Chapter 03_親子
「・・・おいひい、おいひいよぉ!リチア。母のお嫁さんになって!」
フォニアが食堂に戻ってきたのは1刻後の事だった。
日を跨いだ深夜だったので、宿が違うレオンが
「さすがにそろそろ帰ろうかな…」と、席を立とうとしたときであった…
「んふふ!いいですよっ、お母様っ!」
「・・・ミーリアもお水をありがとね。爽やかで美味しいよ!母の・・・」
「んゎあ!ほ、褒めてくれたのは嬉しいけど私はお母様のお嫁さんにはならないからねっ!」
「むぅ・・・ソレは残念・・」
何も言っていないのに、さも、当然のごとく大皿で提供された
ミートボールシチューをグイグイと飲み込む小さな魔女を
「あ、あははは…」
「さすが大師匠様です!いい飲みっぷり!」
「うぶっ…み、見てるだけで胸焼けしそぅ…」
「飲みっぷり?ミートボールシチューは…飲み物?」
その場の全員で。眺めていると…
「・・・ふう。ごちそう様でした・・・」
5分もかけずに大皿シチューを平らげた宇宙の胃袋は
「お母様。お口を…」
「・・・んー・・・」
「も、もぉ…」
「・・・んふふ。ありがと」
にっこにこのリチアに、されるがままに口を拭かれ
呆れ顔ながらも食器を片付けてくれたミーリアに微笑みを向け…
「じゃあ・・・」
…娘2人。
妖精2体。
子供ドラゴン2柱。
常連の冒険者4人を前に
「・・・説明するわね。あの子・・・セルディアのコト。帰ってきたワケを・・・」
そう、切り出したのだった…
「・・・ベル君。レオ君。メルヴィ君。アレクセイ君は娘・・・セルディアのことを知ってた?」
セルディア・ピアニシモはフォニアが産んだ2人目の実子…長女だ
リチアとミーリアの姉に当たる。
「はい!存じております!」
「・・・う!?・・・・・・さ、さすがだねメルヴィちゃん。・・・聞いといて難だけど、まさか「はい」と言われるとは思ってなかったよ・・・」
フォニアの子供たちの名前は…ま、まぁ…非公開というワケではないので調べようと思えば不可能ではないが
その中でもセルディアは、“とある事情”でフォニアができるだけ広まらないように手を回しているので、その名を知る者は関係者か、ストーカーレベルの魔女マニアだけである。
「剣神様と夜の魔女様の薫陶を受けた天才魔法剣士…【朱剣の魔女(仮)】セルディア様ですね!?」
「・・・ほ、ほんとに凄いね。怖いくらいだよ・・・」
「…あれ?お姉様って魔女に命名されていたのですか?」
「・・・そう呼ぶ人もいる。と、いうダケよ・・・」
「お姉様。強いもんね!」
セルディアが”強い”というのは本当だ。
さすがにまだ、魔女の名が許されるほどでは無いが
”あのまま”冒険者として頑張れば不可能では無かったかもしれない。
父親であるルクスから剣を学び、母親であるフォニアからパーソナライズされた召喚獣【スカーレット】を授けられたセルディアは冒険者として活躍しており、現在の階位は第2級…”優秀な”プロハンターである。
15歳で学園を中退してからは、各地の高難度ダンジョンに挑んでいた…
「ソ、ソレで…」
「セルディア…さん…は、どうしてルボワへ?」
「一時的な里帰りでしょうか?」
2級 と聞いて背筋を正したベルナール・レオン・アレクセイに加え
「お姉様にルボワは物足りないわよね?」
「ん!ミーも、そう思うよ!」
リチアとミーリアも
フォニアに瞳を向けて説明を求めた。
「・・・」
すると…
「…ココから先は。他言無用…」
…ずっと黙っていた司書妖精…”カルマート様っぽいの”と
「他の人はもちろんだけどセルディア君・本人にも、本人が切り出すまで口にしちゃダメよ!」
”スタカッティシモちゃんっぽいの”が釘を差し。
そして…
「・・・事故が起きたの。」
…フォニアは切り出した。
「プロ」を名乗る以上、許されない。
娘が犯した大きな罪を…
………
……
…
「…」
空が白み始めた頃…
「・・・くぅ・・・すぅ・・・・・・」
「…」
…セルディアは目覚めた。
霞のかかる視界をいち面に覆う母の大きな…
「…こどもじゃ、ないのに…」
…いつまでも娘を甘やかす母の胸に悪態をついておき
ながら、セルディアは両の頬で柔らかな愛を味わい…
「んんっ・・・」
…すると、
「・・・あっ・・・」
「ちょっ///」
「んっ・・・」
「…//////」
大人と子供・天使と魔女を同居させてる…
娘から見ても、いろいろズルい母の思わぬ声に
心を乱されてしまったセルディアは
「むぅっ…///」
じぶんの方が大人だ!
