初めてのプロポーズ
ヴィヴィアンヌは3週間ぶりの王城を見上げた。
3週間前は、大きな覚悟と小さな期待で登城した。
10回目の告白を、ジェラルディンが受け入れてくれることを願いながら。
今は、大きな不安しかない。
太ったこの姿を、笑われるのではないか?
隣にいる父親の公爵を横目でみるが、何を考えているかわからない。毎日ヴィヴィアンヌを見ている家族は、太った、というぐらいしか思っていないだろうが、久しぶりにヴィヴィアンヌを見る王宮の人間は驚くに違いないのだ。
それに、今朝から食事量を減らしたために、すでにお腹が空いている。
そこに締め付けたドレスである、気持ち悪い。
「トラファルガー公爵、夫人、ご令嬢、こちらに」
トラファルガー公爵家の馬車が着くと、待っていた案内の騎士が先導して王宮を進む。
王家と公爵家の婚約ということで、家族全員で登城したのだ。
王の謁見室に付く前に、王太子が迎えに来ていた。
「お待ちしておりました。トラファルガー公爵、僕に時間をもらってもいいでしょうか?」
先導していた騎士が横によると、王太子ディアランは公爵の前に立つ。
公爵が頷くのを確認して、執務室に案内します、とディアランは言う。
ヴィヴィアンヌは、今までは認識外にいた王太子の容姿を、しげしげと見る。
うわぁ、改めて見ると、王太子って顔がいい。あの黒い髪に赤い目が神秘的よね。
私が太ったのは、気がついてる? 結婚相手とはいえ、そこまで関心ないかも。
太ったと言われるのは嫌だけど、気がつかないもの嫌だわ。
微妙な女心であるが、ずっと見てきたディアランが気がつかないはずがない。
ただ、デリケートな問題だから言葉を考えているだけで、ディアランにとってはヴィヴィアンヌが細かろうが、太かろうが全部が好みなのだ。
王太子の執務室を開けた侍従に、ヴィヴィアンヌは見覚えがある。ジェラルディンの侍従だったはずだ。
ヴィヴィアンヌの視線に気がついたオーデンは、ゆっくりと頭を下げ礼を取る。
公爵夫妻、ヴィヴィアンヌと順番に応接のソファに座ると、ディアランも向かいの一人掛けソファに座る。
「すでに婚約が調って順番が逆になってしまいました。改めてご挨拶させていただきます。
トラファルガー公爵、どうかご令嬢を僕の妃に望むことを、許していただきたい」
ディアランの言葉に公爵も驚いたのだろう、返事が僅かに遅れた。
「このようにおっしゃっていただけるとは思ってもいませんでした。
すでに受けた話ですが、殿下のお心として受け取らせていただきます。
殿下と娘の婚約をお受けします」
座ったままだが、公爵が頭を下げると公爵夫人、ヴィヴィアンヌも頭を下げる。
「ありがとう。僕のケジメです」
ディアランは口の端を上げると、今度は立上りヴィヴィアンヌの前で跪いた。
「ヴィヴィアンヌ・トラファルガー公爵令嬢、どうか僕と結婚してください」
そっとヴィヴィアンヌの手を取ると、その甲に口付けする。
ディアランの様子を惚けて見ていたヴィヴィアンヌであるが、手の甲にキスをされて声が裏返ってしまった。
「ひゃい!」
あ、と思った時にはディアランに手を繋ぐ握りしめられていた。
「可愛い」
さらにもう一度、ヴィヴィアンヌの手にディアランはキスをする。
ジェラルディンの時は、ヴィヴィアンヌが告白する側だったが、初めてプロポーズされてヴィヴィアンヌは思考が飛んでしまっていた。
絶対にキレイな私の時に言われたかった!こんなに太るんじゃなかった。
ディアランは立ち上がると、ヴィヴィアンヌも立たせてエスコートする。
何度もジェラルディンにエスコートされたはずなのに、ヴィヴィアンヌは初めて男性にエスコートされるかのように緊張していた。
「陛下がお待ちです」
ディアランに言われても、頷くのが精一杯のヴィヴィアンヌである。
読んでくださり、ありがとうございました。
ディアランがマジメです。
対照的な兄弟王子の性格です。