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Chapter 006_倫理観の欠片もない

「・・・ウリエル。ベリーチェちゃんは自分自身に降りかかったコトを・・・?」

「…答えはイエス。おそらく、痛みで意識を取り戻した時に…」

「そ・・・」


リブラリアにおける精神疾患患者への治療法は、


①落ち着くまで精神安定剤を投与

②カウンセリングしながら少しづつ薬の量を減らす

③発作(暴れたり、過呼吸になったり…自死しようとしたり)が起きたら鎮静魔法や鎮静薬で落ち着かせる…


…と、いったところ。

要するに、異世界現代医学と

大差ないということだ。


残念ながらリブラリアには「魔法でトラウマ記憶」を消したり、

封印したり…そんな都合のいい魔法は存在しない。

魔女も編み出すことができなかったそうだ。


しかし、異世界がそうであるように…ここリブラリアでも

治療を続ければ患者の社会復帰も夢ではない。前例もある。


けれど…



「…フォ、フォニアちゃん。その…こ、この子。実家を勘当されちゃってるみたいなんだけど…」


…けれど。

精神疾患の治癒は異世界と同じく時間がかかる

ソレは =(イコール) 「お金がかかる」というコトだ。


短くて数ヶ月〜長ければ一生〜治癒術師および薬に依存する人生を

経済的にも社会的にも拠り所のない彼女が続けられるだろうか…?



「・・・ん・・・」


タダで診てくれればいいじゃないか…

そう言いたくなるのも分かるケド、ソレは本当に”正しい事”だろうか?


彼女達の小さな両肩に世界各地に分散する何千万人という病人

全てを命を背負わせる?そんなコト、物理的に可能だと思う?


傭兵が命を、職人が魂を捧げて働いた結果として

報酬を得るのが当然なら、

術者たちが捧げた”祈り”にも報酬がなければならないハズだ。


術者はみんな、己の瞳と手と知識と経験を命綱に

家族を支えている。


ソレを踏みにじっておいて…なにが”天使”だ





















「・・・カルマート様。今から・・・悪いコトしますから。ちゃんと綴って下さいね・・・」


…そう。

だから彼女は天使なんだ。



「…本魔法(リーブラ)…うん。準備。いい、よ…」


自分勝手で我儘で…

【インフォームドコンセント】という言葉を

知っていながら、あえて無視する…



「「「…え?」」」


”ヒト”ならざる者。






「・・・(わたし)。フォニア・クニャージ・ツェルノヤール・ピュシカの独断により。意識のないベリーチェ殿を、本人と身内の了承のないまま。”新薬と試作人工妖精(アニマ)の被検体とします”。」

「「「えぇっ!?」」」


医療行為の事前説明は患者の権利であり医療従事者の義務だ。


相手に意識がない場合の…救命・延命処置であれば…

例外もあるが未承認の人体実験を行うなど、あってはならない

重大な人権侵害だ。



「・・・死なれてもらっては困ります。被検体の保全にかかる全ての費用を私がもちましょう・・・もちろん。コレまでの分も・・・」

「「「っ…」」」


医療行為に関わる情報リテラシーの考え方は

月天使様によって急速に広まった。


【ひと唱えの前に】


という、

術者向けの指南書…心得書き…ガイドブック…まで、ある。



「・・・もし。彼女が目覚めてソノコトに疑問を呈したら・・・こう、言ってあげてください・・・」


そんな指南書を綴っておきながら、

自ら無視するなんてアリエナイ。


コレだから、魔女ってヤツは…



「・・・倫理観の欠片もない魔女のせいだ。

って・・・」



………

……





















「…ん、んんぅ…」


その日の正午過ぎ…



「ん、ん…ふぁ〜…」

『…』


…ベリーチェは目覚めた。


ほのかなラベンダーの香りで満たされた部屋の中

小さな天使人形に見守られながら…



「んぅ〜…」


目覚めた…とは、言ったものの…

強い睡眠作用と鎮静効果のある薬に縛り付けられている彼女の意識は浅く

朦朧(もうろう)としたまま…



「お花…」


花瓶を見ても…

ソレが「花である」とは、分かっても

「何という花か?」は、分からない。


誰が持ってきたのか?も、

どんな想いで贈られたのか?も、


薬効のヴェールが意識を霞ませ思い至るコトはなかった…



『…カチャッ』


妖精から連絡を受けた治癒術師が扉を開けても

彼女は無反応だった…



「…目が覚めたのね?ベリーチェちゃん」

「…」

「…失礼するわね。『祈り込めて擁する』ダイアグノーシス…」

「………」


声をかけられても…手を触れられても…

やはり彼女は無反応だった。


ボンヤリとした視線で

サイドチェストに活けられたラベンダーの花を見つめていた。


隣に置かれた天使人形に視線が向かうことは、

まだ無かった…



「…うん。」


術師が手を離したのは、1分ほど経ってから。


…予想通り。

深刻な薬物依存の兆候がみられた。

これ以上、使用を続ければ彼女の社会復帰に大きな

影を落とすだろう…


…そんな診断結果が

得られた…



「…ベリーチェちゃん。」

「…」


たとえ返事が得られなくとも…



「コレから薬の量を減らしていくわ。不安に襲われたり、絶望感でいっぱいになったり、眠れない夜も沢山あると思う…」


…伝えずにはいられない



「…でも、でもね。貴女には私たちが…そして、天使様がついていてくれるわ。きっと大丈夫…きっと、乗り越えられるわ。だから…」



あなたは決して独りじゃない。


側には天使が、そして術者が

全てを包む月の光が見守っている。


だから…



「…だから。頑張りましょうね…」


ベリーチェの

辛くて長い戦いの日々が始まった…

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