Chapter 015_来訪者
『カラン、カラ〜ンッ…』
夜…ラストオーダーの少し前の時間
ふと、宿の戸に着けられたベルが軽い音を立てた…
「あっ…」
その音に最初に反応し、食堂カウンターから玄関へ
駆け出したのは司書妖精…スタカッティシモちゃんっぽいの…
だった。
この時間に宿を出入りする人間は…多くはないが、少なく”も”ない。
新規のお客様にお断りを入れるつもりか…あるいは、
酔っ払って会計を忘れたお客でも、いたのだろうか?
…いずれにせよ、偶にある事だ。
彼女に任せて問題ないだろう…
『『フピリュリュリュウ!!』』
水龍たちが宿に入ってくるヒトを警戒しているのは
本当みたいだ。
ヒトの出入りが激しい時間は睨みを利かせるし、
今日の夕方は…何か思うところがあったのか…新規で現れた
”とある”お客を【みずでっぽう】で追い返してしまった。
…確かに。その風貌には首をひねるモノがあったけど、
少年少女が黒いページを綴っていくのも
この街の風物詩みたいなモノだ。
正直言って、
「客商売でソレは良いのか!?」と、ベルナールは思った。
けれど、
”っぽいの”が水龍達を褒めていたので
「良かったの…かなぁ…?」…と、
一応、飲み込むことにした…
『りゃありゃあ!』
『ピリュリュ~!!』
玄関から聞こえてきたのは、そんな防犯ドラゴンの
楽しそうな声だった。
常連さんに、好物の沢ガニでも貰って
喜んでいるのだろうか…?
「…う?ひょっとして…」
「…」
お手伝いのソフィアおばちゃんを裏口から送り出していたミーリアと、
この店で1番高い(13,800ルーンもする!?)【トリプルショコラパルフェタ】を
お客に奢ってもらった”お姫様リチア”も騒ぎに気付いたようだ
「…お姉ちゃん。」
「ん…」
ミーリアは、席から立ち上がったリチアと合流し…
「おにーちゃんはソコに居てね!」
冒険者風の男に睨まれながら空き皿を回収して回っていたベルナールに声をかけた
「わ、分かったよ…」
事情の分からないベルナールは
そう答えるコトしかできず、
玄関へ駆けていく2人の背中を見守りながら(同じ様に)姉妹を見送る
客たちの隙間を縫って。
「失礼しまーす…」
食器を回収して回ったのだった…
………
……
…
『カチャン…』
玄関と繋がる食堂の扉が開くと…
「…でね!ミーの造った水溜まりに…」
後ろ手に扉を開きながら
来訪者(?)と楽しそうに話をするミーリアと…
「ミーリア!お客様もいるのよ。お行儀よくしないとメじゃない…」
「…ふふふ。仕方ないわよ…」
“っぽいの”を胸に抱えながら小言を…しかし笑顔で…
口にするリチア。
そして…
「・・・んふふ。仲良く。ね・・・」
細やかなのに、よく通る
宇宙を包む夜の音…
「「「「「っ!!!!!」」」」」
…その瞬間。
「へ?」
フザケていた者。
食べかけのパルフェッタを前に頭垂れていた者。
酔っ払って寝ていた者。
カウンターで隣の女の子にナンパをしていた者。
奥の席で魔道具をチェックしていた者。
パーティーメンバーと報酬を山分けにしていた者。
タロット占いをする男。
眠ってしまった子供の姿勢を直した街の者。
難しい顔で打ち合わせをする冒険者ギルドの職員。
吟遊詩人。
月天使教の女。
紅茶1杯でリチアとミーリアを目で追い続けていた2人組の衛兵…
…その全員が突然立ち上がり。
そして跪いた…
「・・・」
そして…
声の主と思う少女…背は小さく、魔女服を着て指輪を嵌め。
亜麻色の髪を緩く三つに編み。魔女帽を両腕で抱えた…
「・・・むー・・・」
…少女は。
食堂に足を踏み入れると困った顔で…
「・・・いつもコウなっちゃうの。何とかならないカナ?」
…微笑む姉妹にそう言った。
すると…
「んふふふっ!…そんなの無理だよぉ〜!」
「ん!…みんな。お母様目当てでこのお宿に来てるんだから…」
姉妹のその言葉に
「!」
ベルナールは
「お、お母様!?お母様って言った!?…アレが!?」…と。
正直言ってリチア…自分…と同じくらいにしか見えない”少女”に向けられた
「お母様」という言葉に驚き。食堂と厨房の間…配膳口…で立ち止まった。
そして…
「・・・お客様方。ご機嫌麗しゅう御座いますか?」
跪いたまま深々と頭を下げる客たちに
(略式)カーテシーをして、みせて…
「・・・あとで時間をとるから。今は、食事に戻ってくれると嬉しいな・・・」
…その言葉に
「…」
「…」
ひとり、
またひとり…
「「「「「…」」」」」
客たちも顔を上げ
「ええぇ…」
ベルナールが。
涙を流している客や、拝んでいる客に
ドン引きしていると…
「・・・貴方がベルナール君ね?」
『コッコッ…』と、
ミーリアと、”っぽいの”を抱えたリチア
そして2輪の龍を従えた少女は
オークの床をハイヒールで軽く打ち…
「…は、はい…」
…皿やコップを手にしたままの
ベルナールの目の前へと歩み寄り
そして…
『…』
腕を広げ…
「へ!?」
重力を征して帽子を上へ…あ、頭の上へ!?
空中で留め。そして…
「・・・はじめましてこんばんは。」
…優雅な優雅な
「フォニア・クニャージ・ツェルノヤール・ピュシカ
と、申します・・・」
”正式”挨拶のカーテシーを…
「・・・ご機嫌。麗しゅうございますか?」
ベルナールに向けて…
「…へ?」
「・・・」
「フォニア…さん?ドコカで聞いた気が…?」
フォニア…という名前は古語をエディアラ王国風にアレンジした
珍しい名前だ。
ちなみに、「リチア」と「ミーリア」も珍しい。
…「ベルナール」はそこら中にいる。
「しかも…ク、クニャージ!?…こ、公爵様!?」
「・・・そうなりますね。」
「クニャージ」は
エディアラ王国の北にある【ヴィルス帝国】の爵位である。
エディアラ王国でいえば…”公爵”または”侯爵”(※位は 公爵>侯爵)と
同位だけど、”字”持ちとなれば公爵一択である。
“字”というのはリブラリアにおいて出身【領地】の名である。
字を名乗るコトが許されているのはドワーフ族、エルフ族、そして
人間の”領主”だけ。
つまり、目の前の少女は領地の王様…領主様である。
さらに、ピュシカという姓を持っているヒトは
リブラリアに3人しかいない。
【雷帝】の魔術師 アリュシオン・ピュシカ
【終】の魔女 ユキア・ピュシカ
そして…
「その瞳…ま、まさか!?…よ、【夜の魔女】様…?」
…世界最高の魔法使い。
黒い瞳の全属性使いで【調和魔法】の始祖。
錬金術師【烏】であり、
治癒術師の最高峰で、生ける神【月天使】
そして、【薬神】でもある【理】の権化
【夜の魔女】
「・・・んふふ。ようこそ、宿屋【小さな魔女の家】へ・・・」
…この宿は
正真正銘【魔女】が営む冒険者宿
「・・・歓迎します。」
マイ・ふぇあ・フォニアー!!




