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語り部とぼく

作者: おてんば男

Act:1【語り部】


 なにしろ自殺なんてしたのは初めてだったから、目の前に現れたそいつのことを、ぼくは最初『死神』かな、などと思ってしまっていた。あ、これ地獄に落とされるな、とかちょっと後悔したりもした。だけど、よくよく考えてみれば、ありえない話だったのだ。

 なにしろ、そいつの第一声が、

「勝手に死んでんじゃねえよ、馬鹿野郎」

 だったのだから。



「勝手に死んでんじゃねえよ、馬鹿野郎」

 うけけけけ、と。笑いながら叫ぶそいつは、全身真っ黒の黒ずくめだった。上は中途半端な大きさのカウボーイハットから、下は膝下まであるクールなブーツまで。ネクタイもタクティカルグローブも手に持った手帳のような本も、何から何までみんな真っ黒だった。

 唯一、黄金色に輝く瞳の色を除外して。

「あ、大丈夫大丈夫。そこまで怒ってねえから。ま、座れよ」

 そいつが手帳(?)に何やらしゃりしゃり書き込むと、床から『にゅっ』とゴールデンレトリバーぐらいの大きさのある何かが飛び出した。どっかの喫茶店のテラスにでも置いてあるような、向かい合って話すための机と椅子二組だった。

 驚いた。もちろん、悪い冗談みたいに目の前に飛び出してきたテーブルセットにではない。問題だったのは、それらが飛び出してきた場所の方だ。

なにもなかった。

 そう、地面って奴がなかった。我慢できずに自分の足元を見た。もちろんそこも空白だった。ぼくはなんの上にも立っていなかったのだ。

 気付いたらぼくは椅子に座ってた。いつの間にかミルクティーの芳しい香りが辺りを包んでいる。考えることを頭が諦めてしまっていたのだろう。自分がどうやってそこに座って、紅茶の匂いを嗅いでいるのか。記憶はあるのに、そこに現実感が伴っていなかった。

 だから目の前のそいつが全く丁寧さのかけらもない投げやりな口調で放った「どうぞ」という言葉に、平気で「ありがとう」と応えていた。アクセント的には、『ミラノ』みたいな。

 うん。わりとうまかったよ、お茶は。

「で? なんで自殺なんてしてんだよお前は」

 銀メッキ(だよね?)のティースプーンで中身が飛び出すくらいがちゃんがちゃん掻きまわしながら彼が聴いてきた。『お前』と書いて『オメエ』と読む。

「借金苦? いじめ? 失恋?

 それともあれか? 宗教的な理由?」

「あ、いや、まあ、違う、んですけど……」

「知ってるよ!」

 ズバァン、とカップを持ったままテーブルをひっぱたく。ティーポットがひっくり返って琥珀色の液体が湯気を上げながらテーブルクロスを汚し、床にダイブした。

 どうしろと。

「最近の自殺ってホント意味分かんないんだよね。昔はよかったよ。十年愛し続けた男が自分とは遊んでいただけだった。自殺。民を救うために御法度をやらかした領主。自殺。自分が口を滑らせてしまったせいで友軍が大勢死んでしまった。自殺。

 ポジティブ! そりゃ死ぬわ。俺が同じ立場だったら死ぬわ~! なのに最近の奴らと来たら!

 ネガティブ! 何で死ぬんさ! もっと足掻けよ! 動けよ! 抵抗しろよ!」

 ズバンッ! ズバンッ! ズバーンッ!

 叩かれ過ぎて机が倒れた。この頃になるとこいつが何でテーブルを出したのかが理解出来てきていた。何かしら怒りをぶつけるものが欲しかったのだろう。きっと。

「何が腹立たしいってお前、なあ、おい、聞けよ。

 別にいいんだぜ、死んでも? そこらへん歩いてる奴がひょんな思い付きでマンションから飛んだって俺は気にしねえよ? 『オレ飛ぶわ~』『いいよ~』みたいな。だがな、いてもたってもいられねえのは、それが俺の掌の上で起こった、ってことなんだよ分かるか?」

 グイッ、と茶をあおるも、もちろん中身など残っているはずもなく、ズッと吸ってポイッと捨ててガシャンだった。

「なんだと思ってる? お前だよお前ですよ。いったいぜんたい何者だと思ってるんだよ、自分のことを。人間だ、とか言ったらマジではたき殺すからな?」

「えっ……」

 いきなりそんな無茶な。

「一応、杉崎良哉、って名前ですけど」

「ファック!」

 もの凄い勢いで飛来した手帳は見事にぼくの顔面を捉え、幾筋もの赤い痣を残してどこかに消えていった。痛い。

「そういうことを聞いてんじゃねえんだよタコ! 分からねえってんなら教えてやんぜ。 人間でも杉崎良哉でもねえよ。お前はな、主人公だ。俺の書いてる物語のな!」

 見てみろ、と彼が指さすから、椅子の下を覗き、転がっていた手帳の表紙を読んだ。そこにはなんだかよく分からない、筆で書いたような漢字が四つ並んでいた。

 それは。

「ぼくの、名前……?」

 うけけけけ。

 笑って語り部は首肯する。

「お前だって知ってんだろ?

 世界五分前仮説。他者存在否定論。波動関数収束論。

 世界は私が観測するからこそ存在し、私が消えた瞬間に、私の観測する世界は同じく消滅する、ってな。

 お前は俺が五分前に作った箱庭の中でやっと勝手に動き出してくれた大切なキャラクターなんだよ。その他すべての可能性を否定することによって生まれた、失敗続きの無限の猿から飛び出した、たったひとりのな」

「……え、はい? 言っている意味が……」

「細かい説明なら後でたっぷりみっちりやってやるさ。だからとりあえずこれだけ言っておくぜ?

 俺はお前という物語を書いたストーリーテラーだ。だが、お前が何故死んだのかが分からない。そして死んでもらっちゃあつまんねえんだよ」

 語り部は立ち上がり、踵を鳴らしてぼくの元まで来ると、手帳をひったくる。

「だからちょっとばかし付き合ってもらうぜ。お前が死なない可能性を見つけるための、波瀾万丈奇想天外の大冒険にな!」

 彼が指をならすと手帳は宙空に浮遊し、まばゆい輝きを放った次の瞬間には、百科事典のような分厚いハードカバーに変わっていた。バチン、とペンをノックすると、その『物語』は勝手に開かれ、ばらばらとページがめくられていく。

「じゃあいくぜ? 第三章、112ページ、8行目!」

 突然空間に光が宿り始め、何もなかった虚無たちが一斉に色彩を獲得していく。落下するかのような浮遊感と、鳥にでもなったかのような飛行感。

「振り落とされずについてこいよ? 遅れやがったら蹴り飛ばすからなッ!」

 こうして、ぼくは巻き込まれた。

 ――巻き込まれた?

 それが正しい表現かどうかは分からないし、知る必要性があるようにも思えない。まあ、どうでもいいんじゃないかな。どうしても答えが欲しいんだったら、語り部に聞いてみるといい。

 まあ、あんまりお勧めはしないけど。



 可能性というものがもし物質であったなら、それは光であると、その光景は物語っていた。飛行、という概念に近いが、それは明らかに三次元的移動ではない。視界が白く塗りつぶされ、遥かな時間を遡る、それは回帰。すべての可能性が否定されない世界。幾重にも分岐していく選択肢の、すべてを選択することができた世界。それはまさしく無限であり、しかしある種の枠を飛び越えることのできない有限であった。

 何かを選ぶ、ということは、我々の住む時間軸が一本である以上、他のすべてを選ばない、ということだ。

 時空を切り取る基本骨子は、すでに我々も知っている。五次元的座標設定だ。言葉尻は難しいかも知れないが、そんなに複雑なことじゃない。

 簡単に言えば。

『いつ、どこで、だれが、なにを、どうしたか』

 これが、物語の可能性を制圧し、決定する最短ルート。

 それでは再構築を始めよう。

 時はいまより二年前。

 すべてが終わった冬の午後。

 主役は無論、杉崎良哉。

 場所は塾での祝賀会。

 一体何をどうしたか。

 それは、その眼で確かめろ。


 

 何をそんなにイライラして、と周りの人たちは笑うかも知れない。確かにこんなのはよくある冗談の類であって、誰もが日常的にこなしていく会話の一部でしかない。いまでは自分ですら、何故あんなに頭にきていたのか忘れてしまっていて、なんだったっけ、と首を捻っているうちに貧乏ゆすりをしながら後悔することになるのだ。 

 思い出すんじゃなかった、と。


「第一志望、受かったんだって? やるじゃん」


 自分が通うことになる学校の偏差値なんて、全然気にしたことがなかった。だって、そこを目指そうと言ったのは、ぼくじゃなくて親だったから。でもクラスメートのみんなや講師の先生の話によれば、全国でもトップクラスの有名私立校らしかった。

 ぼくが通っていたのは、世間ではあまり名前の通っていない進学塾だった。入校者は同い年同士のグループに分けられ、来るべき受験に向けて来る日も来る日も勉強をすることになる。

算数国語、理科社会。一教科につき五冊ずつ配られたテキストを、隅々までくまなくやっていく。それだけのことに毎日の半分を費やして、遊ぶこともせず、ぼくたちのクラスは多くの知識を学んでいった。世間では、詰め込み教育はよくないだの、将来のため、生きていくための知恵にはならないだのと言われていたみたいだけれど、黙っていて欲しい。そんなことを言っていては受験にうからない世の中なのだから、そして受験にうからなければ認めてもらえない世の中なのだから、仕方ない。一週間に四日間。これでも少ない方だというから驚きだ。

 塾のない日は家でせっせと宿題をこなす。親までがやっきになってぼくの勉強を補助した。机の引き出しはたちまち暗記カードでいっぱいになり、蓄えたプリントの山に占領された。門限は四時だった。それが限界だった。そうでもしないと宿題が終わらない。夏休みも遊んでいる暇なんてなかった。家族での帰省と花火大会だけが唯一の楽しみだった。


「あたしなんて第二志望にも落ちたし。マジありえない」


 そうしてやってきた受験の日。高揚も緊張もなく、ただ「やっとここまできた、終われば楽になれる」そういう、安堵とも倦怠ともつかないうんざりした気分で試験会場まで向かった。

 

 今期の世代はきみ以外みんな落ちた。

 だれも第一志望に受からなかった。

 きみだけが頼りなんだよ。

 頑張ってね。

 

 応援に来ていた塾の講師が、そう言っていた。

 だからなんなんだ。素直にそう思った。

 なんで他の人が落ちてるとぼくが頑張らないといけないんだ。なんでぼくがお前に頼られなければならないんだ。なんでぼくは頑張ってるんだ。

 なんで。

 なんで。

 なんで。

 だいたい、最初からちょっと頭にきてたんだ。

 ぼくの同期は、みんなただの駄目人間だった。

 宿題はやってこなくて当たり前だし、テスト中にぼくに答えを聞いてくるし、平気で授業中に居眠りするし、そのくせそれが当然という顔をしてる。ちゃんと宿題をしているように見える人ももちろんいる。でも夏期講習のとき、テキストの回答が間違っている箇所があって、先生に当てられた生徒が、それとまったく同じ回答をしていたことがあった。

 そのミスは、自分のちからで問題を解いていれば、到底起こりえないミスだった。

 呆れた。本気で。

 だからつまり、当然の結果なんだ。

 結局みんな真面目にやっていなかったんだ。自業自得じゃないか。どんなにつらい思いをしても、自分の時間を削っても、その苦痛という対価を自らの都合で安くしてしまったのだから、その結果得られるものが、最良のものなはずがないだろ。ばーか。

