Chapter 0015_祈り
「んふふ・・・」
月天使フォニアはご機嫌だった。
不謹慎と分かっていても頬の緩みを抑えられずにいた
「・・・っと、イケナイいけない。マジメにやらなきゃ・・・」
なぜって、ソレは
可愛い自慢の娘が、ただ可愛いだけじゃなく
優しく・慈悲深く・責任感のある
“いい女”に成長したからだ。
フォニアは相変わらず娘の様子を見にやって来るが
今回は予定外の訪問だった。
呼ばれたのだ。
渡しておいた使い捨ての緊急連絡魔道具を用いて
「・・・すー・・・・はぁ〜・・・」
大急ぎでやって来たフォニアに娘達は
3人揃って頭を下げた
「「「お母様」」」
「ベルナールさんを助けてあげて」
「お兄ちゃんが…ピ、ピンチなの!」
「ふ、2人もこう言ってるし…こ、このままじゃ、後味悪いじゃない…」
嬉しかった。
娘に必要とされたことが…そして娘達が
”他人の為にお願いできる大人”になったことが。
だから迷わなかった。
いい子に育ってくれた見返りに
惜しみない愛を注ぐと決めた。
弟子達のフォロー
責任者達への謝罪
世界に与える損失と責任
彼に負わせる負債…
…全て覚悟の上だった。
「・・・よし。」
両手で軽く頬を打ち
表情を引き締めたフォニアは
『カチャ…』
カーテンを締め切った”離れ”の扉を開いた
『…』
薄暗い部屋は静かだった。
『キッ!?』『キキ…』『キュウ…』
久々の主の訪問にコウモリ妖精達が色めき立ったが…
「しー・・・」
唇に指を立て、
ひと唱え
『『『…』』』
唱えられた通り
コウモリ達は大人しく待つことにした。
そして…
「…」
フォニア…いや、今は月天使…は
ベッドの下で小さくなって。
頭から毛布を被ってうずくまり、呼吸と心拍を繰り返す”だけ”の
救うべき患者…娘達の”お願い”と向き合った。
「・・・」
事前に彼を診断した治癒術師…シャルロッテとマリー…によると
膝と手に擦り傷、腕にごく浅い銃創。そして疲労があるものの程度は軽く
肉体的には健康といえる。問題は、”心”の方だった
『シュル…』
彼を森から連れ出したのは長女セルディアだ。
幼い頃。
母を崇拝する黒指教の狂信者に攫われ、救い出されるまでたった1人。狭く窓のない部屋の暗闇に閉じ込められたトラウマによって閉所・暗闇・孤独恐怖症があったセルディアだが、
学生時代に知り合った友人達…仲間と共に冒険者として活動するなかで、ユックリと克服していった。
なのに…
大事な仲間を、自身の初歩的なミスで失い。
更に拠点としていた街に魔物を引き連れ死傷者まで出してしまった。
冒険者として、許されない事故だった…
…なのに。
悪いのは私なのに…
誰も私を責めなかった。
遺品の一つも持ち帰られなかった私に仲間の遺族は誰も、何も、ひと言も言ってこなかった。
責任の全て・被害者への補償の全てを両親が背負ってくれた。頭を下げてくれた。
私は安全な実家に逃がされた。
大人になったつもりだったのに…
私はまだまだ。保護されるべき子供だった。
悔しくて、優しくて…胸が、
いっぱいになった…
「迎えに行く!」とミーリアが叫んだ時
セルディアは自然と剣を佩いて、片時も手放さないランタンに
魔法仕掛けの詩を唄った。
「…行くよ、スカーレット!!」
『…パサッ』
…セルディアだけじゃない。
3人を見つけたのはミーリアの水先精霊【ラミュー】であり、
宿で待つことになったリチアは残りの宿の仕事全てを引き受け
更に、いざという時のためにタオルや応急薬・温かいスープを準備した。
娘たちは、自分にできる範囲で彼を見つけ、導き、受け止めた。
親として、こんな誇らしいことはない。
母たる私も
頑張らなくっちゃ・・・
・・・
・・
・
「・・・よし・・・よし・・・」
・・・これまで沢山の命を救ってきた。
術の頂点を極め(不本意ながら)最高神と呼ばれるに至った。
月天使なんて呼び名は大袈裟過ぎるし恥ずかしいし、
農家の小娘には分不相応で、正直、止めてほしいけど・・・
でも、今の自分を第3者から見たら”そう映る”かもしれない。
それに、それ以上に
私の存在が。名前が。
多くの人の希望になっている事実は
否定できない。無視もできない。
だから・・・
「・・・いい子。いい子・・・」
・・・沢山の命を救ってきた。
それ以上に沢山の命を見送ってきた。
治癒魔法には明確に限界がある。
治せない病、払えない呪い、軽減できない痛みが
数え切れないほどある。
だからこそ、
魔法に、技術に、道具に、薬草に、ヒトにテンシに…
思いつく限りの力を尽してきた。
でも、それでも届かなかった。
ソレが真理だった。
「・・・よし、よし・・・」
・・・無力な私にできるコトなんて、あとは
祈るコトと信じるコトだけだった。
どうか世界が平和でありますように。
どうか皆が慈しみの心を持ちますように。
痛みと悔しさと罪を抱えてなお、
筆を手にする勇気が湧きますように・・・
「よし、よし・・・」
・・・大丈夫、
悔いることなど何もない。
大丈夫、
あなたが頑張ったことを知っている。
大丈夫、
誰かに責められることなんてない。
大丈夫、
みんな分かってる。
大丈夫、
きっとまた、その手に剣を。喉に詩を。瞳に光りが宿るから。
大丈夫、
みんなあなたを信じてる。時間がかかっても構わない。
大丈夫、
失望なんてしない。呆れたりもしない。
だって、あなたの物語は
まだまだ白紙だらけだもの・・・
「・・・いい子ね・・・」
絶望を抱えて、なお生きようとするその生命が
美しくないはずが無い。
「・・・よく、頑張りました。えらかったね・・・」
冬の朝。
絶望を抱えて、なお
「・・・頑張った分。いっぱい泣きなさい・・・」
物語は続く




