Chapter 002_ギルティ!シスター
林檎です。作者です。
本小説は1話の文字数:2,000~3,000字
を目安に綴らせて頂いておりますが、
お話の区切りを優先している都合上、多少します。
このお話(1st Theory_Chapter 002)は
少し文字数が多く(3,000字超え)なってしまいました。
ご了承くださいませ…
「ギルティ!」
無銭飲食は重罪である。
ミーリア裁判長による現行法に縛られない自由裁判によって
少年は【火刑】または【溺死刑】または【斬首】に
処されることが決まった…
「…」
襲いかかる暴漢や変質者や軍隊を
指先ひとつで文字通り”抹消”する母親の小さな背中を
瞳に映して育ったミーリアは
自分も同じコトができると思っていた。
自分の体には冷酷無慈悲な魔女の血が流れていると
信じていた…
「何か言い残すことは!?」
しかし…
「…」
「…な、なんとか言ったら!?」
「…」
捕縛魔法で縛り上げた時も…そして今も。
言い訳ひとつせず、悲しげな顔で下を向き
されるがままの少年に…
「っ…も、もうっ!なんなのよぉ!!」
「………」
…憐れみと慈悲を抱いてしまったミーリアは
年相応に戸惑い。そして…
「…う?うぅっ!?…ミ、ミーリア!何してるの!?!?」
「おねーちゃん…」
…結局。人に頼ってしまった。
いつものように、”幸運”にも助けが来た…
「何があったか知らないけど…取り敢えず。魔法を解きなさい…」
「んぅ………」
2人目の看板娘でありミーリアの実の姉…
理智の具現【リチア】。
金庫番であり、料理長であり、客室係であり…宿屋のすべてを
取り仕切っているリチアはいつだって冷静で的確だった。
いつだって、ミーリアの味方だった…
「…フーウェンちゃん!フーシェンちゃん!!」
『『クピュルルゥ??』』
パトロン様と叔母様と領主閣下
に任された大事な宿屋と
お母様と義理祖父と曾祖父
に預けられた掛け替えのない妹を
いかに守り抜くか…?
常日頃からそのコトを考えていた。
自分の武器もいかに使うか?
人や精霊にどうやって頼るか?
そのことを、よく承知していた…
「もしもの時は…お願いね?」
『『クピャッ!!』』
妹のミーリアは可愛いけれど少々おバ…いや、ちょっとだけ
”やり過ぎて”しまうキライがある。
今回もきっと…
「ミーリア。この人に何かされた?」
「…ん〜ん。何もされて、ないの…」
「…そう。良かったわ…」
可愛い妹の為なら
お金だって時間だって惜しくない。
謝って済むのなら、幾らでも謝ろう。
「あの…大丈夫ですか?ご迷惑をおかけしたようで…」
損な役回りではあるけれど、
リチアはソレが最適解だと心得ていた。
憧れのお母様は自分にソレを期待してるって…
そう、確信していた。
けれど…
「…い、いえ。その…。ぼk…」
…今回は。少し。
「…ィ、イエ。”オレ”ですから。悪いのは…」
「…」
ワケありみたいだ…
「…とりあえず落ち着きましょう?ミーリアも…貴方も。ひと息ついて、それからお話しましょう…」
…そうと分れば。
お姉ちゃんとして頑張らなくっちゃ…
「…ちゃんと。お話してもらいますからね…」
謝って、泣き寝入りで済まそう…だなんて
決して思わない。
だから
リチアは理智なのだ…
………
……
…
「…それで?何があったの??」
カップ1杯430Lもする”売り物”の紅茶を
”ツケ”にしておいたリチアは
妹を隣に。少年を正面に。
水龍の子供であるフーウェンとフーシェンを
少年の両脇に控えさせた。
フーウェンとフーシェン…2輪(※[輪]は、水龍の数詞。
他の龍には使えない。)は大事な時に居眠りをするような
オコチャマドラゴンだけど、ソウは言っても高位精霊だ。
マッハ4で正確無比に繰り出される【水でっぽう】は、
”この街にやって来る”ような冒険者が避けられる
代物じゃない。
もっとも、
この子たちは万が一の保険であって。
ソウならないように
お姉ちゃん、がんばるけどね…
「えぇと…まず、自己紹介からしましょうか。私はこの宿屋を”手伝っている”リチアと申します。こっちは…」
「…ミーリア。おねーちゃんの妹…」
ミーリアは素直でいい子だ。
“済まなそうにしている”ということは…恐らく、
負い目があるのだろう…
「…オ、オレはベルナールといいます。」
捕縛魔法から解放されたベルナールは…普段であれば、
初めて目の当たりにするエルフ(長い銀のお下げとオリーブの瞳。サラサラの髪を割って伸びる長い耳…リチアのビジュアルは誰がどう見てもエルフそのもの)と
龍(入り口で丸くなっていたのを目撃したけど、まさか本物だとは思っていなかった…)に興奮していただろうけど、
