由を尋ねた。

 「彼らは英才教育を受けた、グランディフェース適性が90%以上の人達だ。ただ、癖のあるものも多いが」

 彼は頷いて、乗組員達を眺めた。これから始まる恐怖への旅を知る由もなく…。

 全員は艦長の話を1時間聞いた後、全員乗り込んだ。すぐに正乗組員の個室に案内されて、その中を探索した。デスクの天板にあるスイッチを押すとキーボードが現れる。それを立ち上げると、3Dホログラムモニターマニュアルを呼び出して、高校教育のマニュアルを呼び出して通信機能を使った。

 そして、高校へ行かずとも通信教育ができることを確かめた。そのとき、アストミストエネルギー、略してAMEのエンジンのローラーが回る音が聞こえた。この戦艦のエンジンで解明していることは、巨大なローラーが回ることで反重力エネルギーを生み出すAMEが発生する。それがローラーの入っているエンジンゲージに満杯に満たされ、密度が128AME㎥になるとエンジン近くの外壁にあるアウトプレートから反重力が放出されて宙を浮き動くことができるのだ。

 回転が臨界を越えて安定し静かになるとゲージにAMEが満たされ始めたことが分かる。それを待っていると微妙な感覚が体中に伝わった。そう、何の衝撃もなく戦艦ココナッツが垂直上昇したのだ。

 しばらく、スムーズに基地から上昇して大都会の上空を進み始めた。


彼の部屋にブザーがなった。モニターを確認すると、1人の少女が立っている。高校生くらいのポニーテールの大人しそうな少女である。警戒して勇兎はドアを閉めながら、ドアの前に歩み寄った。

 「何ですか?」

 「私、佐伯(さえき)理夢(りむ)。ねぇ、貴方はあのレントドールを操れる救世主なんでしょ?」

 「そんな大それたもんじゃないですよ」

 「ちょっと、レストルームに付き合ってよ」

 彼は面倒臭そうにドアを開けると、モニターの外に隠れていた他のメンバー5人に抱えられて、そのままレストルームに連れて行かれた。

 そこは、乗務員が集まりリラックス、団欒、休む場所である。理夢の他のメンバーは、まず、中学生くらいのクールな少女、朱雀(すざく)美咲(みさき)である。こげ茶色の天然パーマのあどけない表情に生気のない大きい瞳が印象的である。

次に20代後半の長身痩躯の美男子、相馬聖二(そうませいじ)である。彼は銀色のぼさぼさな髪をしている。

20代半ばの魅惑的な女性、()(しゅう)(りん)。彼女は長い髪に大人びた感じである。

一番元気で天真爛漫の18歳、鹿波(かなみ)真奈美(まなみ)

そして、勇兎と同じくらいの高校生くらいの不思議な雰囲気を醸し出している少年、真崎(まさき)(しゅう)であった。大人しそうな、ごく普通の少年であるが、内に何かを秘めている感じが染み出ていた。

