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Chapter 017_あっぷるタルト

挿絵(By みてみん)

「久々のお母様のお料理です!」

「そ、そうね・・・」



夜の魔女フォニアは料理が苦手である。



「美味しぃー!」

「そうかなぁ・・・?」


少なくとも本人は

苦手だと思っている。



「…普通ね。」

「…フォニア君は。工夫が。たりない…」

「・・・率直(そっちょく)なご意見ありがとうございます。スタカッティシモちゃんっぽいの。カルマート様っぽいの・・・」


客観的にみてソレは正しい。

魔女は一般的な家庭料理であれば一通りこなすことができるが、

基本のレシピを完全再現したソレは、はっきり言えば味気ない。


いうなれば、工場で大量生産された"商品"のような料理(モノ)

味は悪くないんだけど、なんだかなー…



「そんなコト無いわ!…ね!?」

「んぅんぅ!おかーさまのりょーりは紙上いちー!!」


…けれど、主観が変われば評価も変わる。

たまにしか会えないお母様が作ってくれた”いつも通りの

変わらない”オヤツが美味しくないハズが無い。


姉妹にとって大事なのは世間一般の評価じゃなくて

「母が自分たちの為に作ってくれた」という事実だった。


端っこが焦げちゃったのも、形が少し崩れちゃったのも全部

お茶目で優しいお母様の味である…



「・・・言い過ぎ。」


…昼食後。

野次馬の一部を物理で退けた魔女は

エディアラ王国のド定番オヤツ【あっぷるタルト】を焼いた。


りんごのコンポートを作り。小麦粉とバターを()ねて

生地を伸ばし、合わせて焼くだけの簡単で素朴で普通な料理だけれど

家族全員からは絶賛されている。


そりゃぁ…

専属シェフのクリストフさんとパティシエのノエルくんの

至高で究極の料理は美味しいけどさ…


でも、子供たちの為にシェフに教えを請うてまでして作ってくれた

お母様の料理が美味しくないハズがない。


大事なのは味に(あら)ず、愛にある。






「…お兄ちゃんも。食べればよかったのにね…」


そう、呟いたのはミーリアであった。


楽しい楽しいお茶の時間にインクをこぼしちゃう…

そう、分かっていても。言わずにいられなかった…



「そうね…」


…あれから

ベルナールは部屋から出てきていない。

邪魔しちゃいけない…と、母に言われ部屋の前に置いてきた

昼食も手付かずで

リチアも、ミーリアと同じく心配していた。


彼が居なくなっちゃうんじゃ、ないかって………



「大丈夫よ。」


間髪入れずに呟いたのは、あっぷるタルトにチョコレートソースを

ぶっかけ始めた”スタカッティシモちゃんっぽいの”だった。

…向かいのカルマート様っぽいのが「…ヒドイ物を。見た…」という

顔をしていますよ?



「でもでも!おにーちゃん。もう、この街にいる理由がなくなっちゃったし…」

「ふるさとの事。大好きだったし…」


フォークを握ったまま下を向いたミーリアと、

心配そうな視線で彼のいる天井を見つめたリチアのその姿を前にして…



『あむっ、はむ…」


…ま、前にしても。

チョコレートで汚された あっぷるタルト を笑顔で頬張る

スタカッティシモちゃんっぽいのと…



「…お世話が。焼ける…」


そう言いながら席を立ち、

スタカッティシモちゃんっぽいのの汚れた口を

優しく拭くカルマート様っぽいの…



「・・・ふふふ・・・」


…そして。

娘の成長を喜ぶ母親の姿。



「…」

「うー…」


2人の切ない表情を彼女達の父親が見たら

なんて思うだろうな・・・  …なんて、

意地悪な魔女っぽい事を考えてみたり

なんかしたりして…



「・・・切り分けてあげるから。持っていってあげなさい・・・」


帰ってきたときくらい。めいっぱい母親らしい事をしてあげなきゃ・・・

…そう、心に決めている魔女が席を立つと



「は、はい!!」

「んうっ!」


リチアは取り皿を。ミーリアはフォークを

取りに走り…



「・・・フーウェン。」

『フリュウ!』

「フーシェン。」

『ピリュウ!』

「コップとお盆を・・・」

『『フピリュリュリュウ!』』


魔女の両肩でずっと待機(ソワソワ)していた

フーウェンとフーシェンに”お使い’を頼んだ魔女は…



「・・・ソコに・・・」

『フリャア!』

『ピ…ピリュアッ…』


お皿にケーキをコップにアイスティーを注ぎ

フォークとお皿をお盆に乗せて…



「・・・リチアはお盆を。」

「はいっ!」

「ミーリアはお茶を持っていってあげなさい。」

「んぅー!」


「・・・転ばないようにね。」

「「んぅ!」」


駆けていく愛娘の

背中を見送り…



「・・・んふふふふ・・・」


再び席に着き。

じゃれ付いてきた子龍達を

指であやし始めたのだった…





















「…良かったの?」


セミと

水車と

風鈴と、

コップの氷が崩れた音…



「・・・何が?」


「…リチア君とミーリア君。2人の態度。あれは…」

「…ねぇ?」

「…う。ん…」

「親として良いのか?…って。聞いてるのよ」


2人が去った扉を見てから顔を見合わせ。

魔女を見た妖精と…



「・・・んふふふふふ・・・」


…笑顔の魔女。



「・・・いいのよコレで。」

「ふー…ん…」

「…そんなに彼。いい子なの…?」

「う〜ん…。悪い子じゃないけど…普通?」

「…ふつ。う…?」

「まず、貧乏でしょ?情けないでしょ?決断力も無くて流されやすくて言い返せなくて…」

「…ふ。つう…??」

「…でも、まぁ。素直で誠実で…優しくは。あるかもね…」

「…ふつう…普通って。なに…?」

「特別良くもないけど、悪くもないって事よ。」

「…普。通…???」


妖精たちのお喋りを

ニコニコと聞いていた魔女は…



「んふふふふ・・・」


アイスティーのポットを傾け

妖精たちに給仕をし、立ち上がり…



「・・・迎えに行ってくるから。みんなのこと・・・お願いね。」


…小さな淑女たちに



「…願われたわ。」

「…願われ。ました…」


あとを任せた…

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