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すけべ
「あっ、桜乃ちゃん外しちゃった」
思わず声が漏れる。
「スケベ、ですね」
隣で美女が静かに呟いた。
「スケベ?」
「三本まで順調に中てた人が、皆中したいという欲を出して四本目を外す。そう呼ぶんです」
あまりに詳しいその説明に、私は「詳しすぎる……」と小さく呟くしかなかった。
しかし悠長に構えている暇はない。
部長と桜乃ちゃんの的中数が並んでしまったのだ。
張り替えられた的の前に、ふたりが再び立つ。
競射が始まるのだ。
部長が先に放ち、矢はわずかにそれて外れる。
場がざわめいた。
(よし、これを中てれば桜乃ちゃんの勝ちだ!) 「……外れますね」
第三に入った途端、美女が低く呟いた。
「縁起でもないこと言わないでください!」
抗議の言葉を投げると同時に――弦音。
だが的を打つ音は、聞こえなかった。
「やっぱり……。遠近競射ですね」
的ではなく桜乃ちゃんをじっと見つめた彼女の声は妙に冷たく、耳に残った。




