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1. 修羅の町──アマナ


 現代国家『グロリア王国』。

 共和制であり、国王は立憲君主制。直接政治の議会には干渉はしないが、法令においては最終的に全て王の承認を必要としている。


 その首都とされるヨートゥから、南下に向かって二百平方キロほど離れた場所にある町──『アマナ』。

 そんな町に私こと、リーリエは元勇者である父と二人暮らしをしている。


 アマナ町は、北、東、西の三つのエリアごとに特色が異なる。


 北側は我が母校である小、中学校が立ち、その周囲には大規模ではないものの生活に根差した商業施設が軒並みを連ねている。昼時は活気に溢れた町の中心ともなるエリアだ。

 一転、西側は家族の営みが静かに基づく地帯となっている。年季の古いマンションや小規模な住宅街など多い。

 そして、東。そこには何もなく、何も残らない。ただ、治安が悪いことは確かである。


 他に例を挙げるとするならば、山、山、そのまた山ぐらいであろう。 

 ぶっちゃけると何も面白みがない。青い海にも面しているわけでもなければ、動物園や遊園地等のレジャー施設もからっきし。大型の複合商業施設なんてものも皆無であった。

 一応、町の生命線としてバスが運行している。だが、その運行本数は心許ない。ほとんどが一時間ごとにたった二便しか来ず、行ける場所も限られている。

 生活に困るほど不便でもない。かといって、「痒いところに手が届く」ような、都会的な利便性も持ち合わせていない。


 アマナ町は良くも悪くも、全てが()()()()で満たされた、ただそれだけの場所。


 そのため、アマナは若者にとってひどく退屈な場所でもあった。


◆◆◆◆◆◆


 現在、私は町の片隅にある横断歩道の手前にいる。二人の人物と同列に並び、信号機が変わるの待ちそびれていた。


 この信号機は最も車通りが多いとされる歩道に設置されており、だいぶ年月が経過しているらしい。なので、赤から青に点灯するまで、およそ三分半もかかる。業者に修理を頼んだこともあったらしいが、都度不備が起こるため、今では半ば諦める形で放置されていた。


「チッ……」


 現状に不満を抱いているであろう、忌々しげに舌を巻いた音が空中に溶け、消えていく。


 舌打ちをしたのは私ではない。左側にいる明るい色合いの着物を身に着け、ゼリーのように震える猫の獣人らしきおばあちゃん。

 その彼女の横隣のふんぞり返った大柄な人物だ。彼は、魔人の種族における『オーガ』と呼称される男性だ。

 特徴として、二メートル以上もの恵まれた野性的で筋肉質な体格に、燃えるような赤肌に、額に二本の鋭利な角をもつ。生まれつき故かの強面も相まって“待つ”という行動に苛立っているのがよく伝わってくる。

 なんとなく近寄りがたい雰囲気を醸しているが、彼の気持ちも分からないでもない。 


 憤然としている理由は、目の前のいつまでたっても変わらない信号機のせいだろう。

 地元民である私にはとうに慣れきったことであるが、人間界にやって来たばかりなら我慢ならず、イライラするのも当たり前だ。

 非常に面倒だが、辛抱強く待ち続けるしかない。私は諦観した気持ちで信号機のランプが青へと変化するのを眺め続けていた。


 すると、いきなり何の前触れもなく、ガタガタと地面が揺れる。その際に可愛げもない、変に上ずった声を出してしまった。

 辺りを見回すと、どうやらオーガの男性が、これ以上待ちぼうけを食らうことに耐えかねないらしい。怒りに顔を滲ませ、ガタガタと体全身を使って貧乏揺すりを起こしている。

 連動により私はバランスを崩し、ふらつきかる。その間、なんとか体勢を維持しようと踏ん張ってみた。


 しかし、このままでは待ちぼうけ仲間のおばあちゃんが転倒してしまう恐れがある。急いで彼女の方を見てみると、体が大きく揺れている。  しかし、曲がった腰をそのままに直立不動の姿勢を保っており、何事も起きていないような顔つきで平然としていた。

 地響きが起きる前から、やたらとプルプル震えていたので、震えること自体に慣れていたのかもしれない。

                                        