 ぼくは、勝ち取ったのだ。

 苦しんで苦しんで、それこそもがき苦しんで。

 なんども投げ出しそうになって、

 なんども諦めそうになって、

 それでも歯を食いしばって頑張ってきたから、

 合格を勝ち取ることができたのだ。

 それなのに。


「ずるいよね」


 呼吸が止まるかと思った。

 胸の辺りが、ぎちぎちと冷たくなっていった。

 指先が震えて、耳の奥が痛くなった。


「だってさ、お前だけ第一志望合格だよ?」


 何を。

 何を言ってるんだこいつは。

 意味が、分からない。


「他みんな落ちてんだよ? 空気読めって話だよね」


「なん――」


 ふっざけんじゃねえよてめえは遊び呆けてただろうがそれでどっこいどっこいだろこちとら毎日毎日来る日も来る日も苦しんで苦しんでやってきたんだよそれを何だてめえは真面目にやりもしねえで落ちてんのに涼しい顔してそれで人に空気読めだとあったま沸いてんのかくそくらえおれを何だと思ってるんだ何でそんなこと言われなきゃなんねえんだよぼくがどんな思いで過ごしてたか知ってんのかどんな思いで生きてたか知ってんのか誕生日もクリスマスも必死こいて紙にペン走らせてやってきたんだよてめえとはちげえんだよくそったれ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死死ね死ね誌絵にsに絵sネイんsに得人死ねいsネにsに絵にsネイs妊娠し根因死に背にsネイs二円死ね位根因死ね死に円死ね位に根にsネイsに得人死ね位s人セイsn―――――――


 唐突に響いた金属音は、ぼくが傍にあった机を蹴飛ばした音だった。

 蹴った。

 何度も蹴った。

 椅子も投げた。拾って何度も床に叩きつけた。

 頭を掻き毟って、地団太を踏んで、泣き叫んで。

 恨むからな。

 憎むからな。

 額の肉に爪を食いこませながら、震える声で言った。

「ぜったいにゆるさない」

 その後どうなったかは、よく覚えていない。


Act:2【幕間】


「うけけけけ」


 笑い声が聞こえたのは、気のせいかって?

 いやいや、それはありえない。

 なぜならそれは、彼が書いたシナリオなのだから。

 いつの時代も、彼らは現実を捻じ曲げてきた。つまり、虚構という名の現実を。本来起こるはずのない現象を引き起こし、後続する歴史のすべてに影響を与える存在。

 それは不変であるはずの運命に生じた故障(バグ)か、それとも進化(アップデート)というべきか。我々の世界が物語というシステムで成り立っている以上、ストーリーテラーによって編まれたシナリオをキャンセルすることはできない。少なくとも、登場人物ですらない貴方にはどだい無理な話。

 だから、あの笑い声が聞こえてしまったら、あいつはすぐにやってくる。軽薄そうな笑みを貼り付けたそいつは、全身真っ黒の黒ずくめ。上は中途半端な大きさのカウボーイハットから、下は膝下まであるクールなブーツまで。ネクタイもタクティカルグローブも手に持った手帳のような本も、何から何までみんな真っ黒だ。

 そう、たったひとつ。


 ――黄金色に輝く瞳の色を除外して。


「いつから書いてるの?」

 時間遡行から帰ってきてみれば、そこには相変わらず、中途半端な大きさのテーブルが鎮座していた。ただし、机上にはいくつもの大きな紙片が広げられている。なにか巨大な建築物の設計図にも見えるが、それにしてはやたら文字ばかりが書き込んである。

「ああん? なにがだよ」

 そして、語り部もそこにいた。帽子を脱いで、眉根を寄せて、休むことなくペンを躍らせながら、気のない声を返す。

「いや、だからさ。ぼくの話だよ。相当長く書いてるんでしょ? いつから? 冒頭のシーンは、やっぱり分娩室なのかな?」

「あのなぁ」

 深々ため息なんかつきながら、彼は手を止め、頭をぼりぼりとかきむしった。

「二週間くらい前からだよ。冒頭は、お前が文芸部をやめるとこだ。分娩室のシーンなんてどこが面白ぇんだよ。自伝じゃあるめえし」

「え、そうなの?」

 二週間。嫌に現実的な数値だと思う。

「でもぼく、子どもの頃の記憶とか、ちゃんとあるんだけど……」

「だから、さっきも言っただろうが。コレがいったいどういう状況なのか、お前だってわかってんだろ?」

 語り部はそう言うが、ぼくはなにも知らない。第一、こんな状況に陥ったのは初めてのことだし、このようなファンタジックな経験を瞬時に理解できるほど、ぼくの頭はよくできていない。しばらくぼくが首を傾げていると、貧乏ゆすりをしながら、語り部が嘆息するのが聞こえた。

「ああクソ、わかったよ。てめえがそんなにワトソン役がしてえってんならしょうがねえ。教えてやるよ。ただし、二度と言わねえからな。耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ」


 この世には宇宙を構築できる存在がふたつある。

 ひとつは実際にこの世を作りだしたとされる者。国や地域によって多種多様な形態をとり、様々な方法でこの世界を物質化した、神と呼ばれる概念。我々にとって実際的な《現実》で機能し、我々をすべて同時に監視できる全能の回路。これが一般的な『創造主』だ。

 もう一方は『ストーリーテラー』と呼ばれるもの。

 彼らの得物は金色の矛でも絶対の槍でも雷の剣でもなく、文字という記号だ。

 彼らは語り、書き記すことによって、世界を作り出す。

 綴られる物語は千差万別。

 ひとつの作品にひとつのルール。

 ある世界で不可能だったことが、

 ある世界では可能となる。

 面白いのは、物語の誕生とキャラクターの誕生が、異なる次元に存在しているという点だ。

 物語の外では、キャラクターは物語とともに生まれた。

 しかし物語の内側において、キャラクターにはいままで生きてきた記憶がある。

 高校生の主人公は、彼の子どものころの経験や出来事を、《描かれなかった物語》を覚えているのである。


 そこまで思考の手を進めたとき、必然として浮上するひとつの仮説。

 いつか、どこかで、誰かが、自らの起源を解き明かさんと考えあぐね、辿り着いた悪夢。


『我々の住む世界は、もしかしたら五分前に誰かが書き始めた物語なのかも知れない』

『自分たちは、もしかしたら五分前に誰かが創ったキャラクターなのかも知れない』

『私たちの記憶は、もしかしたら五分前に誰かに与えられたものなのかも知れない』


 それが、《世界五分前仮説》である。


「分ったか?」

「なるほど!」

 ぼくは柏手を打って立ち上がった。

「まっっったく分らん!」

「てめえマジぶっ飛ばすぞこのトンチキ野郎!」

「いや、だって分かんないよ。言葉難しすぎ!

 今の話ってこの状況にどう関わってくるわけ?」

「ええぃ、物分かり良いんだか悪いんだかこいつは! だから、簡単に言うとだなぁ!

 俺は自分が書いた本の中に入ってきた存在なの! ドラえもんの道具に、絵本の中に入れる靴ってあっただろ? あれと同じようなことだよ! お前は俺が作ったキャラクターで、お前の住んでる世界は全部俺が書いて作った世界で、そこに俺が干渉しようとして入りこんだんだよ! 分かったか?」

 一気にまくしたてると、紅茶をすする。

「うん、知ってるよ」

 にっこり笑ってぼくが答えると、ぶっ、と語り部がむせた。

「お、おちょくってんのかてめえは!

 緊張とか恐怖とか感じねえの!?」

「緊張はともかく、恐怖は感じないかな」

 きっぱりと言うぼくを見て、語り部はちょっと意外そうな顔をし、肩をすくめた。

「………そのこころは?」

「だって結局のところ、君はぼくの命を助けに来たわけでしょ? くちは悪いけど、実際には殴ったり蹴ったりはしないし。紅茶まで用意してくれてるし」

 ぼくは手元で湯気を立てている液体を眺める。

「そんな君を怖がる理由が、ぼくにはないね」

 カップを傾け、琥珀色の液体をひとくち飲み込むと、深みのある香りと温かさが口内に広がった。さっきも思ったが、いい味だ。

「俺に対して恐怖を感じてねえのは分かったが、

じゃあ、この空間についてはどうだ?」

「それについても同じことだね。 さっきの話からすると、この場所自体を作ってるのは君みたいだし。この机とかポットとか出したのも君でしょ? ってことは、このなにもない世界は、君が管理しているようなものだってことじゃないか。君がこの世界でぼくをどうこうするとは、考えにくいね。ぼく、君が書いた物語の主人公なんでしょ?」

「分かんねえぞ? 俺があっさり見限ってお前を消去して、別の奴を主人公にするかも知んねえだろ」

 う~む、とぼくは考えるが。

「なんか、君はそういうことをしない気がする」

 結局答えは、そんなところに落ち着いた。

「うけけけけ」

 ぼくの返答をどのような意味に受け取ったのか、語り部は笑い声を上げて応じた。どこかで見たような笑い方だと、最初は思っていたが、なぜかその双眸には、得体の知れない含みが隠されているような気がする。もちろん、単なるぼくの勘違いかも知れなかったけれど、少なくとも、自分の聞いたことが可笑しかったから、といった笑い方ではないように思えた。

「作者ってのはな、キャラクターに対して少なからず愛着を持っているもんなんだよ」

 彼はペンを置き、頬杖をついてしゃべり始める。

「なかには作品の評判聞いて味しめて、キャラの性格を捻じ曲げるようなやからもいるし、自分の書く話を全部バッドエンドにしなきゃ気が済まねえってやつもいる。けどな、誰だって根本のところじゃあ、『主人公』ってのは『自分の分身』みたいなもんだって認識してんだよ。だから基本的に主人公には成功させてやりてぇし、ハッピーエンドにしてやりてぇって思ってるもんなんだ」

 彼は胸ポケットから手帳を取り出し、パラパラとページをめくり始める。所々で手を止め、そこに書かれているであろう文章を眺めては、再びページを繰る。その瞳に宿るのは、いままで彼が見せたどの感情にも似つかない、陽だまりのように温かいなにものか。それは慈愛か思慕か、はたまた敬愛か。自らの髪をかきあげて、彼は手帳と眼を閉じる。

「お前、キャラが勝手に動く状態、ってわかるか?」

 唐突に水を向けられ、ぼくは返答に詰まった。

 わだかまりのある沈黙を否定と受け取ったらしい彼は、親切にも解説を始めてくれる。

「しばらく書いてるとな、わかってくるんだよ。このキャラはこの場面じゃこう言うだろうな、とか、こう行動するだろうな、とかがよ。元々は、俺はしっかりプロットを立ててから話を書く男だったからな。それに従って話を進めるのが、俺の基本的なスタンスだった」

 彼は目の前に広がる設計図を顎で指しながら言った。

 プロット、とはつまり、物語を書く上で予め決めておく、大まかなストーリーラインのことである。誰が何をして、どうなるお話なのか。それを最初に決定づけておくことによって、物語が方向性を見失わないようにするのだ。

「お前の話を書いてたらな、しばらくして、お前が勝手に動き始めたんだよ。俺の立てたプロットを、真っ向から完全に無視してな。初めての経験だったし、嬉しかった」

 語り部の言葉に、少なからずぼくは動揺する。

 彼がこのような憂いのある表情を見せるのを、ぼくは見たことがない。

「だが、お前は死んだ。いや、実際にはまだ死んでねえが、死ぬことを選んだ。本当だったら、お前が死なないようなシナリオを書き出して、物語を改変するところなんだろうな。なにしろ簡単な方法だ。俺がちょろちょろっと、『その時、唐突に良哉は希望を見つけた』とかなんとか書いてやれば、お前はその運命の一歩を思いとどまり、代わりに明日へ向かって新たな一歩を踏み出すことだろうよ。けどな――」

