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2番目の恋物語  作者: violet
31/50

ディアランの選択

服を着替えると、ボロボロに裂けた服も暖炉に燃やす。

8年前も同じようなことがあったが、脱皮を終えるのに3日かかり、回復するのに1週間かかった。

気だるそうに髪を()き分けて、ディアランはソファーにもたれかかった。

今回、脱皮は一晩で終えたが、体力は回復していない。だが、回復も早いのではないか、とディアランは思っている。

近くにヴィヴィアンヌがいるからだ。

昨夜も、常にヴィヴィアンヌの清涼な空気を感じていた。



「殿下、食事をお持ちしました。食べられますか?」

レベックがトレイに食事を乗せて持って来た。

ディアランの身体は動くものの、立ち上がる体力はないようだ。


「ああ、食べねば回復しないからな」

テーブルに置かれたトレイから、カトラリーをゆっくり手に取る。

スープを一口飲み、パンにハムを乗せてかぶりつく。

やはり、回復が早い、とディアランは思う。

前回は、直後は食事も口にできないほど消耗していた。


「ヴィヴィアンヌ嬢が面会を待っておられます。

昨夜は、眠れなかったようで、ご心配されています」

明け方、レベックが廊下に出た音に気がついたヴィヴィアンヌが部屋から出てきたのだ。

ほとんど眠れなかったのだろう、ディアランの様子を尋ねてきた。

レベックは、洋服の用意をする為に廊下に出たのだが、様子は分からないとしか答えられなかった。


「そうか、一人の夜はさぞ不安であったろう。

僕から、説明するから呼んでくれ」


「はい」

レベックは、コーヒーを淹れてテーブルに置いて返事する。


「僕のこの身体は、女性には嫌悪されるだろうな」

そう言うディアランの表情は、覚悟した者の顔だ。

眼も肌も、元に戻っている。

だが、生みの母からでさえ(いと)われ、恐れられた。


レベックは返事が出来ない。

子供の頃、側近候補、侍従候補として選ばれた者達でさえ、殿下の金色の瞳を見た者の何人かは、恐怖に震え逃げ出した。

8年前、初めてディアランの始祖返りの姿を見た時、残ったのはレベックとオーデンだけだった。

男でさえそうなのだ。女性に耐えれるはずがない。


食事が終わる頃に、ヴィヴィアンヌはやってきた。侍女に着替えさせてもらい、昨日と違う服を着ている。

「侯爵夫人の服をお貸しいただき、ありがとうございます」

侍女から聞いたのだろう、ヴィヴィアンヌがレベックに礼を言う。

この館で女性用の服は、レベックの母である侯爵夫人と侍女達の服しかない。


「急な事でしたので、母のサイズが合ってよかったです」

侍女達が急いで微調整をしたのであろう、ヴィヴィアンヌが着ても不自然には見えない。


「殿下、ヴィヴィアンヌ嬢がお見えになりました」

ノックをしてレベックが告げれば、すぐに入室の許可がでる。

レベックは扉の外で待機していると言って、ヴィヴィアンヌだけが部屋に入った。


ディアランがヴィヴィアンヌを迎えようと、立ち上がったがすぐに膝をついた。

「殿下!」

ヴィヴィアンヌが駆け寄って、ディアランを支えようとするのを、ディアランが避ける。

「殿下?」


「君は、僕の婚約者になったばかりに怖い思いばかりする。こんな怪我までして」

ヴィヴィアンヌのガーゼが貼られた頬に手を延ばしたディアランは、触れずに手を降ろした。


「痛いですけど、これはディアラン殿下のせいではありません。

それどころか、いつも助けに来てくれました。

誘拐された先にいたのは、ジェラルディン殿下でした。

私を殴ったのは、ジェラルディン殿下です」

ヴィヴィアンヌの言葉に、ディアランの身体が怒りで熱くなる。


「ジェラルディン殿下は、婚約者であった時は、私のことは鬱陶(うっとう)しい態度でしかなかったのに、どうして今更こんなことをするのでしょう」

下を向いて、両手を握りしめるヴィヴィアンヌ。


そんな姿を見てディアランは、ジェラルディンは本当はヴィヴィアンヌを好きだったのではないか、などとは絶対に言わない。

「ジェラルディンは母上と共にベネッセデア王国にいるはずだが、帰国の連絡は受けていない。

それを秘密裡に帰国していて、公爵令嬢の誘拐と言う犯罪に加担、もしくは首謀者というのは、国を揺るがす事態ということだ」

だが、とディアランは続ける。

「僕は、今は動けない。ジェラルディンを捕縛に行きたいが、身体が動かないのだ」

ディアランは、ヴィヴィアンヌを見て躊躇ったものの、覚悟は決まっていた。

「これから話すことは、どんな結果になろうとも王家の秘密として、決して口外せぬよう」


「はい」

答えて、ヴィヴィアンヌはディアランに手を添えた。

昨日の夜は金色の瞳に鱗のある身体、今朝は顔色は悪いが元の姿に戻っている。きっとこれが秘密なのだ、と理解していた。


お読みくださり、ありがとうございました。

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