Chapter 027_朝の風
「「「ありがとうございました!」」」
4日後 天気は快晴
ルボワ市の隣にあるハラの町…
「イ、イエそんな。依頼ですから!ほ、報酬も頂きましたし…」
「こちらこそ、お世話になりましたっ」
「どーも…」
「…」
全方位…地平の彼方まで…小麦畑が広がる人口40人強の【ハラの町】は
端的に言ってド田舎である。かろうじて旅籠はあるが、
ルボワに向かう冒険者や商人向けのいわゆるB&B。
それ以外には娯楽施設どころか、旅人向けの商店すらない。
「…それじゃ。帰りましょうか!」
”アーバンラット討伐”という仕事を終えたベルナール達が
この町に長居する理由は何もなかった。
「はい!」
「へーぃ…」
「…あぁ。」
町長と数人の町人に見送られ。ベルナール達は
春とは思えぬ肌寒い風に背中を押されて帰路についたのだった…
「依頼料は”ほどほど”だったけど…ご飯は美味しかったし、いい経験になったわね!」
「ですね!」
新鮮な野菜と焼き立てのパン。
塩と香草が効きすぎた乾燥肉と雑味の多いチーズ…
洗練された”ご馳走”では無かったが町人がお礼とばかりに出してくれた
心尽くしの素朴なご馳走は4人の足取りを軽くしてくれた。
「酷い目に遭ったケドな…」
アレクセイが罠を張り、メルヴィが追い立て。
2人が始末する…
一般にアーバンラットはすばしっこくて小さく、厄介とされているが
今回は相手が悪かった。4人のこの作戦で、この町の魔物ネズミたちは
やすやすと完封されたのだった
全ての家と納屋の軒下から天井裏まで
徹底的に調べて撲滅し見つけた巣も全て破壊したので
当面この町で被害が起きることは無いだろう。
…もっとも、旅人の荷物に掴まって都市から都市へと
旅をするのがこの魔物の生態であり、名の由縁であるから。
いずれまた、冒険者が必要になってしまうのだが…
「…自業自得だ。」
…それはともかく。
ベルナール達は優秀な新メンバーである
アレクセイとメルヴィによって滞りなく終わった。
問題があったとすれば、
「病気を持っているコトが多いから気をつけろ」と
言われていたのに不用意に手を伸ばして噛まれて
しまったレオンの怪我 1つダケ。
「うぐっ。ごめんなさい…」
感染症予防の薬を飲まざるを得なかった為、
全員の依頼料の取り分が減ってしまったのだ。
ひとりの不注意もパーティー全体の責任…
結成して日は浅いが、ベルナール達のパーティーは
健全な運営ができていた。
しかし、
年頃の男女が衣食を共にする上、生死をかけた利害関係まで
絡んでいる冒険者パーティーが長期間存続するのは
端的に言って困難である。
約半分のパーティーが1年間の存続もできずに解散し、3年後には
2割以下に落ちる。5年間続くパーティーは滅多になく。
10年も存続したら、それはもう、奇跡だ。
戦争があり魔物もいる世界で、それ以上に困難な人間関係を
継続するコトが、どれほど困難なコトか…容易に想像がつくだろう
「他が順調だったんだし…必要経費ってことで仕方ないわよ!」
「本当にごめんなさい…」
「ドンマイだな!」
「ありがとよ」
「…反省はしろ。」
「はい…」
ベルナール達の場合は
「メルヴィとアレクセイ」が既にくっついているし、力量の差も明確。
更に、この2人…特にメルヴィの…後ろには強力なパトロンが着いているため
“そういう”問題は起きづらいが、”だからこそ”の問題がいずれ起こるに違いない。
そもそも、
”他にやる事が無くて”冒険者になった ベルナールとレオンと、
冒険者になるコトが”使命”であった メルヴィとアレクセイ
の間には決して埋らぬ溝がある。
「…ま!」
このパーティーは、いつか必ず解散する…
「過ぎたことは仕方ないわ!気を取り直して、次の冒険に向けて今は愛しの魔女様のお宿に帰りましょう!」
全員がそのコトを予感しているが、少なくともソレは今じゃない。
そんな先のコトを心配するのは取り越し苦労というモノだ。
「はい!」
「そうだな…」
「メルヴィさん。みんな…オ、オレ頑張るよ!!」
命を預け合う彼らに必要なのは、明日を不安がるコトよりも
今日を全力で生きるコトなのだから…!
