Chapter 023_別れの鐘
『カラーン…』
【絶対時間】が必要な航空・長距離列車業界は別として、
リブラリアは今でも日の出・日の入り基準の【太陽時間】
が主流だ。
たった今聞こえたのは【昼過ぎの鐘】。
市長が管理する鐘楼で1日5回突かれる4回目の鐘で、
南中と日の入りの中間を示す時の音だ。
「…さ。お母様…」
この音が聞こえれば、
「・・・ん・・・」
出発は
間もなく…
「…おにーちゃん。来なかったね…」
「…」
姉妹はけっこう失望していた。
あんなに言葉を尽くしたのに
届かなかったのかなぁ…?と、、、
「…おにーちゃん?」
母の背中しか見ていないユキアは
姉の言葉の意味がサッパリ分からなかった。
けれど、姉の珍しい態度が少しだけ気になったので、
母のローブに掴まりナッツを『もぎゅもぎゅ』しながら
尋ねてみることにした。
すると…
「・・・おねーちゃん達がお世話してる冒険者さんのコトよ・・・」
頭の上から、そんな言葉が聞こえたのだった
「ふゅーんぅ…」
…獣人であり、母も姉もが大好きなユキアは
家族が見せた表情と声のトーンから
その「おにーちゃん」なる人物を姉達が”それなり”に意識していて、
お母様も心配しているコトを
短いやり取りから読み取った。そして…
「それって…」
…自分が何をするべきか。
「…お部屋の外でケービインさんと揉めてるヒトのコト?」
直感的に理解して…
「えっ!?」
「・・・そういえばココ。VIPラウンジだった・・・」
「それじゃあ…べ、ベルナールさん。ずっと入れずにいたの!?」
飛空船は大陸中で普及しており、
中・小都市にまで空港が建設され始めている。
普及に伴い搭乗料も(距離によるが)落ち着いたため、
庶民の利用も多くなった。
多くのヒトが集まれば、必然的に混乱する。
そんな所に有名人が現れたら…果たして、どうなる?
所得によってヒトを区別する【VIP】という考え方は…確かに、
不平等ではあるけれど、
社会に秩序をもたらす為には「必要」なのだ。
「迎えに行ってくる!」
「わ、私もっ」
駆け出した姉妹の背中を
「…あら?」
パピエルは首を傾けて見つめ
「・・・んふふふ・・・」
魔女は娘の成長を笑顔で喜び
『もきゅもきゅ…』
ユキアは母のローブを掴む手を少し強くした。
「…さま〜」
そして、間もなく
「…魔女様!!」
不安そうな顔の娘を引き連れて
部屋に飛び込んできた汗を流す少年は…
「…ごめんなさい!!」
開口一番そう言って
頭を下げて…
「せっかくお誘い頂いたのに…ごめんなさい!」
「・・・」
「…オレ。ボンリーヌには帰りません!この街で…ぼ、冒険者になるのが夢で!頑張ってみたいんです!!」
魔女一家しかいない静かなVIPラウンジに響く
大きな声の小さな決意を…
「・・・」
…魔女は。
無言の笑顔で受け止めて…
「っ!」
「っ///」
姉妹は、驚きと喜びと混乱で
互いに手を繋ぎ合い…
「…」
パピエルは。
「事情は分からないけど…なにか、大事なコトみたい」と、直感し
【航空妖精ネットワーク】で「お母様がお取込み中よ、出発を遅らせて!」と、
【飛行妖精】に連絡を入れ…
『もきゅ…』
…ユキアは。
彼が入って来た時から手にしていた”小箱”を凝視した
「・・・冒険者はタイヘンよ?ライバルも多いし、嫌なことも、悔しい事も、痛いことも・・・”サイアクのコト”だって・・・あるのよ?」
魔女は…笑顔で。
慈悲深い母の声で語りかけ…
「…わ、分かってます!でも…や、”やりたい事”を考えてみたら!…一番最初に。思いついて…」
…その。
100点満点の言葉に
「・・・そう。」
笑顔を隠して真顔で答え。
さらに・・・
「・・・親御さんはなんて?」
「と、父様は…かえってこいって。」
「・・・」
「で、でも!母様は、好きに生きろって!兄様も…自分にはできなかったコトを。してほしいっ…て…」
・・・その言葉で
「そう・・・」
家族に愛されて育った彼は
「任せるに足る人物だ」と、悟った魔女は
「・・・なら・・・」
…最後のテストとして
「・・・貴方は。私・・・【夜の魔女】の好意と、お父様の意思を”裏切る”と言うのね?自分の夢の方が大事だと、唱えて綴ることができるのね?」
意地悪な微笑みで、とびきりの難題を突きつけた!
