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Chapter 005_落穂事件

落穂(おちぼ)事件】

19年前…カレント2,186年の夏に起きたエディアラ王国の大事件(スキャンダル)だ。


人間が主に暮らす【アドゥステトニア大陸】と獣人の故郷【パド大陸】

その間に架かる【ウィルトゥースの橋】という古代遺跡橋…”大陸を繋ぐ”

橋…の上で


エディアラ王国国王

ディアナ・ロワ・エディステラ・オリゾンドレ


その人が、世界中の人々を戦乱の渦に落とす”魔法仕掛けの契約”を結ぶ…という、

”暴挙”を起こし。その後、暗殺された。


当初は同じ場所にいた夜の魔女(当時はまだ【万象の魔女】)が犯人と思われて

いたが現場にいた兵が強く否定。結局、犯人は分からずじまい…


少なくとも歴史書には、

そう、(つづ)られている…



国王が死んだ為か…理由は定かではないが…”魔法仕掛けの契約”は破棄され

危機は去ったが王家の責任は(まぬが)れなかった。


国の(おこ)りからして領主たちは権限が強く、規模の大きな私兵も持っている。

権威を失った王家に諸領主を抑える力など残っているハズもない。


…因果応報

王家は諸領主に宣戦され、大規模な内戦へと発展した…



「ボンリーヌはヴィルス帝国との国境にあるド田舎だからね。戦争とは無縁だと思っていたらしいんだけど…」

「く、国中が戦場になった”らしい”ですからね…」


内戦の大義は

「国を窮地に立たせた王家に統治を任せてはおけない」

と、いうものだったが

実体は”国王派”の領地を他の領主が喰らう侵略戦争だった。


侵略され、略奪され、その復讐の為に決起して、

警戒した隣国も軍備を進め…


エディアラ王国はアドゥステトニア大陸中央に位置する最大の国家。

しかも、落穂事件の半年前まで対外戦争をしていた不安定な時期。


金の麦穂は音を立てて地面に落ちた…



「でもでも!おか…」「ミーリア!!」

「ひゃっ!?あ…ま、魔女様が。助けてくれたん…でしょ…?」


(「まったく…」「ご、ごめんなさぃ…」)


内戦を終わらせたのは、3大大陸一筆書きを終えて帰還した

【夜の魔女】だった。



「…?」

「そ、それで!ベルナールさん。続きは…」

「…え?あぁ…う、うん。ミーリアちゃんが言った通り、その時は魔女様が駆け付けてくれたらしいよ。…もっとも、当時オレは2歳で。憶えてるハズないんだけどね…」


夜の魔女…

彼女の力は圧倒的だった。



「実際に戦地に赴いた父様が言っていたけど…魔女様は”妖精の話”(「(ウワザ)」という意味)通りに虹と共に現れて…」


虹…というのは魔女が宿している召喚獣 水龍の(つがい)

ツィーアンとツィーウー のコト。


話に飽きて裏の水路に遊びに行ってしまった子龍のコトではなく、

巨大で威厳ある いにしえの龍神である。


魔女は宿した水龍の力を借りて数千kmの距離を数十秒のうちに飛んでいける…



「『パッチィンッ!』と、指先ひとつで【星】を呼び…」


【星】…”重力”を操る球形の召喚獣…を

指パッチンで戦場の真ん中に顕現したのなら、

戦いは終わったも同じ。


瞬時に展開される強力な重力によって

両勢力の全兵力を大地に(ひざまずかせ。

そして…



「・・・ウリエル」

「イエス、マイロード。ココに…」


“契約”を司る熾天使(してんし)でもって…



「・・・さぁ、両勢力の隊長様。平和公約を結びましょう・・・」



………

……











「…あ、あれ?でも、それじゃあ…おにいちゃんの故郷は平和になったんだよね?」


武力行使を行うと何処からともなく魔女が現れて兵を無力化し、

有無を言わせぬ公約まで結ばされてしまう。

契約魔法には兵士に反戦意識を植え付ける精神的な効果もあるらしく、

兵は役に立たなくなった。


かくして、魔女が”唱えた通り”