 全員、戦闘員らしく、グランディフェース乗員らしかった。

 「新人は歓迎を素直に受けなさい」

 そう、真奈美が口走り勇兎をソファに無理矢理座らせて、隣に陣取った。戸惑っている勇兎をワインのグラスを揺らしながら、流し目で見ている鈴は面白そうに微笑んでいる。

 「とんだ歓迎の方法で驚いているでしょ。僕も最初は驚いたよ」

 落ち着いた感じで隣に座った修は、そう言って彼を安心させようとしていた。美咲は無表情で沈黙を保ったまま、料理を持ってきてソファの前のテーブルに並べた。

 「一応、歓迎会だからね」

 捨て台詞を吐いてテレビの電源を付けて、美咲は部屋の端のスツールに座ってカウンターに向かってオレンジジュースを口に含んだ。

 聖二は冷静にご馳走を頬張りながら、冷静に勇兎を観察している。理夢は修と勇兎の間に割って入って無邪気な笑顔で口を開いた。

 「これで両手に花だぁ」

 呆れながらも、勇兎はまるで毒見をするように、料理を口に運んでいると、修が苦笑をしながら言葉を零した。

 「みんな、独特の感性を持っているからね」

 「どうして、このメンバーが集められたんですか?いくら学力、体力、メカの操作センスがいいからって…」

 「実は、それだけでは、グランディは操れないのよねぇ」

 すると、そう言いながら、レストルームに18歳くらいの女性が入ってきた。勇兎はぽかんとしながら、彼女を見ていると彼女は敬礼して首をわざと愛らしく傾げて見せた。

 「あれが副艦長よ」

 テレビから視線だけを横目でよこして、感情もなく美咲がそう言った。

 見かけはグラビアアイドル並みの愛らしさで、あどけなさの残るセミロングで円らな瞳に驚いた。

 「私が起動戦艦、ココナッツの副艦長、春香(はるか)ブランド、艦長の孫よ」

 そして、もっともらしく咳払いをして、説明を始めた。

 「まず、レントドールの性能の中に、ブラックボックスのシステムのほとんどなんだけど、人間の脳波を感知して、それに反応して動作する機能があるの。サイコスキャンシステムね。だって、あれだけの人間の操作だけで、自動にスムーズにあれだけの動作ができるわけないもんね。オートシステムもAIを使っても、パイロットのコントロールにあれだけ忠実に動作を再現できないでしょ」

 「そのサイコシステムに最も脳波の順応がよくて、うまくグランディを操縦できるのが私達、選ばれし勇士って訳」

 鈴が聖二の隣のソファの肘掛けに腰掛けて、そう言うと長い髪を掻き分けてワインを飲み干して微笑んだ。

 「少なくとも、80%は順応していないと、作動させることはできない。90%で、何とか自由に動かすことができる。95%以上で、人知を超えた動きを再現できると、データから推測されているんだ」

 今度は聖二が説明を始める。そこで、春香は咳払いをして、説明の主導権を取り戻した。聖二を腰で退かして、勇兎の正面に座ると、顔を近づけて話を始める。彼の鼻に芳しい香りが届いた。

 「それでも、レントドールとは訳が違う。オリジナルは適正の性質がかなり特質で、これまで作動させることのできる人間はいなかったの。私達の調査では、最高でも12%の適正しかなかった。これから、貴方のレントドールとの適正、および、もろもろの調査をしますので、今から来てください」

 「まだ、歓迎会がー」

 真奈美のその言葉を残して、春香について通路に出た勇兎はある部屋に連れてこられた。そこは、医療ルームらしい。

 様々な機械が並び、中央にベッドが寝ている。その横に椅子が5つ並んでいた。その椅子の1つに座らされると、頭部にヘルメットのようなものを被せられた。あとは、医師のような研究員のような人達に任せられて、調査が始まった。

 上のブースでは研究者と春香、そして、艦長のランスが話をしているが、彼の耳に届く訳もなかった。

 「何?信じられん。グランディのシンクロ率99.7%だと?」

 ランスは思わず声を荒げた。研究員はさらに話を続ける。

 「しかも、レントドールのデータを照合したところ、シンクロ率75%です」

 「それじゃあ、起動させられないじゃない。今までの人間の最高が12%だから、凄い、って言えば凄いけど…」

 春香の言葉に研究員は首を横に振った。

 「人の脳波は状況によって変化します。前回は危機的状況の中で、彼はアドレナリンが大量に放出されて、興奮状態であったはずです。それだけでなく、幾つかの条件で、彼はある脳波の状態になって、レントドールを操作できるんです」

 そして、あるデータをモニターに表した。

 「ここを見てください。ドロップポイントで発見されたマイクロボックスから発生するマイクロウェーブの1つ、#波を放射したところ、通常では現れない脳波形が見られます。6Hz(ヘルツ)、12Hz、20Hzに見られます」

 「すると、その3つの#波を放射することで、いつでもレントドールを彼は操作できるという訳だ」

 ランスがそう言うと、検査は終了した。


 しばらく、解放された勇兎は自分の部屋に篭っていると、エマージェンシー警報が艦内に鳴り響いた。

 勇兎の部屋の壁のモニターに新たな女性の顔が映し出される。

 「勇兎君、君は他のメンバーと格納庫に行って下さい。場所は下に表示されているとおり」

 「分かりました」

 戦闘服に着替えると駆け出して、ココナッツ中央下方の格納庫へのエレベーターに乗り込みデッキに出ると、パイロット達の下に向かった。彼らは巨大モニターの前に集まっていて、そこにはランス艦長が指示を始めていた。

 「全員揃ったな。では、まず、勇兎。君はグランディに乗って聖二、修、そして、鈴と第4スペースステーションから出発した敵方の新型グランディ、ヴァルボディ10機を壊滅せよ。あのレントドール、CODEはメンテにだいぶ時間がかかる。エネルギー充填や新型サイコウェーバの取り付けもまだであるし。戦闘艦3機はココナッツで叩く」

