Chapter 013_想い思い
「あいつ…クソッ!」
【地鶏亭】…レオンの泊まっている宿に辿り着いたベルナールは
宿の主人から思わぬ話を聞き出した
「森に向かった…だと!?1人で何のつもりだ!?」
宿の主人によると、レオンは昼過ぎに手ブラでドコか…おそらく街へ
出かけたと思ったら…スグに戻って来て。
そして、部屋で防具を着込み剣を携えて
また出ていったと言うのだ…
「まっ、まだっ!はぁはぁ…も、森と決まったワケじゃ…」
ベルナールを追いかけるベリーチェの問いに
「剣と防具を持って。森以外のドコへ行くっていうのさ!?」
ベルナールは
ベリーチェの顔を見ないように、顔を前に向けて答えた
「っ…」
さすがのベルナールだって気づいていた。
メルヴィとアレクセイ。
自分とベリーチェ。
その後ろを、1人で歩いていたレオンが何を思ったか?
自分たちを”どう”見ていたか…察しが付いた。
声の一つも掛けてやらなかったコトを後悔していた
「はぁ、はぁ…っ、」
ベリーチェも必死だった。
彼に置いていかれたくない。
彼の側にいないと生きていけない。
その想いは比喩でも大袈裟でもなく、
言葉通りの意味だった
「くそっ、くそぉっ…」
時刻は夕方…
冒険を終えた冒険者達が森から街へと戻る時間であった
「はぁ、はぁ…ま、まっ…て…」
茜に染まる草原を”街から森へ”駆けるベルナールとベリーチェに
周囲の人々ははじめ奇異の視線を送ったが、
2人の必死の形相にスグに「何か事情があるのだろう」と悟り
心配と無関心の入り混じった瞳で視線を街へ向けた。
それが冒険者達の最適解だった。
もし…たった一人でもよかった。
ベルナールとベリーチェに声を”かけられる”人物がいたなら
きっと、未来は変わっていた。
けれど、それは起きなかった。
起きなかったことは綴られない。それが―――綴られし世界の。理。
「…っそ!」
レオンパーティー組むようになって。3年…
同じ泥を舐め、同じ美酒を飲んだ相棒までもを
失うわけにはいかなかった
「はぁ、はぁ…」
もぅ、あんな苦しみはイヤ。絶望と後悔の日々には耐えられない。
失うわけにはいかないの…
ベルナールとベリーチェはそれぞれ、友情と愛情に縋り森を目指した。
想いは相手の事を想っているようで、その実、自己中心的な願望だったのかもしれない。
その背を追ったところで結果は変わらないかもしれない…
けれど、何もしないワケにはいかなかった。
想いは心臓と足を動かし。
思いは平静を嫌い、輝く過去を映した。
とてもじゃないけど、ジッとなんて
していられなかった…
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「ほ、ほら。頑張って…」
ベリーチェを気遣いながら走ること1時間…
気づけば、森に入り。そして夜の闇が迫っていた…
「レオ…」
ルボワの森には一本。メインストーリーとも呼べる小径が
森の入り口から深部の遺跡(の残骸)まで続いている。
小径周辺は冒険者の往来が多いため魔物があまり寄り付かず、(比較的)安全な道として利用されている。そして冒険者達はそれぞれ道を逸れて狩場へ向かうのが常なのだ。
膝に両手をついて休むベリーチェと、ソレを気遣うベルナールの2人も
この小径の上にいた…
「アイツはドコに…」
薄暗い…しかし、まだ見通せる程度の宵の森の只中で
ベルナールは今更ながら、レオンを見つける術が無いことに思い至った。
最近よく行く狩場はあるが、昼過ぎに出発して帰ってこられるほど
浅い場所ではない。だとすると…
…この時のベルナールはレオンのことしか考えていなかった。
ベリーチェの呼吸や声や、手や足の。僅かな震えに気づかなかった。
ソレは仕方ない。
彼も必死だったんだ。
…だって。
命を預け合った…一番の親友が居なくなろうとしていたんだ!
だから。
仕方なかったんだよ…
「はぁ、はぁ…レ、レオン…はぁー…レ、レオンさん…」
肩で息をしているベリーチェは汗を拭って。無理やり作った笑顔で
ベルナールに微笑みかけた。
ベリーチェの想いの中心はベルナールで、レオンはその脇役に過ぎないが
しかし、「どうでもいい」と思っている訳では無い。
ベルナールの口から何度も飛び出すその名が…仲間が…「大事である」
と理解していた。
ベルナールと共にお見舞いに来てくれたこともあった。
もう一人の命の恩人だとも聞いていた。
明るくて面白い人だと思っていた。
だから………
「…レオンさんとの。思い出の場所。とか…」
…だからこそ。
事件が起きた当初は、あまり意識していなかったけれども、
パーティーがバラバラになりつつあるのは「自分のせいだ」
と思いはじめていたベリーチェは胸の内に
申し訳無さと
憤りと
無力感と…
「”彼”に嫌われるんじゃないか?」
という、不安と恐怖と絶望と…
「おもいで…!?行ってみよう!!」
…そういった負の感情を
キャパシティが浅い”心の器”に溜め込みはじめていた…
「は、はい!」
…本人すらも。
気付かぬうちに。




