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Chapter 008_3食おやつ付き

「ふぅー…」

「…んふふ。お疲れ様でした…」


冒険者宿の朝は早い

初心者冒険者御用達のルボワ市が誇る低級ダンジョン【ルボワの森】は

深部まで行けば往復10日くらいかかるけれど

ほとんどの冒険者は日帰りするので

早朝…日の出前…から動き始める…



「掃除・リネンの交換とベッドメイキング…12部屋もあるって聞いたからもっと大変かと思っていたけれど…作業したのは4部屋だけだったね?」


「…うちはコレでも。ルボワの中では”ちょっと”お高い宿になるからお客様も4級から3級冒険者の方が多いの。…そういう方は数日間、(ダンジョン)に潜って。数日間休んで…というサイクルを繰り返すわ。お部屋の支度はチェックアウトした方と午前の鐘までに外出した方だけにさせてもらっているから…」

「今朝は3組と。ベル君だけだったのよ…」


ルボワは交易路上にない…旅の通過点にならない…行き止まりの街なので

大半の宿屋が旅籠(はたご)の機能を持っていない。連泊前提の先払い制で

営業する”冒険者向けの”宿なのだ。


冒険者向けの宿は基本的に、前日の入店時に(最低でも今日と明日の)

宿代を払わないと追い出される。



「部屋を取っておいてほしい!」

「使わない服や荷物を置いておきたい!」


そういった要望があるのなら、その日数(にっすう)分、”空室を”前借りしておく必要がある。


人が居ない部屋の”支度”は必要ない。

そして、前日まで森でサバイバルをしたり夜遅くまで騒いでいた冒険者は

目覚めるのも遅いので”支度”しない…と、いうか

ソコまで面倒みきれない。



朝食は日の出後2刻まで。

夕食は日没前2刻から日没まで。

喫茶メニューは午後の鐘から日没まで

お夜食(オツマミ&スイーツ&お酒)は夕食と同じ時間でラストオーダー!

日の入り後1刻で食堂はクローズ!

お弁当はひとつ前の食事の時間に要予約!


 Q.お水が欲しい?

  A.魔法があるだろ!

 Q.灯が欲しい?

  A.魔導具があるだろ!

 Q.水浴びしたい?

  A.水路があるだろ!

 Q.トイレに行きたい?

  A.スイート以外は共同です!

 Q.隣の部屋がウラヤマけしからんで寝付けない!

  A.魔法があるでしょ?


異世界島国の現代ホテルみたいな

ワガママサービスは期待しないよーに!



「…今朝(けさ)がそうだったように。朝食は夜の作り置きスープをお手伝いさんに温めてもらって。パンをパン屋さんに届けてもらっているから私たちがする事は無いわ。」

「外出とチェックアウトは(何故か)司書妖精(わたし)が管理しているわ…」

「い、いつも有り難う御座います。スタカッティシモ様…」

「…ふふふ。いいのよ。貰うものは貰っているから…」


この宿は娘2人が経営するために多くの他人(ひと)の手を借りており、

規模と価格の割に利益はソコソコといったところ。


両親は娘に進学を勧めたのだが、


「「この宿屋で働いてみたい!」」


と言った2人の希望を全面的に叶える方向で…大人やギルドや龍や妖精の…

協力と工夫を基に成り立っている。


2人もソレを理解しているから頑張っている。



…親の経済状況を考えれば2人が働く必要なんて皆無なのだが、

親がビックリするほど”いい子”に育った子供たちはソレを良しとしなかった。


「「いつか、お母様とカトリーヌ様が驚くくらい、いいお宿にしてみせるんだから!!」」


「それで、カトリーヌ様に出してもらっちゃった建て替え費を全額返済してやるの!」

「それで…それで?…そ、それで!皆にシチューをご馳走しちゃうのっ!」


それが2人の夢だった…



「…お支度の予定は前日には分かるわ。どんなに忙しい日でもお昼には終わるハズよ。そこからディナーの仕込みまでは自由時間!…もし、お昼ご飯を食べたかったら準備しておくから朝のうちに言ってね。それと…」