 その時彼が打ちつけた拳は、自己への失望か、はたまた自分のいる世界への渇望か。

 彼は叫ぶ。絞り出すような、震える声で。

「それじゃ納得がいかねえんだよ。このプロットで自然に話を進めていたら、結局お前は死ぬんだろ。自分で自分を殺しちまうんだろ。だったらそれは、俺のプロットが間違ってたってことじゃねえか。それを小手先で書き直してハッピーエンドだ? そんなもの俺は認めねえ! 徹底的に探してやるよ。 お前が死なねえ物語を! お前が笑って毎日を過ごせる、ハッピーエンドをな!」

 語り部は凛とした仕草で立ち上がる。

 彼はバチン、と指を弾く。すると、机に広げられていた設計図たちがくるくると丸まり、燐光を放ちながら、滞空し始めた手帳と同化する。光の塊となったそれらは、その姿をさらに百科事典ほどもある分厚いハードカバーへと変えた。音を立てて彼がペンをノックすると、その『物語』はひとりでに開かれ、ばらばらとページがめくられていく。

「準備はいいか、主人公ッ! 第四章、148ページ、12行目!」

 語り部が叫び、辺りは次第に光に包まれていく。眩い閃光が爆発し、机もティーカップもぼくも、語り部すらその輪郭をかき消され、すべてを生み出す可能性の渦の中に、消えた。



 よくよく考えてみれば。

 すべての物語が大団円で収まるのであれば、その存在は元から必要のないものだったのではないだろうか。

 事実、作り物の世界では、すべてが予定調和に終わっていた。どんなに困難な旅路であろうと、どんなに激烈な罠であろうと、主人公はそれを乗り越え、淘汰する希望の星だったのだ。

 最初は皆が歓喜した。

 すべてを乗り越える、主人公という名の神を湛え、その雄姿に打ち震えた。多くの人々が、我もかの主人公たれと自らに命じ、鉄の意志と誇りを持って生きることに喜びを見出したのだ。

 だが、彼らのすべては果たして、幸福な終幕を引いたのだろうか。誰もが努力の末に成功を勝ち取り、あるいは愛した女性と結ばれ、あるいは渇望した地位に納まり、あるいはもっと単純に、幸せになることができたのだろうか。


 うけけけけ。

 そんな訳がないじゃないか。

 そんな訳がないじゃないか。

 そんな訳がないじゃないか。


 中にはあったはずだ。

 いくら努力しても評価されなかった絵画が、

 いくら愛しても報われなかった恋が、

 いくら走ってもたどり着けなかった場所が、

 どこかにあったはずなのだ。

 だからこそ、気づいてしまった。

 我々の神が時として我々を貶めるということに。

 だからこそ、人は求めざるを得なかった。

 主人公の死を。

 神の挫折を。

 希望の星の失墜を。

 

 主人公は、軒並み殺され始めた。

 槍で突かれ、炎に焼かれ、毒に蝕まれ、そして、民衆に望まれて、死んだ。

 彼らにとって、ストーリーテラーはあまりにも絶対的な存在だった。どんなに健康で注意深く、力強い才人だろうと、主人公は主人公であるが故に、語り部がペンを走らせるのを止めることはできない。当たり前だ。流れている時間軸が違うのだから。物語の内側から外側へ、いったいどう干渉しようというのか。彼らはなんの抵抗もできず、まさか自分が死ぬなどとは思いもしないまま、その亡骸を荒野へと埋めていった。


 死んだ。

 死んだ。

 また死んだ。

 あはは。


 だから、それは結局必然だった。

 腹いせに主人公の死を願う、愚かな聴衆のためにではない。主人公に自らを重ね合わせ、命を吹き込んだ張本人であるストーリーテラーにとって、それは紛れもなく、絶対に必要なことだった。


 死なないで。

 死なないで。

 お願いだから死なないで。

 頼むよ。


 思えば、彼らはなぜストーリーテラーになったのか。

 観客を喜ばせるためか?

 読者に褒められるためか?

 聴き手に何かを残すためか?


 ああ、違うよ、違うんだ。

 ぼくは、ぼくはただ、君の――


 そこで生まれたのは、多様な神々の名前。


 或る者は名を《アテナ》と云った。

 或る者は名を《オベイロン》と云った。

 或る者は名を《メフィスト》と云った。


 そして、或る者は名を《語り部》と云った。


 うけけけけ。

 それじゃあ、ちょっとばかし足んねえな。

 それらの名前に意味はねえよ。

 大事なのは、そいつらの役割だ。

 俺が言ってやろうか?


 それは数々の主人公を救った偉大なる神の名前だ。

 書き手が解決することの叶わぬ、どうしようもない物語を、とってつけたように業とらしく、御都合主義的に解決してしまう作り物の神様。


 それは古の戯曲家が編み出した最低の筋書き。戯けた手法。『どんな悲劇でも解決できる存在を、最後の最後で登場させる』という、暴挙とも呼べるセオリー。


 民草に忌避され、罵られ、しかし多くのストーリーテラーの分身となって物語に干渉し、現実と創作の境界線をいとも簡単に越えた大いなる存在。


機械仕掛けの終焉(ハッピーエンド)

《デウス・エクス・マキナ》



 そこでぼくが立ち止まった理由は。

 なんていうか、丁度いいな、と思ったからなんだ。

 嘘のように晴れやかな夏の午後。終業式が終わって、学校から解き放たれた学生たちが、最初に羽を伸ばす時間帯。道路沿いに並ぶ小ぶりな木々まで汗をかいて騒ぎまわっているようで、雑踏には耳障りな音があふれている。話し声、蝉の鳴く音、クラクション。どれもこれも我慢できなくなるほどじゃないけど、だからこそ合わさると途端に苛立たしくなる。空気もあまりよくない。乾き切った和式トイレのような据えた匂いと排気ガスが混ざりあって、なんだか頭がくらくらする感じ。多分そこには、自分の汗のにおいも含まれているはずで、やっぱりそれも、ちょっと腹立たしかった。まあ、実際のところ、そんなに悪い気もしないんだけどね。そんなのいつものことだからさ。

 夏の明るいところから急に屋内に入ったとき、全体に影がさして見えることを『日どり負け』というらしい。なぜ『日照り負け』ではないのか、なんて、現国の成績が上から五番目のぼくですら知らないし、知る必要があるとも思えない。でも、駅舎から外に出たとき、先生に聞いてみたくなった。屋内から明るい日差しの中へ飛び込んだとき、世界が明るく見えるのは『日どり勝ち』って言うんですかって。現国の先生に聞いても分からないかも知れないけれど、ひょっとして、生物の先生なら答えられるんじゃないかと思う。「暗順応には、明順応より時間がかかるのよ」ってさ。はは、知るかよ。

 目の前に見えるのは、白と黒でできた横縞模様と、その先に見える、制服姿のふたり組。ぼくは確かに足を止めていたけれど、赤信号だから、なんて小学生みたいな理由じゃもちろんないよ。すべては《なんとなく》なんだよ、諸君。《なんとなく》が重要なんだ。昼休みになったら《なんとなく》食事をして、授業の前になったら《なんとなく》席について、死ぬのが面倒だから《なんとなく》生きてる。それで充分じゃないか。そう思わない?いいからさっさと理由を話せよ。さもないと叩き殺すぞ。なんて言う面白いやつがいたら是非一緒に学食に行ってみたいんだけど、まあ強いて言えばただ、試してみたくってさ。この、自分が見ている世界、ってやつを。哀れだよね、本当に。そんなことをしなければ、あのふたりとはまだ騙し騙しやれたのに。

 ぼくの悪い点をあげるとするなら、良識みたいなものがあったことだと思うんだ。自分で言うのもなんなんだけどさ。皆がどうにかごまかしている部分を、どうしてもはっきりさせたくなっちゃうんだよ。普通だったら気にしないような小さいことを、どうしても見逃してあげられない。凝り性なんだな、ぼくってやつは。だって、フェアじゃないじゃない。自分が惨めな立場なのに、それを直視しないのってさ。結局そんなの、自分のためにならないでしょ。見ていて悲しくなってくるんだよ。無視されたわけじゃない。声が小さかっただけ。バカにされたわけじゃない。面白いことを言っただけ。パシリにされたわけじゃない。ぼくを頼ってくれただけ。ああもう、つくづくお前らって奴は。現実を見ろよ、現実を。無視されたんだよ。バカにされたんだよ。パシリにされたんだよ。そんな事も分からずに、いままで生きてきたって? 冗談きついね。笑わせる。そうやってごまかして生きていれば幸せかい? そうやってへらへら過ごしていて楽しいかい? それでいいの? よくない。よくないよね? 本当に無視されないようになって、本当にバカにされないようになって、本当にパシリにされないようにならなきゃ、本当に楽しいとは言わないよね。そうだろ? 嘘をつくなよ逃げんなよ。

 つまらないんだ。

 なにやってても楽しくないんだ。

 どこにいても落ち着かないんだ。

 このまま時間が過ぎ去って、知らない間に大人になって、ゆっくり老いて死んでいく。そんなのぼくはごめんなんだよ。そんなの絶対嫌なんだよ。

 だから、そう。ようは、魔が差しちゃったんだ。

 ぼくはもちろん行けた。ちょっと急げば間に合った。

 だけど行かなかった。ぼくは歩き出さなかった。

 うけけけけ。

「それでこのザマってわけか」

「うん。そーだよ、語り部」

 ふたりはぼくを待ってなんかくれなかった。

 それどころか、ぼくがいなくなったことにすら気付かなかった。

「それで、お前はそれを黙って見てたわけか」

 そうだよ? だって、どうしろっていうの。もう負けなんだよ、この時点で。置いていかれた。気にもしてもらえなかった。確かにそうかも知れないね。でも、仕方がないじゃないか。彼らは、ぼくに関心なんてなかったんだから。それはふたりが悪いのかい? 違うでしょ。そういうことじゃないでしょ。なにを責めることがあるのさ。どう責めろっていうのさ。置いていかないでよ。もっとぼくのことを気にしてよ、って? いまさらだよ、全部いまさらだ。だから、もういいんだ。ぼくだって、実はそんなに気にしてないし。もともと痛くも痒くもなかったし、学校生活ではよくあることだしね。

「本当か?」

 問い。

 それはこれ以上ないくらいに簡単で、明瞭な問いかけ。それなのにぼくは、答えを返すのに結構な時間を必要とした。喫茶店のマスターが、こだわりのコーヒーを丁寧にドリップして、ミルクと砂糖と共に、常連のお客さんに差し出すくらいの時間を。

 しばらく考えた後で、ぼくはゆっくりと首を振った。

 随分考えた割には、それはすごく簡単な答えだった。

「ごめん。よくない」

 バカの考え休むに似たりって、よく言ったもんだよ。でもね、考えるってのは、なにも答えを探している時間を指す場合だけじゃないと思うんだ。例えば、すごく仲のいい友達が書いた小説を読んで意見を求められたときとか、友達としては好きだけど、恋人としては見ることができないガールフレンドからいきなり告白されたときとか。答えは決まっているのに中々くちが動いてくれないことが、きっとあるはずだ。

 今回もそうだった。

 言いたいことがある。だけど、本当はあんまり言いたくない。だって、そんなことを言っても誰も救われない。いたずらに、傷つく人を増やすだけ。

 そういうときは、言えよ、って強制するだけじゃダメなんだ。それじゃ何の解決にもなっていないからね。こんな時に一番欲しいのは『言っても大丈夫だよ』っていう気休めなんだ。許しなんだよ。

