あなたは、きっと異世界に行った
異世界に行ったかもしれない『彼』の話。
『彼は、本当に本が好きで』
校長先生が、ただ淡々と事実を述べる。
そこに、感情はない。
『彼』についての事実を、機械みたいに言う。
べらべら、と。
皆は、悲しそうな顔をしている。
本当は悲しくないのに、非難されないために、必死に演じている。
避けていたのに、『あの人』を。
本が好きだから、それだけの理由で。
私、私は、
『僕はね、異世界に行くんだ』
「異世界?」
「そう、異世界。
こことは違う世界、君も、僕も、受け入れられる。睡眠みたいに、あって当然、むしろいないと困る、そんな感じで」
面白い例えだ、今の私もそう思う。
私たちは、学校の図書室で、本を読んでいた。
昼休みと、放課後に。
2人だけの世界、若者の読書離れで誰も近寄らない。
雑談はたまに、けど黙って読むのが主だった。
「異世界は、きっと、楽しい所なんだ」
「やけに、今日は異世界に、こだわるね」
「だって、だってさ」
「こんな、読書が嫌われる世界だけじゃ、つまらないじゃないか。きっと、異世界があるんだ」
あくまで、笑顔で、『彼』は言った。
「僕は、ふっと、いなくなる。異世界に行ったって思ってくれ、楽しく、美しい異世界に行ったと」
『この人』はいる。
目を閉じて、眠るように、縦長の箱に入れられている。周りには花束、機械みたいな校長先生や、嫌っていた同級生たちが、 必死に悲しいピエロを演じながら、花束を入れた。
どうせ、後で『数ヶ月後には高校受験なのに~!』て、下衆な猿みたいに顔を赤くしながら、言うのだろう。
私も、入れた。
でも、信じている。
『彼は異世界に行ったのだ』
『この目の前にある体は脱け殻なんだ』
信じる限り、救われる。
なら、私も『そっち』に行くまで信じよう。
ありがとうございました。