「おやつは(何故か)司書妖精(わたし)が預かっているわ。私は基本的に宿から出ないから。欲しくなったら何時でも声をかけなさい?…まぁ、昨日みたいに私室に()もっている時は別だけど…」

「は、はぁ…」

「…言っておくけど。おやつの受領は従業員の義務だからね。」

「義務!?」

「…そう。義務なのよ…」

「…わ、私やミーリア。お手伝いの子供やお母さん達も毎日受け取っているの…」


「おやつ付き」…は、この宿のオーナーが(がん)として譲らない

重要な(?)福利厚生である。

稀に、その日のお給金より高価なオヤツが支給されるため

従業員としては(有り難いけど)ちょっと複雑…



「わ、分かりました…」

「(冒険者の)お仕事で早く出かけたり遅く帰るようなら遠慮なく言ってね!私とミーリアで調整するから!」


ちなみに、今いないミーリアは支度が終わったと同時に外に飛び出していった。

遊びに行くこともあるが、今日は冒険者としての用事らしい。宿の仕事を手伝うこともある。宿の為に狩りに行くことだってある。

自由に見えて、あの子はちゃんと考えて行動しているのだ…



「…心配しなくてもいいわよベル君。”泊まり”が必要な依頼なんて。4級に上がるまで無いから。」

「そうなんですか?」

「そうなんですの。だから、必ず帰って来なさいベル君。」

「は、はい…」

「…絶対よ、ベルナールさん。帰って来てくれないと、心配しちゃうんだから…」


ただでさえ流されやすいベルナールが

ほぼエルフなリチアにそんなコト言われて断れようか?



「はい!必ず(リチアちゃんのもとに)帰ってきます!!」


いや、ない



「…ふふふ。素直でいい子ね…」

「…///」


ミニマムでも妖艶(ようえん)な魔女”っぽいの”の視線に

照れていると…



「…ベルナールさん。」


笑顔で見つめるリチアが

声をかけてきた



「ふえっ!?」


油断して間抜けな声を返してしまったベルナールに



「質問が無ければベルナールさんのお部屋…”納屋”に案内しようと思うのだけど、どう?」


昨夜は時間が無かったのでミーリアが言っていた”空き部屋”に

泊まらせてもらったベルナールだったが今後は従業員として

”相応しい”部屋に移る事になっていた



「う、うん!お願いするよ…」


このまま客室に泊まるとアルバイト代はマイナスです。

借金が増える一方ですよ…


そう言われたベルナールに選択の余地はなかった。


市場経済の悲しい現実を突き付けられた少年は

これ以上の負債を避けるべく「タダで寝泊まりしていい」と

言われた納屋へ(きょ)を移す事にしたのだ



「…それじゃあ。行きますよ…」


帳台の裏に置いておいた荷物を背負ったベルナールが

リチアの後を追おうとすると…



「…ベル君。抱っこ。」


可愛いお人形が、ちっちゃなお手手を挙げて

そう言った



「…う、うん?」

「…私も行く。でも、歩くと大変だから連れて行って欲しい。」


空っぽの鞄と上着と着替え。あとは剣しか持っていない

ベルナールには余裕がある。



「あ、はい!」


脇腹に腕を滑り込ませ…



「し、失礼します…」


…そっと。

持ち上げると…



「んっ…」


“っぽいの”が小さな身動(じろ)ぎしたものの、

軽い体はアッサリと宙に浮き…



「…あっちよ。行きましょ」


ベルナールの腕に座った”っぽいの”が指した先…



「…んふ。行きましょう?」


立ち止まって振り返る

涼やかなワンピースを



「う、うん!」


速足で目指した…

っぽいの。きゃわ///

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