だから次に彼が言った言葉は、とても的を射た最適解だった。黒毛和牛のローストビーフに八十年物の赤ワインを差し出すくらい、強烈にしっくりくる慰めだった。

「言っちまえよ、杉崎良哉。どうせこんな世界、俺が描いた創作だ」

 言葉が、溶けたチョコレートのように染み込み、あふれ、結局こらえきれなくなって、頬をつたう。

ありがとう。

 じゃあ、お言葉に甘えて。

「  」

 それはたった二文字の、悲しくなるくらい幼稚な言葉。

 ああ、言っちゃった、言っちゃった。

 でも、「上出来だ」と言って、やっぱり語り部は笑ってた。



「友恵さん、外線からです」

 会社でイライラしながらキーボードを叩いていたら電話が回されてきた。息子が自殺を図ったらしい。気がついたら病室にいて、気がついたら家に帰ってきていて、気がついたら酒を飲んでいた。

もう夜中だったが夕飯なんてあるわけがない。それは良哉の仕事だ。雨が降っていたが洗濯物が取りこんであるはずもない。それは良哉の仕事だ。湯船につかって疲れをとりたかったが、風呂が沸いている理由が思いつかない。それは良哉の仕事だ。それは私の仕事じゃない。私の仕事は稼ぐこと。たくさん働いて、なるべく多くの金を稼ぐこと。毎日毎日、光る画面を凝視しながら、何時間も何時間も、日が暮れるまでキーボードを打ち続けて、書類をまとめ、発注先に確認をとって、企画書を作ること。だってそうしないと生きていけない。だれもご飯が食べられない。だからこれは当然のことなのだ。どこにでもある家族の役割分担じゃないか。私の家にはふたりいる。私は仕事で忙しい。だからもうひとりが家事をやる。当たり前だ。当然の義務だ。果たされて然るべき業務なのだ。なのに、なんだ。なにもできてないじゃないか。しかたがないから私は酒を煽る。外に行くのは億劫だったし、金がかかるから勿体ない。そうだ。金がかかるじゃないか。本当になんなんだよあいつは。クソ。ふざけんじゃねえよ。入院費は誰が出すんだよ。私じゃねえかよ。私が何カ月もかけて稼いで貯めた金だぞ。なんでてめぇの自分勝手の尻拭いをしなけりゃなんねえんだよ。

 壁を殴りつけ、金切り声をあげながら、良哉の部屋の前までいった。なんて役に立たない子どもだろうか。蹴りつける。部屋の扉は思ったよりも頑丈だが、構わず蹴る。ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。

 さんざん暴れた後で、ここがマンションの一室であることを思い出す。私はその場にしゃがみこんで、熱い息を吐いた。いつのまにか頬をつたった涙が顎を濡らしていることに気づく。震える手をドアノブにかけて、ゆっくりと回した。押しあける。真っ暗な部屋があった。良哉の部屋が。

 私は部屋全体に語りかけた。

 皆さん信じられますか。

 いつ意識が戻るか分からねえってよ。

 見渡せば、部屋には実に多くのものがあった。私が買ってやった本棚。そこに納まっている数冊のハードカバーと、大量の漫画本、そして音楽ディスク。机の脇にはかさばるゲーム機とコントローラー、ノートパソコン、そしてステレオプレーヤーが鎮座している。全く、無駄な物にばっかり金を使って。遊ぶことしか頭にないのだろうか。暇さえあればヘッドホンでシャカシャカ音楽聞いて、ゲームやってマンガ読んでまったくいい御身分じゃないか。良哉がそうやって無為に時間を潰している間に、私はひとりでキーボードを叩いているのだ。上司の機嫌をとって、同期の目線を気にして、部下の面倒をみているのだ。それなのになんでおまえが死のうとすんだよ。意味わかんねえよ。私の方がよっぽどつらい思いしてんじゃねえかよ。夫に見捨てられて、友達には騙されて借金作って、脚本家になる夢も諦めて、一日中ゴミのような本当に必要かどうかも分からない書類を延々と書き続けている。死にたいのはこっちの方だ。

再び込み上げてきた怒りに地団太を踏みそうになって、下唇を噛んでこらえる。貧乏ゆすりが止まらず、頭を掻き毟って声にならない声を上げる。怒りのやり場が見つからず、たまらなくなってベッドを思い切り殴りつけた。そのままずるずるとしゃがみこんで、いましがた殴ったベッドの淵に背を預ける。しばらく深呼吸を繰り返していると、ふいにおかしさが込み上げて来て、結局吹き出してしまった。なんなんだよ、もう。人というのはどうしようもなくなると笑ってしまう生き物なのだろうか。笑い声はしばらくの間、あるじの不在を悲しむように、小さく部屋を震わせ続けた。


『あー、テス、テス、マイク・テス。げふん、げふん』

 

 チャンネルが繋がって、

 聞こえてきたのは笑い声。


 うけけけけ。

「お前の母親って、いつもあんな感じだよな」

「うん。だから、あんまり好きじゃない」


『私もつらかったんだから、お前も頑張れよ』

『私の方がつらいんだから、お前が泣き言いうな』

 なんだそれ。

 バカじゃねえの?

 励ましてるつもりかよ。

 どっちがつらいかなんて誰にも分からねえだろが。

 どっちがつらいかなんて比べられるわけねえだろが。

 それなのに、偉そうなくちを叩くなよ。

なんというできそこないだろう。

 もっと優しくしてくれよ。

 普通に共感してくれよ。

 呟きは誰にも聞こえてくれず、

 小さく丸まって、ゴミ箱の中に消えた。



 それは元々、黒い点だった。

 とるにたらない、ちっぽけな存在に見えるけど、どんな物語にも欠かせない。最初は皆で勘違いをしていた。

 その点は《そこに有る》と認められるまで、現れることはないのだと。

 でも違う。

 全然違う。

 事実とはまったくもって異なる。

 それが悲劇だろうと喜劇だろうと、《点》は必ず存在する。存在してしまう。そこに生命があるかぎり、彼らの帰る場所として。すべてを成し遂げた後で、あるいは成し遂げられなかった後で、彼を労い、敬い、介抱する、優しい優しい家として。

 すべての命の根源こそが、その黒い《点》の正体だった。そこから生まれ出でたのち、しばらく遊んで、そこに還る。始点と終点は常に同一座標。土は土に、灰は灰に。


 くすくすくす。


 人が文字を書き記すようになると、早い段階から、《点》と《ヒト》との対話が可能となった。彼らは思い思いの《点》を描き、自分を投影した主人公を通すことで、彼らと語らい、時には手を取り合ってダンスをし、時には力比べをして遊んだ。


 さあさ、皆さんご一緒に。

 こぞってポルカを踊りましょう。


 問題だったのは、彼らがとても我儘で、かつ、ちからを持った存在だったことか。まあ、それゆえ彼らは常に、主役級の働きをしてくれたのだけど。


 台詞が全くないこともあったし、役者中で一番多いこともあった。ところがどっこい、不思議なことに。台詞の量に違いはあれど、世界中に登場する彼らの衣装は、気味が悪いくらい似かよっていた。東洋の伝説も北欧の神話も、どこかの家で囁かれた童話ですら、彼らの姿は同じだった。

 

 真っ黒になった、ぼろぼろマント。

 真っ白くなった、がりがりドクロ。

 そして鉄色(にびいろ)斬首鎌(キルマーク)

 

 それはつまり《死》そのものを指す記号だった。

 《リベルタ》という名を与えられたそれは、生命がその花を散らすとき、必ず彼らの傍にいた。

 彼らが息絶え、消えゆく中で、ゆっくりと彼らを包みこみ、優しく優しく死に至らしめる。


 その包容は生きる意志を奪いとる。

 彼女の腕の中で、多くの生きる意志が、堕落し、腐り、息の根を止められた。


 それほどに、彼女の力は強大だった。

 どんなに希望に充ち溢れ、明るい未来を夢見た瞳であろうとも、彼女が彼の耳元で囁き、首筋に息を吹きかけ、その唇を食んだ途端、彼らの眼には、彼女しか映らなくなってしまった。

 思えば性の快楽とは、自分が死んでもいい存在だと判を押されることで、快楽たり得ているのではないだろうか。そんな世迷いごとを信じてしまうほどに、彼女の誘う《死》は蟲惑的で、抗い難いものだった。


 それは、物語の世界においても例外ではない。

 いや、むしろ物語という架空の世界においてこそ、彼女は始めて、その存在を認められたのである。

 現実の模倣でしかない物語においては、しかし、模倣であるが故に、ある種の逸脱が許されたのだ。


 それは概念と対話する呪い。

 形を与えられなかったはずの精霊を呼び出す、禁じられた奥儀。

 創造主とストーリーテラーのみに許された、最終最後の召喚魔法。

 

 最初はやはり、皆歓喜した。

 目に見えぬ幸福を労うことが可能になり、

 目に見えぬ恐怖を打破することが可能になり、

 目に見えぬ最愛をもう一度愛することが可能となった。

 だが、悲しきかな歴史は繰り返す。

 無情にも、繰り返してしまう。

 何も知らないストーリーテラーが、あるときふと、こんなことを言った。


「いや、この主人公は、こんな台詞は言わない」


 それは偉大な発見であり、同時に苦難の道の発覚であった。

 主人公が、創造主たるストーリーテラーの設計図を食い破り、意志を持って動き始めたのである。

 これは新たな宇宙の存在を可能とし、多くのストーリーテラーを沸き立たせ、震わせた。

 しかし、彼らは分かっていなかった。

 主人公が自分の意志で動く、ということはつまり、彼らが、自分の意志で死に得る、ということを。


 さあ、それでは登場していただきましょう。


 レディース・アンド・ジェントルメン!

 それはラプラスの紛い物。

 事故で、戦争で、災害で、

 殺しに殺した殺人鬼。


Act:3【(リベルタ)


「ハロー、ハロー、皆々様。ご機嫌いかが?」

 げらげらと。

 けたたましく嗤ったのは、人格を与えられた自殺願望。

 焦れて妬んで憧れて、世界にやってきた死の権化。

「わったしさぁ、ハッピーエンドのお話って、相当な勢いで嫌いなのよねぇ。どれぐらい嫌いかっつーとぉ、ゴキブリ×ウジ虫っていうカップリングぐらい?」

 語り部が入れた紅茶を勝手に啜り、ビスケットまで齧っているそいつは、全身真っ白の白ずくめだった。上は大輪のプロフィールハットから、下はストラップ付きのオープントゥまで。ショールもレースグラブも花飾りの添えられたカクテルドレスも、何から何までみんな真っ白だった。

 唯一、闇色に滲む左腕だけを除外して。

「ハッピーエンドのお話ってさ、結局全部マッチポンプっていうか予定調和っていうか、物語が始まった時点でデウス・エクス・マキナなのよ。言ってる意味分かる?

 どんなに困難な旅路であろうと、どんなに激烈な罠であろうと、主人公はそれを乗り越えられちゃうじゃない。それじゃあ全っ然納得がいかないのよね。

 死ねよ。

 ピンチになったらそのまま死んじゃえよ。

 悪魔が使わした敵なんだろ?

 神が取り決めたルールなんだろ?

 だったらそのまま顔を歪めて、死んで死んで死んで死んで死に腐れって話だろうが。

 それなのに、ハッ!

 なにが『偶然にも』だ。

 なにが『イチかバチかの賭け』だ。

 最終的にはみんな生きながらえるんじゃねえかよ。

 そんなもん作者が用意した絶対に乗り越えられるハードルじゃねえか。反吐がでるんだよッ!