とでも言いたげに、母の小さな体を抱き返してやった。
「んんぅ・・・」
すると、今度は逆に娘の胸の熱を味わうことになった
フォニアは
くぐもった声と共に少し身じろぎし…
「・・・」
…そして。
「・・・・・・・・・だいsきょ・・・セルディア・・・」
「っ〜//////」
………
……
…
「お、お父様!?」
「よぉ…」
次にセルディアが目覚めたのは夕方…
日が沈んだ後の。夜の始まりのコトだった…
「ど、どうしてお父様が!?ソレに。お母様は…」
フォニアは結婚していないが、2人のパートナーとの間に4人の
子供を設け、1人の娘を迎えた。
つまり、子供たちにとっての”父親”は2人いるワケだが、
(ユキアも含めて)彼女達が単に”お父様”と呼ぶ相手は
【剣の魔術師】…【剣神】でもあるルクスのコトである。
因みに、
もう1人のパートナーであるフルートの呼び名は
長女から順に
パパ、フルートお父様、パパ、パパ
…である。
「…仕事が一段落して、時間ができてな。」
その言葉に…
「…お母様に言われた?」
…ルクスは現在
解体したのに復活してしまった【奴隷商人ギルド】の監視をしながら
フォニアの護衛のために各地を転々とする…という
”かなり”忙しい生活を送っている。
「………いや。話し合った結果だ。」
一方、フルートもフルートで…
【北のエルフ】との会合や学園・学院の臨時教師。
フォニアの領地の代官や獣人王国など各国への出向などなど…
ナンでもカンでも安請け合いする性格がアダを成してルクス以上の面倒事を抱え
目が回るような日々を送っている。
ソレはともかく…ココにルクスがいるというコトは
フォニアの護衛が薄くなったという意味である。
世界にいくつもの革命を起こしたフォニアには味方も多いが、敵も多い。
セルディアもそれを身をもって経験したからよく知っている。
フォニアにはルクスとフルート以外にも優秀な護衛がついているが、
最大戦力が抜けるのがどれほどのリスクか…
…ソレを知らない長女ではない。
「でっ、」
しかし…
「…そ、そ…う………」
親たちは、世界よりも娘1人を優先すると言っている。
そして。反対したところで答えは変わらない…
「っ…」
…そのことに思い至ったセルディアは涙を溢しながら
下を向いた。
「っ…っっ……….。」
思えば…勝手なコトばかりしてきた
勝手に冒険者になって。
相談もなしに学園を辞めて
知らない人とつるんで、心配かけて
手紙の1つも出さずに。好き勝手生きて…
「…ご、ごめん。…な。さい…っ。。。…」
失敗して。
逃げだして。
途方に暮れて…
「…気にするな。」
それでも
見守ってくれていて。
背負ってくれて。
愛してくれて…
「あっ、ありっ。がとっ…ひっく…ご、ごぢゃ…いっ…ま。すっ…」
セルディア・ピアニシモの懺悔の物語は…
「…よ、よし…よし…」
「っ!…ぅ、うぅっ…ぃ、うわぁあぁぁぁぁ~!!!」
…こうして始まった




