Chapter 016_絶望を抱えて、なお生きる
075_思い出と共に
翌朝
よく晴れて暖かい春のような朝だった。
「ふぁ…ぁ…」
目の下にクマを浮かべたセルディアは
欠伸を噛み殺した
「ねむっ…」
昨夜…
深夜にベルナールの部屋から出てきたお母様は
私たち姉妹に
「・・・彼の回復には時間がかかるわ。3人で仲良く順番コにお世話してあげなさい・・・」
そう言って飛んでいってしまったのだった…
「リチアとミーリアはともかく。なんで私まで…それも、1番最初だなんて…」
司書妖精に順番を言い渡され。出張してきた薬草師様から鎮静薬を受け取って逃げ場を失ったセルディアはグチグチ言いながらもソレに従い。
ひと晩中、付きっきりで
ベルナールを見守ったのだった
「…まったく。お母様の勝手には困ったものよね…貴方も、そう思うでしょ?スカーレット…」
薄暗い錬金小屋の中。
精霊入りのランタンをテーブルに置いてベルナールを眺めていたセルディアは
緋色の灯火に向かって何度目かの愚痴を溢した
『…、……!…』
「っそ、そんなワケないでしょ!?テキトーなこと言わないでよスカーレット!」
心配で眠れそうに無かった…なんて。
恥ずかしくて言えないもの…
「まったく、もう!」
………
……
…
お昼過ぎ
「…」
『…』
お母様は、スグに目を覚ますと言っていたのに…
「…お寝坊さんね。」
なかなか目覚めないベルナールに
セルディアは焦りを感じていた。
お母様の言葉は絶対だ。
でも、言葉の意味はフツーとだいぶ違う。
「スグ」がゼロ秒後に来るコトもあれば、
半日後に来るコトもある。
「ホント。困ったものよね…」
と、ここに居ない母を想ってため息をついた
「ごめんなさい…」
その時だった
「!?」
しまった!
そう思ったセルディアはベッドに駆け寄り、跪き
「あっ、あんたに言ったんじゃないわよ!」
慌てて言い添えたが…
「…」
頭からシーツを被り、微かに震えるベルナール
からの返事は無かった…
「っ…」
…アンナコト言われたら。
相手がドウ思うか…
「…、……、、…」
そんなの我が身をもって知り、誰よりも
分かっているツモリだったのに…
「っ〜………」
…苦しかった日々と目の前で苦しむ彼。
甘えていた日々と受け止めてくれる優しさ。
暗闇と灯火…
「っ、」
セルディアは意を決した。
顔を上げ、目尻の涙を振り払い、
シーツに隠れた弱さに正面から向き合った。
「ごめんなさい。」
アノヒト(はは)ののようには出来ないけど、でも、
月天使の”半分”くらいは持っているハズ!
「…ごめんなさい。今のは失言だったわ…でも、勘違いしないで。今の言葉は母へ向けた愚痴よ。あなたに言ったんじゃないわ」
「…」
「本当よ。ごめんなさい…」
「…」
返事はなかった。
けれど続けた。
セルディアの心に呼応した精霊スカーレットは
先程までよりほんの少し、
小屋を緋く明るく照らしだした…
「私も…私もね。冒険者だから…だったから…」
“冒険者”という単語にベルナールの身体が『ビクッ』と反応したが
セルディアは止めなかった。
「…だから分かるわ。あなたの気持ち痛いほど。」
「…本当に痛かった。胸が締めつけられて。孤独で空っぽになって。不安と後悔で頭がおかしくなりそうで。ソレが全部いっせいにやって来て…心だけじゃなくて、身体までバラバラになっちゃうような気がして。叫びたくなって…でも、何故かできなくて。溜め込んで。痛みと孤独と不安と後悔が膨らんで…」
「…いっそ。楽になりたいって…思って。」
彼のコトを…彼らのコトを想い思ったセルディアは
目尻に緋の灯を反射しながら言葉を続けた。
「でも…でもね。でも…………………できなかった。怖かった。それに、私のそんな思い筒抜けのハズのお母様はイイともダメとも言わなかった。ただ、悲しそうな瞳で愛してるって。大丈夫って…言ってくれた。お父様もパパも私を守ってくれた。妹たちも、いつも側にいてくれた。スカーレットも見守ってくれていた………あ、あなたもいたわ…」
こんなコト言うのは恥ずかしいし、言わないで済むなら
その方がいい。
でも、もし彼が”アノ時の私”と同じように思い詰めて
私以上に行動してしまったら…
「だから…あ、あなたも大丈夫よ!」
…そんなコト認められない。
後悔してもしきれない。もう、あんな思いをしたくない!
妹たちにもしてほしくない!!
「月並みのことしか言えなくてごめんなさい!でも、お願いだから…ギ、ギリギリでもいいから!甘えていいから!!だから生きて!”あんなコト”もう言わないで!妹を悲しませないで!お願い!!」
セルディアの言葉は身勝手で乱暴でもあったけど、でも、だからこそベルナールの心を強く打った。
「………ゎk…な…」
シーツの向こうから聞こえたベルナールの声は小さく、自信もなく、掠れていたけれど…
「わかるわよ!!」
…セルディアの耳には確かに届いた
「あなたも気付きなさい!目蓋を開けば光が見えるってコトに!!」