「うおおおぉぉぉ!! ずっと待つより走ったほうが、断然速いぜぇぇぇ!!」


 ついに堪えが効かなくなったのか、オーガの男性は車が通過する横断歩道の白線の上を何の躊躇もせず突っ走った。

 律儀に待っていた私とおばあちゃんは、彼が駆け抜けたゆえに強風が吹き荒れ、髪をぐちゃぐちゃにかき乱される。

 荒々しく去っていくその後ろ姿は、見ていてハラハラとする。

 忍耐は少々脆弱ではあるが、やはりオーガという種族は人間と比較にならないほど、凄まじい俊敏さを持ち合わせている。このまま向こうまで、いち早く辿り着いてしまうのでないか。


 ──しかし、現実は無情だった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「お?」


 タイミング悪く一台の赤い車と、彼が鉢合わせをしてしまう。運転手の悲鳴に無沈着なオーガの男性は一旦停止し、状況を把握しきれないのか、とぼけた声。

 クラクションも間に合わず、車のブレーキが金切り音を上げた次の瞬間、車両とオーガは引き合うように正面衝突した。金属の鈍い音が、周囲に轟き、両者は動きを止めた。

 ぶつかった際の衝撃と速度が大きかったのだろう。車体前部は跡形もなく破損し、悲惨なことになっていた。莫大な修理費がかさむに違いない。


「うわぁぁぁっ!! す、す、すみませんっ!! 大丈夫ですか!?」

「お? オレの心配してくれてんのか? なんともないぜ。じゃあな」

「おい! 待て、ゴラアッ!! 逃げてんじゃねぇよ!! 車弁償しろやあっ!!」


 エアバッグか車内に備え付きの防御魔法が作動したらしく、運転手は無傷だったらしい。

 彼は十割方被害者であるに関わらず、前方のドアから勢いよく飛び出し、オーガの男性の身を案じて声をかける。しかし、肝心の彼は傷一つついておらず、むしろピンピンしていた。  

 そして、心配してくれた運転手に一応礼を言い、当事者の自覚がまるでなく、呑気に手をひらひらと振りながら立ち去っていく。


 そのふざけた態度に運転手は、一瞬で茹でダコのように顔を赤くした。彼は真っ当な怒りを顕にして、加害者の前に立ちふさがって激しく詰問を始めた。

 これに対して無沈着なオーガの男性は、角の生え際辺りが痒いのかボリボリと掻き、面倒といった態度を示している。


「そんなに怒ることねぇだろ。誰もキズついてねーし」

「おれの愛車が傷ついてんだよ!!」


 何度、この町で似たような光景に遭遇するのだろう。

 私はほんの数刻だけ、精神を安定させたいがゆえ、空を仰ぎ地上の現実から目を逸らす。

 戦争は終わったが、現在違う形で我々と魔人の間では、対立が相変わらず絶えることはないのだ。

 そんな地上の事情など知ったことではないとでもいうように、真上に昇る太陽は、分厚い雲に隠れて素知らぬフリをしている。


「近頃、物騒だねぇぇ」


 カタカタと変わらず振動しながら、諍いを目にしても、特に気に留めないおばあちゃんは実にのどかな口調だった。


◆◆◆◆◆◆


 二十数年前、私の父親である勇者が仲間ともに魔王らを打倒したことにより、和平条約が結ばれたのは事実だ。

 これにより、魔族が人間界への入出を正式に許可されることとなった。

 その手段として、魔人たちは政府に認定のこのアマナ町に設置された空間転移装置から入国ならぬ入界が可能となった。彼らは近い言葉で例えるなら、都会へと上京してきた地方出身者に近いだろう。


