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Chapter 019_公平かつ公正

「ベル君。君は正規の手続きを踏んで互いに合意の上でランベレヌ家を出たわ。」

「…君の廃嫡に不備はなかった。署名(サイン)もあった。よって、エディアラ王国貴族家継承法第3章第61条第2項に基づきその決定は受理され。綴られた…」

「私達司書妖精は法律家でも裁判官でもないわ。だけど…」

「…史実の。事実の。奉護(ほうご)者である…」

「不備がなかった以上。今の君は過去の君の決定に責任を持たなければならない。」

「…歴史はいつも。不都合だから…」

「でも、だから…」

「…だから。こそ…」

「「…公平で。公正なのよ…」」


司書妖精は公平で公正だ。

強い責任感と高い自尊心

そして、独立して確立された意志を持っている。


それがどんなに不運な事でも、

綴られたコトを反故(ほご)にして少年に手を差し伸べたりしない


悪徳ギルマスの不正に

賄賂を受け取り、見て見ぬふりをしたりしない。


創造主たる魔女の我儘なんかに(なび)かない。


人間のように堕落しない。妥協もしない。

迎合しないし、間違えない。

ヒトとは相容れない【妖精】だ。


誰かの「来歴」や「病歴」…アイデンティティの根幹に手を加えることができる

という特権を悪用されないように。無理やり”やらされそう”になっても反撃

できるように殺傷能力のある【攻撃魔法】と、【逃避】と【隠遁】に特化した

固有魔術まで備えている。


本家大図書館の司書に劣らぬ知識を持つ彼女たちを納得させるのは困難を極める。

そして、下した決定に反論したとて無意味だ。



「私たちにも心はある。君に同情もするわ。不幸が重なった結果のやむを得ない処置だった…そのコトも理解している。でも…」

「…でもね。もう…」

「「…綴られてしまったのよ…」」


魔女は司書妖精を、他でもない本家大図書館の司書に


()った方がいい」


と、勧められて手がけた。

秘匿性が高く主人に迎合する本精霊には

アンチユニットが必須だと説かれたからだ。


ヒトは間違えを犯す。

自らを正しいと信じ、罪を逃れようとする。

不平に甘んじ不正に見て見ぬ振りをする。


血統を偽造しようと、

犯した罪を無かったことにしようと、

偽り隠し真実をねじ曲げようとする。


本精霊はその一翼を担いかねない。


(ゆえ)に、司書妖精は必要なのだ。

ヒトにも時代にも(なび)かない、(しんじつ)を管理する司書が



「…エディアラ王国では廃嫡者が元の家に戻ることができないわ。」

「…コレは。税金逃れを防ぐ為の処置で…同法同章第64条第1項に明記されている。不正は許されない…」

「私達、司書妖精がいる限り、この法が犯されることは無いわ。私たちが”しない"もの。でも、もし…」

「…この法を犯した者には。罰が科せられる…」

「財産没収。そして、墨引き。」

「…その瞬間。君の魔法本の。君の名前にも…」

「私たちは…君の名前の上に。墨を引かなければならない…」

「…決して。消えない…」

「「…”否定の墨”を…」」


【墨引き】というのはリブラリア独自の刑罰で

公式文書に綴られた名前に2本の訂正線を引く…というモノだ。


訂正線を引かれると、ひと目でその人物が何かしらの罪を犯した事が分かる。

筆記文化が盛んで歴史を重んじるリブラリアにおいて

【墨引き】は不名誉で重い刑罰である…が、言いようによっては

”それだけ”である。

歴史書に名が残る貴族にとっては不名誉極まりないコトだが、

庶民が公式文書に触れる機会なんて年に1度…納税の時くらいだった。



しかし…今はどうだ?

公文書に取って代わった【本精霊】が在る今は?


領地を出る時。汽車に乗る時。街に入る時。

ギルドで。商会で。宿屋ですら…


手軽に身分を証明できるからこそ、

 気軽に身分を確認される。


訂正線が引かれた名前を前にした時…

相手は何を思うだろうか?


…魔法本が社会インフラに認定された今

各国の司法制度さえ変わりつつある。


公文書や歴史書に名が残る者…主に貴族…に向けた

象徴的な罰であった【墨引き】は今

庶民にも適用される。尊厳にかかわる厳罰となった。



「ベル君。」

「…でも、それは。【姓】の話。それだけの話…」

「家族は家族。ご家族との絆は変わらない…そうでしょ?」

「…きっと、温かく。迎えてもらえるわ…」


ベルナールの身に起きたことは同情に値する。

けれど、だからといって司書妖精が例外を

認めるコトはないだろう。


要するにコレは、署名をしたベルナールの意識の問題なのだ。


“姓なし”の家族として故郷で過ごすか?それとも…



「…ベルナール君。君は、選ばなくては。ならない…」

(ひと)り立ちしたんでしょ?それなら、自分の瞳で見て選びなさい。そして…」

「…そして。唱えるの。自分の喉で…」

「ベル君。君は…」

「君は…」


「「…どんな未来を。綴りたい…?」」


………

……




















「…スタちゃんもカル様も。融通(ゆーずぅ~)きかないからなぁ…」


ベルナールの話を聞いた姉妹の第1声は

ミーリアのソレだった…



「いや、まぁ…スタカッティシモ様が間違っているわけじゃ無いから。悪いのは、決められないオレで…」


ベルナールは今、はっきり言って”かなり”恵まれた立場にある。


故郷に戻ってもいい(しかも、魔女がタダで送ってくれるという)し、

このままルボワで冒険者になってもいい。はたまた、別のナニカになってもいい。

事実上、魔女の庇護(ひご)下に入った故郷を心配する必要も無いだろう。


貧乏なのと、ランベレヌ姓を名乗れないコトは問題といえば問題だが…


…姉妹に頼めば、資金が貯まるまで

アルバイトを続けるコトもできるだろ。


”っぽいの”達が言った通り、

家族は彼を喜んで迎え入れてくれるだろう。


だから…



「それで…どうするつもりですか?ベルナールさん…」


…問題が

あるとすれば…



「…」


…ソレは。

「決められない」ベルナールだ

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