 ああ、だからこそこの私、この世すべての罪悪、絶望、死そのものであるところのかわいいかわいいリベルタちゃんが、貴方のその気持ち悪い気持ち悪い自己満足の世界をぐっちゃぐちゃにぶち壊すべく参上つかまつった次第なのでーす☆」

 げらげらげらげら。

 それは嘲笑か絶叫か。会場に響き渡るのは高音のソプラノが奏でる壊れた協奏曲。壁に反響し床に木霊し、鼓膜を破らんとする勢いで、それは空気を震わせる。聞く者すべてを震え上がらせ、圧倒するその地鳴りのような嗤い声は、しかし、たったひとりが発した静かな吐息によって打ち破られた。

「とうとう来やがったな、リベルタ。毎度毎度飽きもせず、似たような台詞をよくもまあ長々と喋りやがるぜ」

 それを聞いたリベルタも、

「それはこちらも同意見ですわ、ストーリーテラー。よくもまあ毎回飽きもせず、新たな主人公なんか書き殴っていますやら。どうせ私に殺されるのに」

 と言ってくすくすと笑う。

「いい機会ですからハッキリと言っておきますけれど、あなた、文才なくってよ? だって、貴方の書く物語で、主人公が最後まで生きながらえた試しがあって? みんな、みんな、みぃんな、私と欠け落ちしちゃってるじゃありませんか」

 顔面を醜悪に歪め、にやつくリベルタを睨みながら、語り部はしかし、思考することを止めない。

 錯覚しがちだが、彼女の言う《殺された主人公》達は、実際に彼女の手によって葬られたわけではない。語り部が物語を書きすすめる中で、表出する死の誘惑を振り切ることができず、無情にも死んでいった『主人公』たちを指している。そして、彼らの物語に見え隠れする《死》そのものがストーリーテラーの敵として名を与えられ、人格を得て現れたその存在。それこそが彼女、《リベルタ》という死神なのである。

 げらげらと、リベルタが嗤って言う。

「いい加減諦めたらどうなんです? 主役に物語の舵を取らせると、ロクなことになりませんわよ?」

「ああ、確かによ。俺は何度もてめえに負けた。多くの主人公を、てめえから救うことができなかった。

 だがな、今回ばっかりは絶対に死なせねえ。俺はお前を消去して、この物語を終わらせる。もちろん、誰もが羨むような、完全無欠のハッピーエンドでな」


 げらげらげら。

 うけけけけ。


 決戦の火蓋は、切って落とされた。

 あとは、生かすも殺すも、彼ら次第。



 寒い、と思った。

 風が吹いているわけじゃないけれど、とにかく寒い。

 視界は真っ暗闇。じっと眼を凝らそうが、首を振ってみようが、自分の手すら見ることができない。いったいここはどこだろう。どうしてこんなところにいるんだろう。まるで、明晰夢が突然終わりを告げたかのような、小さな寂寥感。自分の意識はちゃんとそこにあるのに、自分の感覚は使い物にならない。虚無。無限に広がる、死と生。宇宙。

「―――、――――」

 はっと気付いた。

 これは、この世界は。

「――――。――――」

 目を開ける。

 最初は薄く、徐々に大きく、目を見開く。

 すると、真蒼に染められた、下へと続く階段が見えた。暗い。けど、さっきよりは明るい。

 振り返る。

 今度は上へと続く階段があって。

 窓の外で、夜空に浮かぶ月が煌々と光っていた。

 これは、夢の続きだろうか。そう思っても仕方がない。なぜ自分がこんなところにいるのか、そもそもここはどこなのか。ぼくはなんにも、知らないのだから。

 

 knock… knock…


 そしてぼくは、それを聞いた。

 なんとなく、聞こえた気がした。

 ぼくはゆっくりと、階段を上り始める。一歩一歩、踏みしめるように時間をかけて。息を吸ったり、吐いたりしながら。

 

 …………、…………、…………、


 足の裏がとても冷たい。よく見るとぼくは裸足で、身体にはよく分からない服が一枚張り付いているだけだった。どうりで寒いわけだ、とぼくは納得する。


 knock… knock…


 また、聞こえた。

 それはドアを叩く音だと思った。

 それも、ただのドアじゃなくて、重たい鉄のドアを、叩く音だと思った。

 だから、目の前にそれが現れても、別段不思議には感じなかった。

 ところどころメッキがはがれた、薄緑色のドア。

 こんこん、と定期的に流れるノックのメロディ。

 刷りガラスの向こうに、真っ白なシルエットが見えた気がする。

 

 いいよ、誰でも構わない。

 ここは寂しいよ。

 静か過ぎる。

 誰でもいいから、なにか喋って。

 

 ひんやりとしたドアノブを、ぼくはまわす。

   

 がちゃ。

 ぎい。


 ドアを開けると、空は深い紫に染まっていた。

 雲間から見え隠れする月に合わせて、冷え切った風が頬をなでていく。

 どうやらそこは、どこかの屋上のようだった。

 敷き詰められたタイルには、夜闇に黒く色づけされたこけが、そこかしこに群生している。ほぼ正方形をした、舞台のようなその場所には、落下防止用の小さな段差があるだけで、他にはまったく、なにもない。タイルとこけと、段差だけ。

 そして、しかしその段差に、ぼくは誰かが寄りかかっているのを見つけた。ひどく見覚えのある、その姿。夜空よりも夜闇よりも、真っ黒で真っ暗なその姿。それは夢の世界のできごとだったはずだから、やっぱりこれは、夢の続き。

 ぼくはゆっくりと足を出す。

 一歩ずつ、一歩ずつ、ぼくは彼に近づく。

 砂利を踏んだかも知れないけれど、気にならなかった。

 土がついたかも知れなかったけれど、気にしなかった。

 しばらく進むと、彼もぼくに気づいたようで、

 閉じられていた瞼を、ゆっくりと持ち上げてくれる。

「うけ……けけけ……」

 力なく笑うそいつは、全身真っ黒の黒ずくめ。上は中途半端な大きさのカウボーイハットから、下は膝下まであるクールなブーツまで。ネクタイもタクティカルグローブも手に持った手帳のような本も、何から何までみんな真っ黒だった。

 そして、彼の胸元に突き刺さった、身の丈ほどもある大きな斬首鎌だけが、くすんだ鉄色。

 下から突き上げるようにして刺したのだろう。柄の先端は空を指して微塵も動かず、刃先はどうやら貫通しているらしい。

 投げ出された手のひらは持っているというよりは添えているだけで、手帳のページは風に撫でられ、ばらばらと勝手に捲られていく。

 身体から溢れ出た血は彼を中心に歪んだ円を描き、こちらも風に叩かれて、その水面を揺らめかせていた。


 …………、…………。


 くちを、開く。

 だけど、声が出ない。


 言っちまえよ、杉崎良哉。

 どうせこんな世界、俺の書いた創作だ。


 思い出す。

 思い出したから、振り絞る。

 声を。

 言葉を。


「負けちゃったの、語り部?」

 

 うけけけけ、と途切れがちな声をあげて。

 語り部は小さく頷いた。

 

「そんな顔すんなよ、俺だって驚いてるんだ」


 くちから血の泡をこぼしながら、語り部は語り出す。

 勝負の行方を。

 彼の生死をかけた、その戦いの行方を。


「なんで、おかしいよ。だって君は、ぼくたちを書いてるひとなんでしょ?」

 ぼくは疑問の声を上げる。

「ああ、俺はストーリーテラーだ。対してアイツは、ただの登場人物。いくらその根源が物語の枠を超えた《死》そのものだったとしても、俺の物語の中の、俺に描写された《死》である以上、奴は俺の管理下にある。だから負けるはずがねえって、そう思ってたよ」

 時間の流れは緩やに。

 殺された語り部は、しかし死ぬまでの間、しばしの猶予を与えられたようだった。

 すべての種を明かす、ストーリーテラーとして。


「少なくとも、アイツがあんなことを言うまではな」



「ルールの確認だ。

 俺の勝利条件は、『《杉崎良哉の自殺願望》、つまり、てめえを、この世界から消去すること』

 間違いねえか?」

「ええ、問題ありませんわ。

 その方法論は、

『其の一、自殺以外の選択肢を提示し、主人公にそれを選択させること。

 其の弐、自殺原因を究明し、打破する方法を示すこと。

 其の参、自殺することのデメリットを指摘し、思いとどまってもらうこと。』

以上ですわ」

「逆に、敗北条件は?」

「先ほど提示した方法が、すべて失敗に終わった場合、でよろしくてよ。

 ああ、それともうひとつ。 彼の自殺の理由が分からなかった場合は、私と同じ土俵に上がれなかったと見なし、貴方の敗北とします」

「奴の自殺理由の答えは、誰が知ってる?」

「私が知っておりますわ、ストーリーテラー。なぜなら私は、彼の自殺願望なのですよ? 貴方には私との対話のなかで、彼が自殺未遂をした理由を解き明かしていただきます。これが最低条件ですわ」

「了解した。早速始めようぜ」

 語り部がペンをノックすると、彼の手帳が宙空を漂い、ひとりでに開かれ始める。

 手帳はばらばらと音を立てながらページを吐き出し、語り部の書いた物語の、いくつかのシーンを映像として映し出すと、それぞれが一枚のスクリーンとなって、彼らふたりをドーム状に取り囲んだ。

「まず重要となってくるのは、《杉崎良哉の自殺願望》だ。時空を切り取る基本骨子は、てめえも知ってるよな?」

「五次元的座標設定ですわね? つまり、『いつ、どこで、彼の自殺願望は、なぜ、発生したか』ということですわ」

「話が早くて助かるぜ。 そんでもって、ここでいう良哉の自殺願望ってのは、てめえのことだと、そういうわけか」

「ポジティブ」

「オーケー。じゃあ、俺の考えを述べさせてもらう」

 第三章、112ページより。

 二年前の冬。

 受験終了後、塾での合格祝いにて。

 スクリーンのうち、ひとつがピックアップされ、音声付きの映像を流し始める。

 暴れて机を蹴り飛ばし、泣きわめく良哉の姿を。

「思うに、杉崎良哉は、かなり早い段階から、自殺願望を持っていたはずだ」

「その根拠は?」

「死にたい、なんて大概の奴は考えることだし、こいつにとっては勉強することが苦痛以外の何者でもなかった。この段階で自殺願望を持っていても不思議じゃない」

「なるほど。確かに、彼が勉強に意味を見いだせていなかったことは、本文中でも描かれていますわね」


『そうしてやってきた受験の日。高揚も緊張もなく、ただ「やっとここまできた、終われば楽になれる」そういう、安堵とも倦怠ともつかないうんざりした気分で試験会場まで向かった。』


「ですが、これは二年も前の話ですわよね?

