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賭け

「ねぇ、水元さん、大丈夫?」

練習が終わった後、そう人の良さそうな笑みを浮かべて話しかけてきたのは、弓道部の部長・秋野楓だった。

その後ろには、先ほど先輩に突き飛ばされていた東野柚が立っている。

「ご心配ありがとうございます。もう痛みも引いたので、気にしないでください」

「水元桜乃ちゃんでしたよね?私、東野柚です。庇ってくれてありがとう」

おどおどとしながらも目を見て感謝してくる姿に、私は好感を覚えた。

「ねぇ水元さん?あなたはどうしてこんな部に入ろうと思ったの?」

部長の突然の話題の転換に少し戸惑いながらも、答える。

「私の憧れを、より多くの人に見てもらうためです」 その答えは、私の中でずっと明確にあった。

「あっ、憧れ?」

「憧れって松葉朱里?」

困惑する柚をよそに、部長は確信めいた口調で言う。 「そうです。朱里です。よく知ってますね」 

「知ってるよー。公式戦で一射も外したことがないし、射型もぶれない。伝説だよー」

そう、朱里は生きる伝説だ。

そして、私の憧れだ。

弦音はいつも冴え、かけ解きも完璧。

目を閉じていても、音を聴くだけで彼女の弓を引く姿がありありと脳裏に浮かぶ。 何事にも動じない。

だからこそ、彼女の放つ矢は的に吸い込まれる。 「……桜乃ちゃん?大丈夫?」

「、、、大丈夫」

つい思い耽ってしまった私に、部長は続けた。

「松葉朱里にこの高校で弓を引かせたいのなら、この荒れ果てた弓道部を立て直さなきゃならない。ってとこ?」

その言葉に、私は返事をせずに部長を真っ直ぐ見つめる。

「ふむふむ。なーるほどね。じゃあそうだね、来週の金曜日にスタメンの選考会するの。その選考会にあなたも出て。その中の誰よりも中てて」

「どうしてですか?」

「うちの顧問は実力主義だから。うちの部では、中てる奴が一番偉くて、中てる奴は守られる。だからね、部を立て直すにはそれが一番手っ取り早い」

「部長は出ないんですか?」

「私も出るよ。言っとくけど、私含め三年は中てるよ。だからこそ威張れる。そうだね、私に勝つには八射中六射は中てないと話にならない。けど、水元さんならできるよね。松葉朱里のいる中学で大前やってたあなたなら」

八射中六射。

いつも引いている道場であれば、できなくはない。

だが私は朱里と同じ高校に来るために死に物狂いで勉強していたせいで筋力が落ちている。

その上、この五人立ちの道場にはあまり慣れていないし、先輩たちが幅を利かせているせいで練習の機会もほとんどない。

「桜乃ちゃん……無理しないほうがいいよ。選考会なんて出たら、ますます目をつけられちゃうよ」

「そうだね。選考会で無様を晒したら確実にいじめの標的になる。けど……」

私の顔を見た部長が笑みを深める。

「出るってことね!了解。じゃあ楽しみにしてるから」

そう言って去っていった。

私は手段を選んでいられない。

朱里のための環境を、一刻も早く整えなければならないのだ。

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