 「駄目じゃないですか。ココナッツはオリジナルXパーツだから、システムにハッキングされて操られてしまうんじゃ…」

 勇兎の言葉に聖二は冷たい視線を投げた。

 「ココナッツは長距離主砲レイブラスターがあるだろう。って、知らないかぁ。まぁ、いい。ハッキングエリアの外から攻撃をすればいい。それに、最終兵器、ドラグーンバスターもあるしな」

 すると、各自、グランディフェース、RU-23、アーリュに乗り込んだ。

美咲、真奈美、理夢はそれぞれ、グランディフェース、RF-51、アーレフに乗り込んで待機することにした。

 敵機が大気圏に入った頃、ココナッツは敵機の降下予測地点、中国北部に向かっていた。そこで、出動のブザーが鳴る。

 勇兎はゴーサインとともに格納庫からアーリュを移動させてカタパルトに乗った。しかし、カタパルトが動き出すと、バランスを崩して倒れて転がった。

 「あちゃー」

 真奈美は手を顔に当てて嘆く。

 「馬鹿」

美咲は呟くとそれを一瞥して視線を横に逸らした。

 「ありゃ、痛いぞ」

 聖二も思わず言葉を零して、隣のカタパルトから船外に飛び出していった。ブースターからバーナーを放ち、雲の中に消えていく。その後を、心配そうに後方モニターを見守りながら、修も追っていく。

 鈴はうつ伏せに倒れた勇兎のグランディの腕を引いて立たせると、そのまま鼻で笑って出動していった。

 「それはレントドールと違って、自分の意思とシステムとの疎通が希薄なので、自分の操縦が重要なんだ。人型兵器はバランス取るのが難しいので、真ん中のスロットルはそのための調整スロットルなんだ。後は、レントドールのマニュアルどおりだ」

 突然、前面パネルの左下にナビゲーターの女性の顔が映る。勇兎は、今度はカタパルトを使用せずに、歩いてゲートに向かってそのまま飛び降りた。ブースターを点火させて飛行をするが、うまく飛ぶことができなかった。

 右手のレバーで背中の折り畳みの金属製の羽根を広げて、調整スロットルでバランスを取って、なんとかゆっくり着地することに成功した。レントドールの思考をトレースするサイコシステムなしでは、訓練なしでマシンを操ることは困難を極めた。

 彼はセンスだけでグランディフェースを操っていた。サハラ砂漠に着地すると、砂埃を立てながらホバー走行で前方に向かった。

4人の出動を見止めて、格納庫のゲートを閉じてココナッツは、オペレーター達により北東の方角に進路を変えた。

「レーダーでは、大型戦闘艦3機があと5分で戦闘可能区域に入ります」

その声からしばらくして、右20度上よりレーザーが放たれ始めた。

「グラビティバリアを前方に放射。弾幕を張れ」

艦長の声にココナッツは戦闘態勢に入った。

「あの子、大丈夫かなぁ?レントドールなら、救世主だけど、グランディでは素人だからね」

春香は戦闘中にも拘らず、緊張感もなく頬杖をしながら足を揺らしていた。

「しかし、グランディのシンクロ率は99.7%なんだ。すぐに慣れて、最大限の成果を与えてくれるさ」

ランスの言葉にふーんと鼻で返事して、彼女はメインモニターを何気なく眺めた。

 ココナッツの勢力圏内に入り、主砲が放たれる。レイブラスターは敵戦艦に放たれるが、高密度バリアにより、90%は弾かれてしまっていた。ココナッツは敵のビーム砲はバリアを数発は貫いて被弾した。

 しかし、どちらの装甲も厚いために、ダメージは少なかった。


 一方、敵のグランディフェース、ヴァルボディは10機、戦闘艦より出撃してきた。砂漠の中央には、地球連合軍の機密機関、テトラドームが存在している。インベーダーの狙いはその施設であった。それは、新科学兵器研究所である。そして、今、新型グランディフェースが開発されている。

 テトラドームが隠されている地点は、ステルスシステムによって敵に察知されないようになっている。しかし、そこにヴァルボディが降下していっていた。

 鈴と聖二、修は一歩遅れて砂の大地に降下を始めている。先に着地していた勇兎はそのまま、レーダーに従って敵の向かう場所に急いだ。左奥のレバーを引くと、徐々にスピードは増していき、彼のグランディはすでに360kmを超えていた。