 なぜ、魔族が人間たちの住処へとやってくるのか。

 これには、彼ら側なりの深い事情が関係していた。


 魔界は、空全体を覆う厚い層状の紫色の雲が、太陽の光を日常的に遮っているとされている。

 そのため、土壌はやせ細り、植物はまともに成長出来ず、国民の七割ほどは貧困にあえいでいるのだ。

 農産が無理ならば、牧畜を行うにしてもそもそも家畜に与える食物が不足しているため、たいした数を飼育出来ない。

 魔物を代替案としても躾るのが非常に困難な生物であり、食用としても想像を絶するほどにまずいらしく不向きとされている。

 だからこそ、人間界への上京が国民らにとっては最適解なのだろう。


 こちらへの入界は人数制限があり、ほとんどが単身で出稼ぎ目的の者たちだ。

 行政に指定された働き口で勤め、一定期間の労役によって収入を得て、振り込まれた賃金を故郷で待つ家族へ送金する。

 画期的なシステムだが、とある問題がある。

 それは、先程の一方的な衝突事故同様、魔人はあまりにも常識知らずなことであった。

 

 まともな教育機関がないに等しく、読み書き、計算すら出来ない者も多い。より良い暮らしを求めて、はるばる遠征したのに関わらず、字すら書けないのであれば用はないと就職希望先からも門前払いされる。

 ほぼ無一文で人間界に放り出され、そこに付け込む詐欺集団などから俗に言う闇バイトを課せられる者も多い。   

             

 当たり前だが、犯罪行為が露呈すれば、治安維持組織の側面ももつ騎士団により逮捕されることとなる。

 こうした場合、魔人は裁判にもかけられずに、前科者としてのレッテルを貼られてしまう。そして、魔界に強制送還され、二度と人間界の敷居を跨ぐことが出来なくなるのだ。

 

 元から資産を蓄え、ある程度の分別を弁える魔人ならば、獣人のおばあちゃんのようにこちらで一般的な生活を送るか、観光を楽しむことが出来るだろう。

 しかし、前述したように大半の国民が、人間にとって当たり前のルールを理解していないため、周りが被害を被る事例が後を絶たないのだ。

 

◆◆◆◆◆◆


 こうしたトラブルの一環が、目前の被害者である運転手とオーガの男性の今なお、繰り広げられる争いだ。いまだ議論は冷めることなく白熱を催している。いずれ、暴力沙汰が起こりそうで内心冷え冷えだ。 


 何も悪くない運転手の人が居たたまれず、私はこっそり盗み聞きしてみる。彼は車にぶつかってきた巨体の魔人相手に臆することなく糾弾し、上乗せとして慰謝料をふっかけ始めていた。

 あの図太さは間違いなく、この町の住民であることは明白だ。

 彼を侮っていた私が疎かであった。  


 対して、オーガの男性は何が悪いのか分かっておらず、太幹のようながっしりとした首を心底不思議そうにかしげている。

 まあ、この際何とかなるだろう。介入しても、事態は良くなるとは限らない。


 議論に聞き入っていたため、歩行者信号がいつの間にか、青の表示になっていたことに気が付かなかった私は、横断歩道を何事もなかったかのように喧騒をスルーして越え、前方の道路にある左の曲がり角へと足を運ぶ。

