こんな初めてってアリですか?2
前作「こんな初めてってアリですか?」の続きになります。
「亜衣、お前浮気してるだろ」
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私に、人生初彼氏ができました。
ていうか、なんか勢いに負けた感じで、いつのまにかそうなった。そして人生初デート?で本屋に行って、ファミレスで晩御飯を食べることに。
そこで突然言われたのがこのセリフ。
ええ!?今お店に着いたばっかりで、まだメニューも手にしていないこの状況でどうしてそんなこと言われてるの私!?
駅のホームでの告白…あれ?あれは告白なのか?えっ??告白したの?されたの?どっち??…そんなことはさておき。
浮気って、どこからどこまでが浮気になる?
クラスメイトの女の子たちは『手をつないだら』とか『身体の関係をもったら』とか、それぞれ自分の中に浮気の定義を持ってたけど、私は彼氏ができたのも初めてなら、今まで異性を意識したこともない、なので当然浮気の定義なんて持ってるはずもない。
ただ、お母さんがこの間お父さんに『ホステスのネーチャンと同伴したら浮気とみなす』って言ってたから、多分他の異性と二人きりになったら浮気になるんだろうなって、ぼんやり思ったことは思い出した。
だったら私、浮気なんてしてないじゃん。
ずっと彼に手をつながれてたのに、どうやって他の異性と二人きりになれる?無理でしょ。
「あの…私、全く身に覚えがないんですけど…?」
ずっと雰囲気というか勢いに流されっぱなしで、でもここは流されちゃ駄目なところだと思い、控えめに物申してみる。
てか、顔、怖っ。どうやったらそんな眉間にシワ寄せられるの?クチャおじさんみたいになってるけどそれ大丈夫?あとでちゃんと元に戻せるの?
「シラぁきるつもりかよ…それが恋人に対する態度か?恋人同士ってのはよ、常にいつでも病める時も健やかなる時も、お互いを敬い尊重し真摯に向き合わないといけねーんだぜ?」
なんかそれ、バージンロードの先にいる外国人の僧侶さんが言うセリフみたいだけど。そんなナリして真摯とか言う?漢字で書いてみせてくれない?
「亜衣はよ…オレのこと、ちゃんとそういう風な目で見てるか?オレがするように、オレと同じ想いを返すつもりあんのか?でないと、この先同じようなことで何度もつまづくと思うぜ。」
おお…!なんかトンデモないことを言われた…。出会い頭から斜め上を大爆走するよね。根拠のない言い掛かりに、普通なら怒って反論するところかもしれないけど、これはこのままで、最後まで彼の主張を聞いてみたくなってきたぞぉ…!
「…じゃあアナタは…」
敢えてその波に乗ってやろうじゃないか!と口を開きかけて、私はとても大切なことを思い出した。
「あ。ごめんなさい、アナタの名前って何でしたっけ?」
しまった!これはさすがに失礼だ!特にタイミング的に。
言ってすぐにそう思ったけど、もう言っちゃったし!一徹ゴッコとかされたらどうしよう~!?と、内心ビクビク!
すると。
彼の眉間にあった、極太マジックで描いたようなぶっといシワが、まるで手品のように跡形もなく消えた!
「…え?」
「…っ、なんだよ…そんなにオレのことが知りたいのか?亜衣はどんだけオレに興味があるわけ?今さら名前とか、すでに知ってるそんな簡単な情報から、オレの口、オレの言葉で聞きたいってのか?…参ったな、そんなにオレに惚れてんのかよぉ~」
「…え?」
「しょーがねえな、これもここまで亜衣を惚れさせたオレの罪っつーことだし。よし!何でも聞けよ、亜衣には特別にオレの全てを教えてやるぜ」
「…え?」
「けど、今までのオンナの数とかは内緒な?別に言っても構わねーんだけどよ、多分亜衣のことだからきっと妬いちまうだろ?亜衣のそんなところも可愛いと思ってるぜ?けど今は、いやこれからは、お前一筋って誓ってやるから、過去じゃなくこれからのオレだけを見てろよ?な?」
いやいや…、な?じゃないし?
「あ、そうだ。これから亜衣にはオレのことミーくん、って呼ぶことを許してやるよ。ガキん時のあだなで、今これ呼ぶヤツはソッコーボッコボコにするとこだけど、お前はオレの彼女だし、そこらの奴らと同じようにオレをミドリって呼ぶのも寂しいだろ?亜衣だけの、オレの呼び方、まずはこれで我慢しろよ?」
…みっ!ミーくん…っ!!!!!
そんなイカつい赤鬼みたいな容貌でミーくんとか!!!ていうか赤髪なのにミドリって!!髪も緑色のがよかったんじゃない!?
そしてやっと名前、下のだけだけど知りました!
あの話の流れで何故ご機嫌回復したのか理解できないけど、彼…いや、ミーくんは、アシュラマンみたいに先程とはがらりと一変したイイ顔で、続きは飯食いながらすっか!とメニューに手を伸ばした。
わからん…彼の思考回路は本当どうなってるのかわからん。
そして浮気うんぬんはどこいった。
…面白い。こんな愉快な人、見たことない。
この短い時間を一緒に過ごしただけで、ずっと振り回されっぱなしなんだけど、彼の持ってる引き出しの中身は全部ビックリ箱とか、有り得なさすぎて逆にハマるかも。
私は、彼…いや、ミーくんのことをもっと知りたい。そんな気持ちがふつふつとわいてきた。
こんな初めても、アリかもしんないね。
亜衣ちゃんのネタは親世代のものが中心です。勉強が疎かになるからって、あんまり見せてもらえなかったそうです。
ミーくんは甘えられたい願望が強いっぽいです。
甘えられる←頼りにされる←オレ愛されてる!みたいな。
ちなみに彼のお母さんは彼をみっつん、と呼んでます。