Chapter 009_冒険者の現実
「討伐依頼?キュルグ…単体の??」
素材目当ての狩猟や採取、街中でのお手伝い…など、
「誰にでもできる簡単なお仕事」がメインだった5級から
4級冒険者になると依頼内容が高度になり、
”命がけ”となる事も少なくない…
「違う違う!依頼じゃなくて自主練習だ」
「練習?しかも依頼じゃない?自主…?」
…とはいえ。
異世界ゲームや小説の大部分にあるような、
所謂”討伐依頼”は多くない。
なにしろリブラリアは”当たり前に”魔物がいる世界であり、
誰もが魔法を宿している世界でもあるためザコモンスターが
出たからといって(庶民といえど)
いちいち、討伐依頼を出すようなコトはないからだ。
生活や命を脅かされない限り無視するのが普通だし、
害するなら自分で片付けてしまったり、あるいは衛兵に頼んで
処理してもらうコトも少なくない。
依頼者側にほぼメリットがない(“現状回復”を利益とは
呼べない)のにお金を出して「倒して下さい」なんて言えるほど、
余裕があるわけじゃない。
「月末から始まるレイド戦の”予行練習”…だな。群れの数が増えてきたから、今年は大規模に掃討戦をするんだってよ!」
「へぇ?」
このため、偶に出される討伐依頼は"本当に面倒”なものか、
あるいは”大規模”、”非常に危険”。または、その複合になるコトが殆どだ。
汗水を流し、知恵を振り絞って稼いだお金を支払うんだ。
冒険者の個人的な欲望…遊びやレベリングの為に参加されては堪らない。
生活かかっているのはお互い様だ。
「オレら、レイド戦もキュルグも初めてだろ?さすがにレイドは予習できねーけど…キュルグなら。ハーレムから”あぶれた”若い雄を見つけて…」
「なるほど。”予行練習”か…」
「そゆことー!」
キュルグはずんぐりむっくりとした”リス型”の
森でよく見る魔物である。
その体躯のせいで“リス型”という割に木登りは少々苦手だが、
意外とすばしこく、体当たりを受けると脳振とうを起こして
しまう程度の攻撃力ももっている。
とはいえ、主食は「木の実」なので、襲われない限りヒトに危害を
加えるコトは無いし、その体が有用な資源にるわけでもないので
ヒトに襲われることも少ない。
森で見かけても、互いに無視するのが常だ。
しかし…時々、森の木の実が不足するとキュルグは人里に下り
”栽培されている”木の実まで齧ってしまう。
このため街に降りた途端、害獣…魔物に変貌する。
去年のノワイエ領は木の実の【豊作年】であったため
キュルグが大繁殖してしまった。
そして今年は【不作年】にあたるためキュルグの食糧が不足し、
人里に下りてくるコトが予想される。だから、一斉掃討が計画されているのだ。
※樹木が周期的に実りを調整する性質を【マスティング】といいます。
コレは、異世界地球の樹木もやってる高度な生存戦略なんだよ!
「…キュルグって強いんだっけ?森で見かけても無視してるけど、鈍重な印象が…」
ルボワの森はプルーツリーはじめ、結実する木が多種多数
生えているので秋になると木の実が豊富。キュルグにとっては
天国のような場所である。しかし…
「飢えてるキュルグは凶暴って話だ。…ま。そうは言っても劣級魔物で…一体なら決して強くないそうだ。攻撃手段は突進や、爪を振りかぶってきたり…」
今年は”あらゆる種類の樹木”の周期が偶然重なる
”深刻な”不作年のタイミングであった。人間が何もしなくても、
ルボワのキュルグは”絶滅”に近い被害を被ると予想されている。
キュルグたちは”それくらい必死”というコトだ…
「こっ、怖いな…」
「…あぁ。飢ている生き物は”後がない”から必死になるって言うものな…」
「その為の練習…か?」
「…だ!」
ノワイエ領はベルナールの故郷ほど偏った経済基盤をしていないので
たとえキュルグに木の実を荒らされても、ソレで領地経営が傾くコトは
無いだろう。しかし、ただでさえ【不作の年】だというのに、更に
特産品を獲られるワケにはいかない。
「因みに、キュルグの魔物素材はほとんど利用価値がないらしいぜ。」
「じゃあ…アレか?倒しても無駄骨?」
「ツメを研いでナイフの代わりにしたり、皮を処理して玄関マットにする事も出来なくは無いらしいが…」
「…いらね!」「いらんなぁ…」
討伐依頼は総じて費用対効果が悪い。
そもそも、利用価値のある魔物は日常的に
”狩られている”から数が抑えられている。
「…それじゃあ、倒した後は…」
リブラリアの魔物は別の異世界のように”都合よく”
魔石を備えていたり、スキルアップの経験値になるワケじゃない
(数値化できない個人の「経験」になるのは間違いないケド)
この為、利用価値の無い魔物を倒すのは労力の無駄遣い以外の
ナニモノでもない。
「焼却処分だな。」
しかし、死体を放置するとアンデッド化する可能性があるので
消し炭にするか、バラバラにする…などの「処理」が必須である。
処理を忘れたのが見つかれば、ギルドに評価を落とされる。
手間でもやるしかない。
面倒がって怠ったら最悪、誰かの命に関わるのだから…
「…不毛だな。」
「だが、今のオレ達には必要なコトだろ?コレから、もっと手強い魔物と戦うことになるんだから…スキルアップは絶対だぜ?」
4級に昇進したからといってスグに稼げる
ワケじゃない。
責任と依頼の難易度が上がったのだから、
本人も成長しなければならないのだ。
「はぁ〜…了解。」
冒険者に憧れた者多くが「3級の壁」を越えられずに
この業界から去っていく…
「ま、がんばろーぜ!」
4級冒険者は「別れ道」だ。




