二人の時間
ディアランはヴィヴィアンヌにもたれかかり、精気を吸収していた。
それは本能と言うべきものに近い。
ヴィヴィアンヌが纏う空気はディアランにとって浄化となり、新たなエネルギーを精製しやすくなっている。
「殿下、すごくカッコ良かったです」
きゃあ、と嬉しそうにヴィヴィアンヌは両手を頬に当てる。
「血の儀式、まるで神の儀式です!」
ヴィヴィアンヌに怖がられるかと思ったが、侵攻してきたベネッセデア王国軍を制圧する為に、レベックとオーデンの武力の格上げをする為だった。
8年前も同じことをして、レベックとオーデンはディアランの眷属となり、能力が跳ね上がった。
今回はディアランの力がさらに強力になっているので、レベックとオーエンにもさらなる力を与えられた。
「ヴィヴィは怖くなかったか?」
フルフルと首を横に振って、ヴィヴィアンヌは微笑んだ。
「レベック侯子とオーデンが、大軍のベネッセデア王国軍と対峙して勝利するには、ディアラン殿下のお力が必要だったのでしょう?
とても神秘的に見えました。
殿下が体力回復と私の為に、ここに残ってくださった気持ちは分かっています。恐いなんて思う訳ないわ」
「君は・・」
ディアランは躊躇したが、話を続ける。
「ジェラルディンといる時は、おとなしく従順な女性に見えていた」
それは夜会で初めて見た時と、印象が違うと感じていた。
ヴィヴィアンヌは少し首を傾けて、視線を反らす。
「ジェラルディン殿下がうるさい女性はお嫌いと言われたので」
今はどうして、あんなに一所懸命だったのか分からない。
「嘘をついていたのではないの、好かれたかったから」
ヴィヴィアンヌがジェラルディンの微笑みかけるたびに、胸を切り開かれるような痛みを覚えていた。
それが、だんだんヴィヴィアンヌの笑みは少なくなってきて、ジェラルディンとの距離が開いていることに安堵していた。
ディアランは、ヴィヴィアンヌとジェラルディンが婚約していた2年間を思い出していた。
いつも、ヴィヴィアンヌの一挙一動が気になって、見ている自分に気がついて欲しかった。
「わかっているよ、あれもヴィヴィだった。
でも、今は僕のものだ」
ここで、今、ヴィヴィアンヌを自分のものにしたいという欲が鎌首をあげる。
他の女性には、決して感じない思い。
「かっこいい!
うわぁ、女の子なら一度は言われたい言葉です!
ありがとうございます」
まるで他人事のように言うヴィヴィアンヌに、ディアランが吹き出した。
重たかった空気が、明るくなる。これがヴィヴィアンヌ、とディアランは再認識する。
「気に入ったようで、なによりだ」
ディアランは体力の回復に驚きながら、身体を起こす。
「僕は今のヴィヴィアンヌの方が、好きだな」
従順なヴィヴィアンヌは、ジェラルディンとの婚約時代を連想させるから。
今のヴィヴィアンヌが微笑みかけるのは、僕だから。
ああ、理由なんていらない、どんな君も好きさ。
ぽっ、と赤くなるヴィヴィアンヌを腕に閉じ込める。
「ねぇ、結婚しようか」
耳元で囁けば、ヴィヴィアンヌは意味を理解して身体がピクンと震えた。
「殿下、それは結婚式をあげてからです。
ともかく、お休みください。お身体の回復が最重要です。
疲れる事をしようとして、どうするんですか。
私はオーエンから頼まれましたから、しっかり監視させていただきます」
ぎゅっ、とヴィヴィアンヌはディアランの顔を押しやって離す。
そうだった、このヴィヴィアンヌの貞操観念が、ジェラルディンが手を出すのを遠ざけたのだった。
クックツ、ディアランは苦笑いする。
これは生殺しだ、これがジェラルディンが他の女に手を出した原因だな。
「ジェラルディン殿下の事は、もうこれぽっちも好きではありません。それどころか、暴力を振われて軽蔑してます。
ディアラン殿下の方が、ずっとずっとカッコいいです」
ヴィヴィアンヌなりに、好きと言われた返事のようだ。
「あの金色の瞳も鱗の肌も、嫌いではありません。
それどころか、助けに来てくれた姿は勇者のようでした」
途切れ途切れに、ヴィヴィアンヌが恥ずかしそうに告白する。
思わずディアランも赤面する。
自分でもこんな表情ができたのか、と驚く。
そんなディアランに、ヴィヴィアンヌが強請る。
「だから、私達の国を護ってくださいね」
まいった・・・
ディアランは片手で口元を覆った。
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