プロローグ
ちょっと短い上に見切り発車だけど投下。
異世界で愛の話をするんだから異世界恋愛だよなぁ!?(強弁)
「あのさぁー、この子、もう要らないの? ただちょっと汚されただけじゃん、ねぇ?」
全ての門戸が閉ざされた村の外れ、雨の降り頻る中に青年と少女はいる。
少女の額には生き神様の証たる第三の目の化粧。
しかしその化粧は既に薄れて汚れている。もう誰も少女の額に瞳を見出しはしないだろう。
「ちょっとさぁ、小鬼に攫われて孕まされただけじゃん? 俺の友達が元に戻したぜ? ……ちょっと心の方は、ほら、アレだけどさぁ」
少女の本来の瞳に光はない、ただ繋いだ青年の手に縋り付くように立っている。
「お前らのせいなのに? こいつの乗ってる馬車を荷物持ちの俺ごと見捨てて逃げたせいなのに? なぁ、それはよう、理不尽ってやつだろ?」
がりがり、がりがりと青年は頭を掻く、ぎらついた濁った目に浮かぶのは憎悪の芽だ。
「100歩譲ってそれは赦すよ、この子も、リタもそこは赦したんだ、でも、これはちがうだろ」
神ではなくなり、用済みになった少女の手を取り、青年は一つだけでも開いた門戸はないかと歩き回る。
村の中はとても静かで、まるで少女に見つかるのを恐れているかのようだ。
「これは、ちがうだろ」
ぎゅっと少女の手を握った。
「リタを捨てるお前らも、理不尽を与えた世界も、それを全部全部赦す代わりに心を手放したリタも、全部、クソ喰らえだ」
――だから青年は全てを呪うことにした。
――――――――――――――――――――
息を切らした少年は森の中を走る。
傭兵団の養い子たる少年は、ある村で小さな恋をした。
赤い髪の毛を三つ編みにして太陽のように笑う宿屋の娘は、荒くれ者たちの集まりである傭兵団にも怯えなかった。
少年の思う『女の子』は臭い、汚い、声が大きい生き物である傭兵団の家族たちに怯え、時には嫌悪して遠くから見る生き物だったから、なんら嫌な顔をせず、むしろどやしつけるように裏庭の井戸に案内し石鹸と布を売り付ける少女の姿を、なんとなく良いなと思ったのだ。
でも少年は傭兵団の養い子だ、剣を磨いて、飯の準備の手伝いをして、戦場を渡り歩いて生きていく存在だ。
なので当然少女ともすぐ別れることになると、淡い恋心を無視してその日も眠りについたのだ。
――この世界はそこそこ詰んでいる。世界に未開地は多く、未開地には魔物が闊歩している。
人類と敵対する魔族と、魔族が使役する魔物と戦うのに人類全てが必死で、人権なんて言葉は存在していない。
貴族以外を殺しても、裁かれる罪は殺人ではなく(貴族の)財産を損なったとする器物損壊の概念が近い。
そんな世界だから、当然のように理不尽は訪れる。
ぐっすり眠っていた少年が目を覚ますと、村は魔族に襲われていた。
傭兵団のみんなはいつの間にか全員殺されていて、泣く暇もなく外に転がり出ると、村の広間では狂宴が行われていた。
魔族が村民を喰らうように魔物に命令している。
食われる子供を見て大人が泣き叫ぶ。
それを見て魔族は赤いグラスを傾ける。
あぁ、このような世界を遠ざけるためにみんなは戦っていたのか、と少年は何処か遠い心で思った。
冷たい心が「あの子はどこ?」と叫んだ。
ふらふらと視線を彷徨わせる、少しだけ、違和感に気付いた。
よく見ると村人が魔物の後ろと前で分かれているのだ。
魔物の後ろに立つ村人はどこかホッとした顔を罪悪感で曇らせていて、魔物の前にいる狂宴の犠牲者達はその後ろの村人達に何かを叫んでいた。
なんとなく事情を推察しつつも、そんなことはどうでもいいと思考を止めた少年は少女を見つけた。
少女は犠牲者の方にいた、それだけ見れば十分だと少年は森の中に走り出す。
家族を亡くした少年はどうせこのままだと野垂れ死ぬしかない、ただの孤児を養えるような余裕と幸運に出会えると少年は思わなかった。
だから少年は別の幸運に賭けた、たとえば、夜の森の中でも動けるような、圧倒的な強者に出会い、助けを求めるとか。
「――お、子供だぁ、何? また村でも焼かれた?」
そして一生分の幸運を使い果たし、少年は化け物に見つかった。




