敗戦国の王子
すぐに事務官が派遣され、交代にレベック達が戻って来たのは1週間後だった。
戦争のなかったアステゴッド王国にとって、他国を属国にするのも初めてであり、誰もが戸惑っていた。
レベックは、客人を連れて戻って来たのだった。
それはベネッセデア王国の第1王子、ディアランとジェラルディンの従弟になるサイモン・ベネッセデアであった。
軍事国家ベネッセデアにありながら、好戦的でなく、アステゴッド王国への侵攻を反対した為に、ベネッセデア王によって王宮の西塔に幽閉されていたのだ。
どんな国にも、推進派もいれば、反対派もいるのだ。
息子より、甥になるジェラルディンの情報を信じて重用した王も不思議だが、アステゴッド王国を手中にできるという欲で考えが偏っていたのかもしれない。
ジェラルディンの情報は、始祖返りと言われているディアランの能力、王宮の構造、アステゴッド王国の軍事力など多岐にわたったようだった。
諜報では知る事のできなかった、アステゴッド王族の直系だけに伝えられる始祖と始祖返りの情報は大きかったのだろう。
父親とともにディアランの情報を聞いたであろうサイモンは、ディアランに対面した時に片膝をつき臣下の礼をした。
ディアランが口を開くまで態勢を変える意思はないというばかりに、無言で膝をついたままだ。
「命が惜しいか?」
ディアランはレベックが、王ではなくディアランに謁見を申し出た意味を理解していた。
レベックは、サイモンをベネッセデアの代表と認めたという事だ。
「はい」
サイモンは答える。
「僕の命が、ベネッセデア全国民に等しいとは思っていません。
それでも、どうか僕の命で、ベネッセデア国民の命を救っていただけることを願うばかりです」
王族として、敗戦の責任を取る覚悟はできているのだろう。
ディアランがその気になれば、ベネッセデア王国を業火に包むことが出来ると前提での話である。
「年は?」
聞かなくとも知っているが、ディアランは確認する。
「20歳です」
サイモンの答えは簡潔だ。
「ベネッセデア王女であったアステゴッド王妃が、生家に情報をもたらしたのは同盟の裏切りと言う程度ではない。ベネッセデアの侵攻によって、我が国では多くの兵士、人民の命が奪われた」
ディアラン達の制圧によって、ベネッセデア軍の被害はアステゴッドの比ではなく甚大だが、それには触れない。
それは、ディアランもサイモンも分かっている。
だが、ベネッセデア王国は仕掛けた侵略に敗けたのだ。
サイモンはグッと唇を噛み締めているが、言い訳はしない。
サイモンはアステゴッドへの侵攻を反対して幽閉されていたはずなのに、王族として処理を受けると言うのだ。
「アステゴッドへの侵攻を反対したと聞いている。それは、どうして?」
ディアランの問いに、サイモンは顔を上げた。
「人の国は人が治めるべきだ、と父は言いましたが、何をもって人というのでしょう?
殺して奪う事を前提にする者が人というのなら、それこそ間違いです」
サイモンは軍事国家ベネッセデアでは異端であったのだろう。
だから第1王子であっても王太子ではない。それでも口を閉ざさないのは、強い人間であるからだ。
「なるほどな」
ディアランは、レベックがサイモンを代表と認めた真意を理解した。
「アステゴッド王には、僕から言っておく。ゆっくり休まれるがいい」
ディアランは終わったとばかりに、席を立つ。その後をオーデンが付いて行き、レベックは残りサイモン王子を部屋へと案内する。
ディアランは王の執務室に向かうが、ほとんどの業務はディアランが請け負っている。
王妃とジェラルディンを討ったことを責めはしなかったが、王は気力を失くしたかのように老いた。
体調不良が続き、執務が滞りがちになった。
ディアランは決定する事を報告する為に、王の執務室に向かっているのだ。
先祖返りの為に、王にも王妃にも似ていない容姿のディアラン。
ジェラルディンは二人に似ていた。王と同じ髪の色、王妃と同じ瞳の色。
もし、ディアランが死んでいたら、王は同じように悲しんだだろうか?
今夜はヴィヴィアンヌを夜の庭の散歩に連れていこう、喜ぶだろう、と考えると歩みが速くなる。
早くヴィヴィアンヌに会いに行きたい。
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