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最終話 悪夢

最終話 悪夢


僕は夜道を走っている。制服はもう汗でぐしょぐしょで、でもそんなのお構い無しに、さらにスピードを上げる。

指定された病院は、ひとつ山を超えた向こうの都市部だった。距離は確かに遠い。でも、止まる事なんて出来ない。

悔しさで、歯を噛み締める。途端に、微かな血の味が僕の口の中に広がる。両側は真っ暗な闇で、落ちてしまったらもう戻れないじゃないかと錯覚する程、深かった。

ふと、妙な既視感に襲われる。何処かで、この光景を見た事がある。何処かで。

ダメだ。余計な事は考えるな。今は、まず父さんのことに集中しないと。なのに。僕は見てしまったのだ。因縁深い、アイツを。

「な、何で…」

思わず口に出てしまう。何でアイツがここにいるんだ。だって、アイツは、アイツは…夢に出てくるんじゃ無いのか?

遠くの電灯の下に、黙って佇む黒い影。黒いフードを被っていて、顔は全くと言っていいほど見えない。

僕は思わず後ずさる。これは、夢なのか?今、僕が見ているのは夢なのか?これが終わったら、朝また普通に目覚めて、父さんに挨拶して、学校に行って、友達と喋って――

頬をつねる。でも、ただ痛いだけ。僕はいつ寝てしまったんだ?さっき大輔達と山で気付かないうちに寝てしまったのか?それとも、家に帰った時か?もしくは……最初から、全部夢だったのか?

頭が混乱する。嫌だ。これが夢なんて、絶対に嫌だ。だって、だって、久しぶりに、父さんって呼べたんだ。僕達はまだ、やり直せる。そう信じていたのに、それが全て夢だったなんて、認められるはずがない。

ゆっくりと歩を進める。大丈夫だ。アイツは、ただの道に迷った一般人か何かだ。夢に出てくる奴とは関係ない。

ビクビクする体を引きずる。勇気を出せ。だってただ通るだけだ。僕が何かする訳ではない。

10メートル…5メートル…1メートル。その黒い濁った目――違う。これは、アイツの目じゃない。お前は、誰だ?

「まんまと、騙されてくれたね」

「………」

僕は絶句して、言葉が出ない。

「良く考えてみなよ。土砂崩れで、今向こうへは行けないのに、どうやって病院まで運んだんだい?」

僕は気づく。確かにそんな事はありえない。でも、じゃあ、父さんはどこに?

「今、そんな事気にしている場合かい?」

「父さんを…どこへやったんだ」

僕は言葉を続けようとして、躊躇う。もはや、全てが夢であって欲しかった。父さんとの和解は、また、起きてからやり直せばいい。だから、この聞き覚えのある声が、何度も聞いた声が、アイツであって、欲しく無かった。

「なあ…大輔、なんだろ?お前」

「………」

彼はゆっくりとフードを取る。右手に持っている、キラリと輝く血のついたナイフが、僕の目をくらます。

「今更遅いさ、悠」

彼は少し呆れた様子で、僕に近づいて来る。

「でも、何で…こんな事」

僕は後ずさりながら、パニック状態の頭をどうにか回転させて、疑問を投げる。

「俺はね、悪魔と取引したんだ。それもとびっきりの奴と」

「あ、悪魔?」

「あぁ。ソイツが言うにはね、クラス全員分の魂を持ってくれば、両親を生き返させてあげるって言うんだよ。正直、僕は飛び上がる程嬉しかったね。」

「お前、何を言って…」

「でもね、一人一人俺が殺すのは不可能だ。だから、呪いの力を頼ることにした」

こいつは、今何を言っている?呪い?悪魔?そんなのが、実在するのか?

「高い買い物だったよ。なんせ、俺の寿命を支払った。後、一ヶ月とちょっとしかないらしい…でもね、夢の中の殺し屋。俺はソイツを雇って順繰りと殺していく予定だったんだが…」

ニヤッと邪悪な笑みを浮かべる。口角を限界まで上げているからか、筋肉が痙攣している。

「まさか、その前にお前ら人を殺すとは思わなかったよ‼︎物凄くいい方向に話がこじれてくれた。全く、人間ってのは何処まで最低なんだか…思わず笑っちゃったよ、あの時。体の震えが止まらなかった」

僕は、何も言わない。ただ、こいつを眼前に見据える。最早恐怖心はなかった。今考えている事。それは、親友を殺す事。ただそれだけ。まるで、悪夢のようなシチュエーションだ。

「大輔、僕はお前を殺す。いや、僕はそんな勇気はないのかもしれない。人を見殺しにする方が簡単だからね。でも、僕ってやらなきゃいけない時に、ちゃんとやるのが取り柄なんだ」