 自殺願望を二年もの間引き伸ばすような希望が、果たして彼にあったのですか?」

「強いて言えば、生きていればいいことがあるかも知れない、ぐれえの希望はあったはずだが、俺が言いてえのはそういうことじゃねえ。自殺願望なんてものは、世の中の大抵のやつは自然に持っちまってるもんなんだよ」

「解説を要求します」

「オーケー、耳かっぽじってよく聞け」

 《自殺願望》なんて大それた名前が付けられているが、その実態はそんなに大したものじゃない。

 例えばスピーチの宿題を皆の前で発表するとき。

 片思いだった彼女にふられたとき。

 弟に喧嘩で負けたとき。

 恥ずかしさで、悲しさで、悔しさで、

 誰もが心の隅に、死にたい、という願望を抱いたことがあるはずだ。

 小さくだろうとなんだろうと、死んでしまいたい、と願った時点で、それは自殺願望と呼ぶことが可能なのである。

「ですけど、いま例にあがった彼らは、そのまま死んだりはしませんわよね?」

「ああ、そうだな。だが、《自殺願望があること》と《生き続けていること》は矛盾しねえのさ。なぜなら、人間には『理性』ってもんがあるからだ」

 誰もが心のどこかに自殺願望を抱えながら、

 しかし死ぬことなく、懸命に生きている。

 それはつまり、理性というものが『死んではいけない』と心にブレーキをかけているからだ。

 だから人は、そう簡単に自ら命を絶ったりしない。

「それについては第四章で描写もあったはずだぜ」


『なぜ『日照り負け』ではないのか、なんて、現国の成績が上から五番目のぼくですら知らないし、知る必要があるとも思えない。』


「成績が上から五番目。つーことはこいつは、嫌々ながらも死んだりせず、しっかり勉強をしていままで過ごしてきたことになる。ここまで反論はあるか?」

 リベルタは首を横に振る。

「いいえ、いまのところは」

「嫌な言い方をするじゃねえか。だが、構ってる暇はねえ。話を進めさせてもらうぜ。

 つまり、ここで本当に重要になってくるのは、《杉崎良哉の自殺願望》が発生した起源ではなく、それがあいつの《理性》を越えた瞬間がいつか、ってことになる」

「なるほど。流石はストーリーテラー。だてに語っていませんわね」

「こんなもんはまだ常識の範疇だぜ、リベルタさんよ。だが、この問題は一度置いておく」

「あら、なぜですの?」

「物事には順序ってもんがあるんだよ」

 語り部がペンをノックすると、三枚のスクリーンがピックアップされ、リベルタの前に並ぶ。

 第三章、112ページ。二年前、塾での祝賀会。

 第四章、148ページ。一年前、終業式直後の路上。

 第六章、220ページ。 現在、杉崎家にて。

「俺が今回検証したこの三つのシーン。実は、それぞれに独立したテーマがあったんだが、てめえにはそれが何か、分かるか?」

「…………?」

 リベルタはスクリーンに目を凝らす。

「…………、ひとつ目は《勉強》、ふたつ目が《交友関係》、みっつ目が《家庭》、ということですか?」

 それを聞いて語り部は指を鳴らした。

「御名答。それらはいわば、学校生活を送る人間にとって、三本の柱みたいなものだ。もしどれかひとつの柱が折れちまっても、他のふたつがあればそれに没頭することで、生きる希望が見出せる」

「ということはつまり、すべての柱が折れてしまった場合、人は生きる気力を無くす?」

「そこまで短絡的な決め付けをするつもりはねえが、相当なストレスになるだろうぜ。

 勉強はつまらない。

 友達はいない。

 家に帰っても休めない。

 そんな状態になっちまった日には、生きてるのが嫌になるやつがいるかもな」

「では、貴方はこう主張するのですね?

『杉崎良哉には、二年前から自殺願望があり、最初は理性で抑えつけていたものの、学生生活の三本柱である《勉強》《交友》《家庭》のすべてにおいて希望を失い、自殺するにいたった』と」

 それを聞いて語り部は、ちっちっち、と指を振った。

「だから言ってんだろ? 短絡的な決め付けをするつもりはねえ、ってな」

「……、どういう意味ですか?」

「その三本の柱だけどな、実は、全部折れちまってる奴ってのは、結構世の中にいるんだよ。

 引きこもり、いじめられっこ、問題児。

 様々な呼び名を与えられてはいるが、その実態は結局ひとつ。三本柱が折れちまった。それだけのシンプルなことなのさ。まあ、折れ方は複雑だったかも知れねえが」

「ですが、それらの呼び名は、すべて生きている人間につけられる名称ですわね?」

「ああ、その通りだ。つまり、俺が言いてえのはこういうことなんだよ。

 三本の柱は重要だが、それらが折れただけで、人は死んだりしない」

 へえ、とリベルタは感心したように数度頷く。

「続きを聞かせてもらえるかしら? つまり、なぜ彼らは自殺しないのに、杉崎良哉は自殺することを選んだのか」

「ああ、いいぜ。学校生活における三本柱を折られてしまって、しかし生きながらえている人間たち。彼らと杉崎良哉との間には、とある大きな相違点が、ひとつだけあったんだよ」



「そこまでは、俺の独壇場だった。お前を救うために下調べしたかいがあって、張り巡らされた伏線どもが、俺を後押ししてくれていたんだ」

「だったらなおさらだよ。いままでの話を聞いていると、とても君が負けるなんて思えない」

「きっかけは、あいつが放った一言だった。

 そうさ。『下調べ』なんてやってる時点でおかしかったんだ。盲点だったぜ、まさか……、


 まさか、『俺がストーリーテラーじゃなかった』なんてよ」



「《大きな相違点》について、説明を要求しますわ」

「了承しよう。ヒントは、第四章に記されていた」


『ぼくの悪い点をあげるとするなら、良識みたいなものがあったことだと思うんだ。自分で言うのもなんなんだけどさ。皆がどうにかごまかしている部分を、どうしてもはっきりさせたくなっちゃうんだよ。』


「この部分と――」


『だって、フェアじゃないじゃない。自分が惨めな立場なのに、それを直視しないのってさ。』

 

「この部分だ」

 語り部がスクリーンを指し示す。

「さっき、三本柱を折られた人間の例として、引きこもり、いじめられっこ、問題児を挙げたよな?」

「ええ、覚えていますわ」

「それらの特徴は、三本柱を折られたストレスを、何らかの形で放出しているということなんだよ」

 引きこもりは、自分の殻を閉じることで、

 いじめられっこは、現実逃避をすることで、

 問題児は、人や物に当たり散らすことで、

 それぞれ自分の壊れてしまいそうな心を、ストレスから守っている。

「問題なのは、そのストレスを外に出せない場合だ。第三章を見てくれ」


『唐突に響いた金属音は、ぼくが傍に会った机を蹴飛ばした音だった。蹴った。何度も蹴った。椅子も投げた。拾って何度も床に叩きつけた。』


「これは一見異常な振る舞いに見えるかも知れないが、ストレスの発散方法としてはむしろこうなる方が正しい。倫理的には確かに好まれることじゃねえが、大人だってやる場合がある。第六章で、良哉の母親がやってただろ?」


『壁を殴りつけ、金切り声をあげながら、良哉の部屋の前までいった。なんて役に立たない子どもだろうか。蹴りつける。部屋の扉は思ったよりも頑丈だが、構わず蹴る。ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。さんざん暴れた後で、ここがマンションの一室であることを思い出す。私はその場にしゃがみこんで、熱い息を吐いた。』


「俺が思うに、良哉の母親、友恵は、何度も物に当たり散らすことがあったはずだ。今回だけじゃなく、何度も何度もな」

「根拠を聞かせてくださるかしら?」

「子どもは大人を見て育つ。ガキの頃の良哉のストレス発散法と、友恵のストレス発散法、よく似ているとは思わねえか?」

 リベルタはふたつのスクリーンを見比べてみる。

 確かによく似ている。

 同じ物を何度も蹴りつけるところなど、瓜二つだった。

「多分最初は、物じゃなくてストレスの発生源その物を攻撃していたんだろうけどな。クラスメートに馬鹿にされりゃあそいつを殴っただろうし、母親が構ってくれなかったら、母親を詰ってただろうよ。

 だが、何度もそうするうちに、人を叩くと怒られる、というパターンが刷り込まれ、結果的に、物に当たるようになった」

「なるほど。筋は通っていますわね」

 リベルタは大きく頷く。

「ですが、第四章の主人公は、何にも当たり散らしてなどいないように思われるのですが?」

「そう。それこそがさっき言った、相違点による影響なのさ。さっき引用した部分に、こういう文があったよな」


『自分の悪い点をあげるとするなら、

 それは良識みたいなものを持っていたことだ』


「よく考えてみろ、リベルタ。第四章においての良哉の立ち振る舞い、ちょっと変だと思わねえか?」

「変?」

 呼び出した第四章のスクリーンを、リベルタは眺める。

「そうだな、具体的に言ってやるよ。ちょっと、物腰が柔らかすぎねえか?」

「…………? それのどこが変なのですか?」

「つまりだ。いままでの杉崎良哉だったら、この場でなにも行動を起こさねえのは変な話だってことだよ。

 お前も言ったよな? 第四章での主人公は、何かに当たり散らしているように見えねえ、ってよ。その通りだぜ、大正解だ」

「ちょっとお待ちになって。それでは説明がつきません。彼は物に当たることで、ストレスを発散していたのではなかったのですか?」

「ああ、そうだったよな。そのはずだよな。これじゃ説明がつかねえよな? なんでこいつはいま、物に当たらねえんだ? 追いかけて行って友達をぶん殴らねえんだ?」

 うけけけけ、と語り部は笑って、

「こう考えれば説明がつくぜ。人を叩くと怒られる、そういうような刷り込みが、俺達の見えない所でもう一度起きていたとしたら?」

「では、まさか……」

「そう、そのまさかだよ。人を叩くと怒られる。だから物に当たった。だが、物に当たるという行為は、倫理的にあまり好まれることじゃない」


 母親は、子どもの悪いところを直そうとした。

 この世のルールをしっかり教え込んだ。

 そのうち子どもに良識ができた。


 怒っても、人を叩いちゃ駄目なんだ。

 怒っても、物に当たっちゃ駄目なんだ。


 だけど同時に、子どもは勘違いをしてしまう。


『ぼくは怒っちゃ駄目なのかも知れない』


 ただ、それだけの話。

「なるほど。つまり、第四章での彼は、『自分は怒ってはいけない』という刷り込みを持ってしまっているということですわね?」

「ああ、そういうこったぜ、リベルタさんよ。その刷り込みこそがあいつの言う《良識みたいなもの》であり、さっき俺がいった《相違点》なのさ」

「詳しく聞いてもよろしくて?」

「ああ、いいぜ。つまりだ。何らかの方法でストレスを発散し、自らの心を守っている奴ら。あいつらのその《なんらかの方法》を奪いとってやったとしたら、どうなると思う?」


 例を挙げるとするならば、


 引きこもりから部屋を取り上げて、学校へ行けと脅したら?

 いじめられっこに現実を見るよう強制し、戦うように仕向けたら?

 問題児を縛りつけ、身動きがとれないように拘束したら?


「自殺するやつもいるだろうな。場合によっちゃあよ」

 彼の母親が作り上げた《良識》は、かなり堅固な物だった。一般常識というものは、拘束力が弱いからこそ成り立っている。

 ゴミはゴミ箱に。

 赤信号は渡っちゃだめ。

 暴力はいけません。

 授業中は静かに。

 すべて、場合によって破ることができるからこそ、それは常識として認知されている。もしもこれらに高額の罰金が付随していたならば、ここまで一般化することもなかっただろう。

 だが、良哉の中に芽生えた《良識》は、その罰金と同じような効果を、彼の心にもたらしてしまった。

 内面がいくら傷つき、ささくれ立ち、ぎりぎりと歪んでいこうとも、外面はその一般常識からはみ出すことを許されず、正しい型にはめられる。

 これが苦痛でなくて、いったいなんだったというのか。

 曲がることを許されなかった彼の心は、

 度重なる疲労の蓄積により、根元から折れてしまった。

「よって俺はこう主張するぜ。

『杉崎良哉には、二年前から自殺願望があり、最初は理性で抑えつけていたものの、学生生活の三本柱である《勉強》《交友》《家庭》のすべてにおいて希望を失い、さらに《良識》によってストレスの捌けぐちを潰してしまったため、心が折れ、結果、自殺するにいたった』。

 これが真相だッ! 文句があるなら、言ってみやがれッ!」



「そうだ、俺はそう言ってやった。これで第一関門は突破したと、そう思った。話の筋も通ってたし、理論的にも申し分なかった。だが、まだ終わりにはならなかった。奴は俺にこう言ったんだよ」


『それで、続きは(・・・)?』



「…………は?」

「ですから、続きはないのか、と申し上げているのですよ、ストーリーテラー。まさか、それで終わりではないのでしょう?」

 そう言ってリベルタはくすくすと嗤い始める。

「まだ、あったじゃありませんか。彼の魂に大きな傷を残した大事件が。ほら、覚えていませんの?」

「……な、何を言ってやがる?」

「またまた、勿体ぶって」

 くすくす。くすくすくす。

 リベルタは嗤うが、語り部はなんのことか分からない。

 大きな傷?

