Chapter 014_モンブラン
「「モンブラン?」」
「う、うん…」
リブラリアには現代異世界と同じくらい
沢山のスイーツが存在する。
剣と魔法の世界…中世ヨーロッパ程度の文明社会で
スイィ~ツゥ~!?
どこにそんな余裕あるんだよ!?
時代錯誤だろ!?
お菓子じゃなくてパン食ってろよ、パン!
と、現実的な事を思うのはもっともだけど…
実は、リブラリアにはあるんですよ。
”余裕”が。
リブラリア(特に、アドゥステトニア大陸)は肥沃な大地で
天変地異も多くないし、水路も発達しているため
ちゃんと栽培すれば大体の物は育つ。
だから、食べ物に困る事がない。
小麦や野菜は勿論。
甜菜やサトウキビといった砂糖の原料となる植物も
栽培されており、効率的な製糖技術まで確立されていて
庶民にまで”精製糖”が行き届いている。
コーヒーやチョコレートといった…異大陸原産の素材は
まだまだ高価で。一部の人しか手を出せないものの…
パイやケーキ、ジャムといった身近な材料を使ったスイーツであれば
庶民であっても普通に作るし、
種類もクォリティも現代異世界と遜色ないといっていい。
「聞いたこと無いですね…」
「プルーナッツに、素焼き以外の食べ方なんてあるの?」
しかし、まれに(スイーツに限らず)「あっても良さそう」なのに
「ない」食べ物がある…
例えばエクレア。
シュー生地も生クリームもチョコレートもカスタードクリームも有るのに
エクレアは発明されていなかった。
発明されなかった理由は…
…コレは、専属パティシエをいつも困らせている
ワガママ魔女様が調べたコトたが…百数十年前に
リブラリアに実在していた権威あるパティシエが
遺したレシピ集に
「シュー生地は丸型に焼かなければならない」
と書き記されていたため
後世の者が「綴られているから…」…と、言って。
細長いシュー生地の作成に挑戦しなかったコトが
原因であると考えられる。
…リブラリア人は歴史を重んじるあまり
過去に囚われて挑戦を躊躇うコトがある。
モンブランも、もしかしたら。そんな理由で
発明されていなかったのかもしれない…
…知らんケド。
「いや、だってホラ!味も、見た目も…み、見た目はちょっと大きいけど…プルーナッツって”栗”と一緒じゃないか!」
ベルナールが言った通りプルーナッツのビジュアルは
ちょっと大きな栗である。
マロングラッセや栗のパン。
栗のスープなんて料理もある
「そ、そうですけど…」
ただ、問題があって…
「く、栗は”食べ物”だからいいけど…プルーナッツは魔物だよ?」
「そ、そうですよ!魔物を…ド、ドルチェに使うだなんて…」
「「…ねぇ?」」
魔物素材は一般にも出回っているが…如何せん、
食べ物としては”B級”扱いされているのが実情だ。
姉妹もルボワに来てから【グールー】や【プルーナッツ】
という魔物素材を口にして「意外と美味しい…」と、いうことに
気付きはしたが、やはりまだ、
若干の抵抗…偏見…が、あるようだ。
…貴女たちの母親は仲間の反対を押し切って
砂漠に棲む紫色の毒芋虫を喰らい
「・・・解毒しながら食べればイケる。」
なんて言っていた過去があるってコト。
誰か教えてあげてください…
「…じゃ、じゃあ…と、取り敢えずプルーナッツペーストを作ってみるから。味見してみてよ!」
姉妹に反対はされたが…ベルナールには確信があった。
自分だって食べたコトは無いけれど、「絶対に美味しい!」という確信が…
…因みに、
プルーナッツに拘らず栗で作ればいいじゃないか!
という意見はもっともだけど、今は季節じゃないから手に入らない…
「…いいじゃない。好きにさせてあげれば?」
…そして。
そんなベルナールに手を差し伸べたのは…
「スタカッティシモ様…」
「スタちゃん…」
甘い物大好き!
砂糖の魔法に呪われている司書妖精だった…
「材料はあるんでしょ?」
「もちろんです!」
プルーナッツを600個以上採ってしまった2人は依頼主に
「多すぎる」と、全量の受け取りを拒否され手持ちがある。
「それなら…ほら。ディナータイムまでは、まだ時間が有ることだし…」
司書妖精の水晶の瞳は
まだ見ぬドルチェに色めき立っていた。
未知のお菓子…
知的好奇心と食欲をそそる
なんて素敵な言葉だろう…
「…ま、まぁ。スタカッティシモ様がソコまで言うなら…」
反対はしたものの…
リチアとしても宿仕事の邪魔さえしなければ構わない…
「…おにーちゃん。そんなにドルチェ好きなの?」
味覚は母親より、父親に似た姉妹は
さして甘い物に魅力を感じない。
”っぽいの”はいつもの事として…男の子であるベルナールが
どうしてドルチェにこだわるのか?
理解できずに聞いてみると…
「…そ、それは。その…」
ベルナールは少し、
言い辛そうにしながらも…
「と、ときどき…なんだけど。読んだことも聞いたこともない思い出?記憶??…そういうモノが思い浮かぶ…よ、蘇る…。そんな時が、あるんだ…」
…そう、語った。
「故郷でも…母も。そんな料理食べたこと無いって言っていたんだけど…き、気持ち悪く思うかもしれないけど。オコメ…っていう穀物に。…な、生の卵をかけて…」
「「うぅ!?」」
その言葉に驚いたのは
「そ、それって…」
「ティーケージーだ!!」
幼い頃から母親によって食べさせられていたけれど、
最近になって”ゲテモノ”料理だと教えられてショックを受けた姉妹だった…
「知っているのかい!?」
リブラリアにはお米が存在するし、異世界の極東島国によく似た文化を持っている部族もいたけれど、ソレは数十万kmも離れた別大陸の話だし、その民族も1万年近く昔に滅んでいる。
この大陸の人間であるベルナールが、食文化史の学者だって知らないような少数民族の奇天烈な食文化を知っているハズがないし、文化的にも衛生的にも正気の沙汰とは言えない「卵の生食」に思い至るはずが無い。
特殊な環境で育った姉妹は別として、
ベルナールがソレを知っているということは…
「オ、オレには別の物語の記憶…と、いうか”知識”や”思い出”があるみたいなんだ。…ほ、ほとんど思い出せないけど…」
「「…」」
「…き、気持ち悪いよね…」
…ベルナールは転生者ではあったけれど”幸運なことに”
前世の記憶をかなり欠落した状態で生まれ落ちた。
ときどき、その欠片がフラッシュバックして彼を苦しめるかもしれないが…
「…あら?そんなコト言ったら私なんて。瞳を開いた瞬間から1,000年以上生きた耳長と同じ精神状態だったのよ?綴られし【夜の魔女】が魔導の真理を孕んで生み出した妖精は…気持ち悪いかしら?」
…ソレだけだ。
「…ス、スタカッティシモ様!?」
「…いい?ベル君。ソレは魔法と同じモノ。産まれる時に授かり、生きている間に成長させ、死ぬ時に還す…ひとつの奇跡よ。」
「たくさん貰ったヒトもいる。そうじゃないヒトもいる。貴方のソレと、魔法のソレに。なんの違いがあるっていうの?」
「大事なのは使い方よ。誰かを守る盾にもなる。誰かを傷つける武器にもなる。お母様をビックリさせる小説にもなる…」
…そこで、
ウィンクまで投げた小さな淑女は…
「…妖精を喜ばせる魔法にもなる!」
…唱えたのだった




