Chapter 011_おもちゃ箱
「…そ、そう言えば!スタカッティシモ様がやってみるといいって言ってたコトがあったっけ。たしか…」
…幻想的な魔女のアトリエの様子に見惚れていたベルナールは、
ふと、シャワー上がりに「やってみるといい…」と言われたコトを思い出した…
「机…コレのことだよね?少し小さいけど…」
子供体型の主が誂らえた窮屈な椅子に座ったベルナールは早速…
「って、おぉっ!?」
…の、前に。
椅子に座ったベルナールを驚かせたのは
人感式卓上ホタルブクロ型照明【リリー】だった。
「ま、また勝手に点いた!?コレもフェタかアニマ…なのかなぁ…?」
…残念ながらコレも魔道具である。
魔道具/人工精霊/人工妖精 の間には魔導的に明確な区別があるけれど、そんなアカデミックなコトは魔導師か興味があって学んだ者しか知らない。
魔女が子供たちのために用意した”この”おもちゃ箱には魔道具と人工精霊と人工妖精と天然の不思議物体がごちゃ混ぜになっているので、専門家であっても全てを正しく分類するのは難しい。
ベルナールが分からなくても仕方ない…
「…って、そうだ…」
リリーをひとしきり観察したベルナールは改めて
やろうとしていたコトに思い至り…
「…『リ、リーブラ』」
…唱えた。
コレまでに何百・何千回唱えたか分からない
共に歩み成長する魔法の詩を…
「…リーブラ。日記の新しいページを開いて…」
喚び出され机に置かれたのは【魔法本】…
その意識体である【本精霊】だ。
『了解。ベル…』
本精霊は
主人であるベルが長年書き綴ってきた日記のページを
『パラパラ』と捲り。少しだけ魔力をもらって白紙のページを生み出し…
『…いいよ。』
…さぁ、綴れ。と、
促した…
「うん…」
本型の人工精霊 本精霊を召喚する調和魔法【本魔法】は
夜の魔女が一般公開している調和魔法だ。
唱えて現す奇跡…【魔法】ではあるが
呪文が不要な”第0(ゼロ)階位”の魔法であるため
魔法名を唱えればこと足りる。
※魔法名さえ、唱えずに発現させる”裏技”も存在する。
※魔法の名前は本魔法だが、ソレによって生み出される精霊そのものには名前がない(定義上の分類は【人工精霊】。種族名は【本精霊】。喚び出す為の魔法は【本魔法】。固有の名前は”ない”)。呼び掛けに応答する精霊に愛着を持って名前を付けるヒトもいるが、ベルナールはじめ多くのヒトが精霊を「リーブラ」と呼んでしまっているのが実情。ややこしや…
本精霊には術者の来歴や病歴を自動書記する機能が標準装備されているが、さらにページを増やして日記やメモを書き足すこともできる(ただし、書き間違えても修正はできない。誤字脱字をしたら訂正線を引くしかない)
筆記文化が盛んなリブラリアのヒトビトは古の時から
自らの手で日記を綴ってきた。
昔は… ノートや紙片に綴られていた日記だが、
今は… 自らの精霊に綴るのだ
「…」
ベルナールが”っぽいの”に勧められたのは
「机のペンで日記を書いてみろ」
というモノだった。
見るからに高級そうなペン…
透明で。蝶の翅まで付いたガラスペン…だけど、
借りていい…ん。だよね…?
恐る恐る、腕を伸ばす…
『ふわっ…』
…と!?
「ゎえぇっ!?」
ペンが…蝶の翅が音もなく羽ばたいて
青と紫の燐光を散らし…
『…』
と…飛び上がった!?
「え、ぇ…」
空飛ぶガラスペンは
ベルナールのマヌケな声など気にも止めずに
優雅に…踊るように…
「っ…」
…彼の。
手の中に…
『…』
「…早く掴め。」
とでも言いたげに留まり…
「…え?あっ!そうか…」
精霊の意思にようやく気付いたベルナールが
慌てて掴むと…
『フッ…』
っと…
「あっ…」
散るように翅が消え去り
ペンだけが残った…
「…」
手元のペンを見つめ『わなわな』と震えだした主人に
『…ベル?』
本精霊が
心配して声をかけると…
「………すっ…げー…」
『…』
「凄いよリーブラ!この部屋…ほんとうに凄い!」
本精霊は主人に寄り添い共に生きる精霊だ。
ここ数日。元気がなかった主人が見せた年相応の無邪気な顔に
嬉しくなった本精霊は…
『…はは。本当にな…』
…そう、答え。
「探せばもっと有るんじゃないか!?」
『…だが。あまり触るなと釘を刺されていなかったか?』
「あっ!…くそぉ〜」
『…ははは。また明日、聞いてみるといい…』
「そうだねぇ…」
姉妹と司書妖精の親切に感謝しつつ…
『…さぁ、ベル。早く日記を書いて眠るんだ。明日も仕事だろう?』
「うん…。そうだねぇ…」
…やさしく導き。
そして…
『…明日も楽しい1日になるといいな。』
主人の幸せな明日を
「ああ!」
祈ったのだった…
「…そ、そういえば天井の…灯?アレ、玄関からずっとオレのコトを追ってきているよね?どうなっているんだろう?」
『…さてな。』
「………ちょっ、ちょっとダケ調べて…」
『…まったく。寝坊しても知らないぞ…」