その言葉に
「っ!!!」
ベルナールは狼狽え
「まったく〜…」「…ふふ。ふ…」
傍で眺めていた“っぽいの”達は
呆れ…
「…」
笑顔を崩さないパピエルは
「思ったより早く終わりそうよ。シートベルトの確認を…」と
連絡を入れ
「お、お兄ちゃ…」
「ベルナールさん…」
姉妹は不安そうに見つめ…
『…』
…ユキアは静かに
『スンスン』とお鼻を鳴らした…
「っ」
けれど、そんな沈黙は
長く続かず
「…魔女様!その通りです!!ごめんなさい!!」
さらに深く頭を下げた
ベルナールの200点満点の返事に、
「・・・よろしい!」
大きな胸を、更に張って
魔女は答え
「・・・」
「ふえっ!?」
驚くベルナールをよそに、
下げられた頭に軽く手を触れ瞳を閉じて…
「・・・貴方に。天使の加護がありますように・・・」
…そう、祈りを込めて。
「・・・ベル君!」
次の瞬間には
「・・・娘たちを頼んだわ。」
自然な動作で”カルマート様っぽいの”を拾い上げ、
畏まるパピエルの待つタラップへと振り返り
歩き去っていった…
「…」
一瞬…呆然としたベルナールだったが
「は…はいっ!」
次の瞬間には顔を上げ、
小さな背中に向かって
「頼まれました魔女様!ありがとうございましたっ!!」
再び、大きく頭を下げて
見送った…
「…って!しまった!せっかく作って…」
魔女が空舞妖精と共にタラップに消え去ってしまってから…
ようやく、ベルナールは己の失敗に気が付いた
「…おにーちゃん。」
けれど…
「…う、うん?」
「「っ!?!?」」
…ふと斜め下を見れば、
小さな魔女より更に小さな…角張った巨大な筒を抱えた…大きな丸い耳と、短く靭やかな尾をもつ女の子が…
「ママ…に?」
小さなお鼻を『スンスン』させながら
近寄って来た…
「…ママ?」
ベルナールの疑問符に答えたのは
「…そ、その子はユキアちゃんっていうの!私たちの妹だよ!」
頬を染めたミーリアと…
「ユキアは獣人だけど…お、お母様が養子縁組みした。”本当の”妹よ!」
…リチア。
「そ、そぅ。なんだ…」
獣人は20年前に奴隷解放されたばかり。
アドゥステトニア大陸では社会的地位が低く
差別を受けている。
リブラリアは養子縁組みが盛んだし、社会的にも経済的にも成功している
夜の魔女が養子を育てている事自体は不思議ではない。
しかし、はっきり言って”獣人の養子”を持つのは、なんというか…
…情勢的には、ちょっと普通じゃない。
ベルナールが”どもった”のは、そんな理由だ。
『ス…』
…けれどユキアは、そんな視線にも慣れているし、
それでも堂々と振る舞えるくらいの場数を踏んできた。
ミーリアとリチアも、ベルナールは驚いているだけで
妹に偏見の眼差しを注いでいる訳では無いコトを理解していた。
姉妹が驚いたのは、ソコじゃなくて…
「…ユ、ユキちゃん!?」
「ユキア…」
…あの。超人見知りで知らない人が近くと
母親の背に隠れてしまうユキアが…
「…甘い匂いがする。おねーちゃんがくれた木の実の匂いだ」
…ごくごく自然にベルナールに近づいた
と、いうコトで…
「…う、うん。…モ、モンブランっていうお菓子なんだ。魔女様が気に入ってくれたみたいだから、お土産にって…」
「持ってったげる!」
リチアとミーリアの態度に気付かなかった
ベルナールは
「…そ、そうかい?それじゃあ。お願い…」
自分よりも大きなアンチマテリアルライフルを軽々と背負う
ユキアの小さな手に
「ん!」
小箱を託し…
「またね、おにーちゃん!」
「ま、魔女様によろしくね!」
「ん!」
…見送った
林檎でゅえ~す!
わずか数日間に関する物語ではありましたが、
主人公が如何に姉妹と出会ったか?
なぜ冒険者になった(ならざるをえなかった)のか?
絶望と不安と苦悩と希望と…
1st Theory の本編はここまで!
お楽しみいただけましたでしょうか…?
…ソウだったら嬉しいです!
閑話を1話挟みまして、「次の次」のお話から、
剣と魔法のバトルシーンもいっぱいの 2nd Theory
に入ります! こうご期待っ!!
次の章も・・・
・・・よろしくねっ!




