Chapter 032_空と大地の風
「シィルフゥィィーー!!」
メルヴィは”とても”優秀な魔法使いである
『『『!!!』』』
強力な竜巻に巻き込まれたとしても
風の精霊であるシルフィが ”風そのもの” でダメージを
負うコトは無く。颶風に揉まれながらも巻き込まれた
小枝や砂利を避け
主の声に応えて姿を現した!そして
「頼んだわよ!」
窮地の仲間の救出に向かわせた一方で…
『グルルル…』
新たに現れた獲物に嘴を震わせたヒュポグリフに
「っ!」
”どっかの魔女”に憧れて真似している
指輪…発動子…の嵌る指を突きつけ!
「落ちなさーい!!」
唱えた!?
するとっ!
『グルッ!?』
ヒュポグリフの…真上!?
ほんの一瞬現れた”魔法発動の気配”に振り返ったが
『ダガーンッ!!』
もう遅い!!
「まだまだ行くわよー!落ちろ落ちて落っちろー!!!」
『ダダダーンンッッッ!!!』
風属性 第5階位 【風塊魔法】
この魔法は空中に”あらかじめ”装填しておいた空気の塊を
“任意の”タイミングで起動して打ち下ろす…
“空気の罠”を設置する戦術的な魔法だ!
「ハンマーハンマー!!…落ちなさーい!!」
『ダダーンッッ!!』
空気の塊は上から下にしか落とせないし、装填された空気の塊は
術者にも見えなくなる。
また、装填には「ハンマー」発現には「落ちろ」の掛け声が必要…
だけど、
空中に装填された空気の塊は不可視で、装填と発現の瞬間にしか気配がしない。
そして装填も発現も。その速度は最高で音速まで出せる。
有効利用するには記憶力と先見の明。そして、なにより才能が必要であるが…
モノにできれば、敵の行動をほぼ完全にコントロールできる。
『グッ…ゲッ!?!?』
直撃を食らえば肺の空気を全部吐き出させられる程度の威力。
死ぬ事はないだろうが…ヒュポグリフと、いえど
不意打ちを受けた上、立て続けに翼を狙われては
ひとたまりもない!!
『ドシィーン!!』
メルヴィの風塊によって、
ヒュポグリフは再び土を舐めた!
「いけるか、ベル!?」
「は、はいっ!!」
更に!!
槍を構えたアレクセイがヒュポグリフの目を
態勢を整え・剣を握り直したベルナールが翼を!
「せぇいっ!!」
「はあぁっ!!」
同時攻撃!!
『ギギュルルオォォーー!!』
全ての生き物にとって弱点である目と、ヒュポグリフにとって
生命線である翼を同時攻撃されては悲鳴を上げるしかない!
一方で…
「レオンー!」
『『『っ!っ…』』』
3体の精霊に引っ張られ…下から押さえられて
ゆっくりと地上に向かっていたレオンは…
「レオン!!」
遂に、
待ち構えていたメルヴィに抱きかかえられた!
「…」
「…レオン?」
「もうダメだ!」そう思っていたのに助けられたレオンは
理解が及ばず数秒、茫然としていた。
しかし…
「レ・オ・ンゥ〜…」
気点け…のツモリだろうか?
艷やかな唇をレオンの耳に寄せた”お色気お姉さん”が
「ふぅ〜…」と、息を吹き付けながら色っぽい声で
その名を呼ぶと…
「っ!?!?!?」
くすぐったい耳と柔らかい感触
甘い声に、クラクラとする香りに気付いたレオンは
メルヴィの上で跳ね起き…
「あんっ///」
…事態を悪化させてしまい。
腕で押し潰してしまった2つの”フニフニ山”の感触に
思い至り…
「っ〜///…メメメメェルビさんっ!?」
メルビィ”に”お姫様抱っこされていたレオンは
無理矢理体を捻って、首だけメルヴィに振り返った。
「レオン!」
しかし、彼の恥じらいと心配をヨソに…
「無事で良かったわ!」
…メルヴィは。
目尻に光を溜めてレオンのお腹に頭を当てて『グリグリ』し
喜びを表現した…
「…」
その様子に…
「…ありがとうございました。メルビィさん。」
素直に感謝を述べたレオンに
「とーぜんよ!」
『『『!』』』
…風たちは。
爽やかな笑顔を向けた!