 すると、同じく横断してきたらしい獣人のおばあちゃんが背後から、か細い声で尋ねてきた。


「あら……あなたもしかして……山の方に行くおつもり?」

「あ、はい。ギルドからのお願いで用があって」

「そう…………気をつけてね……近頃、山頂にいるドラゴンが活発になってるらしいから……」


 頭部に生えた猫耳をペタンとしおらしく折って、見ず知らずの少女(わたし)に忠告してくれた。

 全ての魔人たちがお騒がせではなく、中にはこのように温かい言葉をかけてくれる人もいるということを、先程目にした事故のせいで忘れていた。

 私は、おばあちゃんに感謝の言葉を告げ、彼女とは異なる東方面へと進んだ。


◆◆◆◆◆◆


 詳細を語ると東は、閉鎖された数多くの工場の墓場だ。


 戦時中は、大量生産されていた武器や防具も今や用無しと判断され、需要と呼べるものがなくなった。

 事業が回らなくなり、資金が底をつき始めた多くの工場長や最高責任者は新たなビジネスを狙い、あっさりと雇われの労働者たちと施設を切り捨てたのだ。


 そんな寂れた場所には訳ありな事情等を抱えた人間、魔人問わず、帰る場所を失った浮浪者たちが不法滞在をしている。

 騎士団員や市役所の職員の手が回らないのか、それともあえて放置しているのか、彼らは年々増加の傾向を辿っていた。


 ここらを通過する時は用心しなさいと、両親や近隣の大人、教師から口酸っぱく注意されていたことが記憶に新しい。

 特に何かしらの犯罪に巻き込まれたことはないが、私は腰に携えた聖剣が手元にきちんとあることを確認した。


 狭く舗装された道路は風がひとたび吹けば、土ぼこりが肌に纏わりつく。本当に寂れた地域だ。嫌な気分を紛らわすため、てくてくと一人旅の気分でそこを歩いていく。


 すると、ある売り地と立札が置かれる閉鎖された工場の敷地内で、二人の人影が何やら言い争っているのを目撃してしまい、思わず足を止めた。


「テメェ!! イカサマしただろ!!」

「そっちこそ、ズルしたのバレバレなんだよ!!」


 二人の人物の内一人は人間で、片方はこれも魔人とされる濃い緑の肌が特徴の『ゴブリン』だった。

 彼らは真っ昼間から、わざわざ外で小さな卓状の机に麻雀一式を載せ、賭け事に重んじていたようだ。

 どちらが勝ちを得たのか不明だが、まずヨレヨレの褪せた白い服の人間である恰幅のいいおじさんが、同身長らしき小柄で痩せ細りボロボロの衣服を纏ったゴブリンを徹底的に追及する。

 ゴブリン側もキーキーと甲高い声音で不平を述べ、対戦相手がズルをしたとまくしあげた。しばらくして、口喧嘩は次第に苛烈を極めていき、互角の取っ組み合いが幕を開ける。


「オレはなぁ!! 今月の所持金が二マニーしかないんだぞ!! 何をどうやって支払えやいいんだよ!!」

「コッチだって、闇金で二千万の借金してんだよ!!」


 おじさんは、スズメの涙程度の貯金。ゴブリンの男性は途方もない金額の返済に追われているらしい。

 両者は対してダメージを与えていない殴打をポカポカと可愛らしい擬音をたてて繰り返すと、一旦距離をとった。

 そして、強敵に立ち向かう、さながら勇者のように地面を蹴って、駆け走り、互いに拳を振り上げて殴りかかろうとする。


「「うおおおおおおおおおっ!!」」


 かち合うその瞬間──耳をつんざくような爆発が起き、彼らがいた場所は一瞬の光明がその場を覆いつくし、すぐさま硝煙が立ち込めた。

 敷地内一帯は爆破した形跡を残し、舞い散る砂と共に男性二名は仰向けで倒れ込むこととなった。


 どちらかが爆破魔法の使い手だったのだろう。全身は火が燃え移ったのかコメディの如く全身焦げて、両者ともども満身創痍だった。

 誰かが争いを止めずとも、泥沼の決闘は喧嘩両成敗という形で決着を迎えた。


「なんだ、襲撃か!? 誰か死んだ!?」

「喧嘩か……? トイッターにあげなきゃ……承認欲求が……満たされないと……」

「えー、やだー。こわーい。ダーリン〜」

「ハハッ。大丈夫さ、ハニー。僕が守ってあげるからね★」


 騒音が近隣まで届いたのか、誰に指示されたわけでもなく、興味津々のやじ馬たちが路端にぞろぞろと集結する。


 工場外から倒れた二人組を見て嘲笑したり、携帯端末で彼らの顛末をパシャパシャとカメラに収めている。

 恐らく、SNSのバズり目的でアップロードするのだろう。同種族であるにも変わらず、自分より下の存在を見て嘲る魔人や、人目も憚らずイチャイチャしながら見物に来たカップルもいる。


 本当この町は、こんなんばっかだなぁ…………


 しかし、これほどまで騒ぎが聞こえたとすると、当然()()が動き出す。


 間もなくして、警告音と青白い発光ランプを点滅させながら、事故現場に鬼気迫る勢いで走ってくる一台の車。

 外装は正義の象徴とでも示すかのように白い塗装が施され、ドアが設置されているサイドの下部には青の塗料の上にこれまたホワイトで『NIGHT』と表記されている。


 光の速さともいえるスピードで突撃する前に、とんでもない腕前で人に直撃するギリギリ前に道の端で、ブレーキ音共に寸分狂わず停止した。身近にいた人物からは「ギャッ!!」と悲鳴が上がる。

