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Chapter 033_自由の風

「さっさと行ってしまえ」


メルヴィは大陸の南西部にあるエパーニャ・リアナ王国で生まれた。

物心つく頃には貴族の家で愛玩用に育てられ“本当の親”の記憶は無い。

幼い頃は乳母を親と思って過ごしていた…



「お世話になりました…」


初めての相手は”飼い主”である貴族のジジイ…だったのだと、思う。

当時まだ12で、初瀬も迎えていなかったメルヴィは痛みで気を失ってしまった。


そして、その日以降

メルヴィの身体は子を宿す力を失った。

メルヴィは肉付の良い肢体と張りのある肌…魅力的な女の身体を持ちながら

ただの1度も「生理」というモノを経験したことがない。


自由の身になってから術師に診てもらったコトもあるが

原因不明で治せなかった。

高名な術師に診てもらえば治せるかもしれないが…

しかし、彼女にとってはソレは、むしろ都合の良い事だったので

そのままにしている。



「…ふんっ、」


成人(16歳)を迎えるまでメルヴィが貴族のもとで暮らしていられたのは

見た目の美しさとともに”踊り子”としての才能によるモノだった。


派手に遊んで暮らしていたそのジジイは客人の前で彼女”たち”を

舞わせ、そのまま酒池肉林にもつれ込むシチュエーションに"のめり込む"

低能で醜悪な俗物だった。


友人…と、言えるほどの仲ではなかったが、仲間が首を吊ったり、

ジジイに斬りかかろうとしたり、逆にジジイに取り込もうとして…

失敗して。見せしめに辱められたり…


…イロイロ。見てきた。



踊り子は短命の者が多かったがメルヴィはジジイのお気に入りだったようだ。

栄養のある物を食わされ、十分な休養と適度なレッスンを受けていたため、

肉体的には健康そのものだった。


どんなに絶望しても簡単に死ねるほど

甘くはなかった…



『バダーンッ!』


転機が訪れたのは15の時だった。


夜の魔女の6番弟子【緑星】こと、

 ベネラ・サルバトリオ

がジジイの屋敷を訪れたのだ。


若くして…メルヴィと5つしか違わない…非常に優秀な魔導士で

あったベネラは、夜の魔女の弟子…7星(当時は6星)の中で最も

”新しい弟子”でありながら、最も「次の免許皆伝」に近いと言われて

いたエパーニャ・リアナ王国の至宝であった。


しかし、ベネラは天才であると同時に夜の魔女”以上の”気分屋であり

当時、修行と称して各地をフラフラしている最中だった。

ジジイの屋敷にやってきたのも、ただ”金の無心”によるものだった。


ジジイは教養もなく、魔導なんかカケラも興味が無かったが

立場上ベネラを(もてな)さざるを得なかった。


そしてメルヴィは舞台に立った。



「あぁ、今日は女の人が相手か…」


浮かんだ言葉は、ソレダケだった…











『ダンッ!!』


…ソレは。

メルヴィが”舞の理”に身を任せ、瞳を開いた瞬間だった



「っ!?」


そんなコトは初めてだった。


注目の目を(はばか)らず、ベネラは舞台に駆け上がり

熱い眼差しでメルヴィの瞳の奥の奥を覗き込んだ。

被っていたヴェールは引き剥がされてしまった…



「エスコリド殿!」

「は…は?」

「コレはどういうことですか!?」

  

衛兵さえ動けぬ間に舞台に駆け上がった”魔女の弟子”は

ジジイの名を、メルヴィの瞳だけを見つめて叫んだ。



「どう…コ、コレ。とは…」


この場にいる全員が事情を飲み込めずにいた。

「理の世界」から引き戻されたメルヴィは瞬きすら忘れ。


夜の樹海のようなベネラの瞳を見つめ返した…



「…いえ、むしろ、そういうコトですか。コレはコレは…粋なコトをなさる。」


独り()ちしたベネラはキツく掴んでいたメルヴィの頬から手を離し。

そして…



「…お母様。コレは”そういう”コトですか…そういうコトですね。正に夜の導き。お母様の(ひかり)です。えぇ、えぇ、分かりました。分かりましたよ、お母様。やればいいのでしょう?やれば…」


…そして。

メルヴィの肩に優しく手を乗せ…



「…名前は?」

「…」

「貴女よ、貴女。貴女の名前…」

「へ…わ、わた…し………?」

「他にいないでしょ!」

「ひゃうっ!?は、はい!え、えぇと…メ、メ。と、申しま…」

「メメ?」

「い、いえ。メ…ダケ。です…」

「め…メ?」

「…はい。」

「…え?メ…い、1字!?メ〇〇(まるまる)じゃなくて?」

「み、皆様方から「メの娘」と。そう…」


「はあぁぁ〜っ………」


…大きな溜息を突いたベネラは

『ギッ…』っとジジイを睨みつけ。そして…



「ひゃt」


メルヴィを強く抱き締め



「今日からこの子を私の弟子…いえ、まだ弟子をとっていい身じゃないので…生徒とします。コレはお母様…夜の魔女様…のお導き。…まさか、異論はありませんね?」


エパーニャ・リアナ王国は夜の魔女の出身地ではないし、

過去の戦争で関わったワケでもないが、


薬草学とスイーツとファッションと飛空船で莫大な利益を齎してくれた”大出資者”

であったため、国を挙げて協調路線をとっていた。


どれくらい協調路線だったかというと、

国教を「月天使教」に定めてしまう程度には激ラブだった。

要するに、この国では 夜の魔女=神 だ。



「あ、ありません!」


当然、その弟子も天上人である。


領主といえど、逆らう余地などなかった…


…と、いうか。

ヘタに機嫌を損ねたら領地が消滅するんじゃないか!?

と、恐れられていた。


誰一人としてベネラの実力を知らなかったが「魔女の弟子」

というネームバリューだけで

ベネラの我儘はすべて「理」となった。


魔法が社会を動かす世界において

「魔法を編める8人の1人」

という存在は、それ程のモノだった



「メ…メ………う、うぅ〜ん…な、名前は後で考えるとして!…貴女!」

「…は、はぃ…」

「貴女、魔法は?魔法の勉強はしてきた?」

「え、えぇと…せ、生活魔法を教えて頂きましたが。風属性しか…」

「はぁ!?じゃあ、なに!?その色と魔力を示しながら”食い潰されていた”っていうの!?バッカじゃないの!?」

「ご、ごめんなs…」

「貴女のせいじゃ無いわよ!!」

「ご!ごめんn…」

「いい!私はお母様みたいに上手じゃないし優しくもないわ!覚悟なさい!」

「へ?え…」


「貴女は今日から!私の実験動物(でし)なのよ!!」




メルヴィが既知の全ての風魔法を宿すまで1年。

檸檬精霊を宿すまで、もう半年。合計1.5年。


”頭のおかしなスパルタ教育”でメルヴィを鍛え上げたベネラは

ある朝、置き手紙1つでアッサリとドコカへ消えてしまった。


“魔女の弟子の弟子”という”大モノ”を押し付けられたジジイは

”武者修行”と銘打って”厄介者”を追い出した。



メルヴィはこうして


細い指では掴みきれない

実力と名誉とお金を握らされて

自由の風となった。

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