『ギュグルルルゥ…』
片目から血を流し、片翼を歪な方向に折り曲げられた
ヒュポグリフは
「…くっ。まだ立ち上がるか…」
「…」
それでもなんとか立ち上がり、
首を巡らせ、残された瞳を動かし。
そして…
『ぎゅる、ぎゅるるるぅ…』
…ヒュポグリフは”生物”だ。
傷を負えば痛い。恐怖も感じる。
獲物を弄ぶ快楽主義者ではあるが、自尊心を育てられるほど熟達は
していない”子供”である。
「勝てない」「恐い」
そう思ったヒュポグリフは情けない声を上げて…
『ザザッ!』
背を向けた!?
「しまっ…」
「逃げる気か!?」
飾り羽根をたたんで震える羽毛に忍ばせ、残された目で
必死に空を探し。不恰好にフラフラと…蛇行しながら…
血を滴らせて敗走する姿に
空の王者としての貫禄などなかった
『ぎゅるぅ〜…ぎゅぅ〜…』
風を操る術を失い、光の半分を失い、歩く事さえままならない
その哀れな姿はまるで、幼い雛鳥のようだった。
このまま逃がしても良いのでは…
…この場面だけを見た者なら、そう思ったかもしれない。
「「「「っ!」」」」
だが…
「時間を稼ぎます!!」
「オレも!…メ、メルヴィさん!もう…」
「う、うん!…シルフィ!みんなを援護!!」
『『『!!!』』』
…周りを見てみろ?
全壊3軒。損壊多数。家畜に、収穫間際の小麦も大きな被害を受けた。
死者こそいないが住人のほぼ全員が負傷者。
ハラの町は台無しだ!!
「すー、はぁ〜…『岩よ 誰が為に聳える』」
ヒュポグリフは間違いなく、知能の高い魔物といえる。
しかし、人間ほどではない。
【罪の意識】など無いし、【責任】なんて言葉も知らない。
お腹が空いたから食べる。
楽しいから遊ぶ。
悔しいから戦う。
恐いから逃げる。
ソレしか知らない大きな雛鳥だ。
「をおぉっ!!」
「だあぁっ!!」
『ぎゃるるるぅ!?』
…しかし、だからといって罪が無いわけじゃない。
償ってもらわなければならない。
ヒュポグリフがもっている物の中で…イチバン価値のある
「命」をもって
「『天を犯せし尖塔を 高く高くと突き立てろ』」
”その体”は利用価値が高い。
羽根も皮も肉も内臓も目玉も、未発達とはいえ飾り羽も
魔道具や薬、武器防具や装飾品として珍重されている。
ハラの町がどのくらい”分け前”を貰えるかは分からないが、
鞄の残り容量からして、すべて持ち帰れない現実があるので
町の復興の慰めくらいは、恵んでもらえることだろう。
…家々を破壊され、傷も負い、収入すら減ったのだ
冒険者に追加報酬を与える余裕なんてない。
助けてもらったからといって、
ホイホイお金を渡せるほど、この町は裕福ではない。
「アレク!合わせるから!貴方のタイミングで唱えて!!」
現実はいつも厳しく、無慈悲だ。
人間にとっても…
「『貫けぇ!!』」
…魔物にとっても。
「来るぞ!」
「おうよぉ!」
ベルナールとレオン…
檸檬精霊の力を借りてヒュポグリフの行く手を阻んでいた2人は
アレクセイが完唱したのを耳にして
その場を離脱!!
「オベリスク!!」
直後!
ヒュポグリフの真下に栗色の魔法印が展開!!
『ぎゃっ!!』
魔法印の展開から魔法の発現までの間…コンマ数秒…
逃れようと体を捩じろうとしたヒュポグリフであったが!
「落ちろ!!」
岩の尖塔より速く発現したメルヴィの風塊が
『ギュゲッ!?!?』
頭にヒット!
伸ばされていたヒュポグリフの首が、空から大地へ…
『ガッ!!』
アレクセイの尖塔が
その首めがけて、大地から空へ…
『ダガアァーーンッッッ!!!』