暴力の無い平和な時代が訪れた…



「…それと。無銭飲食になんの関わりが…?」


…かに、見えた。



「…代わりに。ヤツラは”貿易戦争”を仕掛けて来たんだ…」


エディアラ王国は侵略大国だ。

歴史がソレを物語っている。


魔女ひとり…農家の小娘1人に屈する

領主ではなかった。


暴力が役に立たないのなら別の力を使えばいい。

魔女の後ろ盾(パトロン)にも見つからないように慎重に。

入念に。魔法のような早業で…



「ぼーえきせんそー?」

「…モノを売ったり買ったりするのを邪魔する事よ。例えば…そうね。今朝のハムサラダに入っていたレタス。あれは、隣の集落の人が届けてくれたものなんだけど…。もし、街の入り口で兵士さんが「街に入りたれば金貨1枚払え!」なんて言ったら…」

「金貨ぁ!?…そんな大金。持ってないよ…」

「…でしょ?農家さんだって払えないわ。せっかく持ってきたけど…」

「農家さんが帰っちゃう!?」

「ん…」

「タイヘン!!レタスが食べられないよ!?」


ベルナールは、棚に納められていた

見慣れたラベルの瓶を懐かしそうに見つめ。そして姉妹に向き直り…



「…瓶を止められたんだ。」

「瓶…」「ビン?」


「…そう。シードルは…ね。樽で造った後ビンに詰めなおし、瓶の中でさらに醸造(じょうぞう)させ、熟成(じゅくせい)するんだ。瓶は、液体であるシードルをお客様に届けるための”器”である以前に”醸造器”であり、”熟成器”なんだよ…。ビンなしじゃ、リンゴの果汁はシードルに”ならない”んだ…」


ボンリーヌの襲撃から13年…


雪辱を晴らす為か、シードルの魅力か?

魔女への恨みか、同じ中立派であるハズの筆頭領主ギヨーム…魔女のパトロン…への復讐か?


…ソレは分からない。けれど周辺領主たちは本当によく調べ、

盤石に思えた魔女の包囲網の隙を衝いた。



「…シードルは発泡性…つまり、炭酸の泡が出るお酒だから普通の瓶じゃダメなんだ。強度のある瓶をドワーフの職人から直接…商人ギルドを通さずに…仕入れていた。…も、もちろん!領地全体で数が多いから沢山の職人に頼んでいたんだよ!?なのに…その全部が。偶然にも!?ドワーフ王国とエディアラ王国の国境付近で同時に盗賊に襲われただって!?そんなコトあるはずないじゃないか!あっていいハズ、ないじゃないか…」


…ギルドを通せば、例え盗賊に襲われたとしても流通大手のラレンタンド商会…魔女の2人目のパトロン…の目に留まったはずだ。

しかし、ドワーフの職人気質と”ガラス”という繊細な工芸品がそれを嫌った。


ギヨームはあくまで”エディアラ王国の”領主だ。国境付近に何の前触れもなく現れ、1回きりで消えた盗賊の出所。ドワーフの職人の行方までスグにつかめるはずもない…



「…醸造酒は生き物だ。時期を逃せば死んでしまう。去年の秋に収穫して。数か月前には完成して。今年のラベルを貼られるハズ”だった”りんごと酵母の芸術品は…

…全滅した。」



「「っ…」」






「…シードルしかないボンリーヌは1回の貿易封鎖で破綻(はたん)した。」


「父様と母様と兄様は…ボクに。旅費と。剣と。思い出と。服と。靴だけ渡して送り出してくれた。」


「………ごめんなさい。冒険者ギルドの登録料…50ルーン。

それすら、もっていないんだ………」

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