Chapter 021_無言の奉仕
「えぇっ!?ほ、ほんとに…い、良いの!?」
ある晴れた日の夕方…
『朝。早く起きられたらね』
「頑張って起きるよ!なんなら、今夜は寝な…」
『ソレはメッ』
ベリーチェは順調に回復していた。
再体験が無くなったわけではないが、
頻度はかなり減った
「うぅ〜…ラベリィちゃん。ガンコの子…」
『…』
「むぅ〜…はぁ〜い…。早寝早起きしますぅ〜…」
『よろしい。約束通り、お庭を一周よ?植えられているお花を摘んで。あとで名前を調べようね。』
「はぁーい!」
彼女の回復に合わせて治療も段階的に…
ラベリィとの筆談(※ラベリィは喋れないが、筆談ならできる)
↓
術師との短い会話
↓
お花の水やり
↓
…と、進められ
次の一歩は…
「うふふふふ…おっさんぽっ!おっさんぽぉ!」
早朝、治癒院のお庭を巡る「お散歩」と決められた…
治療が進んだことによってベリーチェは「自分が病気である」
と認識しはじめたが、
精神疾患の患者の中には体が痛いとか、足が動かないとか…そういった自覚症状が
無いために「病気である」という実感がもてず、「病室に閉じ込められている」
と受け取ってしまう者がいる。
また、そうでなくても
「小さな部屋にいろ」と指示されるのはストレスとなる。
だから、少なからずソレを発散してあげられる「お散歩」は
有効な治療の一環なのだ
『…』
しかし…回復してきたとはいえ、
まだまだ油断はできない。
窓の向こう・青空の下には
「心ないヒト」も「思わぬ地雷」も「彼女を呪った魔物」さえ、
存在する。
術師の努力と
天使の我慢と
魔女の涙
なにより、患者の人生…
その全てを水の泡にしない為にも
『明日の為に。今夜はもう、寝ましょうね』
「はーい!」
万全を期して
朝を迎えなければならない…
………
……
…
「イーヤッ!」
『…』
ひと月後。
北風の冷たい冬の日…
「ベリーチェちゃん。わがまま言わないで…」
「これはただの”風邪の予防薬”ですよ!怖がるような作用は…」
「やーあぁーー!!」
急に寒くなりはじめたので、患者の健康が心配になった治癒術師が
薬の追加を提案し、ラベリィも薬草師のレーチェルもソレを了承した。
全ては可愛いベリーチェちゃんのために…
「うえっ、うぅ゙ぇ゙ぇぇ〜…どょ、どょおじていじわるっ…しゅっ、しゅうのおぉ〜!!」
…けれど
その想いは彼女に届かなかった。
治癒術師のシャルロッテとマリーとも
ようやく信頼関係が築けたと思った矢先。コレである…
「…」
「そ、そんなつもりは…」
解離性障害によって夢と現実・事実と虚構の境目が
『グチャグチャ』になくなっているベリーチェは”追加されたお薬”を
自分を害する”毒薬”だと誤認…いや、ベリーチェにとってはソレこそが真実…と、
認識してしまったようだ
「え゙ぇぇ゙〜…えぐっ…たっ、だずげれラ゛ベディじゃあぁ〜んぅぅ〜」
『よし、よし…私はココにいるよ…』
「ゔえ゙ぇ゙ぇ゙〜…」
繊細な心のドコに地雷が眠っているのか…
本人だって分からない。
『ごめんなさい2人とも。薬は諦めて、このまま寝かせてしまいます…』
1番苦しんでいるのは患者だって…そんなコト、
もちろん。分かっているけれど…
「えぇ…」
「…はい。です…」
…治癒術師だって人間だ。
誤解され、悪者にされるのは…切ない。
『…きっと。明日にはまた気持ちも落ち着くから…だから。今日のところは…』
「はい。後のこと、お願いします…」
「………失礼ぇ…sっ…しますぅ…」
ラベリィは、泣きじゃくるベリーチェに強く抱きしめられながら
部屋を出ようとする2人の背中を…
『………パタン、」
…閉まる扉を見つめながら
『あぁ、お母様…』
物言わぬ水晶の瞳のその奥で
『“術師のケア”まで必要だなんて。聞いてはおりませんよ…』
…誰にも聞かれぬ、ドコにも綴られぬ
小さな言葉を呟いた…
………
……
…
「へぇ〜…この飴玉。【月の涙】って名前の…お薬?だったんだ…」
『お薬じゃなくて。”優しい味の”飴玉よ。月天使様が作ったから、ここに置いてあるだけ…』
「ふーん…。月天使様が…」
更に、ひと月後。
治癒院の薬品庫にて…
「ベリーチェちゃんには薬の在庫確認をお願いするわね。水薬に丸薬。キノコに葉っぱ。獣の角なんかもあるわ。最初に説明した通り、数える時は手袋を忘れないでね。…できる?」
「はーい!」
患者に”生き甲斐”を与え、社会復帰の足掛かりをつけるのも
治癒の一環である。
「誰かの役に立っている…」という実感は心を満たし、
「責任ある仕事」は生活を支え、暮らしを充実させる。
「…この治癒院で薬草師は私一人だけなの。だから人手が足りなくてね…ベリーチェちゃんが手伝ってくれると、とっても助かるわ!」
「頑張ります!」
『…』
ラベリィはベリーチェに抱かれたままなので即時対応できるし、
イザという時に備えて、薬草師のレーチェルも隣の部屋に控えている。
毒薬や劇薬の類。ベリーチェのトラウマを呼び起こしてしまうかも
しれない『虫』由来の薬や材料は分けて、別室に保管した。
かなりの手間と時間をかけて、在庫管理が「出来ていないハズがない」
薬品庫での仕事を依頼するのも…
「よぉーし…やるぞぉ!」
全ては彼女の明日の為に。