 大事件?

 なんだ、なにを、何を言っているんだ、こいつは。

「ちょ、ちょっと待て、リベルタ。てめえが一体なんの話をしてんのか、俺にはさっぱりなんだが……」

 リベルタはさらにおかしそうに唇を歪めた。どうやら語り部が冗談を言っているように見えるらしい。だが、もちろん語り部にそんな気はさらさらない。

「なにをとぼけていらっしゃるの?

 第三章、第四章、第六章。

 ひとつ抜けているじゃありませんの。第五章のことですわ」

「第五章だと? 第五章ってーと、確か……」

 そこで。

 やっと彼は、気づく。

 この空間が大きな異常を抱えていることに。

 この状況が巨大な爆弾を抱えているということに。

 それを知った彼は、慌てふためいた。

「なんだ、なんだ!? どうなってる!?」

 頭を抱え、叫ぶ。

 その姿はギリシア悲劇の演者のように。

 まるでどこかの、登場人物のように。

「ねえッ! 覚えがねえぞッ! 第五章だと!?」

 第四章と、第六章の間。

 となると、おそらく良哉が自殺を決行した章のはず。

 それなのに、そんな大事な章の記憶が、全くない。

 それどころか、そんな物を書いた覚えすらない。

 意味が、分からない。

 自分で書いたはずなのに。

 なぜ記憶がないのか。

 なぜ忘れているのか。

 いや、そもそも。

 この物語は、本当に俺が書いた物なのか?

「てめ、お、俺に何をしやがった!?」

 リベルタの瞳に、遊んでいるような気配を感じ取って、語り部は絶叫する。しかし、彼女は嘲りの色を隠さない。

「あら、心外ですわね、ストーリーテラー。私はなんにもしていませんわ。ええ、もちろん、なぁんにもね」

 その一言で、余裕を失った語り部は、容易に激昂した。

「じゃあこれはいったいどうなってるってんだよッ!」

 リベルタの胸倉を掴み上げようと席を立ち、蹴躓いて、語り部は床に這いつくばった。

「ヒントはたくさんあったじゃありませんか。おかしいとは思いませんでしたの?

 自分で書いたはずなのですから、今まで書いた物語の検証なんて頭の中でやればよろしかったじゃないですか。それなのに何故、あなたは主人公を伴ったのですか?」

「それは、奴に回想をさせることで、その時の心情を聞き出そうとしたからで……」

「でも、杉崎良哉は貴方が書いたキャラクターなのですよね? いくら自立して動き始めたキャラクターだからといって、その心情が分からない、なんていうことが、本当に起こり得るのですか?」

「それは……」

「まだありますわよ? いままでの物語は私も読ませていただきましたが、なぜ、視点は貴方のものではなく、ほとんどが杉崎良哉か、三人称の視点なのですか?」

「そ、それは説明可能だッ! この物語は俺が、《良哉の視点》で描いていたんだ。回想は《良哉の視点》で当然だろ! それに俺が登場してからは神の視点で問題ないはずだ! ここでは俺が神なんだぞ!?」

「言い方を間違えましたわね。こういうことが聴きたかったのです。

 なぜ神の視点が、『あなたの視点ではない』のですか?」

「な、ん……だと……?」

「貴方が登場してから、不思議な視点の章がいくつかありましたわね?

 回想前にあった、詩歌のような短い章。《幕間》の始めに歌われた散文詩。

《Act:2》に登場した、『デウス・エクス・マキナ』の紹介など、その最たるものですわ。

 神の視点で描かれたはずのあの章には、別の視点の持主として、ほかならぬ、貴方が登場しているじゃありませんか。これは、いったいどういうことかしらね?」


 しるかよ そんな だってこれは おれが…… おれ、は?


 げらげらげら。

「ああ、そうよ」

 紅い舌を出して唇を舐め、死神が嗤っている。

 甲高い喘ぎ声を上げて、涎が垂れるのを堪えながら。

「ずっとその顔が、見たかった」

 げらげらげらげら。

 彼女はすっと左腕を持ち上げる。

 優雅に指を躍らせ、艶めかしく燻らせ、その影を、ひとつの形へ変えていく。

 影は長く長く、とても長く鋭く伸びて、やがて彼女が手にしたそれは、

 鉄色に冷たく光る、斬首鎌(キルマーク)



「ああ、そうさ。俺は……俺という存在は……、お前に書かれた創作(フィクション)……だったんだ」

 道理で、と語り部は首肯する。

 自分が創作(フィクション)かも知れねえ、ってのに、こいつ。

 俺と初めて会ったとき、眉ひとつ、動かさなかった。

 俺に恐怖心を抱いてなかったのも、

 俺の言葉を黙って聞いていたのも、

 全部、全部お前の――

「ひとり芝居だった、って……訳かよ……」

 その言葉を最期に、語り部は動かなくなった。

 その顔は自分の命が散る瞬間でさえ、人を小馬鹿にしたような、笑顔のままだった。


 語り部を突き刺す前に、彼女は彼に語っていた。

 すべての真相を。

 語り部という存在の起源が、元々どこにあったのかを。


 語り部の立てた推論は、そこまでであればほぼ完璧といってよい出来栄えだった。

 元に杉崎良哉は、語られなかった第五章で、貯め込んだストレスを発散することができず教室で暴れ、クラスメートに怪我をさせたことすらあったのだ。

 彼は学校お抱えの心療医のもとでカウンセリングを受け、一か月の間、停学処分にされた。

 謹慎が解け、怪我をさせた児童に謝った彼は、担任の進めで文芸部に入った。

 彼が文芸部にいたことは、《幕間》にてヒントが示されている。


『「あのなぁ」

深々ため息なんかつきながら、彼は手を止め、頭をぼりぼりとかきむしった。

「二週間くらい前からだよ。冒頭は、お前が文芸部をやめるとこだ。分娩室のシーンなんてどこが面白ぇんだよ。自伝じゃあるめえし」』


 この部分からも分かる通り、一年後、自殺する寸前に、彼は文芸部を辞めている。

 これこそが、杉崎良哉の心を抉った、大事件だった。

 彼は文芸部に入っても、なかなか周囲となじむことができずにいた。ただ、文章を書くことには、幾ばくかの興味を持ったようだった。

 最初は喜劇を書こうとしたのだが、御都合主義的な展開になってしまうのが気に入らず、悲劇を書くようになっていく。

 悲劇を書くことは、喜劇を書くことよりも彼の性に合っていた。自分が体験した出来事を元に、多くの短編や中編、ときには長編小説を書いていった。自分の受けた傷を、痛みを。主人公たちは容易く吸収し、受け止め、大いに泣いて、悲しんでくれた。それが、彼の心の慰めになった。彼を外界から守る、繭になってくれたのだ。

 そのうち、彼の小説には、特定の人物が一貫して登場するようになった。

 それが語り部と、リベルタである。

 彼は悲劇を書くことに喜びを見出していたが、

 同時に、自らの分身である主人公を幸せにしてやりたい、という願望も、捨てることができずにいた。

 だから、そんな図式を思いついた。

 自分の願望をふたつに分けて擬人化し、キャラクターとして、物語に登場させたのである。

 喜劇を書きたい語り部と、悲劇が見たいリベルタが、

 主人公の生死を巡り、論議を交わす物語。

 彼はその世界に没頭し、勉強の合間を見つけては、ふたりの論争小説を、殴りつけるようにして書いていった。

 ヒントはこの箇所だ。


『机の脇にはかさばるゲーム機とコントローラー、ノートパソコン、そしてステレオプレーヤーが鎮座している。全く、無駄な物にばっかり金を使って。遊ぶことしか頭にないのだろうか。暇さえあればヘッドホンでシャカシャカ音楽聞いて、ゲームやってマンガ読んでまったくいい御身分じゃないか。』


 彼が暇さえあればやっていたのは、ノートパソコンで小説を書くことであり、ゲームをしていた、というのは彼女の勝手な想像だ。


 とにもかくにも、彼は今までに書いた悲劇をも語り部とリベルタの論争素材とし、何作品もの小説を生み出していった。彼の幻想に住まうふたりの登場人物は、最初はぎこちなく拙かったその表情を次第に彩り豊かに染め上げはじめ、生き生きと躍動するようになっていった。

 だが、どんな珠玉の作品ができあがろうとも、彼はそれを誰にも見せようとはしなかった。

 それが、災いしてしまった。


 彼が入部してから一年ほどが過ぎ去って、

 担任教諭がこんなことを言い出した。


「今度学内で小説のコンクールをやるらしいんだが、卒業前の最後くらい、作品を投稿してみないか」


 文芸部の顧問でもあった良哉の担任教諭は、彼が小説を書いていることを知っていた。小説の技法について杉崎良哉に最初の手ほどきをしたのは、他ならぬそのひとだったのだから。

 彼は、杉崎良哉が恥ずかしがっていて、自分の作品を見せられないのだろう、と思っていた。どうせだからこの機会に良哉に発破をかけ、あわよくば自分も、その作品を見てみよう、とも。

 彼は最初こそその提案を遠慮したが、結局は担任教諭に押し切られる形で、コンクールに作品を提出することになった。くちでこそ気が進まないと言っていた彼だったが、自分の作品を見てもらうということに、まったく興味がない、というわけでは、やはりなかったのである。彼は苦笑いをしつつも悪い気はせず、なにより、書くということはどんな形であれ、彼にとっては楽しいことだったのだ。杉崎良哉は家に帰って部屋にこもり、夢中で筆を走らせた。


 コンクールの話を聞いたあと、彼は図書室で忘れ物を見つけたことがあった。良識のあった彼はそれを放っておくことも盗むこともしなかった。どうやら女生徒のものらしい、ファンシーなデザインのそれを、彼は周りに持ち主がいないことを確かめ、教員室まで持っていった。


 それが、まずかった。


 コンクールの結果を知って、彼は正直驚きの言葉を隠せなかった。予想すらしていなかった。まさか、自分の書いた作品が人に認められるなんて。


 彼は素直に嬉しいと感じたが、同時に手放しで喜ぶのも躊躇われ、ただ、彼に結果を伝えにきた担任教諭にひとこと、ありがとうございます、と呟いた。

 

 そうさ、彼は悪くない。

 ただ、運が悪かった。

 これはそういう話。


 学内コンクールが過ぎ去って、一位から三位までの作品が掲載された冊子が配られた。

 佳作までに選ばれた生徒にはささやかな景品が配られ、一時的にクラスの話題にもなった。

 だが、すぐに話題はシフトする。

『杉崎良哉の盗作疑惑』へと。


 抗議の声を最初に教員室まで届けたのは、とあるひとりの女生徒だった。内容は、自分の書いた作品と、良哉の書いた作品が似ている、というもの。

 彼女はコンクールに向けて作品を書いていたのだが、どうやらデータ端末を紛失してしまい、バックアップもとっていなかったので、コンクールに出展することができなかったらしい。


 そして、彼女のデータ端末の入った筆箱を教員室に届けたのが、他ならぬ杉崎良哉だったのだ。


 教員たちはこぞって彼女の作品と良哉の作品を見比べ、難しい顔をして唸った。そのふたつの作品は、似ているとも似ていないとも言えたし、なにより、コンクールの受賞者が盗作をしていたなんてことを、ちょっと読んだだけの簡単な判断で認めるわけにはいかなかったからである。

 だが、教員たちのそんな対応に憤りを感じた女生徒は、クラスでその話を言いふらしてまわった。杉崎良哉は自分の作品を盗んだのだと。コンクールの受賞者は、本当は自分だったのだと。


 杉崎良哉はそれを聞き、絶句した。

 自分が作品を盗んだって?

