伏見千里の穏やかな朝(プロローグ)
突発的に描いた作品です。連作短編。基本一話完結なので、疲れずにフラ~っと読めると思います。
伏見千里
血液型O型、身長170、体重60手前
家族構成:父・母・妹
徒歩十分の距離にある私立高校に在学中。成績は中の上で、容姿の方はまあ普通だと思ういや思いたい。
そんな僕がこれから何を話すのかと問われれば、それはまあ、なんだろう?
ああ、やっぱり好きな食べ物とか特技とかかな。お見合いみたいで尚且つありきたりだけど。
でも時間がないから、今回は特技だけにしておこうか。まあ、それすら需要があるのかは怪しいけどね。
それじゃあ言うよ。
僕の特技──もとい、体質はね?
「まだらー、朝ご飯できたよー」
朝の七時。おおよそ学生ならば行動を開始しているであろう時間帯。僕は缶詰の蓋との苦闘を終えると、日課のごとくその名を呼ぶ。
それにしても、深爪の状態で缶詰を開けようとするものじゃない。おかげで痛みのあまり、いい年した男子高校生が朝っぱらから蹲って床を転がるという奇行に走ってしまったのだから。
「まだらー?」
ふーふー、と息を吹きかけて指を労わりながら、一向に誰も降りてこないことに首を傾げる。僕はリビングから廊下に出て、さらに二階へ上がる階段の方へと顔を除かせた。
と、その時、
「千里、邪魔だ」
「うわっ!?」
白黒斑模様の物体が、僕の頭上を跨いだ。
しかしながら、綺麗な放物線を描き、しなやかな四肢を以ってフローリングの床に着地したそれは次の瞬間──とてとて、と可愛らしい足音を立ててリビングに消えてゆく。
初めのうちは呆然と立ち尽くしていた僕も、今日が平日だということを思い出すとそうゆっくりはしていられない。ひいては、友人の食事を急かすことさえ厭わないのだ。
「まだら、早く食べてね」
「…………」
しかし返事は返ってこず。見やればつい先ほど開けたばかりの缶詰を前に、まだらは口もつけずにじっとしている。
が、やがてぽつりと声を漏らした。
「おい。千里、お前いい加減にしろよ」
白黒の斑猫は、そうどんよりとした声で訴える。がしかし、僕だって毎回こんなのには付き合っていられない為、ここは毅然とした態度で接しなければっ(拳を握って)。
「だからこの間から缶詰の中身、ちょくちょく変えてるだろ?」
「それで出てきたのがサバの味噌煮だろうが! 塩分考えろ! 殺す気か!?」
「うん、だから今日は反省した」
「……よし、千里。お前これ、商品名を言ってみろ」
なんだかわけの分からないことを言われてる気がする。だけど反抗するとまた面倒なことになりそうだから、ここは大人しく従っておくべきだろう。
「え? コンビーフじゃないの?」
「お前もう俺のこと嫌いだろ!? 殺る気満々だろ!? なんだコンビーフって。脱線の域を超えて前提が大破してんじゃねぇか!」
「はいキャットフード」
「特に悪びれた様子もなく!?」
いや、僕としてはリアクションが面白くてからかってただけで、最初からこっちを出すつもりだったんだけどね。
(まあいいや、まだらだし)
「ちょっ、無視か!? 千里、お前ちょっと待て!」
何やら後ろの方が騒がしい気もするが、きっとそれは幻聴なので構わずキッチンからリビングへと視線を移す。朝の時間も残り少ないことだし、やるべきことはまだまだあるのだ。
「まだらさんが可哀想ですよ。あんまりイジメないであげてください」
そんなこんなで例のコンビーフの処理に思考を巡らせていると、今度は柔和な声音が足元から聞こえてきた。
「ああ、おはよう。千起きたんだね」
紺色の絨毯で僕を見上げているのは柴犬、それも白柴の千である。愛くるしさと優しさと忠誠心を搭載した究極の癒し系生物は、今日も今日とて絨毯の上にちょこんと座り小型犬の武器をいかんなく発揮していた。
「ちょっ、ご主人、撫ですぎですっ。毛が抜けますって! 骨格が変わるレベルですよこれ!?」
つまるところ、超可愛いのだ。
「だってまだらは撫でさせてくれないんだもん」
「そりゃあ毎回こんなのやられたくないですからねぇ!」
僕的には正論をかざしてこのまま論議に発展するつもりだったのだが、実にあっさりと一蹴されてしまった。どうしよう、これじゃ家主としての威厳が保てない。
かといって撫でるのを止めるのも嫌なので、物は試し、僕は千の鼻先にもう片方の手を突き出してみる。ついでに満面の笑みも付加で。
「ねえ、このコンビーフどうしたらいいかな?」
「知りませんよ!? ボケの後始末を犬に訊かないでください!」
「………………食べる?」
「やること成すこと自由ですか?! 食べますけど! いや普通に食べるんですけども!?」
どうしようなんかキレてる。怖い、現代動物凄く怖い。
しかしながら未だに喚いているまだらによって退路は完全に断たれている為、仕方がないコンビーフを床に置いてとっとと学校に行ってしまおうか。なんか叫び声が二倍になっている気がするけど、きっとそれはオカルトとかそういった領域の話なので僕には関係ないはずだ。
さて。帰りに御札でも買ってこようかなぁ、などとぼやいていると、いつの間にか家を出なければいけない時間になっている。
「十二星座占い見忘れちゃったなぁ。ここ数日で二位以外の順位が当たってたから、折角だからコンプリートしたかったのに」
「ご主人、それなんか違います」
「一般人とのズレの度合いが欠陥住宅の骨組みのそれだな」
おお、復活している。ともすればまた不満を漏らしそうなものだが、まだらも千もお腹が減っていたのかそのつもりはないようだ。どことなく疲労の垣間見える声音で『いってらっしゃい』とハモると、それきり自分たちの朝食のもとへと向かってしまった。
「ふう……」
鞄を片手に玄関へ。靴の中に足を突っ込んで、踵の部分はつま先で土間を叩いて直す。次いでもう片方も同様に……と。
「じゃあ、四時ぐらいには戻るから」
二匹の声を背中越しに感じながら、僕は玄関のドアを開ける。四月初旬の外気はまだまだ冷たく、表皮を撫でる風は少しばかり辛い。眠気が残る体には遅行性の毒のようだった。
けど、学生の僕は歩を進める。今日もまた、何の変哲もなく他愛もない日常へと歩を進める。
だから僕はいつものように、ドアが閉まりきる前にこう言うのだ。
「行ってきます」
伏見千里。
血液型O型、身長170、体重60手前。
家族構成、『父・母・妹』。
徒歩十分の距離にある私立高校に在学中。成績は中の上で、容姿の方はまあ普通だと思ういや思いたい。
そんな僕がこれから何を話すのかと問われれば、それはまあ、なんだろう?
ああ、やっぱり好きな食べ物とか特技とかかな。お見合いみたいで尚且つありきたりだけど。
でも時間がないから、今回は特技だけにしておこうか。まあ、それすら需要があるのかは怪しいけどね。
それじゃあ言うよ。
僕の特技──もとい、体質はね?
ヒーローもヒロインも勇者も魔王も世界の滅亡も救世主も度の過ぎた異常も別次元的な非日常もないこの世界で、
(今のところ)唯一、動物と話ができる高校生なんだよ。
面白かったでしょうか? こういうのは書いたことがなかったので心配ですが、何かしらの感想を抱いてもらえたら幸いです。