 臨戦態勢に入った勇兎は持っているアトミックライフルを構えながら、10機の編隊に向かって突っ込んでいった。

 「待って、敵のヴァルは貴方のアーリュより機動力も上よ。それに地上用のヴァルに対して、空中戦用のアーリュは不利なんだから、いったん、戦線を離脱しなさい」

 妨害電波の中で、移りの悪いモニターから春香がそう言った。しかし、彼は構わず戦闘を始めた。聖二達が着くのには、まだ、少しかかった。地上戦用のグランディフェース、アーレフに乗って待機していた真奈美達は、勇兎の援護のために、戦闘中のレーザーの雨の中でココナッツから降下を始めた。


 「敵だ。奴は飛行戦闘用だ。叩き潰せ」

 ヴァルボディのリーダー機からそんな通信が流れた。しかし、かなりの高速の勇兎をエネルギーバズーカで捕らえるのは、至難の業であった。その中、横にスライドしながら、敵の次の動きを感覚だけで予測して、感覚で超高速の動きの中を巧みに操作しながら、2機を討ち取ることができた。

 そのまま、大きく弧を描いて砂埃の目隠しの中で、次の行動を考えた。勇兎は、意を決すると8機が陣形を取っている中に突っ込んだ。左腕が吹き飛ばされたが、陣形を超スピードのホバー走行で駆け抜けながら、凄まじい動体視力で3機をライフルで捉えることができた。

 勇兎は今のところ、100%の命中率である。敵の士気は乱れて、目の前の強敵に畏怖を抱いていた。2機が逃げ出し始める。そこが狙い目だった。

 青色の中に1機だけある黄色い指揮官機のヴァルボディに大きく敵の周りを、弧を描いてスライドしながら狙いを付ける。ロックオンしたことを気づき、黄色い機体は味方機の背後に移動する。

 ビーム砲が火を吹き、敵機の1機を爆破させた。そこで、勇兎は飛び上がり、飛行をしながら残り5機を見下ろした。そこで、鈴、聖二と修が合流して、敵の狙いを外しながらライフルを撃ち、3機を撃破した。

 残り2機は撤退を始めた。上空からそれを追って打ち続けるが、砂の起伏、砂埃で狙いを定めることができない。敵も逃げながら上空にビームを撃ち続ける。


 そこで、2機のヴァルボディが砂の起伏の頂上に上がったときに、ココナッツから降下していた真奈美達のアーレフがロケットランチャーを構えていた。一斉射撃で、1機は爆破した。

 指揮官機は高く飛んで、ビームライフルを勇兎機に向けた。そこをわざとバランスを崩してボディを歪ませて狙いを外すと、彼はレーザーソードを取り出して体当たりしてそれを突いた。

 敵機は勇兎機が離れると落下しながら爆発した。

 「やるじゃないか。それじゃあ、ココナッツの護衛にいくぞ」

 聖二の言葉に勇兎は微笑んでみせると、そのまま、全員はココナッツの方に向かった。地上戦闘用のアーレフは回収されて、勇兎はいったん帰還して、整備が完了したレントドールのCODEに乗り換えた。

 コクピットに座ると、操縦桿を握ってゆっくり息を吐いた。あのときは、切羽詰っていたので操縦できたが、今も作動させることはできるだろうか。

そのとき、モニターにナビゲーターが映し出された。

「その上に新たに付けられたマイクロウェーブ発生装置を作動させて下さい。脳波のコントロールでレントドールとのシンクロ率を上げて、作動させやすくなります」

しかし、その上部についている装置のスイッチをオンにするが、特に勇兎に変化は感じられなかった。レバーを動かしても作動しないので、流石に勇兎は焦った。

修機は戦艦1機のマイクロレーザーに数発被弾して帰還してくる。聖二機は敵戦艦の弾幕に阻まれて近づき攻撃ができない。ココナッツの前で発砲していた鈴機はそのままエネルギー切れのためにココナッツに収容された。

「頼みの綱はお前だけだ。頼む」

ココナッツは長い充填後、前のパネルが前に2つに開き6つの細いバーが出された。その6本の先端にエネルギーが集められて、ドラグーンバスターが放たれた。すさまじい、巨大エネルギー砲が敵戦艦のバリアを貫き直撃して爆破した。しかし、ココナッツのエネルギーは20%を切っていた。それだけ、威力のある、ドラグーンバスターはエネルギーを使ってしまうのだ。

勇兎は息を整えて、マイクロウェーブ装置を切ると思い切り叫んだ。

「動けー!」

スロットルを力いっぱい踏みつけると、CODEは頭部の目の部分が光り、そのまま、ホバー走行で開放されているハッチに向かい、そのまま空中に飛び出した。背中の2本のバーを広げて、その周りの光の羽根を発生させて羽ばたかせて敵の戦艦2体に向かった。

