Chapter 023_キュルグ掃討戦
「「…」」
カレント2,206年 風雨の月 10日
『『『『『ギキュグルルゥ゙…』』』』』
天気は雪
「冒険者諸君!早朝から集まってくれてありがとう!!見ての通り…偶然にも…キュルグ掃討戦予定日の今日。痺れを切らした魔物達が徒党を組んで街に迫った!」
ルボワ市は地方都市にも関わらず立派な水堀と土壁で覆われているが
水を恐れず登攀力もあるキュルグにとって
ソレはアスレチックに過ぎない。
普段は人間に危害を加えないキュルグだが、生死がかかっている今
そんなコトは言っていられない。
自分より大きく武器を携え、魔法まで放つ人間に挑むコトは
彼らにとって身体が震えるほどの恐怖だろう。
しかしソレでも挑むと言うのだから
キュルグはキュルグで決死の覚悟に違いない。
迎え撃つ冒険者も、気を抜くコトなどできない…
「他の町や村でも諸君と同じように魔物の群れと対峙している冒険者がいる。この戦いはキュルグと冒険者…魔物と人間の総力戦だ!」
キュルグの数が多いため掃討戦は領地を跨ぐ広い範囲で行われる。
しかし、この辺りの冒険者ギルドはルボワ市だけなので、
ルボワ市のギルドがすべてを取り仕切っている。
領主や市長・貴族との調整や、冒険者の派遣・支援など
ギルド員は目の回るような忙しさで、ここ数日は徹夜だ。
しかしソレも今日まで。
「いよいよだな…」
「…あぁ。」
ルボワ市の防衛に回った冒険者はベルナールとレオン
そして、ギルマスも含めた総勢13名
少ないように思えるかもしれないが作戦全体でみると120名を超える
冒険者が参加している。この数字を見ればギルド員がどれほど大変な
思いをしてきた、分かるのではないだろうか?
前線に立つのは冒険者だが作戦を考え、冒険者をまとめて
いるのはギルド員だ。
また、今回の作戦に関わっているのは冒険者とギルド員だけではない。
万一に備えて各街には街の守護を担う騎士団が配備されているし、
けが人に備えて治癒術師や薬草師も準備をしている。
食事や生活雑貨を補うために商人も動いている。
少なくないお金も動いている。
「人間の総力戦」…というギルマスの言葉は
”ノワイエ領とその周辺”という言葉さえ足せば
大袈裟過ぎない表現なのだ。
「そういや、ミーリアちゃんは参加しないんだな?」
「あの子の1番は。リチアちゃんと宿だから…」
「…あぁ。なる程な」
対するキュルグは
3つの群とドサクサに紛れたハグレを含む総勢60匹強の大所帯。
目指すはルボワ…と、いうより、食べ物が”ありそう”な場所だろう。
ルボワ市には果樹はない(家庭菜園は除く)が
食料は備蓄されているので万一、ルボワが陥落すれば
「業者が抱えている在庫のプルーナッツ」や、
「消化はできないが腹は膨れる小麦」が荒らされ
ルボワの更に先にある村や集落が被害に遭うコトだろう
「オレたちはオレたちの仕事をしよう…」
「おーともよ!」
バーサーカー状態になってもキュルグは所詮、大きなリスだ。
肉体的にも魔法的にも知能でも人間に劣る。
しかし相手が、
戦いに慣れていない一般市民や、力のない老人や子供であったなら…
…「死に」はしないだろうが、怪我と食料不足は免れまい
「十分に経験を積んだ諸君であれば問題ないと思うが…頼むぞ!限界を迎えているヤツラは何でも口に入れる!立ちはだかる者には爪を立て牙を向ける!お前たちにも…市民にもだ!」
こんな戦いはキュルグだって望んでいない。
彼らは自然の摂理に翻弄された被害者だと言えなくもない。
ボスを倒された群は忽ち崩壊し、
残されたメスや子供は人間に討伐されるか野垂れ死ぬか…
その”どちらか”の未来が待っている。
「かわいそう」…と、思うだろうか?
しかし、それが「理」というモノだ。
「諸君!諸君をココまで育ててくれた街を…ヒトを!見捨てられるか!?…そんなコトが許されるのか!?」
生存確率を高めるために実りを調整した樹木
その果実に肖り、命を繋ぐ キュルグ と ヒト
悪いのは「樹木」か?「キュルグ」か?それとも「ヒト」か?
あるいは、戦いの原因を造った「果実」か?
それとも…?
「今こそ街に恩を返す時だ!力を示す時だ!ルボワは”冒険者の街だ!”…”オレ達の街だ!”と、今はそう唱える時だ!…なぁ、そうだろう兄弟・姉妹たち!!」
「「「「「オオォォ!!!」」」」」
この戦いで決着がつく?いいや、きっとソウじゃない。
同じ戦いがこの先、何回も何十回も何百回も数千年先まで
続くに違いない。
ソコには「正義」も「悪」もない。
「弱肉強食」という世界の理だけがアル。
「…全員!構えっ!!」
「「「「「っ!」」」」」
初雪の下、
「筆に遅れを取るなあぁぁぁぁーーー」
「「「「「フラアァーーーッッ!!!!!」」」」」
綴られし世界が行使した「戦の魔法」が今…
「いぐぞおぉぉー!!」
「ら゛あぁぁーー!!」
…顕現した。




