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Chapter 009_魔女の錬金小屋(昼)

「ベッドはソファを利用して。少し狭いかもしれないけれど…」


納屋…と聞いていたベルナールはてっきり、

馬小屋か、物置き小屋に連れて行かれると思っていた…



「そ、そんな!全然…」


天井の(はり)には植物が絡まっており、

合間合間にドライフラワーやハーブ。液体の入った瓶や、

よく分からないナニカが吊り下げられていた。


窓の斜め上にある換気口には3枚羽の風車が取り付けられており、

残暑の厳しい夏とは思えない涼やかな風を小屋の中に注いでいる


子供用なのか…小さな机には低い椅子が用意されており、

オシャレなペン立てには蝶の(はね)が生えた透明なペン(ガラスペン?)

が立てかけられ…おや?


ペンの翅が少し、動いた気が…



「…この納屋は。お母様が薬草研究をしていた場所なの。危ないモノは無いって言っていたケド…魔力で動く錬金道具もあるから。不用意に触らないでね…」


丸い窓

明るい室内

梁の通った高い天井

屈まないと通れない低い扉

吊り下げられたドライハーブ

フラスコに入った青い液体

赤い花

緑のトンボの標本

大きな琥珀

何故かシャーレに盛られた土

金色の物体(エックス)

銀色の翼の置物

透明な本の輪郭

白金色のペーパーナイフ

青銀色の結晶

不思議な道具

グニグニと折れ曲がるガラスの管

コツコツ刻む柱時計

空っぽの金魚鉢

麦わら帽子

虫取り網

沢山の本…表題(タイトル)が読めないモノも少なくない…



「さ、触らないよ!」


…ベルナールが連れてこられたのは

【納屋】というより【離れの小屋】だった。


涼しい風が吹き抜け

窓際ではモコモコの綿玉(クッション?)が日向ぼっこし、

沢山の不思議なモノが所狭しと並べられたおもちゃ箱…


…錬金術師が錬金術を行うために(あつら)えた秘密の小屋

【魔女の錬金小屋(アトリエ)】だった…



「ん!」


リブラリアでは

冶金(やきん)/製造/魔道具開発/鑑定/薬学…エトセエトセ…

魔道具を使ってナニカを作ったり、研究する行為のほとんど全てを

【錬金術】と呼んでいる。


この定義でいくと料理の為に着火魔道具を使ったり、ダンジョン探検で光源魔道具を使ったダケで錬金術師になってしまうが、普通、料理人や冒険者を錬金術師とは呼ばない。


ベルナールもシードルの瓶にコルクを突っ込む古い魔道具を使った経験があるが、自分が錬金術師だとは思っていない。


錬金術師に言わせると明確な定義があるらしいが

一般の人はその辺り曖昧(あいまい)だし、

錬金術師も「そんなものだろう」と分かっている


だから、あまり細かいことは気にせず

錬金術”っぽいこと”を生業(なりわい)にするヒトを【錬金術師】と呼び

錬金術師が仕事をしていそうな小屋を【錬金小屋】と呼んで

差し支えない…



「ココは”あのヒト”…リチア君とミー君の母親がルボワ周辺で採れる草花の中に薬草として使える植物はないかな?…って。研究をしていた場所なの。…だから、ドレもコレも”その辺”に生えている…まぁ、雑草ね。」

「へ、へぇ…」


書斎(しょさい)()ねているっていえば兼ねているけど…まぁ、あんまり使ってないし。しばらく占領しても問題ないでしょ…」

「他でもない、お母様がいいと言ったのだから大丈夫よ!安心してね。ベルナールさん!」

「あ、ありがとう…」


リチア達の母親は、もともと”魔道具を造る”錬金術師だったのだが

姉妹を身籠(みごも)る前の旅でエルフ族の薬草学に触れて知識を()

帰ってきてから本格的に研究を初めたのだ。



「【錬金術】だなんて聞くと難しそうに聞こえるけど、お菓子作りとあまり変わらないわ!私もお母様に教えてもらって。結構、楽しいのよ!」

「へぇ…」


マメで我慢強いリチアは

地道な研究作業と相性がいい。


幼い頃から母親の錬金小屋に侵入し、

実験という名の”遊び”をしていたのだ。



「あとで案内するけど、お風呂(従業員専用の…)においている石鹸は私が作ったものなのよ!」

「へぇー!石鹸を作ったのかい!?凄いじゃないか!」

「…え?そ、そう…かな…」

「そうだよ!錬金術を宿している(※リブラリアでは「魔法や技術を習得する」コトを「宿す」と言う)なんて、ほんとうに凄い!!」


母親はマジな研究をしており、

エディアラ王国西部に研究棟付きの広大な薬草園も所有している。ソコにはヒトコロキノコや永眠草など、本当に危険な材料も置いてあるが…大事な娘に、万が一があってはいけない。

街の小さな錬金小屋では、石鹸の材料になる重曹ですら鍵をかけて管理しているのだ…



「…ふふ、んふふふっ!そうかなっ!?」


この宿には従業員用…と、いうより家族用…の部屋がいくつかあるが、男の子に貸してあげられるモノはなかった。

ベルナールに錬金小屋が充てがわれたのは、そういうワケだ。


…お年頃の娘にナニカあってはいけない。という

親心が働いたかどうか?は、ご想像にお任せします…



「へー…この小屋で石鹸が造れるんだ…」


…娘の貞操を案じる親心なんて知らないベルナールは

初めて目にする錬金小屋に心躍らせていた。


家業として草木と酵母(こうぼ)に関わり、受粉やアルコール発酵(はっこう)といった

大自然の錬金術を瞳に映して育った少年は自然科学に興味津々。


もっとも…



「ほめられちゃった…ふふふふふ!」


…錬金道具に夢中になる”あまり”

容姿”以外”を褒められるのが嬉しいリチアの、とびきりの笑顔

を見逃していたのだった。

勿体ない…



「…興味があるなら”あのヒト”が帰ってきた時に話してみるといいわ。きっと、喜んで教えてくれるから…」


少年少女のすれ違う笑顔に『ニマニマ』が止まらない

ロリ年増人形は錬金道具に手を出そうとしては引っ込める

ベルナールに、そう言った。



「お、教えてくれますかね!?」


期待のこもった声で聞き返すと…



「きっと。ね…」


“っぽいの”の言葉に続いて…



「お母様、教えるの大好きだもの!大丈夫よきっと!」


明るいリチアの声に



「そっか…それじゃあ、お願いしてみようかな!」


控え目なベルナールが初めて口にした

積極的な言葉にも…



「…ただし!お母様がいいって言うまで。触っちゃメよ!」


…釘を刺すのを忘れないリチアの

伸ばされた細い指に釣られた…



「…あははっ」


…ベルナールは。



「もちろんさ!」


…ようやく。

素直な笑顔で笑う事が出来たのだった…

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