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Chapter 018_夏の昼下がり

「…」


食堂に次いで広いこの特別室は

夜の魔女の私室だ。


鍵はかかっていないものの

姉妹ですら、主の許可なく立ち入ろうとしない…



「…」


…人感式で外光連動型の間接照明魔導具が暗くなれば優しい光を放ち

完全冷暖房が部屋の中を快適に保つ。

簡易キッチンが備わっており、お茶とお菓子をスグに出すことができるし

ガラス瓶の中では枯れない花が悠久の春を(うた)う。

ソファーとベッドに潜り込めば人工妖精【ムゥ】たちが健やかな眠へと誘ってくれる…


ここは、納屋よりも洗練されている

魔女の寝床であった…



「…」


…しかし、残念なことに

ベルナールにはソレらを楽しむ余裕がなかった。


頭の中は混乱して、

故郷を去った”あの時”のコトばかりを思い出していた…



「…」


ボンリーヌ…

当然のことながらベルナールには故郷が救われた

という実感がわかなかった。


見知らぬ少女…実年齢はベルナールの母と大きく違わないハズなのに

やや大人びた”少女”と表現するほかない…に突然、



「自分は生きる伝説である夜の魔女」であり、

「ボンリーヌの問題は完全に解消された…」


…などと言われたところで、信じられないのは当然だ。


奔走する父の背中

家財道具を見送る母の顔

食糧を求めて屋敷にやってきた庶民に…何も持たせられず

帰るように言うしか無かった兄の握り拳…



…情けなくて。でも、何もできなくて。

無力で。情けなくて…



「さすがは魔女様。か…」


…話ぶりからして魔女がボンリーヌの危機に気付いたのは

”自分の話”からだ…と、さすがのベルナールも理解した。


だとすれば、

彼女はボンリーヌ領の危機を”たったの”3日…いや、2日もかけずに解決した事になる。

ガラス瓶が入荷されない事に気付いてから領主様はじめ、

ボンリーヌ中の貴族や商人が3ヶ月以上奔走(ほんそう)してもどうにも

できなかった生死をかけた大問題を。

あの人は。たったの2、3日で…



「はぁ〜…」


ため息の1つも突きたくなる。

あまりにも、綴られる”物語”が違いすぎる…





















『トトト…』

『ト、トンッ。トンッ!』


…テーブルの上で。

母からの手紙を弄んでいたベルナールの耳に



「ちょっ!?ミ、ミーリァ…」

「おにーちゃーん!入るよー!!」


聞こえてきたのは…



『ガチャ!』


手に持っていたコップを姉のお盆に(勝手に)乗せて



「たのもー!!」


『バーンッ!』と扉を開け放ったミーリアと…



「な、何が「たのもー」よ!?…ご、ごめんなさいベルナールさん。騒がしくしちゃって…」


『カランッ、コロォ~ン…』と、

涼やかな氷の音を立てながら謝るリチアの姿だった…



「あはは…だ、大丈夫だよ…」


…お、驚きながら

ベルナールが取り繕うと…



「幸せのお裾分けだよ!おにーちゃん!」


そう言ったミーリアの先には…



「あっぷるタルト…好きかしら?」


…テーブルに。

シンプルなリンゴのタルトとアイスティーを置くリチア



「あ、ありがとう…」


正直、食欲は無かったベルナールだが姉妹の気遣いは嬉しかった。


素直にお礼を言って。

姉妹が食堂に戻ってくれるのを…



「「…」」


…も、戻って。ひとりにしてくれるのを

待っていたのだけれど…



「…っ」「と…」


…2人は。

タルトとお茶を置いても立ち去らずに

しばらく『もじもじ』してから…



「…ご、ごめんなさい!…お母様のコト黙って…んーん。隠していて…」

「ごめんなさい…」


…ようやく口を開いたのはリチアだった。

隣のミーリアも謝罪の言葉を述べたのだった。



「いや…」


ソレに対してベルナールは…



「…た、確かに驚いたケド…でも、少し予感はしていたから…だ、大丈夫だよ。隠したい気持ちも分かるし…と、当然のコト。だよね…」


…と、述べたのだった。

さらに…



「そ、それで…何か用かな?」

「う…」

「それダケ…じゃ、ないんだよね…?」

「「…」」


母親の正体を秘密にしていたコトは…まぁ、はっきり言って”いまさら”だ。

姉妹もベルナールが赦してくれないとは思っていなかったし、

だからこそ、聞くことができた。



「え、えぇと…」


ソレより…2人が気になっているのは…



「…おにーちゃん。帰っちゃう…の…?」


…その、

ミーリアの言葉に…



「…」







…ベルナールは

短く長い沈黙の後に…






「…悩んでいるんだ………」


…そう、告げた。





















『カランッ…』


「っ…ど、どうしてですか?」

「お、おおお…おにーちゃん。故郷のコト大好きじゃん!悩むことなんて…」



…2人の。

その言葉に…



「…いちど廃嫡されちゃったからね。もう、家には…ランベレヌ家には戻れないんだよ…」

「そ、それ…」

「でもでも!スタちゃんに頼めば…」


魔法本に記された”来歴”は誰にも…本人すら、魔女ですら…

修正することができない。



「…”しない”。って…そう、言われたんだ…」


ただひとつの例外【司書妖精】を除いては…



「…う?」

「し、ない…何を…?」


「”僕”の来歴…【廃嫡された】という1文を”訂正”するようなコトは…しない。って…」

「「っ!?」」


「…オレはもう。ランベレヌ家には戻れない。ただのベルナールとして生きていくしか、ないんだよ………」

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