 「撤退しろ。さもないと、落とす」

 すでに、勇兎は正気を失っていた。まるで、勇ましい勇者が乗り移ったように、彼は弾幕を凄まじいスピードでかわしながら、戦艦の1隻に接近した。

 その戦艦は主砲を全て、勇兎機に向けて一斉放火を始めた。彼はすぐに8の字を描きながら戦艦に取り付いた。

 「至近距離からの攻撃なら、バリアも強度の装甲も意味がないだろう」

 両腕の装甲が開き、中から銃身が現れた。そして、エネルギーを溜めて一気に放った。両腕のレーザー砲が合体して物凄いエネルギー砲になった。それは戦艦を貫き、空の彼方へ伸びていった。戦艦は大爆発して散っていった。

すぐにそれから離脱した勇兎は、最後の1隻の目前に移動した。その横で、戦艦は徐々に爆発を始めて壊滅して砂の大地に降っていった。

敵船はそれでも、撤退する様子を見せずに巨大エネルギー砲を開放して、ココナッツに向けた。

「僕を怒らさないでくれ」

それを庇うように飛ぶ天使の姿の勇兎機は両腕を広げた。それでも、彼らはチャージを始めてしまった。これが直撃したら、ココナッツは撃沈するだろう。勇兎機は肩から細いバーを2本延ばして前に出した。

手元から、銃のような引き金を出して、それを握り引き金を引いた。レントドールの最大兵器、フレアバスターのエネルギーをチャージし始めた。どちらのチャージが早いか、それは明らかに敵艦であり、彼らもそう思っていた。しかし、勇兎は70%のエネルギーチャージで引き金を放した。不十分なレーザーが両方から放たれて、合わさり以前の2分の1のバーストが放たれた。

実は、それでも十分であった。敵機のチャージしていた巨大エネルギー砲のエネルギーの暴走を誘い大爆発を起こした。

たった、1機の人型兵器で戦艦2隻も落とした無傷の勇兎機は、そのまま羽ばたきながらココナッツに帰還した。

襲撃の後で、全員は胸を撫で下ろして勇兎を賞賛したが、その力の脅威に言えぬ思いを感じずにはいえなかった。

 ココナッツはノルウェーのドワーフドック基地に向かった。


                  裏切りの末に

 翌日、自分の部屋で勇兎は、デスクに向かってパソコンの操作を始めていた。しばらく、キーボードを叩いていると、勝手に理夢が部屋に入ってきた。

 「全く、ロックしなさいって、言ったじゃない。…でも、勉強しているようで感心感心」

 と、モニターを覗こうとする彼女に、勇兎はすぐにウィンドウを閉じてじろっと理夢を睨んだ。

 「勉強じゃないみたいね。何しているの?いかがわしいのをネットで見てたんでしょ?」

 「違うよ。…誰にも言うなよ。将来、小説家になるために、作品を書いているんだ」

 すると、理夢がモニターを後ろから覗きこんだ。

 「すごいじゃない。その想像力が、レントドールの操作と関係しているのかもね」

 「そうでもないさ」

 「そんな、勉強とかで部屋に閉じ篭ってないで、一緒に遊びに行かない?」

 「別にいいけど」

 理夢は隠れて小さなガッツポーズを取ると、彼の手を引いてそのままココナッツから飛び出した。それが、まるで、隠れるようにこそこそと出掛ける理夢の姿に、勇兎は不思議に思えた。

 町に飛び出すと、繁華街の中をウィンドウショッピングし始めた。

 「一番、息抜きして楽しんでいるのは理夢さんの方だね」

 「そう?と、いうことは、勇兎は楽しくないの?」

 「いつの間に名前の呼び捨てを。まぁ、いいや。案外そうでもないさ」

 勇兎は肺に空気を思い切り吸い込みながら、頭を掻いて手をポケットに差し入れた。

 「ねぇ、ゲーセンに行かない?」

 ゲームセンターの中に半ば強引に連れ込みながら、彼女はそう訊いた。

 「すでに、ゲーセンに入ってるし。よし、グランディのシミュレーターでもやるか」

 「じゃあ、勝負する?賭けは今日の昼食」

 「乗った」

 2人はマネーカードを差し込んで2台のシミュレーターのゲームマシンに乗り込んだ。対戦型の本格シミュレーターではあるが、本物とは違い、サイコスキャンはないのだ。だから、レバーやボタン操作だけで、自分の機体を操作して、お互いのダメージポイントが0になるまで戦うのだ。