「…止まって。」
十数分後…
「はい?」
「…お?」
意気揚々と先頭を歩いていたメルヴィは突然、
下を向いて歩くペースを落とし
遂に立ち止まってしまった…
「…忘れ物か?」
特に決めたワケではないが…
支援と斥候を担当するメルヴィは、その性格も相まってパーティーの
先頭に立ち。皆をグイグイ引っ張ってくれていた。
そんな彼女が立ち止まったのだから
当然、パーティー全員の足が止まる。
「…」
「「「…」」」
メルヴィは振り返って。
顎に手を当て深刻そうな表情で空を見上げていた
「『リブラリアの』…『根源原理』」
…そして!?
なんの説明もないまま突然
「『編みて綴りし定理をここに』…」
魔法…それも、調和魔法を唱え始めたではないか!?
「…『風よ、聴け 愛し君へと歌を届けよ 春野を詠い夏野に踊れ 青葉に香る三珠の檸檬』…」
春風を伴いながら、舞うようにメルヴィが踊り完唱すると、
「…シルフィ!」
『ポンッ、ポポンッ!』と、音がしそうな勢いで
魔法印から飛び出してきたのは
「…おいで!シルフゥ・シルフェ・シルフォ」
メルヴィの自慢である、3体の小さな風の精霊…
檸檬精霊 シルフィであった!
「おい、どうした!?」
精霊は召喚する為に多くの魔力を消費し、ただソコにいるだけでも
術者の魔力を『ギュルギュル』と削る”大食らい”な存在だ。
メルヴィは魔法の才能が高く、他に比べて多くの魔力を持ってはいるが
そんな彼女でも”低位精霊”である人工精霊のシルフィを長時間維持するのは
難しく、保って精々30分。
「メルヴィさん?」
メルヴィは優秀な魔法使いである。
だから、
魔力を無駄に消費するような愚を冒さない。
元・踊り子で、ナイフすら握ったことの無かったメルヴィにとって
魔物と戦う為の武器は魔法しかないのだから…
「3人とも!この風は…」
…そんなメルヴィが長閑な小麦畑のど真ん中で魔法…
それも、彼女の切り札である檸檬精霊を召喚した
のだから只事ではない。
アレクセイとベルナールの問に答えるより先に魔法印
から飛び出した小さな風の精霊に
焦った様子のメルヴィが問いかけると…
『…!』『…』『!!』
「やっぱり!?」
『『『!!!』』』
精霊達は、宿主であるメルヴィだけに聞こえる声で
答えた
『間違いないよ!」『今の風は…』『魔物の風!!』
『『『風を操る強い魔物だ!!!』』』
「みんな聞いて!」
確信を得たメルヴィは仲間に振り返り叫んだ
「向こうの方角…おそらくハラの町に強力な魔物が出現したわ!」
その言葉に
指さす先に
「なっ!?」
「なんだってぇ!?」
「っ!!」
皆の緊張が走った!
「数は!?」
「たぶん…1体!」
頼れる斥候の言葉に疑う余地などない!
全員がその事を理解していた
「強力な魔物って…」
だからこそ、
「状況的に…」
続いた言葉に…
「…ヒュポグリフ」
「「「!?!?」」」
…駆け出そうと構えた皆を
「ね、ねぇ…ど、どうする!?」
「「「…」」」
躊躇させた…




