Chapter 005_事件
次の日
とある事件が ”起こるべくして起きて” しまった
「だ、大丈夫ですか!?レーチェルさん?」
それは、
ベリーチェが薬品庫の整理をしている時のコトだった。
数ヶ月前…仕事を始めた当初のベリーチェは不安がってラベリィを抱いて仕事をしていたが、
時間が経つにつれて、ベリーチェが 仕事・そして、レーチェル に慣れてきたので
ラベリィへの依存が減り。最近では、ベリーチェの仕事が終わるまでラベリィ
を部屋の入り口の机の上に置いて一人で仕事をしていた。
しかし、薬品庫は所狭しと棚が並んでいるため見通しが効かず、
ラベリィはベリーチェの様子を確認することができない。
結果的にベリーチェの観察はレーチェルの仕事になっていた…
「え?も、もちろん大丈夫ですよ!?大した怪我じゃありません!それに、スグに治癒してもらいましたから…」
昨日ラベリィがアレほど言い聞かせたにも関わらず…
ベリーチェは彼に会いたい一心で
あろうことか、治癒院からの脱走を試みた。
レーチェルが怪我を負ったのは、
窓から飛び出したベリーチェを追いかけようとして
転んでしまったからだ…
「ヒック…ひっぐぅ…ひっく…」
幸い…と、いうか。当然というか
ベリーチェは治癒院の庭から出る前に
警備のボドワンさんに捕まり連れ戻された。
今はラベリィを抱き締め
ベッドで泣きじゃくっている…
「えぐっ…ご、ごべっ…ごべんなさい…ごべんなざいぃ〜…」
ベリーチェは病のために感情をうまくコントロールできない。
前日の会話で抱いた不安や嫉妬が膨れ上がり自分で制御できなくなって
”脱走”という行動に走ってしまったのだろう…
「ひっく…えぐっ。。。ご、ごべっ。ごめんなざい………」
冷静にもどった今。ベリーチェは
自分の行為を思い出して深く深く悲しんでいる。後悔している。
我慢できると「思ったハズ」なのに…
”なぜか”できていなかった自分を
嫌って。恥じて。理解できなくて。悲しんで。絶望して…
「…大丈夫よ。ベリーチェちゃん」
「そ、そうですよ!みんな、ちゃんと分かっていますから…」
「でっ…もぉっ………」
「わ、私が怪我したのは私がマヌケだったからで…わ、私も、もっと運動しないといけませんね!」
きっと、コレから先も”こういう”事件は沢山起きる。
ベリーチェ自身はなにも悪くないのに
彼女はきっと、これから先。何度も何度も泣かなくてはならない。
無力さに泣いて
自らの行いを恥じて泣いて
出所の分からない不安に泣いて
思い通りにいかないもどかしさに泣いて…
『…』
控えめに言って今のベリーチェは哀れだが、しかし
自分の行動や考えを省みるコトができるようになったのだから、
治療は順調だと言える。
焦る必要など何もない。
泣いて、転んで、打ちひしがれて…
『よし、よし…』
…進歩とはいえないほどのゆっくりとした速度で
再び立ち上がる日を願えばいい。
『いい子、いい子…』
明日はきっと。
いい日になるよ…
………
……
…
「…」
「あ…」
同日昼過ぎ
宿屋【小さな魔女の家】の食堂にて…
「お、おはようございますセルディアさん…」
冒険者の仕事はお休みで、宿の仕事も終わらせたベルナールは
夕食の支度が始まるまで剣の練習をして…
眠くなったら枕妖精ムーにくるまって昼寝でもしようかな…と、
贅沢な休日の予定を立てて中庭を歩いていた
「………ん」
そんなベルナールの瞳に映ったのは、
数日前にやってきたセルディアだった…
「えっと…リ、リチアちゃんか、ミーリアちゃんに用事ですか?」
宿屋に来て以来、
彼女は部屋に引きこもって、ほとんど出てこなかった。
食事は妹が部屋に運んでいたし、用事があっても妹のどちらかに
用意してもらっていたのでベルナールと話をするコトなど全くなかった
「…」
姉妹…リチアとミーリアによるとセルディアは、もともと明るい性格で
人見知りなどしない社交的な女の子だったそうだ。
だからこそ、
部屋に引きこもってヒトと話をしようともしない彼女をとても心配していた。
「「お姉様。大丈夫かな?」」と…
「…」
「…」
「え、え〜…」
「……」
「えー…とぉ…」
「………」
母親であるフォニアは、ベルナールたちにセルディアが
「冒険の中で仲間を失い、深く傷ついている」コト。
「療養の為に帰ってきた」コト
「本当なら親元で休ませたいが、今は全員忙しくて各地を転々としているからリチア達に預ける」コトを伝えたが、
具体的な内容や詳しい”いきさつ”は教えなかった。
あの日…セルディアを連れて来たフォニアは、リチアと一緒にお風呂に入ったが、
娘たちが眠りにつくと、朝も待たずにドコカへ飛んでいってしまった
「・・・どうか。あの子を詮索しないであげて。でも、側にいてあげて。本当なら親である私がするべきなんだけど、私がそばにいると事件のコトを思い出しちゃうみたいで・・・。どうかあの子を。お願い・・・」
…そんなコトを言い残して
行ってしまった…
「リ、リチアちゃんならお買い物に出ています!ミーリアちゃんは…」
「側にいてあげて…」とは、言われたが
セルディアは介護が必要になったワケではないし、
四六時中一緒にいるコトもできないので
リチア・ミーリアの2人は話し合って。どちらか一方が必ず
家にいられるようにスケジュール調整することにした。
ベルナール・レオン・メルヴィ・アレクセイの4人は
セルディアとは家族でもなんでもないので、過剰に接するのもよくないと考え
特別なコトなどせず、普通にしようと決めたのだった
「…知ってるわ。ミーリアなら今、私の部屋で昼寝してる。」
「そ、そうでしたか…」
しかし、皆の心配とは裏腹にセルディアは普通に生活していた。
すれ違うば会釈くらいしてくれる。リチアとミーリアは傍にいようとしていたが、
当の本人は”さほど”必要としていないように見えた。
“変わっている”ところと言えば、
夜になるとキッチンにやって来て。邪魔にならない隅に陣取り。
小さなランタンを焚いて、その灯を無言で『ジッ』と見つめているコトだけだった。
つまり、ベルナールはセルディアを目にすることは沢山あったが、
話したことなどなかっのだ。
だから…
「…今。時間いいかしら?」
そんなコトを言われるなんて、
思っていなかった…
「聞きたいコトがあるの…」