 それは、敵の攻撃が当たるとショックを受けるようにできていて、勇兎は思わず声を漏らした。

 「うわっ。くそう。本物のようにはいかないか」

 勇兎機はそのまま上空に飛び、下方を見下ろした。しかし、理夢機の存在は見えない。レーダーには、自分の右に反応しているはず。そこで、恐ろしい想像をした。右手の岩山の向こうにいて、巨大兵器を自分に向けているのでは。

 勇兎機はすぐに下に降りると、岩山は粉々になり巨大ビーム砲が放たれていった。

 「実践よりも大胆な戦い方だ」

 「これなら、エネルギーのセーブの心配はないからね。もっと、行くわよ」

 勇兎機は背中のロケットランチャーを放つ。命中率は低いが広範囲に分散して、かなりのダメージを与えられる。しかし、彼女の機体は素早く、気付くとロケット弾の隙間を掻い潜って接近してきた。

 今度は、勇兎は肩のメタルパーツを外して、前方に発射した。それは広がって、ガードパーツに変化した。それを理夢のビーム砲がガードパーツに当たった。それはエネルギーを吸い取って消した。

 「そのエネルギー除去パーツはさっきの強大な1発で限度のはずよ」

 もう1度、彼女はビーム砲を放つ。しかし、再び、パーツはエネルギーを吸収した。

 「さっき、拾っておいたのさ。エネルギー消滅カプセル。それをメタルパーツにぶつけて、吸収したエネルギーをチャラにしたのさ。これで、そっちの大砲のエネルギーは切れただろう」

 理夢機は使い物にならない大砲を捨てると、少し距離を取って岩陰に隠れた。

「卑怯者」

 理夢が呟く。構わず、勇兎は森の中に飛び込み、そこでタイムアップになった。僅差で勇兎の勝ちであった。

「そんな価値でいいの?もう1回やろう」

「いいや、勉強があるから。飯はおごらなくていいから」

そう言って、勇兎は再びココナッツの自分の部屋に帰っていった。残された理夢は勇兎の背中を見送った後、じっとゲーム機を眺めた。


 勇兎は小説を打ち込んでいると、ふと、あのレントドール、CODEの中で狂戦士になったときのことを思い出した。エルサーベント。確かにそういう意思のある者がいた。しかも、自分に力をくれた。力を?いや、彼に力をくれたのなら、味方をも攻撃しようとはしない。我を忘れることはない。つまり、あの勇兎の乗ったレントドールに、力を与えたのだ。そして、あの尋常ではない力が出た。

 「そうか…、あれは生きているんだ。だから、僕が乗ることで2つの意思が1つの体に入ることになる。最初はエルサーベントは何かの科学的機器で封印されているけど、僕の感情が高ぶることで、その科学的根拠は分からないけど、エルサーベントの意思が解放されて僕と意思の疎通を行った。そして、僕の意思を封印して僕の体を利用して彼は自分の体を手に入れた。そして、武器を持つ全てに攻撃をしたんだ。あの尋常ではない力、動きは元の意思と体を取り戻した彼の本当の力だったんだ。でも、そうすると…」

 勇兎はいつの間にかに独り言を言っていた。そして、そのXパーツの最高機密の確信をついた彼は、艦長のいるブリッジに向かった。

 艦長はココナッツの整備が終えたことで、機動の準備をしていた。色々、声を大きくして命令している。そこに勇兎は食って掛かった。

 「艦長。お話があります」

 「今は忙しい。後にしろ」

 彼は横目で視線を送っただけで一蹴した。

「地球連合軍の最高機密、と言っても後にしますか?この話、別に持っていきますよ」

すると、僕の自信ありげな言動に彼は少々戸惑った。

「お前ごときに何を知っているというのだ、若造。ちょっと、レントドールの操縦、人のできないことができるからって、付け上がるな」

そこにすぐに勇兎は飛びつく。

「そのレントドール、Xパーツについてですよ。この前、暴走したとき、僕はCODEの意思と対話したんです。あの力は僕の操縦ではなく、彼、エルサーベントの力なんだ」

そこで、彼は目を見開いて低く呟いた。

「ちょっと、来い」

彼はビップの応接ルームに誘った。ソファはかなり柔らかく、インテリアは宮殿のそれのようであった。そこで、彼は口火を切った。

「それで、何が言いたい」

勇兎はそこで遠慮なく自分の推論を言った。

「地球連合は、Xパーツを見つけたときに、極秘にあることをしたんですね」

「ほう、それは?」

ランスはひげを擦りながら身を乗り出す。

「あれはただの機械じゃない。その証拠にさっきも言ったけど、エルサーベントという意志があった」

「それじゃあ、どうだというのだ?AIとも考えられるだろう」

勇兎はさらに続ける。

「あの中で感じた者しか分からない。あれは生き物だ。そして、地球連合軍がそれを人が操縦できるように改造した。レントドールは地球連合軍が作った本当のプロトタイプなんだ」