僕は震えながら息を吐く。正直怖い。殺すのも殺されるのも。でも、先へ進むには、やらなくちゃいけない事だ。

「最後に一つ教えてくれ。健斗は、お前が殺したのか?」

彼がキラッと、ベッタリと血のついたナイフを見せたのが合図になった。

大輔が僕に飛び掛かる。青白く嘲笑う月光を背に、刃先がまっすぐ僕の胸に飛んでくる。

僕は凡人だ。彼の手を華麗に受け止めて押し倒すなんて事はできない。

身体差は互角。なら、ナイフを持ってる方が有利だ。考えろ。どうにかしてあいつから、ナイフを奪う方法を。

僕は右腕をさする。今日、父さんを切りつけてしまった右手。罪深い、僕の右手。あぁ、丁度いいのがここにある。

僕は咄嗟にソレを前に突き出す。血と肉で出来た、僕の盾。

「―――‼︎」

大輔が思わずギョッとする。でも、刃は止まる事無く僕の右の掌に突き刺さる。

「くっそおおおお‼︎」

僕は顔を歪める。彼は思わず手からナイフを離していた。でも、まだだ。僕は突き刺さったナイフを抜く。健斗と、僕の血がついたナイフ。僕は手に馴染ませる様に軽く握って、大輔を見据える。

「ま、待てよ…お前にできる訳無いだろ、こんな事…」

僕は、飛び下がる時に無様にもひっくり返った大輔の上にのしかかって、刃を彼の首元に向ける。

「言っただろ。僕は、やるときゃやるんだって。ついていい嘘と、悪い嘘ってある様に、物事は大体、2面性を持ってる」

「……は?」

「だからね大輔。これは、やって良い殺しなんだ。そう思うとね、なんか気持ちが楽になってきたんだよ」

「や、やめ…」

僕は彼の顔をめがけてナイフを突き刺す。ガリっと何やら硬い感触がする。

「……僕ができる訳ないだろ。精々やれるのはここまでだよ」

僕はため息をつきながら、手を離す。ナイフは彼の顔のすぐ隣に刺さっていた。何なら、ちょっと顔を切ってしまったらしい。少量の血が、滴っていた。

彼は滑稽なことに泡を吹いて気絶していた。これで、全て終わった。今回は犠牲が大きすぎた。多分こいつは、殺されるべきなのだろう。

でも、今そんな事に構っている余裕はない。僕にはまだ、やる事が残っている。

「父さん、何処に行ったんだよ…」

この街にまだ居るはずだ。明け方迄には見つかるだろうか。

僕は若干青くなりつつある空を眺めてながら、これからの事を考える。いろんな事があった。かけがえのない友達をら失った。父さんでさえ、生きてるか分からない。

この世で、僕の事を覚えてくれている人はもういないかも知れない。そう思うと、途端に寂しくなった。

『俺は、寿命を支払ったんだ』

ふと大輔の言葉が蘇る。僕は瞬時に理解した。そうか、まだ終わってない。この呪いは、僕が死ぬまで続くんだ。

視界が、朦朧となって、立っているのがやっとだ。

「最後に、もっと話しておくんだったな…」

底知れない後悔が僕を襲う。やっぱり人間って愚かだ。失ってから初めてその価値に気づくなんて。







俺、鈴木大輔は、心底震えていた。コイツが、何を言っているのか分からない。

「お前、何を言って…」

悪魔が、指を刺しながら答える。

「だから、まだここに一人いるじゃないか」

悪魔はとことん悪魔だった。信用した、俺がはなから負けていたのだ。

俺は最低な人間だ。自分勝手な理由で人を殺した。それは分かってる。だから、俺も死ななくちゃいけない。

でも、一目でいい。一目、父さんと母さんを見るためだけに、ここまでやってきたのだ。屍の山を築いたのは俺だ。その屍さえ、無駄にしようと言うのか。

悪魔が、俺の胸に手をかざす。もう残りカスしかない俺の寿命を、満足そうに吸い取る。

もうこの世で僕を認知してくれる人はいない。この世界中の誰もが、俺の名前を聞いても誰?と疑問を投げかけるだけで、対して興味も示さない。そのことの何と虚しい事か。俺は、歴史の教科書で見た、自分の名前を後世に残そうと愚行を繰り返す権力者を思い出した。醜い醜いと馬鹿にしたもんだが、今はその気持ちが、痛いほどわかる。

俺に比べて、あいつは良いよな。ふとそう思った。あいつにはまだ父さんが居るんだから。



『迫り来る悪夢』(了)


最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!

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