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Chapter 002_ヒトとマモノ

「キャーッ!」


…ソレは。

汗ばむ夏の日の事だった…



「おい!」


【セラピム】という、大層な名前の大したことない

テントウムシ型の劣級魔物を探していた2人は

森の中で甲高い…恐らく、女の子の…悲鳴を聞きつけた。



「あぁ!」


獲物の横取りはマナー違反だが緊急事態は別である。


冒険者生活の中で2人も何度か別の冒険者を助け、

そして助けられてきた。


悲鳴を耳にした2人は迷わず駆け出した…



「先行くぞ!」


2人比べるとレオンの方が足が速い

悲鳴の聞こえた小経(こみち)を駆ける背中に…



「荷物捨てろ!」


…ベルナールは迷わず叫んだ。



「頼んだ!」「頼まれた!」


いつもの連携は、こんな時にも役に立つ。



「…」


仲間を信じ、背中を見送ったベルナールはスピードを落として

地面に落ちた地図と水筒と魔道具と昼メシと簡単な治療具が入った

カバンを無言で拾い、再び駆けだした…






「っ!」


音源に辿り着いたレオンは



『バチンッ!』


小枝を踏み割って急停止!

彼の青い瞳に…



『ギキキ…』


…映った



「あ゙っ…がっ…』


モノは…





「うおぉぉぉ!!!」


悩む必要も猶予(ゆうよ)もない!


叫び声と共に駆け出したレオンは腰の剣を

抜刀と同時に左斜め下から右上に振り上げた!



『ギ…』


しかし…



『ガギン!』

「なあっ!?」


セラピムは

2本の脚を器用に使い剣を受け止めた!

そして、その衝撃は…



「っぎゃあああぁぁぁーーー!!!」


…突きさされた4本の脚を通して

彼女の身体へ…



「あ゙がっ………』


剣撃の衝撃全てを受け止め”させられた”彼女は

想像を絶する激痛に叫びを上げて、卒倒…



「っ…」


セラピムは肉食だが、食料とするモノは主に屍肉(しにく)

動物や魔物の亡骸だ。


しかし、もう一つ

授精したメスが卵管でもある脚を屍肉に打ち込み産卵。

そのまま、”どこか”安全な場所に飛び去り屍肉をエサに。

自らを盾にして子供を育てる…という特異な習性をもっている。


かなりキモい生態だが、ソレはヒトの”主観”というもの。


ヒトにしろ魔物にしろ、死体を放置するとアンデッド

になってしまうリブラリアにおいて。スカベンジャー

たるセラピムは”益虫(えきちゅう)”に他ならない。


食事の時以外は大人しく、

ヒトや作物を襲う事も(基本的には)ない。


森で見かけても無視されることが多いが…魔導具?

呪具だか宗教用具だかナニカに利用されるコトがあり。

稀に、素材採取の目的でヒトに狩られる。


奇しくも、目の前で女の子を襲っているコイツこそ

2人が求める獲物であった…



「はぁ、はぁっ…レ、レオ!」

「ベル!!」


ベルナールが追いついたのは、初手を潰されたレオンが

次の一手を考えている時だった…



「お、おい!?あの子のケガ…」

「…あぁ。腹の傷も気になる。急ぐべきだろう…」


女の子はセラピムに突き刺されたモノとは別に

お腹から派手に出血していた。


大人しいセラピムがやったとは思えないが…

…詳細は不明だ。


しかし今は、ソレどころじゃない。



「…」


彼女は…生物学的にも、生理的にもギリギリだった。

「助けたところで…」そんな考えが浮かぶほどに






「水矢頼む!」


…だが!



「頼まれた!」


諦めるには

まだ早い!!!



「『茨の願い』!」

「『雨粒よ』!」


セラピムは飛翔能力に優れた魔物だ。


“さや翅”を開き

”後ろ翅”を展開し

飛び立つまで0.1秒という観察記録もある。



「『花の森を這う』」

「『そなたは虹の使者…』」


しかし、そんなセラピムといえど

身の丈より大きな人間を持ち上げるのは大仕事のハズ


だからと言って第4階位の【水矢魔法】…4節の呪文…

を詠唱する時間は無いだろうが、時間稼ぎが

できれば…或いは!



「ニードル!」


詠唱中のレオンの横でベルナールは

最速の魔法と名高い【棘魔法ニードル】を発現!!



「ニードルニードルニードル!!」


棘魔法は魔法名(キー)を繰り返すコトで

”連射”ができる魔法だ



『ギッ!?』


さや翅を開くより速く!

自分を取り囲むように地面から生えた節だらけの棘に

セラピムは驚き、飛び立つ機を失った!



「ウォーターアロー!!」


…もちろん!

レオンの詠唱は止まっていない!


特別快速で唱え現れた水矢魔法は たったの3本!

だがっ、



「全矢はなてぇー!!」


『バシュッ!』…と、

矢の形を成すより早く解き放たれたH2Oは



『パシャッ…』…と、水の弾ける音を立て



『ギッ!?』


タイミングを失い「出しっぱなし」となっていた

後ろ翅の上で飛沫を上げて



『バシャバシャッ…』…と、

晴天に似合わぬ雨音を上げて降り注いだ!!



『ギチギチギチッ!!』


セラピムは…

『屍肉』という、競争相手の少ない獲物を食料に選び

素早く強い飛翔能力を手に入れた優れた生物であるが


「翅が濡れると飛べない」


という致命的な弱点を背負っている。


荷物を運ぶ為に巨大に進化した後ろ翅は薄く・繊細で

ほんの少し濡れたダケで使い物にならなくなる。



「どぉりゃあっ!!」


“返し”がついた脚は、苗床を運ぶ際に役に立つが

「自分も抜けない」というジレンマを抱えている


まさか獲物が「生きて」いて。

騒ぎを聞きつけた天敵(ぼうけんしゃ)を呼び寄せてしまうなんて…



『ギキッ!?!?』


…野生生物であり、本能に従い生きているセラピムが

亡骸と生体を取り違えるなんて普通じゃない。

おそらくセラピムにも”やむにやまれぬ”事情が

あったのだろう。


“生きる”為には絶対的に”運”が必要だ。

魔物もヒトも…



「っしゃあっ!」

「ナイスだベル!!」


…セラピムも。

少女も…






「うをっ…」


セラピムの脚をすべて、節から断ち切ったベルナールが

ずり落ちそうになった本体を慌てて剣でずらした…



「任せろ行け!」


…その瞬間

左斜め後ろから聞こえた声に



「っ!」


依頼のコトも荷物のコトも…雑事すべてを



「任せた!」


相棒に託したベルナールは剣をその場に放棄して



「っ、しょっ…と…」


マントブローチを弾きながら屈み込んで少女を…

できるだけ優しく抱き上げ



「頑張れっ…」


汗と水と血と虫の汁で汚れた少女の顔をマントで

(ぬぐ)い、”ヒドイコト”になっている身体を覆い…



「…っ、」


立ち上がり

街に向き直り



「頼んだぞ!」


背中から聞こえた叫びに



「頼まれた!!」


答え

走った!!

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