其の九十〇「猛霊注意」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
「猛霊注意」という看板が立てられている場所がどこかにあるという話を
聞いたことはありますか?
猛霊注意。この言葉を聞いたとき、
まるで家の門に貼ってある“猛犬注意”の札のようだな、というのが最初の感想でした。
「そんな冗談のような看板、本当にあるの?」と。
でも、この話を最後まで聞いた私は、
その結末の曖昧さに背筋をゾゾゾとさせていました。
これはそんなお話です。
◇◆◇
ネットのある投稿がきっかけで、何の変哲もない場所が
“心霊スポット”として有名になってしまった。
それ以来、心霊マニアや怖いもの見たさの若者たちが夜な夜な押し寄せ、
静かな町はすっかり騒がしくなった。
深夜の奇声、ゴミの放置、無断侵入。
周辺住民はすっかり疲れ果て、ついには町内会で対策会議が開かれるほどだった。
「どうにかして来なくさせられないだろうか」
「警察を呼んでもイタチごっこだしなあ」
さまざまな意見が飛び交う中、ある住民が冗談交じりに提案した。
「“猛霊注意”って看板を立ててみたらどうだ?」
“猛霊注意”――ここにはとても怖い幽霊がいるぞ、という“猛犬注意”のもじりだ。
会議の参加者が思わずドッと笑った冗談半分の案だったが、
他に妙案もなく、試しに設置してみることになった。
翌週、その場所の入口に真新しい看板が立った。
黒地に赤い文字で大きく書かれた「猛霊注意」。
その下には、誰が描いたのか分からない、妙に歪んだ顔のイラストが添えられていた。
すると不思議なことに、それから数日で心霊マニアたちの姿がぱたりと消えた。
若者たちも来なくなり、町には久しぶりに静けさが戻った。
「冗談半分だったのに、えらく効果があったなあ」
住民たちは胸を撫で下ろし、この看板を提案した住民を褒めた。
だが――その後、ネットでは別の噂が囁かれ始めた。
「あの場所、マジでヤバイらしい」
「“猛霊”って、本当にヤバイ霊が出るって意味だってよ」
「地元の人も絶対に近づかないらしい。マジ怖い」
住民たちは苦笑した。
「いやいや、あれはこっちが考えた作戦で……」
しかし、ひとつだけ気になることがあった。
看板を立てた翌日から、
誰もあの“歪んだ顔のイラスト”を描いた覚えがないと言い出したのだ。
そして夜になると、看板の前を通るたび、
そのイラストの口元が、ほんの少しだけ“ニヤリ”と吊り上がっているように見えるという。
――ここは本当にヤバイ場所なのか。
それとも、あの猛霊注意の看板がこの場所に“何か”を呼んでしまったのか。
◇◆◇
まるで幽霊が先か、看板が先か。
あるいは、嘘から出たまことなのか。
ただひとつ注意すべきは、
真実がどうであれ「猛霊注意」という看板を見つけたら、近づかない方がいいということ。
この話、本当かどうかはわかりませんが、私はそう思います。




