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Chapter 007_まかない

「お疲れ様でしたベルナールさん…」

「お疲れ様!おにーちゃん!!」


客を(さば)いて酔っ払いを放り投げて掃除して

お手伝いさんをお見送りして…



「…ふ、2人も。お疲れ様…」


3人が労働から解放されたのは日没後1刻半…外は真っ暗

星の時間になってからのことだった。


初日から過酷なサービス業をする事になった

ベルナールは疲労困憊(ひろうこんぱい)だ…



「…私も居るんだけどね。」


…そう言って。

テーブルの下から腕を伸ばしたのは



「んふふ。スタカッティシモ様もお疲れ様でした」

「スタちゃん、おっつー!」

「2人もね…」


お人形のような小人…人工妖精(アニマ)

司書妖精だった



「…リ、司書妖精(リトルライブラリアン)様もお疲れ様でした…」


ミーリアの手によってテーブルに上がった妖精は

専用の小さな椅子に座り。

小さな机の小さなティーカップを傾けて

リチアが淹れたお茶を啜り…



「…スタカッティシモ で、いいわよベル(くん)(きみ)もお疲れ様でした…」


手も瞳も

彼女専用の豆粒ほどの小さなドルチェに向けながら

答えたのだった…



「…え、えぇと…し、森羅様を名前で呼ぶなんて…」


…ここで少し本編を離れて

【人工妖精】について説明しておこう!


【人工妖精】…と書いて「アニマ」と読む。

この可愛らしい生き物は名前の通り人工的に造られた妖精だ。


【本精霊】のコトを思い出し、

人工精霊(フェタ)】と【人工妖精(アニマ)】…

何が違うの??

そう、思った読者様も多いだろう。


コレを理解するには、

リブラリアの【魔導】…魔術の教育と研究のコト…について

少し話さなければならない。


専門用語の飛び交う長文に入るけど、

許してね…



………


まず、定義から話そう。

リブラリアでは


・意識が芽生えた「魔力」を【精霊】

・意識が芽生えた「モノ」を【妖精】


と、“定義”している。

定義したのは現代の人間であって、古代遺跡の碑文(ひぶん)に綴られていたわけでも、エルフから伝えられたわけでもない。


当時22歳の【夜の魔女】が

魔導研究の最高峰オクタシアの壇上で


「・・・これまで定義が曖昧だったから。今、コウ、定義する。」


と、一方的に…精霊や妖精の了承も得ずに…分類し、

それがそのまま学説として認められてしまったため、

このように定義されているのだ。


これに従えば魔法によって造られ、後に意識の芽生えた人形である司書妖精は、人工妖精アニマに分類されることになる。


……ちょっと待って! 魔法を使ってるなら

それって【精霊】じゃないの!?

と、考えてしまうのも分かるが、違う。


魔女は魔法によって、“意識が芽生える構造体”を

造ったのであって、“意識そのもの”を造ったわけではない。

人形を動かすために魔力は使われているが

意識そのものは魔力ではなく人形という器に宿っている。


故に、人工妖精アニマなのだ。


本魔法(リーブラ)】によって生み出された【魔法本(まほうぼん)】の意識体である【本精霊(ほんせいれい)】はその意識も、本そのものも“魔法由来”なので、“意識のある魔力”だといえる。

故に、人工精霊フェタなのだ。


〜異世界の世界観で例えるなら〜

妖精とは「電気(魔力)で動く意識のあるロボット」

精霊とは「電気そのものに意識が宿っている存在」


…おわかりいただけただろうか?


………



「…”わたし”が魔女と、命名されたワケじゃないわ。私は”あの耳長”をモデルにした人形に過ぎない…」

「み、耳長…」


森羅様…と、いうのは。この司書妖精【スタカッティシモちゃんっぽいの】のモデルとされた【森羅の魔女】スタカッティシモ・ライブラリアン・ノルウェ・ポプラ様(御年(おんとし)1,027歳)のコトである。

森羅様はベルナール、リチア、ミーリア…3人の母国であるエディアラ王国の南に位置する【デュクサヌ・ウェーバル宗主国】という宗教国家に建てられた【大図書館(グランリブラリア)】という施設…魔法仕掛けの図書館…の司書であるエルフの女性で、

簡単に言うと

読書と自作小説執筆が趣味の引き篭もりである。


…要するに、

この物語の作者と同じ界隈の民である。


あと、コレは余談だけど「耳長(みみなが)」という呼称はエルフ族に対する蔑称(べっしょう)…差別用語だから。あまり使わない方がいいよ…



「…だから、私はソレでも構わないけど。でも、”正しくない”から。あのヒトには訂正されちゃうわよ?」

「…へ?あのヒト…?」

「私の…そうね。【カミサマっぽいの】…かしら?」


人工妖精なんてモノを設計できるヒトは

リブラリアに2人しかいない。設計者と、その弟子。



「…?」


ベルナールはリブラリアに人工妖精(アニマ)という存在が()る。ということは知っていたけれど、学園に通わず家業を手伝っていたコトもあって専門的な話はよく分からない。

そして、普段から文語調で意味深な言葉を使う”スタカッティシモちゃんっぽいの”の洒落(シャレ)や皮肉についていけるほど社交界慣れもしていない。



「あむ、あむ…はむっ…」


カップから口を離し、小さなお菓子(この時スタカッティシモちゃんっぽいのが食べていたのはチョコレーズン)を笑顔で頬張る小さな淑女に

どう返せばいいか分からなくて…



「あ、あり得る話だから言い返せないよ…」


ミーリアの苦笑いにすら、ついていけず…



「…」


困り果てていた。






「おまたせー!」


だから



「まかないご飯で〜す!」


厨房で何かしているな…と、思っていたリチアが

ホカホカ湯気が立ち上る山盛りパスタを

持ってきた時は



「わぁ〜い!」

「おぉ!うまそぉ〜!!」


ミーリアと一緒に

手を挙げて喜んでしまった…



「ミーリア!取り皿を…」

「アイマーム!」

「あ!オレも手伝うよ!!」

「おにーちゃんはフォークとスプーン!」

「ははっ!…アイマム!」

「うぅ!?…んふふふふ!」

「んふふふっ!もうっ、ミーリアの方が歳下でしょ?」


あぁ…、リチアがいてくれて本当に良かったなぁ…

と、思うと同時に



「んふふー!ミーの方がセンパイだもんねー!」

「あはは、そうだね…」

「あぁーっ!また”ミー”って…もうっ!」


自分を見つけてくれたミーリアにも

感謝の視線を送り…



「…ふふふ。ほら、喧嘩しないで。子供は早く食べて。早く寝なさい。」

「「んー…」」「はい!」


数時間前まで不安でいっぱいだったコトも忘れ…



「いただきます!」

「「「いただきます!」」」


冒険者初日を笑顔で乗り切ったのだった…





















「…あれ?人工妖精って…ご飯食べるの!?」

「今日は学ぶ事が多いわね。ベル君…」

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