彼はそう言うと、ランスはうむと唸って観念した。

「そうだ、彼らは俺達、有機生物と相反する、無機質生物だ。おそらく、人間でいうコールドスリープの状態だった。そこで、いち早く解析した科学班により、その攻撃力に畏怖と利用価値を見出して意思と思われる部分、ブラックボックスを意思の疎通の部分だけカットした。そして、腹部にコクピットを作った。全て、お前の推論どおりだ」

「グランディは魂のない彼らの体の再現ですね。じゃあ、あのココナッツも?」

すると、彼は首を捻った。

「さぁな。すでに死んでいたのか、元から魂のないのか。もしかしたら、彼らの乗り物だったのかもしれない」

「あの隕石は?ドロップポイントの有毒物質は?」

「あの隕石はおそらく廃棄ボックスだろう。つまり、そのエルサーベントは囚人か何かでその廃棄ボックスの中に生きながらにして入れられた。だから、いわば地球の産業廃棄物から出る有毒物質のように、あの廃棄ボックスから有毒物質が発生してもおかしくない」

そこで、彼は深くソファに腰をかけて、続けた。

「あのお前の暴走のときの強さが彼らの本当の戦力なら、今、第7ステーションに陣取っている敵には、我々は叶わないだろう。幸い、この地球の空気が有毒かもしれないと思っているのか、戦艦や飛行兵器、第7ステーションにあった、我々の作ったグランディを無線操作で利用したものでしか、攻撃してこない。しかし、エルサーベントの姿を見た彼らは、生身の体で大勢攻撃してくるだろう」

その言葉に危惧を感じた勇兎は意を決して立ち上がった。

「その前に、僕がCODEで第7ステーションに行きます。生きているなら、僕達の話を聞いてくれるはず。和解できるかもしれません」

すると、ランスはテーブルを叩いた。

「無茶だ。今、地球で最大の戦力をみすみすなくすことはできない」

「僕は人間だ。地球の核兵器じゃない。破壊するのではなく、和解で解決をしてみせます」

「問答無用に攻撃してくる連中に話し合いが通じると思うか?」

「それは、彼らのゴミを利用しているからじゃないですか?有毒物質のあるあのドロップポイントのせいじゃないですか?地球を有害と勘違いしているんじゃないですか?とにかく、行きます」

「俺が許さん」

そこで警戒警報が鳴り、勇兎はそこで、応接ルームのモニターに釘付けになった。第7ステーションの映像が流れている。そして、敵の声が流れる。それは多重放送のように英語、日本語、中国語など、様々な国の言葉で流れた。ココナッツは日本語にチャンネルを合わせる。

「私達はヴァン・オン・ソード族だ。今、貴方達の基地で人質を確保している」

そこで、第7ステーションのドックの映像が流れる。大勢の人間が叫んでいる。その中に、かつてのココナッツのエースパイロット、エスト・アルバートの姿も見られる。

「私達の願いは1つ。私達のテクノロジーを破棄してほしい。有機生物が利用すると、宇宙の害となる」

僕はすぐに飛び出した。通路を駆け抜けドックに出ると、CODEに飛び降りた。肩に乗ると、腹部のコクピットに飛び乗って起動させた。

なんと、興奮しているからか、すぐにCODEは歩き出した。ココナッツの閉まりつつあるゲートに向かってホバー走行をして、隙間から脱出する。そのまま、基地のドックに出ると、各国のグランディフェースが並んでいた。

勇兎は基地のグレンディ用シューターに乗り込み、地上のゲートから外に出た。すぐに地球連合軍の追っ手が来るが、森の中に入り込み尾行を巻こうとした。


 そこで周囲のモニター一杯に美里の顔が映し出された。

 「勇ちゃん、やめて。死なないで」

「わぁー、通信モニターで前が見えないって」

 勇兎は背後の味方であった軍のビーム砲をくらい地面に激突して息を詰まらせた。

 「大丈夫?ごめんなさい」

 すぐに、美里の顔が度アップのウィンドウはモニターの端に小さく移動した。不貞腐れた勇兎はそのモニターを睨んで、その通信ウィンドウを閉じて、美里の顔を消した。そして、大きな溜息をついて、通信機能を停止させて計器のチェックを行なう。

