彼の名は、ロズ
「あの〜…」
「はい、ローリエ様。」
ガルムは、ニコッと笑い私のそばにそっと近寄る。
「あのー。気持ちは嬉しいんだけど、こんなに毎日一緒にいられると…疲れるっていうか…。」
ガルムは、あれから、毎日のように私の部屋を訪ね、私のそばで警護していた。
「そうおっしゃらないでください…記憶を無くしたローリエ様のお役に立ちますので、なんでもおっしゃってください。」
「でも…。」
ガルムが熱っぽい視線を毎回送るので、なんだか、緊張してしまう。
ガルムがいるなら大丈夫と、メイドたちも近寄らなくなってしまった。
「私はローリエ様のおそばでお世話をするのが幸せなのです……………。」
ぼそっとつぶやいた言葉にローリエは、照れていた。
「ガルム様!!!!!!!」
びくっ。声に驚いていると、
「おい、ローリエ様が驚いただろ、静かにノックもできないのか…。」
いままで見たこともない怖い顔で、ガルムは、騎士をにらみつける。
「ひっ!し、失礼致しました…。」
「要件は、なんだ。」
「国境にて、魔獣が出現したようで…ガルム様に出征命令が出されています…!」
「はあ……………。わかった。今行く。先に行ってろ。」
「はい…。」騎士は、即座に部屋を出ていった。
「失礼しました、ローリエ様…………ローリエ様?」
ローリエは、無意識に身体が震えていた。
「ご、ごめんなさい。なんでもないの。」
ガルムが一瞬で怖く感じて…震えが止まらない。
「怖がらせて申し訳ありません…。お聞きになったと思いますが、私は今から魔獣討伐に参加せねばならないので、しばらく屋敷を離れます。騎士は、数名残していくので、安心してください。」
ガルムは、とてもショックを受けた様子で、早々と言葉を並べ、この部屋を出て行こうとする。
「ご、ごめんなさい。ガルム様…。」
ぴくっ…
少し驚いたような、愛し気な瞳でこちらを見られる。
「ガルムとお呼びください…ローリエ様。すぐ戻りますので…。」
部屋を出て行くガルムに何も言ってやれなかった…。ローリエは、そのことを後悔していた…。
(ローリエ様に初めて名前を呼んでいただけた…。)
ガルムは、玄関へ向かう途中、ゾクゾクした感情に思わず口元から笑みが溢れ、それを必死に隠そうと右手で隠す。
「ははっ……………………。」
乾いた笑いが廊下に響く。
しばらくして、メイドのレイナが部屋を訪ねる。
「ローリエ様、お茶会のお誘いが来ておりますがどうなされますか…。記憶がないのであれば、無理に参加されなくても良いと思いますが…。」
「い、行くわ!」
(ガルムも頑張ってるんだもの、私も頑張らなくては。)
ローリエは、勢いで参加を決めた。
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お茶会当日。
「ごきげんよう!ローリエ様!」
いろんな女性に声を掛けられるのだが、当たり前だが、誰一人わからず、当たり障りのない返事をして、テラスに逃げてきた。
「ローリエ…?」
そこには
金髪で青い瞳の、素敵な男性がいた。
「へ。」
「ローリエ!僕だよ、ロズだよ!」
「ろ、ロズ様?」
人懐っこい笑顔でわんこのようにこちらに近づく彼に悪い思いは抱かなかった。(と、友達だろうか…?)
名前を復唱すると、ロズは、顔が真っ赤になっていた。
「どうかしましたか?」
「い、いや、君に名前を呼ばれると思ってなかったからさ…。」
(え??????????どういう…………………
「皇太子様!!!!!!!!!!!!!!!!」
そこにいかにも執事といった男性が近づいてきた。
「勝手にいなくなられては、困ります…。」
「い、今皇太子って…。」(聞き間違えじゃないよね?!)
「そうだよ!何度言っても皇太子様しか言わないローリエが、名前で呼んでくれるなんて嬉しい…。」
満開の笑顔でぎゅっとローリエを抱きしめる。
執事がぎょっとした様子でまくしたてる。
「皇太子様!!!!!!このような人手の多いところで困ります!さっ!早く馬車へ!」
「えー。いいところだったのに…。じゃ、またね、ローリエ!」
颯爽と、馬車へ乗り込むと、すぐいなくなってしまった。
ローリエは、男性に抱きしめられたのは初めてだったので、ずっとどきどきして立ち尽くしていた。