 そして、得も言わぬまま運転席と助手席から、ツーペアの騎士団員が颯爽と現れた。


 助手席から出てきたのは、スミオカ派出所で巡査部長を務める長身の、壮年男性。

 人当たりはいいのだが、常に発生するトラブルに胃痛が絶えないのだろう。眉間に皺を深く刻ませ、少々吊り上がった眼の下には深い隈がありありと色濃く浮き出ている。立派に生えた口ひげも心なしか、持ち主同様元気とはいかず垂れ下がり、この町そのものに疲れ果てているように見えた。


 一方の運転席から、姿を見せたのは指定の長いスカート丈をワルツを踊るかの如く、優雅に舞わせながら車から降りる女性の巡査。

 こちらは部長さんと異なり、微塵も疲れを感じさせない温和な顔つき。佳人といった言葉が似合い、艷やかな青髪は高貴な一族を思わせる。穏やかに優しげな目尻を下げ、常に微笑みを絶やさず、その姿はさながら天の使いのようだ。


 彼らは集まった観衆にそこから引くよう促すと、皆名残惜しげにゾロゾロと後方に下がっていく。(だからといって一部のものは撮影を取りやめないが)


 町の騎士団員さんたちは、現場内部に毅然とした態度で入り込み、よろよろと腰を上げている騒動の張本人たちの前に立ち塞がる。 

 追いつめているわけではなく、盗撮されないための配慮なのだろう。


「王国騎士団だ! 爆発騒ぎの通報を受け、ここに急行した!! 容疑者を署に連行する!!」


 ライフゲージも回復したのも束の間、巡査部長の宣告によって正義の鉄槌が下されようとしている。

 なんとか逃れるスベはないかと思案した結果、悪あがきといえる許しを人間とゴブリンの男たちは請い始める。部長さんはそんな彼らを交互に一瞥し、溜息をつく。


「またあんたたちか! 今回で似たような事件を起こすのは、合計五十六回目だぞ!!」

「ひぇぇ〜!!」

「す、すみませんでしたぁー!!」


 先程の威勢はどこへやら。国家権力である騎士団員を目の前にし、オッサンズはペコペコと謝って土下座まで遂行する。


 その光景に「だせぇ」「ウケる」「ザマァ」と観衆からヤジが飛びかい、「恥さらしが……!!」と魔種族の誇りを汚されたと苦虫を噛み潰したような表情の悪魔の老人までもが叱責を飛ばす。


 その後、容疑者たちは青髪の綺麗な巡査さんになだめられつつ、小柄な体を殊更縮みこませて、ナイカー(ナイトカーの略称)の後頭座席に座らされた。


 やがて、騎士車両は全速前進で中央へ颯爽と走り去っていった。次の現場が待っているのだろう。

 事件は解決し、一連の出来事は観衆に(娯楽として)惜しまれつつも、終わりを迎えた。


「あー、行っちまったよ。つまんねー」

「生で爆発したとこ見たかったな〜」

「人間に捕らえられるとは、なんと情けない……! 元よりこの地は、大地を無造作に利用する野蛮人どもに己を戒めさせたるため罰として、我々魔人が踏入り、新たな土地として開拓を為すと先代魔王様がご意向を示したのだ………!!」


 道化の役割を演じた者たちが連行されると、皆口々に思い思いの自分勝手な感想を述べる。

 人の良し悪しを語る意味もさしてなく、他のやじ馬と戯れるつもりは毛頭ない。私は用事を早いこと済ませたかったので、さっさとその場から撤退した。いずれ、観衆も興味が失せ、新しいゴシップへとすぐさま食いつくのだろう。


 己にとっては慣れたきった土地であるが、移住希望者なら住んだところで三日も耐えきれず、即座に引っ越しを検討するか、一目散に家財を残して逃走するだろう。


 常人なら忌避感を抱いてもおかしくはない。

 十人十色のへんた……ではなく、変人が集うおかしくて、騒がしくて混沌(カオス)めいた町。


 それが私の生まれ故郷──アマナなのだ。

 

                           (つづく)

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