 そんなわけがないじゃないか。

 だってぼくは、彼らの作品を、ずっと書いてきていたんだぞ?


 彼に向けられた視線は、羨望のものから好奇のものへ、あるいは嫌疑のものへと変わった。


 中には馬鹿にして、彼の作品をおどけながら読んだり、杉崎自身に『パクッたの?』と聞いてくるような輩もいた。好奇の目線に耐えられなくなった彼は、彼女のいる教室へと足を向けた。自分は作品を盗んでなどいない。そう弁解するために。


 しかし、教室に入ってきた彼を見て、彼女がしたのは悲鳴を上げることだった。

 以前、彼が暴れてクラスメートに怪我をさせたことを、彼女たちは忘れていなかったのである。

 彼女は彼から逃げるように教室から出ていき、勘違いをした体育教諭が、杉崎良哉をつまみだした。

 それから耳に入ってきた言葉は、すべて彼を捕えることなく、何の感覚も残さずにすり抜けていった。

 自分だけが重い粘性の液体の中に放り込まれたかのように、すべての音がくぐもって聞こえた。


 江川さん、泣いてたよ。

 俺、パクリってよくないと思います。

 魔が刺したってやつ?

 後でちゃんと謝っておいた方がいいよ。


 違う。

 知らない。

 ぼくは盗作なんかしてない。

 なんの根拠があってそんなこと言うんだ。


 そりゃあね、ちょっと被っちゃうくらいは仕方ないよ。

 でもあれはいくらなんでもね。

 そうそう。

 ストーリーとか、超ソックリだったよね。


 違うんだ。

 知らないって言ってるじゃないか。

 盗んでないって言ってるじゃないか。

 なんでぼくが盗作なんかするんだよ。


 あ、出たよ。

 泣き落とし?

 見苦しいとか思わないわけ?

 さっさと謝っちゃえって。


 杉崎良哉は、足の力が抜けていくのを感じた。


 うそだろ。

 だってこの物語は、ぼくが一番好きな場所で。

 ぼくが唯一、楽しいと思える場所なはずで。

 語り部がいて。

 リベルタがいて。

 今日もふたりに討論をさせて、楽しく彼らの物語を書いて過ごすはずの、ぼくの――


 けたけた、けたけた。

 笑い声が聞こえる。

 みんなが笑う声がする。

 みんなは真っ黒になってどろどろに溶けていく。

 ぐちゃっ、と。滴った身体が、溶けて、混ざって。

 それらはのろのろと一か所に集まっていき、濁った声で嗤う、醜悪な獣になった。


 あ。

 ああ、あああ。

 やめろ。

 わらうな。

 だまれ。

 やめろ。

 やめろやめろやめろ――



 そして一週間後、杉崎良哉は文芸部を辞めた。


 それは自分の大好きな世界だった。

 自分だけが構築できる楽園だった。

 それを書いている時だけが、彼の至福の時だった。

 なのに。

 それなのに。


 書けなかった。

 手が動かなかった。

 キーを叩こうとすると、嘲笑する声が頭をかすめた。


 嫌だった。

 自分の世界を壊された気がした。

 今後ぼくが何を書いても、

 それを見ている人にとっては、

 盗作で、偽物で、汚らしいもので。


 だから、彼は思いついた。

 とってもいいことを思いついた。


 自分の生死を巡って、ふたりの物語を書こう。

 ふたりの物語の中に、自分を閉じ込めてしまおう。

 そうすれば、誰も似ているなんて言わない。

 誰もぼくの小説を邪魔なんかしない。


 うけけけけ。

 それはきっと楽しいよ。

 

 げらげらげら。

 二度と戻りたくなくなるよ。


「そう、それが貴方の死の真相」

「……その声……リベルタ……?」

 甲高い嗤い声を聞き、振り返る。

 全身純白の死神は、

 腰に手を当て、月を背に、舞台の淵に立っていた。

「正常な精神活動ができなくなった貴方は、母親が常用していた睡眠薬を大量摂取し、永遠の夢の世界へ、つまり、私達が戯れる創作の世界へと身を投げ、息絶えた。

 これが真相よ。文句があるなら言ってみな?」


 ぼくは、それを見てなにを考えたんだろう。

 だって、これは、ぼくが書いた結末だ。

 いま、この瞬間の、この場面だって。

 実はぼくがそうなるように書きこんだ、フェイク。

 黒い鉛と白い紙で、書き留められた疑似空間。

 結局全部マッチポンプっていうか予定調和っていうか、言ってる意味、わかるかな?


 だから結末は知ってるよ。

 最終的に、ぼくが死ぬんだ。

 当たり前じゃないか。

 こうなるように書いたのは、ぼくなんだから。

 知ってて当然。

 そうだろう?


 言ったじゃないか。

 ぼくは現実を見限ったって。

 こんな世界はうんざりなんだ。

 つまらないんだよ。

 なにをしていても。

 どこにいても。

 生きている意味なんて、

 どこにもありはしないじゃないか。

 なんでぼくは生きてるんだよ。

 なにがしたくて、

 こんなところにいつまでもいつまでも。

 大嫌いだ。

 みんな、全部、どいつもこいつも。


 ほら、これが結末だよ。

 リベルタが勝った。

 語り部が負けた。

 もう、ぼくは、これでいいんだ。

 だから、文句なんて、

 そんなものあるわけが―――


「文句なら……、あるぜ……」

 呟きが聞こえて、ぼくは顔をあげた。

 ふと、視線を投げれば、

 語り部が自分の胸から鎌を引き抜くところだった。

「そんな、だって君はもう……」

 放り投げられた斬首鎌が、高々と金属音を奏でる中、彼はゆっくりと立ち上がり、ぼくに向って笑いかける。

「聞こえたか、リベルタさんよ。文句なら、あるっつってんだ」

「へえ、まだ生きてたんだ。紛い物のストーリーテラーさま。因みにそれは、どういった文句でございますか?」

 彼は血を滴らせながら、大きく息を吸い込んだ。

「俺はこう主張するぜ。さっきてめえは、こう言ったよな。

 杉崎良哉は、母親が常用していた睡眠薬を大量摂取し、『息絶えた』ってよ。

 ハッ、笑わせんな。間違いも間違い、大間違いだぜ」

 くちから血の混じった唾を吐き、うけけけけ、と笑い転げる語り部に、リベルタは、怒りのこもった目線を投げる。

「大間違い? それはどういう意味?」

「説明を要求する、ってか? いいぜ、言ってやんよ」

 語り部はリベルタを指さし、高らかに宣言した。


「杉崎良哉は息絶えてねえッ! まだ、生きてるぜッ!」


 聞いて、リベルタは呆気にとられた。

「はあ? あんた、頭沸いちゃってんじゃない? 何を言い出すかと思えばトんだ世迷ごとね!

 状況はなにも変わってねえよ! 心配しなくても、すぐに殺してやるさ! てめえがくたばった後で、ゆっくりな!」

 聞いて、語り部はやれやれ、と首を振った。

「は、テンプレートな台詞だな、リベルタ。悪いけどそれ、死亡フラグだぜ?」

 語り部は次に、ぼくを指さした。

「状況は変わってねえっつったけどな。ところがどっこい大違いなんだよ。

 こいつがまだ生きてるってことは、俺の勝利条件はまだ満たせる、ってことだからな」

 語り部の台詞を聞いて、リベルタはこれ見よがしに顔を歪めた。

「あんたまだそんなこと言ってんの? そんなもん時間切れよ。時間切れ。

 あんたさっき私に負けたじゃないのよ。忘れたの?」

「てめえこそ忘れたのか? 俺の敗北条件は、『てめえが提示した方法がすべて失敗に終わった場合、または、良哉の自殺原因が分からなかった場合』だぜ?」

「お、覚えてるに決まってんでしょ!? だからあんたは、自殺の原因が分からずに、私に無様に殺されたんじゃ……」

「お生憎様だぜ、リベルタさんよ。良哉の自殺原因だったら、どっかのバカな死神様が、俺の耳元で囁いてくれたよ」

「なっ……!」

 ふ、と語り部は心から笑う。

 ストーリーテラーが用意してくれた、

 自分の好敵手に向けて。

「それにそいつはこうも言っていた。

『其の一、自殺以外の選択肢を提示し、主人公にそれを選択させること。

 其の弐、自殺原因を究明し、打破する方法を示すこと。

 其の参、自殺することのデメリットを指摘し、思いとどまってもらうこと。』

 これらのうち、いずれかが達成されれば、そのときは俺の勝ちだってな!」

「だ、だからなんだって言うのよ!」

「そう、だから、この勝負は、俺の勝ちだ」

「……、ま……まさか。できるっていうの? そいつを、杉崎良哉を説得することが」

「ああ。勿論だ。最初っから、俺にできるのはこの方法だけだったんだ」

 そう言って語り部は、ぼくに向き直る。

「ちょっとなにする気!? まさかあなた……ッ!」

「方法としては、『其の参』になるのかな?」

 何かに気づいたようなリベルタが、高速で飛来する。タイルに転がっていたはずの斬首鎌はいつのまにか彼女の左手に握られていて、数瞬後には語り部ごと、ぼくのことを切り裂くだろう。

 だが、そんな彼女の接近よりも、

 彼の言葉の方が、何百倍も速かった。

「お前が自殺すると、俺達のことが書けなくなるぜ」

「――っ」

 そこで、『俺達』と言ったのは打算か誤算か。

 それを聞いたリベルタの速度が、とたんに低下する。

 だからもう、間に合うはずもない。

「だから死んだりすんじゃねえよ」

 


 月。

 ただ真円を描く、満月。

 空に投げられた視線に映るのは、真っ白に光るそんな月だけだった。他にはなにも見えない。なにも、見る必要はない。

 ぼくの隣に腰かけた語り部は、こんなことを話してくれた。

「お前が書いてた中で、俺が好きだった話はな……」

 彼が言ったタイトルは、ぼくが自ら、御都合主義だと切り捨てた喜劇。

 いじめられっこの主人公のもとに、本の中から友達が現れて、綺麗なボタンを貰う代わりに、彼を救ってくれるというお話。

「俺が気に入ってるのは、話のラストなんだ」

 月日は経って、友達は本の中に帰らなければいけなくなり、主人公は彼と一緒にお別れパーティーをする。

 友達は去り際、主人公にプレゼントの箱を渡して、本の中へと消えてしまう。取り残された主人公が箱を開けてみると、中には自分が渡した筈の、綺麗なボタンと手紙が入っていた。

 手紙の内容はこうだ。

 ボタンなんてただの口実で、本当はぼく、ただ友達が欲しかっただけなんだ。

「お前があの話を消去した日、ベッドの中でなんて言って泣いたか覚えてるか?」


 こんなこと起こるわけがない。

 こんなもの、御都合主義の妄想だ。

 

「でもな、俺はあの話が、お前が書いた話の中で一番好きだぜ」

 語り部は自分の帽子を脱いで、それを、ぼくの頭に載せた。

「自分の物語なんてな、自分で書かなきゃ、意味ねえだろ。泣くんじゃねえよ。心配すんな。

 俺も、あいつも、お前の中に、ちゃーんといるからよ」

 彼が行けというから、ぼくは立ち上がって歩き出す。

 絶対に振りかえらないと、絶対に負けるもんかと、拳を強く、握りしめながら。


 うけけけけ。


 その声は確かに、今回だけは人数分、ちゃんと聞こえた。

 だからはっきりと言える。そこにいるふたりの登場人物を。

 世界に意味を与えたいなら、必要なキャラクターはたったふたりだけ。

 そう。



語り部と、ぼくだ。



【完】


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