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Chapter 003_少年少女

「ベル!」


夕暮れ…

月天使教の教会…治癒院にて、


現場から…冒険者ギルドへの報告も全部済ませたレオンが駆けつけると、

ベルナールは待合室の一番奥の暗がりで椅子に座って下を向き

頭を抱えていたのだった…



「レオか…」


ベルナールは…相棒の呼びかけに返事をし、顔を上げたものの…



「…あれ?いつの間に。こんなに暗く…」

「…大丈夫か?」

「………どうだろうな…」


ちょっと、もう、今日はムリな感じだった…



「…お、おいおい…しっかりしろって!」


…しかし、ソレでも



「…」

「依頼達成!報告も済ませた。荷物も持ってきてやったぞ!」

「…」

「…ホラッ!」


相棒の『グー』を

避けるわけにはいかない…



『『…ゴッ』』


…答えたベルナールはしかし、思いの外ダメージが大きくて。

椅子からずり落ちる勢いで、更に沈み込んだ…



「お、おい!?本当に大丈夫か…?」

「…ダメ。」

「ナニがあった?」

「…言えない………」


…治癒魔法はひと唱え、

傷も病気も治してしまう便利な魔法だ。


怪我人続出のルボワには2人の治癒魔法使い…

【サリエルの使い】の称号を持つシャルロットちゃんと

弟子で【見習い】のマリーちゃんがいる。


治癒は成功したし、

事故に遭った”不幸な少女”も一命をとりとめた。

しかし…



「…???」


治癒魔法は便利な魔法ではあるが

『シャララ…』と、傷が消えて無くなるような

“ご都合主義の魔法”じゃない。


手を尽くしても永遠の命は手に入らない

祈りを込めても死んだ人は蘇らない

後遺症やトラウマが残る事も少なくない


残った虫の脚だって、

”誰か”が抜かなきゃ、そのままだ…



「…一命は。取り留めたそうだ…」

「そりゃヨカッタ!」


…現代医学では逆に”諦めざるをえない”一命を

“取り留めてしまった”少女の未来は暗かった…



「…そう。だな…」

「そうだな!」


ベルナールは聞かされた。

今来たレオンは当然、ソレを知らない…



「依頼は達成だ!後ろ翅が凹んでるって文句言われたが…粘って、満額(むし)り取ってきてやったぜ!」


彼女の命が第一なのはレオンも変わらない。

だが、無事と分かれば話は別だ!


疲労困憊の親友を元気づけたかったレオンは

明るく(つと)めたが…



「…そう。か…」


親友(ベルナール)の沈んだ様子に…



「…」


親友(レオン)は。



「…帰ろう。」

「…」

「…もう、できる事はないんだろ?」

「それは………」


「…」

「…」


「…は、腹減ってんだよ!リチアちゃんの手作りディナー食って、酒飲んで!寝よう!!…な?」

「…」


「なっ!!!」

「…あ、あぁ…」


「行くぞっ!!」


………

……



…その日。

調子に乗ったレオンを水龍たちが外にぶっ飛ばすまで

騒ぎは続いたのだった…



………

……






次の日…


「ダメよ。面会謝絶。」

「…」



………

……






その次の日…


「ダメよ…」

「…」



………

……






更に次の日…


「…ダメ。」

「…」



………

……







更に…


「…使いをやるから。会いに来ちゃ、ダメ…」

「…」



………

……






少女は目覚めなかった。


…いや、本当は

目覚めているのかもしれないが

ベルナールは会わせてもらえなかった。


理由は聞かされなかった。


ただ、

「来るな。」

と…






「しゃねーだろ?治癒術師様…月天使様の”お使いのお使い”様に任せるしかないだろ!」


…とは、レオンの言葉である。



「…」


全くもって

その通りであった。


治癒術も薬草学も「ナンモワカラン」

ベルナールにできる事など何も無い。


虫の脚を引っこ抜く腕力はあっても、

苗床にされた乙女を救えるような

超越的な聖人では無い。


…そんなヒトは何処にも、1人も

いない。



彼女は。

彼女自身の力で立ち直るしかなかった。


ソレが出来ないのであればソコまでの物語だった…

と。それダケのこと…



「気持ちは分かるが…頼む。そろそろ立ち直ってくれ。お前と違ってオレには宿代が…」


ベルナールも冒険者歴1年…

さすがに、イロイロを見てきた。



「あ、あぁ………」


…頭では分かっていた。

“コンナコト”良くあるコトだ。

もっとヒドイ場面だって。何度も…



「はぁ〜…わかった。」


…何度も。何度もあったハズだ。

コレから先も在るに違いない。


強くなった と、

力がある と…


…そんな”勘違い”を無数に冒し。

そのたび、無力に打ちひしがれて。


そうして大人になっていく…



「…しばらく。ひとりで頑張るわぁ…」


………

……





















「・・・そ・・・」


夜の魔女フォニアは最低でも月に1回

娘に会いに来た。


彼女はだいたい、夜遅く来て翌朝には帰る。

この街には彼女に会いたいヒトが無数にいるだろうが

会えるのは宿にいる者の特権だった…



「・・・シャルロットちゃんは。(なん)て?」


…彼女は。

赤の他人のベルナールにも娘にするのと同じように

星屑の愛を注いでくれた



「「来るな。」って…」


話を聴いてくれた。

相談に乗ってくれた。



「・・・なら、ソレが最適解よ。貴方に・・・そして私に。できることは。何も。無いわ・・・」


ゆっくり焦らず時間をかけて

理の在処(ありか)を教えてくれた…



「…」


「・・・」


「………」


「・・・ん・・・」

「っ!?ま、まじょさ…」

「・・・ベルナール君は。優しいね・・・」

「っ………」


…実の娘が。養子の娘が。孤児たちが。

 治癒術師達が。患者達が。妖精達が…



「・・・だいじょうぶ。きっと。うまくいく・・・」


(まじょ)に触れた全ての命が

「お母様」と…そう呼んで慕うのも当然だった



「・・・待つことも。優しさよ・・・。優しい貴方なら。分かる・・・よね・・・?」


自分と同い歳くらいに見える、

自分の母と、そう変わらない歳のはずの魔女は。


柔らかく温かい無限の愛で

ベルナールをお包みし…



「・・・だから・・・今は。眠りなさい・・・」


「・・・そう。いい子ね・・・」


「・・・心配なんて。何もいらない・・・。」


「・・・明日に。なれば。目を覚ます。」


「貴方も・・・カノジョも・・・」


ルボワに来て

1年…



「っ…っっ…」


ずっと溜め込んできた寂しさ、悔しさ、不安…

“まだ”少年だったベルナールは全てを流した



「・・・そ。ソレでいいの。いい子ね・・・」


ようやく、やっと。


「っ…。。っ…。。…。」



魔法の夜の力を借りて…



「・・・お休み・・・」




















…翌朝。唱えた通り

治癒院から使いがやって来た。


「少女が目覚めた」

と…


…気付けば夏が終わり

秋の白い風が吹き始めていた…

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