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泡沫  作者: 舘山 悠
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プロローグ


 那覇空港に降り立った旅客機から出てきたのは、観光帰りの顔が多かった。どれも旅先での想い出をいくつも表情に貼り付けたままだ。その中に一人紛れる、美谷(みたに) 拓哉(たくや)は黒のスーツを背負うように物憂げに着ていた。

 自動ドアを開けて外へ出ると、もう11月も中旬だと言うのに、暑さは続いていた。温暖な気候の沖縄では、12月でもTシャツ一枚で外を出歩く人の姿が見れる。

 腕時計に目をやると、まだ昼の12時前だった。陽はもう頭上高く昇り、黒く固められたアスファルトをこれほどかとまでに照らしていた。遠くには陽炎まで見える。

 「暑いな」

 誰に言うでもなく口をついて出た言葉は、実に3日ぶりだった。

 あれから、あの女性が自分の思っている人物だったのではないかという妙な期待と言い表せないような鬱屈したものが彼の中にこびりついたままだったので、ホテルをチェックアウトした今朝も、言葉ひとつ出なかった。


 また、今まで通りの生活に戻るのだ。それだけなんだ。


 無理やりそう言い聞かせて顔を上げると、高校2年以来の腐れ縁の友人、知念(ちねん) 高雄(たかお)が道の向こうで手を振っていた。右に左にキョロキョロすると、彼は小走りで車道をこちらに渡ってきた。

 「どうだったば!?久々の想い出ツアーは」

 沖縄独特のイントネーションが、少し心地よく感じられた。知念は、美谷が中学3年の時、沖縄に越して来て以来約10年近くも親しい関係を続けていた。

 「楽しかったよ。仕事は?」

 「大した事も無いし、順調さぁ」

 知念とは、職場まで同じだった。高校は同じ普通校に通い、大学でこそ専攻が分かれたが、互いに知ってか知らずか、同じIT関係の仕事を目指し、同じ職場に就職していた。

 互いの合否を聴くまでは就職先の話はしない、と決めていたのだが、同じだと言う事を知った途端、二人して腹を抱えて笑ったのを思い出す。


 ここが故郷で、ここが再出発の場所。美谷は沖縄を人一倍特別に感じていた。


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