 後面ボディの破損率、10%。外殻以外に特に被害はなかったのが幸いであった。彼が咄嗟に視界が塞がった途端に、感覚的にビームを回避させて直撃を免れたからである。それと、レントドールはココナッツ同様、オリジナルのXパーツの地球上にない強化金属であるからである。

 埒が明かないと思い、光の羽根を広げると空に飛び立った。右手のレバーを引き、高速ブースターを発射すると、あっという間に大気圏近くまで上昇する。追撃もそこまではこなかった。ココナッツが緊急発進するところがレーダーで分かった。

 しかも、勇兎を追っていることも。それでも、地球のために彼は行かなければならなかった。

 何と、戦艦でさえやっとの大気圏脱出を、CODEは簡単にやってのけた。そのまま、宇宙に光の翼を羽ばたかせて第7ステーションに向かう。

 何故か、彼を攻撃するヴァン・オン・ソード軍はたった1つもなかった。そのまま、第7ステーションはゲートを開けて彼を受け入れた。ドックに待っていたのは、機械の生命体達である。その中に、彼らのリーダー格であろう者が前に進み出た。

 「エルサーベントか。生ける人形に乗りし者よ」

 「人形?」

 「我らの体をお前達の上官に聞いていないのか?ブラックボックスとお前達が呼んでいる部分の本当の姿」

 「魂が入っている、人間でいう脳では、意思ではないのですか?」

 彼はCODEの前を横切って、陰で気付かなかった横たわっているヴァン・オン・ソード兵の1人の体に腕から出したレーザーで解体していく。

 「我らには、死に対する尊重という感情がないので、お前には醜く見えるだろうが我慢しろ」

 そして、腹部を破壊してブラックボックスを取り出した。

 そのブラックボックスをこじ開けると、何と人間のような姿の少女が眠っていた。

 「これが我らの心臓だ。お前らが再現できない理由もここにある。我らの体の唯一の有機物。全ての源。種の起源」

 勇兎は驚愕の表情をして、その少女を見つめた。愛らしい少女である。

 「お前は我らの同種、エルサーベントとシンパシーを成功させた。魂の交流を成功させたのだ。人間の中でも特殊な存在といえる。この心臓に近い存在なのかもしれない」

 そして、その敵の大将はこう言った。

 「あの廃棄ユニットを破壊する。そして、エルサーベントも。お前達が作ったコピーは心臓がないので、害をなさないだろう」

 そして、第7ステーションの捕らわれの身の者達とともに、救援艇に押し込まれて宇宙に打ち出された。次の瞬間、第7ステーションから艦隊が去っていき、ステーションは大爆発を起こした。

 艦隊の母船は主砲を地球の日本、日本アルプスに標準を合わせる。その主砲はドロップポイントを打ち砕いた。大気が貫かれクレーターは倍にあり、隕石は消滅した。

 そこにはクレーターとは言えない、巨大な穴が空いた。それを見届けて、ヴァン・オン・ソードの艦隊はいずこへと去っていった。

 勇兎は敵艦隊が見えなくなって、レーダーからも見えなくなったのを見定めて、宇宙服を着て救援艇から出る。止める者は誰一人いなかった。

 宇宙を泳ぎ、第7ステーションの残骸の中に辿り着く。振り返ると、救援艇がココナッツに収容されていた。ココナッツが無事ということは、それには心臓は搭載されていないのだろう。艦長のいうとおり、彼らの乗り物なのかもしれない。

 スペースダストの中で、勇兎はエルサーベントを見つけた。彼らの意図に反して、60%は破壊されていたが、主要部分は無事のようだ。予想以上にステーションは頑丈であったのだ。

 右腕と左手、下半身と頭部の一部を失ったエルサーベントは彼を受け入れた。乗り込むと、宇宙に浮いている少女をレーダーで見つけた。

 「彼女を連れていくのだ」

 かろうじて、聞こえる声でエルサーベントが勇兎に言った。

 勇兎はコクピットに彼女を収容して、左しか残っていない光の羽根でココナッツに向かって飛び立っていった。


                      完

 


どことなく、CODEシリーズに関係しているような雰囲気を残しているのがみそです。

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