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Chapter 012_祈りの時

『…』


…深夜。

リブラリアの大きな月に虹がかかるのを見た天使人形は

終わりの時を静かに悟った…



『…』


お母様は優しい。



『…っ』


…けれど

シビアな一面も持っているのはよく分かっている。

混沌を宿した魔女が、優しい()()の女であるハズがない。


出来損ないの人工妖精(アニマ)をそのままにする

とは思えない。


壊されるコトは…ない。

…たぶん。ない………



『…』


ナイと。

思いたい………






















『ガチャッ…』


扉が音を立てるより

ずっと前…


全ての人工妖精が“何故か”…魔導的には説明できない感覚で…

()()()()()()母の気配に本能的な愛情と高揚感、そして

絶望を感じた【天使妖精ラベリィ】は開き始めたドアに

逃げられない体と瞳を向けた…



『…』


患者に投げられても踏み潰されても。

罵声や誹謗中傷、残酷で呪いに満ちた言葉や行為を吐き出されても。

患者が絶望の崖を歩いていても、その身を投げたとしても


挫けないように折れないように…


…共感と忍耐。

プライバシーを守る倫理観と良心。

劇薬を取り扱う知識と意思。

術師や薬草師との連携。

それでいて、患者の側にいなければならない宿命…


天使妖精ラベリィは、その小さな翼で

人間には背負えない大きな(ストレス)を受け止めている。


そんなラベリィの心を支えているのは

紙上イチの魔導師であり魔法使いである【夜の魔女】に「必要とされ、

産み落とされた」という自尊心と「リブラリアで最高の知識と

技術を授けられた」という自信だった。



【呪い】なんていう訳の解らないモノのせいで

自信を傷つけられたばかりだというのに…そのうえ更に、

敬愛する母親に「要らない」なんて言われたら、



「・・・ラベリィ・・・」


とてもじゃ



『ッ…』


ないケド…







「・・・ごめんね。ラベリィ・・・」

『…』

「・・・今回の件は私たち・・・んーん、私のミスよ・・・」


『…。…、…。』

「それは違うわラベリィ。最初の診断でソレが・・・【呪い】が。無かったからといって安心し、以後の診断魔法を怠っていたのは診察をラベリィだけに頼るようなシステムを築いてしまった私のミス。過剰な責任を背負わせてしまって。ごめんなさい・・・」

『っ。…。。。…』



【呪い】とは何か?

異世界地球と違って治癒魔法の1つである【診断魔法ダイアグノーシス】によって明確に定義されるソレはーーー


「(魔法を含む)魔術やナニカによって、悪意を持って対象(=個人、集団、社会、または物質)に非物理的手段(※毒を除く)で不利益を与えるコト」


を指す。

(※ただし、この定義は治癒術師と薬草師(及び、一部の魔導師など、専門知識を学んだモノ)のみで共有されていることであり。一般の人々は今も昔も、原因不明の物事全般を【呪い】と呼ぶ)


しかし、その効果が「対象に不利益かどうか?」は、

主観によって変化するので注意が必要だ。


例えばーーー【不死】

リブラリアには【不死】という特性を持つ種族が実在する。


「生きたい」と思っている人物にとってソレは利益であろうが、

「死にたい」と思っている人物には呪いである。


診断魔法による診断結果には本人の意思ではなく、身体への影響が反映されるため

たとえ本人が「死にたい」と思っていても、身体が感受していれば【呪い】とは

診断されない可能性が高い。

精霊が与える【加護】や【祝福】や【寵愛】に関しても同じコトが言える。


また、診断結果には治癒術師の主観と知識と偏見も反映される…


…要するに。

治癒魔法は、何よりも優先すべきハズの患者の気持ちを”置いてけぼり”に

している魔法なのだ。



治癒術師はこの点も踏まえて患者を診断しなければならないが、

患者の”感情”を診断するコトはできない。


分かることは、あくまで「結果」だけ。



自分を知るコト。

他人を知るコト。

患者との共感は治癒術における必須事項だ。

“モノでなければ耐えられない”仕事をするラベリィに

感情が与えられたのは、コレが理由だ。



「・・・今後は。例えバイタルに異常がなかったとしても1日に最低1回の定期的な診断を術師に義務付け、マニュアルにも綴ったわ。・・・加えて今回はバイタルの変化もあったのだから・・・


っ・・・


・・・術者の2人には。「しっかりして!」って・・・言っておいたわ。貴女は悪くない・・・」

『っ〜…。。。』


リブラリアの治癒術は【診断魔法】に大きく依存しており、


術師と、それ以外


の間に深い隔たりがあるのは否めない。


治癒魔法に圧倒的優位性が有るのは事実であり

「そのままでいい」と考えている術者や患者も少なくない。


だが…本当にソレでいいのだろうか?



リブラリアは広く、出生率の低い治癒術師が全ての患者を

網羅するコトは不可能だ。


薬草学の発展により、治癒術では治療が不可能だった患者を助けられる

ようになった今「自分たちさえ分かればいい」という治癒術師の姿勢は

エゴに過ぎない。


医療に”足踏み”は許されない。



触診・問診・瞳孔反応にバイタルデータ…

これらは治癒術師・薬草師・ラベリィが共有できる客観情報であり、

ガイドブック【ひと唱えの前に】にも詳細が綴られている。

「知らなかった」では許されない。



「・・・それと。コレも私のミス・・・設計上のミスだけど。ラベリィ貴女に「治癒術師や薬草師との相談を希望する」という・・・アラートまでいかない・・・そんな選択を選べるような構文を追加したいと思っているわ。同意して・・・くれる?」


ラベリィは天使の書に「おかしい」と明記し、

自己判断で薬を追加した。けれど結果的にソレは間違っていた。


魔女としては・・・天使の書に”異常”が綴られれば

「治癒術師が気付いて考える」モノだと思っていたが現実は違った。


①ある日突然【呪い】が出現する可能性があるという想定。

②月天使様が生み出した天使人形への過信。

③不慣れなバイタルデータと薬への知識不足…


…治癒術師は理想通りには動いてくれなかった。


けれどソレは、想定できるコトだった…ハズだ。



ラベリィには知識と技術の他に


「エンジェルアラート」という、緊急事態を知らせるシステム。

「天使の書」という、患者との関わりと治療内容を記録したカルテ。

そして、自分にはできない治療や工夫を「こうして欲しい」と提案する

 能力はあったが、


術師たちと「相談する」…そんな、”必須”の機能が欠けていた。


設計段階で盛り込まれていなかったのだから

ラベリィには選択の余地が無かった。



コレは魔女のミスである。

「妖精に責任はない」

「術師もそう思っている」


という、「設計思想」と「思い込み」が生み出した

【呪い】みたいなモノである…



「・・・ごめんね。本当に、ごめんなさい・・・」

『…。。』


患者の寝静まるベッドの横で…



「・・・ラベリィ。こんなコト言うのは・・・身勝手。だけど・・・お願い。」

『…。』


泣けない人形と泣き虫の母親…天使”たち”が



「もう一度・・・頑張って。もらえないかしら・・・?」

『…』


銀月に懴悔し、救いを求めて祈りを捧げる…

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