先程の騒動と、涙目のミーリアを目にしてしまった今。
そんな余裕は無かった…
「…」
一方でリチアは
食堂の状況と、ここまでのやり取りだけで
事の次第をかなり正確に掴んでいた。
ヒントは4つ
①片付けられずに置かれた空の食器とコップ。
②椅子の上に置かれた帳簿
③小さな妹に”いいように”させて、下を向く
④「ぼく」を「オレ」と言い直した少年…
「…ミーリア。サインも貰わずに。ご飯を食べさせちゃったのね?」
「うぎゅ…」
綴られし異世界【リブラリア】は歴史が重んじられる
筆記社会だ。
過去に起きたコトが真実であり、
綴られたコトがその証拠。
提供はサインを貰ってから…ソレが、
この世界の約束ゴト。
「はぁ〜…まったく。お客様を連れてきてくれるのは嬉しいけど…ちゃんと、(支払い能力を)確認してからにしなさい…って、いつも言ってるでしょ?」
「で、でもぉ…」
もし、2人がケンカをすれば
四姉妹の中でも最弱!な、リチアに勝ち目などない。
けれど…
「ミィーリアァ〜…」
…ミーリアは。
賢いお姉ちゃんを尊敬している。
見た目は自分の方が似ているのに…性格は
誰よりもお母様に似ているリチアにスゴまれると…
「うにゅぅ〜…」
…言い訳なんてできなかった。
悪いのは私。正しいのはお姉ちゃん…
「はぁっ…。…次からは気をつけなさい?」
「…はい。ごめんなさい…」
姉妹のパワーバランスは”実力”では決まらない。
母親にどれだけ”頼まれているか?”に因るのだ…
「…」
…一方のベルナールは2人のやり取りを見て
少しだけ「ほっ」としていた。
思いのほか、リチアが公平だったからだ。
けれど…
「…さて。」
失ったモノを失ったままにしておくリチアではない。
妹のやり方は確かに。ちょっと、順番が正しくなかったかもしれない…
「ベルナールさん…でしたっけ?」
「は、はい」
けれど…
「サインが無かった…とは、いえ。貴方様は当宿屋において”有料で”提供されるランチ(紅茶含む)をご飲食なされた…間違いございませんね?」
…それがどうした?
無銭飲食し、さらに可愛い妹を涙目にさせたのは事実だ。
コレが罪でなくて、なんだというの?
ベルナールの敗訴は不可避である。
「………その通りです。」
心配性のリチアは最大限の警戒をしていたけれど、
そんなコトしなくてもベルナールは観念していた…
「…当然。お支払い頂けますよね?」
「…」
「もろもろ込みで…えぇと。説明が欠けていた”かも”しれないのでオマケもいれて。600Lポッキリでいいですよ?」
いや、たけーよ!
平均ランチ価格100Lのリブラリアで
そりゃないよ!
…と。正直、
思ったベルナールだったけど…
「…ごめんなさい。持ってないです…」
死刑は…さ、さすがにイヤだけど。金もない…
だからといって、反論する勇気もない…
「…う?で、でも。おにいちゃん冒険者だよね?お宿はどうするツモリだったの?」
ルボワ市はダンジョンを有する街だけど、夜中に魔物がうろつくほど
危険ではない。また、若者が集まる街だけあって住民も寛容で
ちょっとぐらいの失礼なら目を瞑ってくれる。
ギルドに行けば、野宿だって許してくれるだろう。
けれどソレは、緊急時の対応であって…「それで良い」とは、言い難い。
そもそも野宿じゃ疲れが取れない。
宿屋は、冒険者に必須の施設なのだ。
ルボワ市の平均宿泊費は1,000L。
ソレすら、持ち合わせが無いということは…
「…え、えぇと。取り敢えず依頼を受けようかなって…」
「…ツケてあげてもいいですよ?」
本当はツケ払いにしたくないんだけど…ま。
食べちゃったモノは仕方ない。
この少年なら、きっと返してくれるに違いない。
そう思って提案したリチアだったけれど…
「…そ、その…。」
…少年は
その提案にも歯切れが悪かった。
「…」
憲兵に突き出す…は、ワケあってしたくない。
けれど資金は回収しなくてはならない。
「…なら、仕方ありませんね」
気は進まないけど…
「【魔法本】を見せてもらいます…」
L は、リブラリアの通貨単位です。
紙幣はなく、すべて貨幣。(小切手は別)
鉄貨…1L
銅貨…100L
大銅貨…500L
半銀貨…5,000L
銀貨…10,000L
大銀貨…50,000L
半金貨…500,000L
金貨…1,000,000L
大金貨…5,000,000L
と、なっております。
価値は日本円とほぼ同じですが、リブラリアは
物価が低いので異世界島国より、ずっと安く
感じますね。
ベル君は高いと言っていましたが、
高級茶と愛情バケットサンド(サラダと
魔法のお水付き)のランチで 600L≒600円
だなんて。
羨ましぃ…